祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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透ルート 1章

ふたりの花嫁 2

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「片付いてなくて、申し訳ありません」

 出迎えてくれた料理長の筧さんは、全体に丸っこくて人当たりも良さそうな男性だった。

 片付いていないと筧さんは言ったけれど、もう準備万端に見える。

 こぢんまりとしたロビーには暖炉があったり、かわいいソファーが置いてあった。古めかしいウサギの置物や猫の置物がセンス良く配置されている。

 全体の色合いはモノトーンを基調としていてアンティークな不思議の国のアリスの世界をイメージしているように見えた。

 その奥がレストランのようになっていた。こちらはお話の中に出てくる帽子屋とのお茶会を意識した内装になっていて、席数はそれほど用意されていない。

「お忙しいところ、申し訳ありません。お邪魔します」

 オープン直前の忙しい時期に突然邪魔をしてしまったので本当に申し訳なく思い、きちんとお辞儀する。

「まーまー、そうかしこまらんと」
「準備できてますから、忌憚きたんのない意見をお願いしますね」

 オーベルジュというのは、宿泊施設のあるレストランだそうだ。ここは泊まれる部屋は4室だけ。

 筧さんは透さんのお母さんの大好きなフランス料理店でシェフをしていて、引き抜いたと透さんが教えてくれた。
いただいたコースは見た目はとても色鮮やかで、盛り付けも素敵でおいしかった。

 使って構わないと通された部屋は、ベージュをメインカラーに花柄と濃い茶色と淡い紫色をアクセントにしている、大人っぽい印象の内装だった。何だか良い香りも漂っている。

 部屋についているお風呂は温泉が入れられると説明を受けた。浴槽からは外の景色が眺められるそう。

 アメニティとしてベージュのかわいい巾着に入っていた部屋着は、淡い水色のワンピースで肌触りも良い。

「……すごいですね」

 思わず感嘆の吐息が漏れる。見たことのないものばかりで、大人の世界という感じがした。

「疲れたやろ。先お風呂入ってき」

 たっぷりとひだのある天蓋のついた大きなベッドに、透さんがどさりと腰を下ろす。
 たぶんダブルベッドより大きいサイズだけど、問題はこれしか寝るところがない。

 私は極度に緊張しているのに、透さんにはそんな様子が微塵もなかった。

「私は後で大丈夫ですから、透さんお先に……」
「じゃあ一緒に入る?」
「そ、それはダメです」

 不自然にかくかく動いてしまったけれど、なんとか両腕で大きくバツを作る。

「残念。ほな先入っておいで」

 結局押し負けてしまった。そそくさと全身を洗い流して、透さんと交代する。部屋着はとても着心地が良かった。

 ひとりきりになったので、大の字でベッドに転がった。広くて気持ち良い。
 横を向いた瞬間に透さんが隣で寝ているところを想像して、恥ずかしくなって飛び起きてしまう。

 もうすっかり夜も更けてきた。みんな心配していると思う。

 サイドボードにある近世ヨーロッパ調の白と金色の電話機は外と繋がっているのだろうかと疑問に思う。受話器を上げてみたけれど、通じている音がしなかった。飾りなのかもしれない。

 仕方がないのでテレビが映るのか確かめてみようとリモコンを手にした。

 同じタイミングで透さんがお風呂から出てきたみたいでドアの開く音がする。

「お待たせ」

 まだ乾ききっていない髪がとてもセクシーだ。均整のとれた引き締まった身体だけど、なぜ腰にタオルが巻いてあるだけなのだろう。

 目のやり場に困ってしまい、リモコンを放り出して頭から布団をかぶって隠れる。

「何で隠れるん?」

 掛け布団越しにくすくすと笑う声が聞こえる。

「だって、裸……」
「みさきちゃん、見慣れてると思てたわ」

 私の普段の生活を知っているのに、透さんは意地悪だ。みんな、お風呂上がりに裸で家の中を歩き回ったりしない。それに透さんの素肌を見るのは初めてだった。

「そんなこと……」

 あるはずない、と言うより早く、するりと透さんが布団の中に入ってきた。

「みさきちゃんの家ではさすがにせえへんかったけど、俺いつも裸で寝るタイプやから」
「えっ、ちょっと、透さん……!」

 透さんに背中から抱き締められる。緊張で、私は呼吸が上手くできない。

「緊張してる?」

 耳殻に触れるささやきに対して、私はこくこくと何度も頷く。

「……かわいらしいなあ」

 耳たぶを食まれたことがくすぐったくて身を捩ると、透さんが艶っぽく含み笑いをした。私の耳の輪郭に沿って彼の舌が這う。

「っん……ぁっ」

 背筋がぞくぞくして、おかしな声が出てしまった。恥ずかしくて手で口元を隠す。

 絡まった腕が僅かにポジションを代えてさらに引き寄せられた。背中にぴたりと透さんの大胸筋がくっついている。

「あの、透さん。む、胸に、手が」

 全身が沸騰しているように熱い。このまま透さんのペースに流されてしまいそうな私がいる。

「通りで触り心地がええはずや。ごめんな。理性が負けてしもうた」

 声が素敵なのはずるいと思う。内容は無くても、甘やかにささやかれるとついつい聞き惚れてしまう。

 うっとりとしてしまう極上の声音に浸っていると仰向けされて、その上に黒豹のようにしなやかな肢体が覆い被さってきた。透さんの両眼が妖艶に潤んでいるように見える。

「みさき」

 甘やかに私の名前を呼ぶ声と優しく頬を撫でる親指が、私の背中をシーツに縫い止める。心臓の音が透さんに聞こえてしまいそうなほどにうるさい。

 怖いと思った。透さんを恐れたのではなく、私が私でいられなくなる恐怖だ。
 変わってしまう。全部。だけどその先を知りたいと思ってしまった。

 覚悟を決めてゆっくり瞳を閉じて唇を結ぶ。

「ええ子や」

 頭を撫でられ、額にそっとキスをされる。あれ、と拍子抜けして両目を開けたのと同時に唇が重なった。

 目の前に瞼を閉じた透さんの顔がある。私も目を瞑ると、感触がより鮮明になった気がした。

 体温が離れるとすぐに透さんの重みを感じなくなった。代わりにスプリングが軋む。

「あー……。ほんまに悪さする気はなかったんやけど」

 パチリと両目を開けて首だけ隣の透さんの方へ向けると、彼は言い訳をしながら前腕で目元を隠して寝転んでいた。

「みさきちゃんがかわいすぎるのがあかん」

 顔から腕を離すと私を見て照れたように微笑んだ透さんにどきりとしてしまう。

「アカン。これ以上は……」

 ごろりと転がって、透さんはこちらに背中を見せる。

「透さん……?」

 寝台に肘をつきながら上体を起こして、後ろから透さんの顔を見ようと首を伸ばす。

 耳が赤く染まっているように見えた。
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