祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

文字の大きさ
42 / 145
6章

君のとなり 2

しおりを挟む
 眞澄くんが様子を見に来てくれたのは、何か嫌な予感がしたからだそうだ。
 淳くんが私と一緒に夕飯の後片付けをしている最中にそう教えてくれた。誠史郎さんが良く言うけれど、眞澄くんは本当に勘が良い。

「遥さんと一緒にいる吸血種が、どうして裕翔に決闘を挑むんだろうね」

 私も淳くんと一緒に首を傾げる。ちゃんとシキくんの姿を見たのも、会話したのも今日が初めてだった。

「遥さんにメールはしてみたけれど……」

 まだ返事は来ていない。ダイニングテーブルの上に置いてある携帯電話へ目をやるけれど、食器を洗っている間に何か届いたと通知する様子もなかった。

 本当はヒスイくんのことも尋ねたいのだけど、ずっと聞きそびれてしまっている。でも今日のシキくんの発言で、繋がっていることははっきりした。あえてそのことについては触れない文面を送っている。せっかく仲良くなれそうなのに騙しているみたいで申し訳ない。

 多分、遥さんにとってヒスイくんの件は仕事だったと思うけれど。

「あ、その時亘理さんにお会いしたよ」

 私はそのことをふと思い出して淳くんに伝えた。

「ワタリ……?」

 隣にいた淳くんではなく、食後の紅茶を用意するためキッチンに来た誠史郎さんが反応する。

「どうしましたか?」

「……いえ、同じ名字の方を存じていただけです。みさきさんのおっしゃるワタリさんはどちらの方ですか?」
「お隣さんです。1年ぐらい前に引っ越して来られたんですけど」

 そう言えば、誠史郎さんは知らないことかもしれない。今まで特に話すこともなかった。
 亘理さんはお隣さんとは言え、ほとんど会うことも無く、会えば挨拶をする程度の付き合いだ。表札も出てなかった気がする。

「そうですか……」

 誠史郎さんの切れ長の双眸は何かを思案しているみたいで、レンズ越しに長い睫毛が伏せるのが見えた。

「誠史郎?」

 黙りこくった誠史郎さんを怪訝そうに淳くんが覗き込んだ。

「失礼ですが、ワタリさんはどのような方ですか?」
「会社に勤めてらっしゃるような……」

 お会いするときはいつもスーツ姿なので、私はそう思っていた。

「……そう言われると、どうしてひとり暮らしの男性がこんな住宅街の一軒家で、わざわざ越してきてまで生活しているんだろう」

 淳くんの色素の薄い瞳にも疑念が浮かんでいる。

「お会いしたいですね。ワタリさんに」

 口角に薄い微笑みを浮かべた誠史郎さんが、カップに紅茶を注ぐ。

 華やかな香りがキッチンに拡がった。




 †††††††




 みさきからのメールを見た遥は、どうしたものかと思案しつつ唇を尖らせてあごの辺りに指先を遊ばせる。

 仕事に出るときはスマートフォンを自宅に置いて行くため、確認するのが帰宅して一息ついた今の時間になった。

 紫綺は隣の暗い部屋でうつ伏せになって本を読んでいた。吸血種は夜目が利くので暗がりでも活字が見える。

 まさか紫綺が、遥の言葉にこのような反応を示すとは思わなかった。負けず嫌いだと思っていたがここまでとは。これは好機と見るべきだろうか。

「紫綺」

 黄金色の冷徹な瞳が物言わぬまま僅かに動き、遥を捉える。何と言葉を継ぐべきか逡巡しているうちに紫綺が起き上がった。

「何?」

 相変わらずつっけんどんとしている。しかし、いつもよりどこか楽しそうだ。

「楽しいことがあったかい?」
「別に」

 素っ気なく即答すると今度は仰向けに寝転んで本の続きを読み始める。その様子に遥は、しばらく黙って事の成り行きを見守ることに決めた。

 次の問題は、みさきへの返信だ。




 †††††††




 今週をがんばればゴールデンウィークに突入だ。
 朝の寒さがなくなって来て快適だけど、それはそれで起きられない。私がベッドの中で出たくないな、ともぞもぞしているとドアが勢い良く開かれた。

「みさきー、起きないとちゅーしちゃうよー」

 裕翔くんの台詞に驚いて飛び起きたの。寝起きでボサボサの髪を手櫛で整えようと試みる。

「おっはよー」

 裕翔くんはドアのところでお日様のような満面の笑みを見せてくれていた。もう制服に着替えている。

「おはよう……」

 起き抜けの姿を見られるのは、私もさすがに恥ずかしい。

「裕翔くん、あの……」
「何?」

 無邪気な笑顔でこちらへ来ようとした裕翔くんの首根っこが、伸びてきた眞澄くんの腕に掴まれる。

「眞澄!」
「みさき、悪いな」

 パタン、と静かに扉が閉まる。裕翔くんには申し訳ないけれど、助かったと胸を撫で下ろした。




 身支度を整えてからダイニングへ行くと、珍しくまだ誠史郎さんがいた。紅茶を飲む姿が、朝から優雅だ。

「おはようございます」

 眼鏡の奥が優しく細められる。私も挨拶を返して席に着き、淳くんが用意してくれていた朝食を食べ始める。

「誠史郎、こんな時間まで家にいて間に合うのかい?」

 淳くんが時計を見た。

「ええ。今朝はみなさんと一緒に出ようと思いまして」

 誠史郎さんは穏やかに微笑んでいるけれど、何か目的があるみたいな気がした。


 珍しく皆で揃って家を出た。眞澄くんが鍵を閉めているのを私が隣で見ていると、先頭にいた淳くんが誰かに挨拶をする声が聞こえた。振り返るとお隣の亘理さんがいる。

「おはようございます」

 誠史郎さんが颯爽と歩み出る。

「お久しぶりですね」
「……お久しぶりです」

 亘理さんは軽く会釈した。顔を上げると私たち全員を見回して微笑む。

「行ってらっしゃい」

 そう言って亘理さんは去ったけれど、私は驚いて言葉が出てこなかった。昨日誠史郎さんが言っていた、知っているワタリさんとお隣の亘理さんは同一人物なんて、そんな偶然はめったにないはず。

「……誠史郎」


 淳くんは誠史郎さんの傍らへ寄る。

「偶然、ではないでしょうね。私には会わないよう注意を払っていたのでしょう」

 ため息混じりの怜悧な声に、私も眞澄くんも裕翔くんも訳がわからず目を白黒させるばかりだ。

「私もお会いしたのは20年以上前ですが……。詳しいことは帰ってからお話します」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜

具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。 主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。 みたいなはなし ※表紙はAIです

処理中です...