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6章
君のとなり 4
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学校が終わって眞澄くんと裕翔くんと一緒に校門を出ようとすると、透さんが迎えに来てくれていた。
淳くんは生徒会役員の人たちに頼まれて体育祭の会議に出ることになったと眞澄くんが言っていたから、4人で帰る。みんなで歩いていると、すれ違う女性たちの視線が熱い。
家に着くとみやびちゃんが玄関へ迎えに来てくれた。
「隣は帰って来てないわね」
「賢いネコやなー」
透さんは感心したように言うと、腰を屈めてみやびちゃんの頭を大きな手で雑に撫でた。みやびちゃんは嫌そうな表情になって、一瞬掌が離れたときに鋭い動きで噛みつこうとした。
だけど透さんはひらりとそれを避ける。唇の端にニヒルな微笑みを浮かべて再びみやびちゃんの頭をぐりぐり撫でた。
「まだまだ甘いな、子猫ちゃん」
靴を脱ぐとそう言い残して傍らを颯爽と通り過ぎる背中をみやびちゃんは見つめる。
「……悪くないわね」
透さんが厳しいみやびちゃんに認められたみたい。
「みやび、ありがとうな」
「当然よ」
眞澄くんにおすまし顔を見せたみやびちゃんは、軽やかな動作でリビングへ行ってしまう。
私も靴を脱ぐために上がり框(かまち)に鞄を置く。ポケットに入れていた携帯の頭が飛び出て、ランプが点滅していることに気がついた。
遥さんからのメールが届いていた。今夜、おそらく紫綺くんがこちらへ来るという内容だった。紫綺と漢字ではこう書くと初めて知った。
「裕翔くん」
先に玄関ホールへ上がっていた裕翔くんを呼ぶと、彼は振り向いて少し首を傾げる。私もスリッパに履き替えて数歩進んだ。
「今夜、紫綺くんが来るみたい」
「ホント!?」
大きなひまわりが花開いたように、明るい笑顔が整った面に咲き誇る。
「来るって、どこに来るんだ?」
隣にやってきた眞澄くんの疑問に私と裕翔くんは目を合わせた。確かに、どこに来るのかまでは書いていなかった。
日が暮れてからしか動けないからさっきはいなかったのだと思うけれど、この家を知っているのかしら。知っていたとしても、吸血種の紫綺くんは入れない。
珠緒さんがここに来られるのは、お祖父ちゃんが『招いた』から。吸血種は『招き』がないと他人の家の敷地内に入れない。どうしてかはわからないけれど、それは絶対だ。
「どこかな……?もしかしたら、あそこで待ってるのかも……」
言いながら私も少し心配になった。下校時間に重ならなければ、あの道を私たちがまた通るとは限らない。遥さんからの連絡がなければ多分、今日は紫綺くんは待ちぼうけになってしまうわ。彼がひとりで帰る淳くんに突っかかっていく可能性はあるけれど。
「夜になったらオレ行くよ」
予想通りの裕翔くんの返答に、私は慌てて制服の裾を掴んでしまった。
「ひとりで、じゃないよね?」
きょとんとした顔で振り向いた裕翔くんは、すぐにニコッと笑って見せてくれる。
「みさきがいてくれたら百人力だよ」
語尾を弾ませると素早く私を抱き締めた。
「おーまーえーはー!」
すぐさま眞澄くんが裕翔くんを捕まえようとすると私から離れる。素早くすり抜けて無邪気な笑顔でリビングへ駆け込んでしまう。
バタンとドアの閉まる音が響く。ドキドキしながら嵐のようだと立ち尽くしていると、眞澄くんの視線を感じた。
「どうしたの?」
何か言いたげな眞澄くんを見上げる。目が合うと精悍な漆黒の瞳が不意に狼狽えたので私は驚いてしまう。
「眞澄くん……?」
どうしたのだろうと心配になって、一歩踏み込んで眞澄くんを覗きこんだ。
