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誠史郎ルート 1章
甘い毒 7
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亘理さんの私たちに平穏に暮らしてもらいたいという心遣いはありがたいけれど、生活を見張られていると思うと複雑な気分になる。
誠史郎さんの車で、学校から自宅まで送ってもらう。重傷ではないので申し訳ない。
「……みさきさん、大丈夫ですか?」
「あ、はい!大丈夫です。大したケガじゃないのに送っていただいて……」
「いえ、そちらではなく」
理知的な整った横顔がくすりと笑う。
「ご自宅は亘理さんたちがみさきさんの情報を獲たいと見張っているようですから、精神的に問題はないかと思いまして」
どうしてこの人は私の思うことをわかってしまうのだろう。思わず目を見開いてしまう。
「……いい気分はしませんけれど、家の中に監視カメラがついているという訳でもありませんから。大丈夫です」
これ以上、誠史郎さんに心配や迷惑をかける訳にはいかない。できるだけ明るい笑顔を心掛けた。
ハンドルを握っていた左手がそこ離れると、シートの上にあった私の右手の甲を包む。
「どうしても辛いようでしたら仰ってください。誰にも気づかれないよう、ふたりで出かけましょう」
「ありがとうございます」
自然に頬が緩む。誠史郎さんは小さく微笑んで応えてくれた。
「水族館……。動物園、遊園地……」
宙を見上げて指を折りながら、行きたいところを羅列してみる。
「時間はかかりますが、全て行きましょう」
何でもないことのように誠史郎さんは言ったけれど、私は深読みして照れてしまう。だって時間はかかると言うことは、その間、ずっと私と一緒にいてくれると言うことだ。
自動車だと学校から自宅まではすぐだった。礼を言って車から降り、仕事のため再び高校へ戻る誠史郎さんを見送る。
私はちらりと隣の家を見た。特にカメラなどは見当たらない。音を聞きつけて誰かが飛び出してくることもなかった。
山神さんが私たちに亘理さんが隣に居を構えた理由を伝えたということは、亘理さんたちにとって私の行動を把握することはそれほど重要ではない。もしくは、もう目的は達しているのだろう。
平穏な生活。人ならざるものを相手の仕事を生業にしている以上、それは難しいことだと思う。
両親だって、仕事で海外へ行ってからもう一年以上経つけれど、まだ戻ってこられない。
複雑な思いを抱えたまま、門扉を開け、玄関のドアノブに手をかける。
「ただいまー」
靴を脱ごうと膝を曲げると少し痛い。もたもたしていると、淳くんがリビングから様子を見に来てくれた。制服ではなく、普段着に着替えている。
「お帰り。足は大丈夫? 誠史郎に送ってもらった?」
「うん。大丈夫」
うなずくとミルクティーの色の王子様は柔和な笑みを浮かべる。
「良かった。着替えてくる?」
「うん、そうする」
私の返事を聞いて、淳くんはリビングへ戻る。私は自室へ移動した。
着替えてからリビングに顔を出す。
今日の数学の授業が解らなかったので、淳くんか眞澄くんに教えてもらおうと教科書とノートも持ってきた。
淳くんはキッチンでお茶の用意をしてくれている。眞澄くんはソファーに座ってゲームに忙しそうだ。携帯ゲーム機のボタンを激しく連打している。
「みさき、どうしたの?」
どうしようと悩みながらダイニングチェアに座ると、向かいにするりと裕翔くんがやって来て、テーブルに身を乗り出した。
「数学でわからないところがあったから、教えてもらいたくて」
「う、オレもわかんない」
並んだ数字と記号を前に裕翔くんがやぶ蛇だったという表情になる。自然に目が合うと、どちらからともなく笑ってしまった。
そんなことをしていると、呼び鈴が鳴った。モニターには透さんが映っている。
出迎えると、透さんはにこにこしながら玄関を上がる。
「みさきちゃんが帰って来てて良かったわ」
私の後ろで透さんはのんびり呟く。
「ケガでもしたん?」
無意識のうちに、左足を庇うような動きをしていたみたいだ。透さんは目ざとい。
「ハードルで転んじゃって……」
「だっこしたろか?」
じりじりと私を壁際に追いやろうとする透さんに、私は勢い良く何度も首を左右に振って見せる。
だけど彼は意地悪に微笑んだまま、動きを止めることはない。
「と、透さ……」
背中が壁についてもう逃げる場所がない。背の高い透さんが私の行く手を阻むように壁へ掌をついたと同時に、リビングの扉が軽やかな音とともに開いた。
「あ! トールがまた悪さしようとしてる!」
裕翔くんの目の前で透さんは、チッチッと舌を鳴らして人差し指をメトロノームのように動かす。
「悪さやないで。スキンシップ」
「ひとりで歩けますから、大丈夫です」
「残念やなぁ」
透さんが諦めてくれたことにほっとしながら、どこか罪悪感もあった。
誠史郎さんに同じ事を言ってもらえたらと想像してしまったからだ。今日のことがあったから、誠史郎さんはきっと用心深くなっている。仕方ないけれど、少し残念だ。
リビングに戻ってお茶をいただく。飲み終えると、淳くんが数学のわからないところを教えてくれた。そこに眞澄くんも参加する。
透さんと裕翔くんも混じって、話が脱線したり、元に戻って数学を教えてもらっていると、いつの間にか誠史郎さんが学校から帰って来る時刻になっていた。
山神さんに言われたことはいつの間にか記憶の端に追いやられていた。みんなと楽しく送る時間にリラックスしていた。
