祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

文字の大きさ
85 / 145
誠史郎ルート 1章

甘い毒 6

しおりを挟む
「ものは言い様ですね」

 誠史郎さんの口角は上がったけれど、切れ長の双眸は笑っていない。

あまねではできなかった、主と眷属の研究……。私たちで行うという訳ですか」
「んー、ちょっと違いますが、だいたい合ってます」
「研究……?」

 事態が上手く飲み込めなくて、引っ掛かった言葉を反芻する。

 そう言えば以前誠史郎さんから、亘理さんが大学生の時、お祖父ちゃんに研究材料になってほしいと頼みに来たと聞いたことを思い出す。

 お隣に住んで研究というのは、我が家の日々の観察でもするということだろうか。そんなことをして何がわかるのか不思議だ。

「亘理さん曰く彼女は、伝説の術者、真堂周を上回る逸材だそうですから」

 山神さんは私に振り向いてにっこり笑う。お祖父ちゃんより強い力なんて私にあるはずもない。見当違いだと、ぶんぶんとかぶりを振った。

「不愉快です」

 誠史郎さんが静かに告げる。両眼には冷たい怒りが燃えていた。

「皆さんに害を及ぼしたりしませんよ。ただの隣人です」
「そういう問題ではありませんが……。雪村さんという社員が翡翠くんを捕らえていますね?」

 違う角度から攻めようと、誠史郎さんは眼鏡のブリッジを指先で押し上げながら山神さんを見据える。

「俺、バイトなんで、自分の仕事以外のことはわかりません」

 彼は爽やかな笑顔でさらりと答えた。本当に知らないのか疑問に思うけれど、そう言うのなら山神さんが答えられることを聞いてみよう。

「……バイトの内容は、私たちを監視することですか?」

「監視なんて大げさなものじゃないよ。たかだかバイトの俺の精神がさすがにもたないから」

 破顔して肩をすくめる山神さんに私は閉口する。自分のハンカチを私の落とし物だと言って笑って声を掛けられるのだから、それなりに肝が据わっていると感じる。謙遜なのか、無自覚なのか、悩ましいところだ。

「だけどやっぱり、見張ってるってことですよね?」

 山神さんの涼しげな口元はわずかに動いたけれど、何も言葉を発しない。
 それを私は肯定と受け取った。人の出入りを見ているということだろうか。一体何の目的があるのだろう。

「亘理さんに会えるよう、とりなしてください。あなた方の目的がみさきさんだというのは、私としても黙っていられません」
「……今度会ったら聞いてみますけど、期待はしないでくださいね。俺はゼミの教授が亘理さんの友達で、その紹介でバイトしてるってだけですから」

 苦笑する山神さんを誠史郎さんは腕組みをしたまま真っ直ぐ見つめる。

「あのような写真をあなたの独断で私に見せて、警告しようとは思うのでしょう?」
「それはまあ、仕事のうちと言いますか。真堂さんに平穏無事に暮らしてもらえるように配慮するのが仕事内容です」

「……山神さんにも、何らかの能力があるのですか?でなければ、あの会社の、裏の部署へいきなり入れるとは思えません」
「それは買い被りすぎです。実家が神社で、ちょっと見える・・・ってだけですよ」

 十分普通じゃなかった。山神さんは私たちのような仕事に理解があるから、アルバイトとして雇われたのかと合点がいく。

「俺に隠し事はもうないんで、失礼しますね」

 最後まで爽やかな笑顔を崩すことなく、山神さんは保健室を後にした。
 誠史郎さんは納得していない様子だけど彼を引き留めることはなかった。

 ゆっくりとドアが閉じられると、私は緊張が解けて大きくため息をつく。そしてしゃがみこんでしまった。だけど膝を庇ったので動きが少しぎこちない。

「みさきさん。大丈夫ですか?」

 傍らに屈んで私の様子を気にしてくれた好きな人に心配をかけたくなくて、へらりと笑った。

「ちょっとほっとしたんです。やっぱり学校に知られると騒ぎになってしまうでしょうから、そういうことじゃなくて良かったと思ったら力が抜けちゃって」

 誠史郎さんが膝を床についたと思った次の瞬間、ぎゅっと抱き締められた。
 私も床に膝を預けるしか身体を支える方法がなくて、痛みにちょっとだけ顔をしかめる。

「何があっても守ると言っておきながら、申し訳ありません」
「そ、そんな……。誠史郎さんは何も悪くないです」

 いい香りのする清潔なシャツの胸の辺りに顔を埋めるような体勢になっていたので、顔を上げようとした。だけど髪を優しく撫でる大きな手がそれを許してくれない。

「少々しゃくですが、彼の言うとおり浮かれていました」

 いつも冷静沈着な誠史郎さんにそんな風に言われると照れてしまう。
 今、彼はどんな表情をしているのだろうと声音から想像するために瞳を閉じる。おずおずと白衣の背中に手を回した。

「私もです」

 そう告げた瞬間、誠史郎さんの動きが止まった気がした。

「誠史郎さん……?」

 今度こそ顔がみたいと視線を上げる。誠史郎さんは少し困ったように微笑んでいた。目が合うと頬擦りをされる。

「あまり甘やかすと、要求に際限がなくなりますよ」

 艶のある甘い声がいたずらっぽく耳朶をくすぐる。照れ笑いをすると、柔らかい微笑で返してくれた。

 私の手を握ってゆっくり立ち上がる。私も誠史郎さんの助けを借りながら、膝を庇いつつ立って姿勢を正した。

 向かい合うと、繋いでいた手の甲に誠史郎さんがそっとキスをする。

「……家までお送りします。今ならみさきさんの足を言い訳にできますし、これ以上こうしていると私の理性がもちません」

 私は赤面してうつむきながらうなずいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜

具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。 主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。 みたいなはなし ※表紙はAIです

処理中です...