「……バカだな」
困ったような微笑みを見せた眞澄くんの両腕が伸びてきた。私は彼の胸板に顔を埋めるような格好になる。
心臓の音が聞こえるほど近くて、私の胸もキュッとなってしまう。
「無防備過ぎ」
呆れているような言い方だけど、囁く声音は温かく流れ込んでくる。
「嫉妬もするし、理性にだって限界ってのがあるんだぞ?」
頭から湯気が出そうなほど全身が熱くなった。
「ごめ……」
「謝るなよ。みさきの鈍くさいところ、かわいくて好きなんだから」
耳朶に触れる甘い吐息に、もう何も言えなかったわ。心臓が爆発しそうな音を立てている。
前髪に眞澄くんの唇が触れた。優艶な微笑をふわりと残して、彼は私を解放する。
「落ち着いてから来いよ」
ぽんぽんと頭頂部で眞澄くんの大きな手が弾む。涼しい顔で眞澄くんはリビングへと去ってしまった。
ゆっくり扉が閉まると、私は大きなため息を吐きながら崩れ落ちる。
とどめを刺されてしまったみたいで、しばらく動けそうになかった。
完全に太陽が沈んだ。
裕翔くんには、私と眞澄くんと透さんがついて行くことにした。淳くんは夕食を作って待っているから、と穏やかに微笑んで見送ってくれた。誠史郎さんはお仕事がまだ終わらないみたいで帰って来ていない。
紫綺くんがいると思われる場所の近辺に差し掛かると、覚えのあるとても鋭利な気配がした。十中八九、紫綺くんがいる。
私は結界を張るために精神を集中させた。あまり上手とは言えないそれだけど、空間はきちんと切り離せたはず。
「ヘタな結界だな」
電柱の向こうから現れた人影。
街灯に映し出された冷たさを感じるほど整った顔立ちの紫綺くんが無表情に悪態をつくと、とても辛辣に感じる。だけど彼の言う通りなので、私はただ受け止めた。誠史郎さんか淳くんに、上達するようにもっと教えてもらわないと。
「せっかくみさきが頑張ってくれたのに、文句言うなよ」
好戦的に笑った裕翔くんがそう言ってくれたのはありがたくてほろりとする。
「約束、忘れるなよ!」
裕翔くんが強く地面を蹴って俊敏に飛びかかった。
淳くんは生徒会役員の人たちに頼まれて体育祭の会議に出ることになったと眞澄くんが言っていたから、4人で帰る。みんなで歩いていると、すれ違う女性たちの視線が熱い。
家に着くとみやびちゃんが玄関へ迎えに来てくれた。
「隣は帰って来てないわね」
「賢いネコやなー」
透さんは感心したように言うと、腰を屈めてみやびちゃんの頭を大きな手で雑に撫でた。みやびちゃんは嫌そうな表情になって、一瞬掌が離れたときに鋭い動きで噛みつこうとした。
だけど透さんはひらりとそれを避ける。唇の端にニヒルな微笑みを浮かべて再びみやびちゃんの頭をぐりぐり撫でた。
「まだまだ甘いな、子猫ちゃん」
靴を脱ぐとそう言い残して傍らを颯爽と通り過ぎる背中をみやびちゃんは見つめる。
「……悪くないわね」
透さんが厳しいみやびちゃんに認められたみたい。
「みやび、ありがとうな」
「当然よ」
眞澄くんにおすまし顔を見せたみやびちゃんは、軽やかな動作でリビングへ行ってしまう。
私も靴を脱ぐために上がり框(かまち)に鞄を置く。ポケットに入れていた携帯の頭が飛び出て、ランプが点滅していることに気がついた。
遥さんからのメールが届いていた。今夜、おそらく紫綺くんがこちらへ来るという内容だった。紫綺と漢字ではこう書くと初めて知った。
「裕翔くん」
先に玄関ホールへ上がっていた裕翔くんを呼ぶと、彼は振り向いて少し首を傾げる。私もスリッパに履き替えて数歩進んだ。
「今夜、紫綺くんが来るみたい」
「ホント!?」
大きなひまわりが花開いたように、明るい笑顔が整った面に咲き誇る。
「来るって、どこに来るんだ?」
