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眞澄ルート 2章
たいせつなひと 1
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「アタシに感謝しなさいよ」
大島先生は機械に社員章のカードを読み込ませ、指紋認証をする。それでゲートが開き、人の気配のない会社に潜り込めた。
無機質な内装と薄暗い照明。響く足音も硬い。
雪村さんと会う約束を大島先生にしてもらって、私たちもついてきた。
眞澄くんに手出しすることを止めてもらいたい。
彼女の案内で車を走らせて来たのは、会社のホームページ上に記載してある都内の住所とは全く違った。
私たちが住んでいるのと同じ市内だけど、山を切り開いた場所だった。我が家から一時間以上かかる。
近くに駅もないので、自動車か、バスでないとここには通えない。
「本当に会えるのか?」
「会えるわよ。武藤眞澄を連れていくって連絡したもの」
大島先生はこちらを一瞥もせず、胸を張ってハイヒールを鳴らしながら進む。
「俺に何の用があるんだ?」
眞澄くんはそう呟いたけれど、私は昨日の大島先生の話からひとつ予想していることがあった。
人間から吸血種になった眞澄くん。そしてお祖父ちゃんの血で眷属になった。何かそれに原因があるのかを解明できれば。
そういった情報を売り物にしている会社なのだから、眞澄くんのことは喉から手が出るほどほしいと思う。
「眞澄クンのことが知りたくて知りたくてたまらないのよ、あの女」
先頭を歩いていた大島先生は振り返ると見事な曲線を描く身体をくねらせる。すぐ後ろを歩く青年たちに見せつけようとしているみたいだ。
「ろくでもないことが知りたいんだろ」
ため息と共に吐き出した眞澄くんの声は冷ややかだった。
だけど彼の腕に、綿菓子のようにふわふわとした女性は懲りずに絡み付く。
眞澄くんの隣を歩く淳くんが割り込まれた瞬間に鋭く目を細めたのが振り向き様に見えたけれど、彼女はお構いなしだ。
このメンタルの強さは見習うべきかもしれない。
「だからアタシと組んでくれれば……」
大島先生の眞澄くんに対する距離が近すぎておもしろくない。明らかに豊かなお胸を押し付けている。
「お断りだ」
漆黒の髪と瞳の美男子は、言葉は厳しいけれど丁重に大島先生の手をほどく。
向こうから絡んでくるから仕方のないことなのに、私以外の女の子に触れてほしくないと、こんな時に嫉妬心が頭をもたげる。唇を結ぶ力が強くなった。
「あら、いいのかしら?そんな態度とって。ここで私が寝返るかもしれないわよぉ?」
再び眞澄くんにしなだれかかる。
「初めから味方だなんて思ってないから安心しろ」
眞澄くんは大島先生のことを何とも思っていないことはわかるのだけど、彼女の言葉が、行動が、神経を逆撫でする。
イライラしていると、大島先生は眞澄くんにまとわりつきながら私をちらりと見た。
目が合ってこちらはきょとんとするけれど、あちらはフフンと見せつけるように嘲笑する。
眞澄くんは大島先生を何とか遠ざけようとしている。
頭に血が上りそうになるけれど、そんな場合じゃないと、拳を握って気を取り直す。挑発に乗ったら負けだ。
私たちはもうひとつ期待していることがあった。翡翠くんがここにいるのではないかと。この場所を知ることができたのは本当にありがたい。
ドアの前を通りすぎる度に中を確認したい衝動に駆られるけれど、二兎追うものは一兎も得ずだ。それに開けようにも、ドアごとにカードを通す機械が設置されていてできない。
「吸血種などの研究が行われているのですか?」
誠史郎さんの問いに大島先生は得意気に笑う。
「ここでの研究を、世界中のVIPが我先にと欲しがるの」
「じゃあ、センセーもヤバいじゃん」
裕翔くんの指摘に大島先生はまなじりを決する。
