祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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番外編

眞澄編 花とケダモノ

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 今日は珍しく、淳も誠史郎もいない。退魔士や陰陽師、魔装具の製作者なんかが集まるパーティーへ出掛けた。

 パーティーと言えば響きは良いが年寄りたちの愚痴に付き合わされて美味くない酒を飲まされる会だ。今は一応高校生という立場なので、俺と淳は飲まされないと思うけど。

 くじ引きで行かない権利を引き当てた俺はみさきとふたり留守番をしている。

 ふたりきりの日曜日。化け猫みやびはいるけれど。

 昼食当番を賭けてゲームをして、結果はみさきの惨敗。

「眞澄くん、ちょっとは手加減してよー」

 唇を尖らせて不満げだったけど、エプロンをつけてキッチンに立つ。
 俺もついて行き、ダイニングの椅子に座ってカウンター越しにみさきが料理をしている様子を眺めていた。



 初めて会ったのは、みさきの祖父で俺の恩人の周あまねが亡くなる少し前だった。
 中学生だったみさきはまだあどけなくて子どもだと思っていたのに、少しずつ大人の女性に変化している。

 みさきが高校生になるのと同時に彼女の両親、薫と瑠美さんが仕事で海外へ行くことなってしまった。

 みさきに危険が及ばないようにするために俺と淳が同居するようになったけれど、風呂上がりの無防備なパジャマ姿は正直目のやり場に困っている。

  淳はどうしてあんなに平然としていられるのか不思議だ。まあ、淳はみさきが幼稚園に通ってた頃からこの家に出入りしてたからかもしれないけど。

 だけど、ときどき泊まっていく誠史郎も何の意識もしている様子はないので、俺が気にしすぎなのだろうか。

 今だって、華奢なのに柔らかそうな身体を抱きしめたい衝動を必死に抑えている。

 本当に俺はおかしくなっている。俺の好みはもっとわかりやすく色気のある女性だったはずだ。

 学校に通い始めていろんな女の子に声をかけられるけど、少しも心が動かない。みさきが同級生の男子と話しているだけでなんとなくおもしろくない。



 ただ眺めているだけだと邪な妄想が止まらなくなる。それを察知しているのか、背後でみやびが睨んでいる。

「なんか手伝うよ」

 立ち上がって隣に移動する。

「ありがとう」

 みさきが俺に振り向いて笑ってくれた。かわいいと思ってしまう。

 腕まくりして手を洗おうとしたとき、腕が触れ合った。

「あ、悪い」
「ごめんね」

 同時に言い合ってしまい、互いに吹き出してしまう。

 みさきはパスタが好きなので、冷蔵庫にあったキノコで和風スパゲッティーを作った。なかなか上出来だ。
 ダイニングテーブルにランチョマットを敷いて皿と飲み物を並べると立派な昼食だ。

 いただきます、と手を合わせて食べ始める。にこにこと向かいで食べているみさきを見るとハムスターみたいで頬が緩んでしまう。



「新婚ってこんな感じなのかな」

 無意識に口からこぼれた言葉に自分で狼狽えた。

 やってしまったと思いつつ、ちらりと正面を見ると、みさきはフォークを持ったまま赤くなって固まっている。

「や!なんていうかその……。深い意味はなくてだな!みさきとふたりで何かするのは楽しいなって……」

 思わず立ち上がって弁解するがダメだ。取り繕おうとすればするほど墓穴を掘っている。

「そ、そうだね……!眞澄くんとお料理するの楽しかったし、こうやってご飯食べるの、おいしいね!」
「……あ、ああ……」

 同意したものの、何となく気まずい空気のまま食事を終え、食器を洗い始める。

 隣で洗剤を染み込ませたスポンジを持って皿を洗っているみさきを見下ろす。
 いっそのこと、欲望に任せてこの花を手折ってしまえば楽になれるのだろうか。

「みさき……」
「どうしたの?」

 振り向いたみさきは鼻の頭に食器洗剤の泡をつけていた。どうしたらこんなに鈍臭いことができるのだろうと半ば感心する。

 同時に、俺の気持ちだけで彼女を穢すことはしたくないと思った。
 それにみさきに嫌われて2度と会えなくなるのは堪えられない。

 この目にその姿を映せば、白い頬に桜色の唇に触れたいと愛おしさに胸は軋むけれど。
 きっとこれが幸せなんだ。

 あの日1度死んだ俺は、たぶん死ななければこんな気持ちを知ることもなかったなんて、何という皮肉だろう。

「鼻に泡ついてる」

 指先でみさきの鼻を拭う。

「あ、ありがとう」
「逆に器用でびっくりするよ」

 泡を洗い流しながらニヤニヤ笑って言うと、みさきは唇を尖らせて頬を膨らませた。

「眞澄くんのイジワルっ」

 俺はいじけたみさきを見て声を出して笑う。



 今はこれで良い。

 そう自分に言い聞かせた。







「ハラハラしたわよ」
「何がだよ」

 みさきがソファーで昼寝を始めた隙に、ゲームをしている俺にみやびが話しかけてきた。

「あんたがいつみさきに襲いかかるかって。目つきが完全にケダモノなんだもん。今だって、こんな男とふたりきりなのに、目の前で昼寝するってどういう神経してるの、この子」

 酷い言われようだが、反論のしようもなく当たっているから言い返せなかった。
 言いたいことだけ言ってみやびは去っていく。

「……本当に、どういう神経してるんだか」

 みさきの眠るソファーの傍らに移動する。
 数時間前の決意なんて、この寝顔を前に簡単に吹き飛んでしまう。

「みさきが悪いんだからな」

 起きてしまわないかドキドキしながら、ゆっくりと唇を寄せる。もう少しで唇が重なりそうになった瞬間、みさきは小さく寝返りをうって反対側に向いた。

 急にみさきが動くから心臓がバクバクと大きな音を立てた。
 寝込みに襲いかかるなんて、俺は何をやっているのだとひとりで悶絶する。



 だけどやっぱりキスしたい。

 ここなら許してもらえるかと、幸せそうに眠るみさきのこめかみ辺りにそっと唇を触れさせた。
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