隣にやってきた眞澄くんの疑問に私と裕翔くんは目を合わせた。確かに、どこに来るのかまでは書いていなかった。
日が暮れてからしか動けないからさっきはいなかったのだと思うけれど、この家を知っているのかしら。知っていたとしても、吸血種の紫綺くんは入れない。
珠緒さんがここに来られるのは、お祖父ちゃんが『招いた』から。吸血種は『招き』がないと他人の家の敷地内に入れない。どうしてかはわからないけれど、それは絶対だ。
「どこかな……?もしかしたら、あそこで待ってるのかも……」
言いながら私も少し心配になった。下校時間に重ならなければ、あの道を私たちがまた通るとは限らない。遥さんからの連絡がなければ多分、今日は紫綺くんは待ちぼうけになってしまうわ。彼がひとりで帰る淳くんに突っかかっていく可能性はあるけれど。
「夜になったらオレ行くよ」
予想通りの裕翔くんの返答に、私は慌てて制服の裾を掴んでしまった。
「ひとりで、じゃないよね?」
きょとんとした顔で振り向いた裕翔くんは、すぐにニコッと笑って見せてくれる。
「みさきがいてくれたら百人力だよ」
語尾を弾ませると素早く私を抱き締めた。
「おーまーえーはー!」
すぐさま眞澄くんが裕翔くんを捕まえようとすると私から離れる。素早くすり抜けて無邪気な笑顔でリビングへ駆け込んでしまう。
バタンとドアの閉まる音が響く。ドキドキしながら嵐のようだと立ち尽くしていると、眞澄くんの視線を感じた。
「どうしたの?」
何か言いたげな眞澄くんを見上げる。目が合うと精悍な漆黒の瞳が不意に狼狽えたので私は驚いてしまう。
「眞澄くん……?」
どうしたのだろうと心配になって、一歩踏み込んで眞澄くんを覗きこんだ。
「……バカだな」
困ったような微笑みを見せた眞澄くんの両腕が伸びてきた。私は彼の胸板に顔を埋めるような格好になる。
心臓の音が聞こえるほど近くて、私の胸もキュッとなってしまう。
「無防備過ぎ」
呆れているような言い方だけど、囁く声音は温かく流れ込んでくる。
「嫉妬もするし、理性にだって限界ってのがあるんだぞ?」
頭から湯気が出そうなほど全身が熱くなった。
「ごめ……」
「謝るなよ。みさきの鈍くさいところ、かわいくて好きなんだから」
耳朶に触れる甘い吐息に、もう何も言えなかったわ。心臓が爆発しそうな音を立てている。
前髪に眞澄くんの唇が触れた。優艶な微笑をふわりと残して、彼は私を解放する。
「落ち着いてから来いよ」
ぽんぽんと頭頂部で眞澄くんの大きな手が弾む。涼しい顔で眞澄くんはリビングへと去ってしまった。
ゆっくり扉が閉まると、私は大きなため息を吐きながら崩れ落ちる。
とどめを刺されてしまったみたいで、しばらく動けそうになかった。
完全に太陽が沈んだ。
裕翔くんには、私と眞澄くんと透さんがついて行くことにした。淳くんは夕食を作って待っているから、と穏やかに微笑んで見送ってくれた。誠史郎さんはお仕事がまだ終わらないみたいで帰って来ていない。
紫綺くんがいると思われる場所の近辺に差し掛かると、覚えのあるとても鋭利な気配がした。十中八九、紫綺くんがいる。
私は結界を張るために精神を集中させた。あまり上手とは言えないそれだけど、空間はきちんと切り離せたはず。
「ヘタな結界だな」
電柱の向こうから現れた人影。
街灯に映し出された冷たさを感じるほど整った顔立ちの紫綺くんが無表情に悪態をつくと、とても辛辣に感じる。だけど彼の言う通りなので、私はただ受け止めた。誠史郎さんか淳くんに、上達するようにもっと教えてもらわないと。
「せっかくみさきが頑張ってくれたのに、文句言うなよ」
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