「あんたたちに言われたくないわよ!」
「あんまり騒いだら、雪村さん飛んでくるんとちゃう?」
「それならそれで、あんたたちは好都合なんじゃないの?」
雪村さんの強さはわからないけれど、こちらは6人いる。戦うことになったとしても負けることはないだろう。
だけどそんな事態はできれば避けたい。それはお互い様だと思う。
突き当たりのドアに大島先生はカードを通す。扉は自動で横にスライドした。
「雪村センパーイ、大島ですぅー」
薄明かりしかない、窓のない殺風景な部屋。
「お邪魔します……」
小さく呟いてから黙っていた方が良かったのだろうかと口を掌で隠す。
視線を感じて隣を上目遣いに見やると、いつの間にか眞澄くんが隣にいた。彼は右側の口角だけを上げてニヤリと笑う。そして私の頭をポンと撫でた。
「こんなにたくさんお客様がいらっしゃるなんて、聞いていないわ」
オレンジ色のライトにぼんやりと照らされたその人は、多分とても仕事ができるのだろうなという印象を受ける、すらりとした綺麗な女性だった。
この人が雪村さん。人間から吸血種になった女性。唇を真一文字に結んで凝視してしまう。
「えー?武藤眞澄クンしか連れていかないなんて、言ってませんよぉ?」
大島先生はどんな女性に対してもチクチク刺のある態度なのだと思うと少し安心してしまう。私だけが特に嫌われているわけではないらしい。
正反対のタイプの女性が睨み合っている。共通点はどちらも恐ろしく気が強いのだろう。
「こわ……」
裕翔くんが小さく呟いて肩を竦めた。その声が聞こえたのか、雪村さんの視線がこちらに向いて私もびくりとしてしまう。
「初めまして。雪村と申します」
雪村さんはこちらへ歩み寄ると一礼する。
「初めまして。真堂です。突然お邪魔して申し訳ありません」
毅然とした彼女につられて、私も会釈した。
「ご用件は?」
向けられる薄闇で光る瞳。怯んではいけないと、私は背筋を伸ばしてから口を開いた。
「真堂家は、あなた方の研究に協力するつもりはありません」
大島先生は機械に社員章のカードを読み込ませ、指紋認証をする。それでゲートが開き、人の気配のない会社に潜り込めた。
無機質な内装と薄暗い照明。響く足音も硬い。
雪村さんと会う約束を大島先生にしてもらって、私たちもついてきた。
眞澄くんに手出しすることを止めてもらいたい。
彼女の案内で車を走らせて来たのは、会社のホームページ上に記載してある都内の住所とは全く違った。
私たちが住んでいるのと同じ市内だけど、山を切り開いた場所だった。我が家から一時間以上かかる。
近くに駅もないので、自動車か、バスでないとここには通えない。
「本当に会えるのか?」
「会えるわよ。武藤眞澄を連れていくって連絡したもの」
大島先生はこちらを一瞥もせず、胸を張ってハイヒールを鳴らしながら進む。
「俺に何の用があるんだ?」
眞澄くんはそう呟いたけれど、私は昨日の大島先生の話からひとつ予想していることがあった。
人間から吸血種になった眞澄くん。そしてお祖父ちゃんの血で眷属になった。何かそれに原因があるのかを解明できれば。
そういった情報を売り物にしている会社なのだから、眞澄くんのことは喉から手が出るほどほしいと思う。
「眞澄クンのことが知りたくて知りたくてたまらないのよ、あの女」
先頭を歩いていた大島先生は振り返ると見事な曲線を描く身体をくねらせる。すぐ後ろを歩く青年たちに見せつけようとしているみたいだ。
「ろくでもないことが知りたいんだろ」
ため息と共に吐き出した眞澄くんの声は冷ややかだった。
だけど彼の腕に、綿菓子のようにふわふわとした女性は懲りずに絡み付く。
眞澄くんの隣を歩く淳くんが割り込まれた瞬間に鋭く目を細めたのが振り向き様に見えたけれど、彼女はお構いなしだ。
このメンタルの強さは見習うべきかもしれない。
「だからアタシと組んでくれれば……」