眠ろうとベッドに入った時、私は平穏に暮らしていると気がついた。
山神さんに会える機会をなんとか作って、警戒してもらわなくても大丈夫だと伝えてみようと思う。聞き入れてもらえると良いのだけど。
誠史郎さんの車で、学校から自宅まで送ってもらう。重傷ではないので申し訳ない。
「……みさきさん、大丈夫ですか?」
「あ、はい!大丈夫です。大したケガじゃないのに送っていただいて……」
「いえ、そちらではなく」
理知的な整った横顔がくすりと笑う。
「ご自宅は亘理さんたちがみさきさんの情報を獲たいと見張っているようですから、精神的に問題はないかと思いまして」
どうしてこの人は私の思うことをわかってしまうのだろう。思わず目を見開いてしまう。
「……いい気分はしませんけれど、家の中に監視カメラがついているという訳でもありませんから。大丈夫です」
これ以上、誠史郎さんに心配や迷惑をかける訳にはいかない。できるだけ明るい笑顔を心掛けた。
ハンドルを握っていた左手がそこ離れると、シートの上にあった私の右手の甲を包む。
「どうしても辛いようでしたら仰ってください。誰にも気づかれないよう、ふたりで出かけましょう」
「ありがとうございます」
自然に頬が緩む。誠史郎さんは小さく微笑んで応えてくれた。
「水族館……。動物園、遊園地……」
宙を見上げて指を折りながら、行きたいところを羅列してみる。
「時間はかかりますが、全て行きましょう」
何でもないことのように誠史郎さんは言ったけれど、私は深読みして照れてしまう。だって時間はかかると言うことは、その間、ずっと私と一緒にいてくれると言うことだ。
自動車だと学校から自宅まではすぐだった。礼を言って車から降り、仕事のため再び高校へ戻る誠史郎さんを見送る。
私はちらりと隣の家を見た。特にカメラなどは見当たらない。音を聞きつけて誰かが飛び出してくることもなかった。
山神さんが私たちに亘理さんが隣に居を構えた理由を伝えたということは、亘理さんたちにとって私の行動を把握することはそれほど重要ではない。もしくは、もう目的は達しているのだろう。
平穏な生活。人ならざるものを相手の仕事を生業にしている以上、それは難しいことだと思う。
両親だって、仕事で海外へ行ってからもう一年以上経つけれど、まだ戻ってこられない。
複雑な思いを抱えたまま、門扉を開け、玄関のドアノブに手をかける。
「ただいまー」
靴を脱ごうと膝を曲げると少し痛い。もたもたしていると、淳くんがリビングから様子を見に来てくれた。制服ではなく、普段着に着替えている。
「お帰り。足は大丈夫? 誠史郎に送ってもらった?」
「うん。大丈夫」
うなずくとミルクティーの色の王子様は柔和な笑みを浮かべる。
「良かった。着替えてくる?」
「うん、そうする」
私の返事を聞いて、淳くんはリビングへ戻る。私は自室へ移動した。
着替えてからリビングに顔を出す。
今日の数学の授業が解らなかったので、淳くんか眞澄くんに教えてもらおうと教科書とノートも持ってきた。
淳くんはキッチンでお茶の用意をしてくれている。眞澄くんはソファーに座ってゲームに忙しそうだ。携帯ゲーム機のボタンを激しく連打している。
「みさき、どうしたの?」
どうしようと悩みながらダイニングチェアに座ると、向かいにするりと裕翔くんがやって来て、テーブルに身を乗り出した。
「数学でわからないところがあったから、教えてもらいたくて」
「う、オレもわかんない」
並んだ数字と記号を前に裕翔くんがやぶ蛇だったという表情になる。自然に目が合うと、どちらからともなく笑ってしまった。
そんなことをしていると、呼び鈴が鳴った。モニターには透さんが映っている。
出迎えると、透さんはにこにこしながら玄関を上がる。
「みさきちゃんが帰って来てて良かったわ」
私の後ろで透さんはのんびり呟く。
「ケガでもしたん?」
無意識のうちに、左足を庇うような動きをしていたみたいだ。透さんは目ざとい。
「ハードルで転んじゃって……」
「だっこしたろか?」
じりじりと私を壁際に追いやろうとする透さんに、私は勢い良く何度も首を左右に振って見せる。
だけど彼は意地悪に微笑んだまま、動きを止めることはない。
「と、透さ……」
背中が壁についてもう逃げる場所がない。背の高い透さんが私の行く手を阻むように壁へ掌をついたと同時に、リビングの扉が軽やかな音とともに開いた。
「あ! トールがまた悪さしようとしてる!」
裕翔くんの目の前で透さんは、チッチッと舌を鳴らして人差し指をメトロノームのように動かす。
「悪さやないで。スキンシップ」
「ひとりで歩けますから、大丈夫です」
「残念やなぁ」
透さんが諦めてくれたことにほっとしながら、どこか罪悪感もあった。
誠史郎さんに同じ事を言ってもらえたらと想像してしまったからだ。今日のことがあったから、誠史郎さんはきっと用心深くなっている。仕方ないけれど、少し残念だ。
リビングに戻ってお茶をいただく。飲み終えると、淳くんが数学のわからないところを教えてくれた。そこに眞澄くんも参加する。
透さんと裕翔くんも混じって、話が脱線したり、元に戻って数学を教えてもらっていると、いつの間にか誠史郎さんが学校から帰って来る時刻になっていた。
山神さんに言われたことはいつの間にか記憶の端に追いやられていた。みんなと楽しく送る時間にリラックスしていた。
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