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番外編
裕翔編 本能
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オレにはあったのは、生きる本能。それだけだった。
あの甘い香りの血が欲しくてたまらなかった。
それがオレに何をもたらすのか、知らなかった。
噛みついて舐めた記憶はあるのに、そこで真っ暗になった。
気がついたらいた、このおかしな空間がどこなのかわからない。
それどころか、オレは誰で、どこから来たのか。それさえ知らなかった。
「待っていたよ、裕翔」
オレに語りかけてきた人間。言葉を持たないオレに意味はわからなかったけれど、この人間は怖くなかった。
「ゆ、う……と」
「それが、新しい君の名前。僕は真堂周。君に守ってもらいたい女の子がいるんだ」
どうすれば良いのかわからない。だから、とりあえずこの人間のマネをしてみようと思った。
「ま、もって……」
喉がひゅーひゅーと鳴って掠れた音しか出ない。
「ここは現実じゃない。大丈夫、君ならできるよ。そしてここでできたことは、君が現実で目を覚ました時にできるようになっている」
「でき、る……」
押し寄せてきたものに飲まれる、そう思った。
水、波。頭の中に言葉が浮かんでくる。もがいて、息をして、泳いで、頭を出す。
言葉と、行動と、意味。
それがつながっていく不思議な感覚だった。
「君はやっぱりすごいね。こんな短時間で、義務教育終了レベルのことはだいたいこなした」
「そうなの? 何かよくわかんないけど、おもしろかった!」
オレが笑うと周は微笑む。それで余計に笑顔になる。
ここは空であり、地上であり、海であり、鏡である不思議な空間だった。
「裕翔に守ってほしいのは、真堂みさき。僕の孫だ。君はみさきの血を吸って眷属になった」
「孫って……。周、若いのに?」
「この姿はここにいる時のもので、現実の僕はもう死んでる。人間は死ぬんだ。けっこうおじいちゃんだったし」
「そっかー。生きてる周に会ってみたかったなー」
「……ありがとう。僕も、生きている間に君に会えれば良かった。そうすれば……」
周が悲しそうに呟くから、どうしたのだろうと心配になった。
「周、どうしたの? どっか痛い?」
オレの問いかけに周はゆっくり何度も首を横に振る。
「痛くないよ。ありがとう」
微笑んでいるのに辛そうで見ていられない。どうすれば良いのかわからなくて、オレは周にぎゅっと抱きついた。
「裕翔……」
周はぼんやりとオレの名前を呟く。
「裕翔は本当に優しくて、純粋だね。その無垢さでみんなを助けてやって」
どんどん目の前が暗くなっていく。
「周……」
「みさきとみんなを、頼んだよ」
目を覚ますと、オレの顔を目を丸くして覗き込んでいる女の子がいた。
かわいい、と思った。柔らかそうで、良い匂いがする。
きっとこの子が周の言っていたみさきだ。
「おはよう」
みさきは起き上がったオレをまじまじと見つめている。
「おはよう、みさき」
ぎゅっと抱きしめる。やっぱり柔らかくて気持ち良い。それにとても良い香りだ。
もっと感じたくて髪に鼻を近づけた。首筋が一番甘い匂いが強い気がする。
唇を触れさせたら、もっともっと幸せになれる気がする。
キスをしたらみさきは悲鳴を上げた。どうしてだろう。
だけど、おもしろい。
みさきといたら、たくさんの楽しいことに出会える。
オレの本能が、そうささやいた。
あの甘い香りの血が欲しくてたまらなかった。
それがオレに何をもたらすのか、知らなかった。
噛みついて舐めた記憶はあるのに、そこで真っ暗になった。
気がついたらいた、このおかしな空間がどこなのかわからない。
それどころか、オレは誰で、どこから来たのか。それさえ知らなかった。
「待っていたよ、裕翔」
オレに語りかけてきた人間。言葉を持たないオレに意味はわからなかったけれど、この人間は怖くなかった。
「ゆ、う……と」
「それが、新しい君の名前。僕は真堂周。君に守ってもらいたい女の子がいるんだ」
どうすれば良いのかわからない。だから、とりあえずこの人間のマネをしてみようと思った。
「ま、もって……」
喉がひゅーひゅーと鳴って掠れた音しか出ない。
「ここは現実じゃない。大丈夫、君ならできるよ。そしてここでできたことは、君が現実で目を覚ました時にできるようになっている」
「でき、る……」
押し寄せてきたものに飲まれる、そう思った。
水、波。頭の中に言葉が浮かんでくる。もがいて、息をして、泳いで、頭を出す。
言葉と、行動と、意味。
それがつながっていく不思議な感覚だった。
「君はやっぱりすごいね。こんな短時間で、義務教育終了レベルのことはだいたいこなした」
「そうなの? 何かよくわかんないけど、おもしろかった!」
オレが笑うと周は微笑む。それで余計に笑顔になる。
ここは空であり、地上であり、海であり、鏡である不思議な空間だった。
「裕翔に守ってほしいのは、真堂みさき。僕の孫だ。君はみさきの血を吸って眷属になった」
「孫って……。周、若いのに?」
「この姿はここにいる時のもので、現実の僕はもう死んでる。人間は死ぬんだ。けっこうおじいちゃんだったし」
「そっかー。生きてる周に会ってみたかったなー」
「……ありがとう。僕も、生きている間に君に会えれば良かった。そうすれば……」
周が悲しそうに呟くから、どうしたのだろうと心配になった。
「周、どうしたの? どっか痛い?」
オレの問いかけに周はゆっくり何度も首を横に振る。
「痛くないよ。ありがとう」
微笑んでいるのに辛そうで見ていられない。どうすれば良いのかわからなくて、オレは周にぎゅっと抱きついた。
「裕翔……」
周はぼんやりとオレの名前を呟く。
「裕翔は本当に優しくて、純粋だね。その無垢さでみんなを助けてやって」
どんどん目の前が暗くなっていく。
「周……」
「みさきとみんなを、頼んだよ」
目を覚ますと、オレの顔を目を丸くして覗き込んでいる女の子がいた。
かわいい、と思った。柔らかそうで、良い匂いがする。
きっとこの子が周の言っていたみさきだ。
「おはよう」
みさきは起き上がったオレをまじまじと見つめている。
「おはよう、みさき」
ぎゅっと抱きしめる。やっぱり柔らかくて気持ち良い。それにとても良い香りだ。
もっと感じたくて髪に鼻を近づけた。首筋が一番甘い匂いが強い気がする。
唇を触れさせたら、もっともっと幸せになれる気がする。
キスをしたらみさきは悲鳴を上げた。どうしてだろう。
だけど、おもしろい。
みさきといたら、たくさんの楽しいことに出会える。
オレの本能が、そうささやいた。
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