大島先生の眞澄くんに対する距離が近すぎておもしろくない。明らかに豊かなお胸を押し付けている。
「お断りだ」
漆黒の髪と瞳の美男子は、言葉は厳しいけれど丁重に大島先生の手をほどく。
向こうから絡んでくるから仕方のないことなのに、私以外の女の子に触れてほしくないと、こんな時に嫉妬心が頭をもたげる。唇を結ぶ力が強くなった。
「あら、いいのかしら?そんな態度とって。ここで私が寝返るかもしれないわよぉ?」
再び眞澄くんにしなだれかかる。
「初めから味方だなんて思ってないから安心しろ」
眞澄くんは大島先生のことを何とも思っていないことはわかるのだけど、彼女の言葉が、行動が、神経を逆撫でする。
イライラしていると、大島先生は眞澄くんにまとわりつきながら私をちらりと見た。
目が合ってこちらはきょとんとするけれど、あちらはフフンと見せつけるように嘲笑する。
眞澄くんは大島先生を何とか遠ざけようとしている。
頭に血が上りそうになるけれど、そんな場合じゃないと、拳を握って気を取り直す。挑発に乗ったら負けだ。
私たちはもうひとつ期待していることがあった。翡翠くんがここにいるのではないかと。この場所を知ることができたのは本当にありがたい。
ドアの前を通りすぎる度に中を確認したい衝動に駆られるけれど、二兎追うものは一兎も得ずだ。それに開けようにも、ドアごとにカードを通す機械が設置されていてできない。
「吸血種などの研究が行われているのですか?」
誠史郎さんの問いに大島先生は得意気に笑う。
「ここでの研究を、世界中のVIPが我先にと欲しがるの」
「じゃあ、センセーもヤバいじゃん」
裕翔くんの指摘に大島先生はまなじりを決する。
「あんたたちに言われたくないわよ!」
「あんまり騒いだら、雪村さん飛んでくるんとちゃう?」
「それならそれで、あんたたちは好都合なんじゃないの?」
雪村さんの強さはわからないけれど、こちらは6人いる。戦うことになったとしても負けることはないだろう。
だけどそんな事態はできれば避けたい。それはお互い様だと思う。
突き当たりのドアに大島先生はカードを通す。扉は自動で横にスライドした。
「雪村センパーイ、大島ですぅー」
薄明かりしかない、窓のない殺風景な部屋。
「お邪魔します……」
小さく呟いてから黙っていた方が良かったのだろうかと口を掌で隠す。
視線を感じて隣を上目遣いに見やると、いつの間にか眞澄くんが隣にいた。彼は右側の口角だけを上げてニヤリと笑う。そして私の頭をポンと撫でた。
「こんなにたくさんお客様がいらっしゃるなんて、聞いていないわ」
オレンジ色のライトにぼんやりと照らされたその人は、多分とても仕事ができるのだろうなという印象を受ける、すらりとした綺麗な女性だった。
この人が雪村さん。人間から吸血種になった女性。唇を真一文字に結んで凝視してしまう。
「えー?武藤眞澄クンしか連れていかないなんて、言ってませんよぉ?」
大島先生はどんな女性に対してもチクチク刺のある態度なのだと思うと少し安心してしまう。私だけが特に嫌われているわけではないらしい。
正反対のタイプの女性が睨み合っている。共通点はどちらも恐ろしく気が強いのだろう。
「こわ……」
裕翔くんが小さく呟いて肩を竦めた。その声が聞こえたのか、雪村さんの視線がこちらに向いて私もびくりとしてしまう。
「初めまして。雪村と申します」
雪村さんはこちらへ歩み寄ると一礼する。
「初めまして。真堂です。突然お邪魔して申し訳ありません」
毅然とした彼女につられて、私も会釈した。
「ご用件は?」
向けられる薄闇で光る瞳。怯んではいけないと、私は背筋を伸ばしてから口を開いた。
「真堂家は、あなた方の研究に協力するつもりはありません」
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