祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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眞澄ルート 2章

たいせつなひと 7

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 剣戟けんげきに息が上がる。だけど眞澄くんは全く乱れない。手加減しているとわかる。

 それほど長い時間竹刀を振るっていたわけではないのに、疲労で足が縺れそうになった。

 転びそうになったところを眞澄くんに抱き止められた。

「力み過ぎ」

 肩で大きく息をしていると、ひょいと担がれてしまう。その腕力に驚いているうちに壁の近くに運ばれて、休憩するように促された。

「もっと楽にしろよ」

 座り込んだ私の隣に、眞澄くんは少し困ったみたいな微笑を浮かべながら腰を下ろす。私は息が苦しくて話せなくて、汗を滴らせながら頷いた。

 頭の中がぐちゃぐちゃで、それが現れてしまっていたのだと思う。どうして眞澄くんはこんなに冷静でいられるのだろう。

 ようやく呼吸が落ち着いてきたとき、家の外の空気がざわついていると気がついた。

「……眞澄くん」
「休める時間じゃなくなったな」

 小さくため息をついた彼は、立ち上がると私に手を差し出してくれる。

「立てるか?」

 頷いてその手を握ると、引き上げてくれた。

 膝を伸ばしたのと同時に、彼の端正な面が近づいてきた。何が起こるのか考える余裕もなく唇が重なる。

 驚いて目を丸くしていると、眞澄くんはいたずらっ子のような笑顔になった。

「その顔の方が良いと思うぜ」

 そう言って私に背を向け、扉へ向かってしまう。

「行くぞ」

 耳まで熱い。何度も首を縦に振って、眞澄くんの後ろをついて数歩進む。

「淳なら大丈夫」

 背中越しに投げ掛けられた声に、私の動きはピタリと止まった。

「俺たちはそんなに脆い関係じゃない」


 玄関に着くと、誠史郎さんと淳くんと透さんがすでに外へ出ようとしていた。

 あんなことがあったばかりなので、少し気まずいと私は思った。だけど眞澄くんと淳くんは普段と全く変わらない。

「裕翔は?」

 一番最初に飛び出して来そうなのに、ここにいなかった。

「入浴中です」

 誠史郎さんが言ったのと同時に、脱衣場のドアの向こうで裕翔くんが何か大声で言っているのが聞こえる。

「みんな、ここで待っててくれないか?」

 眞澄くんの申し出に、ここにいる全員の視線が彼に集まる。

「ダメだ。彼女は眞澄に執着している」

 ミルクティー色の双眸が、いつになく鋭く眞澄くんを見つめた。

「ちょっとカッコつけ過ぎちゃう?」

 透さんがからかうように片頬で笑う。

「……それなら、淳とみさきと俺でやらせてくれ」

 淳くんが目を見張る。私も驚いて眞澄くんを見上げた。

「こないだ学校でカッコ悪いとこ見せたから、取り返させてほしい」
「……て、ゆーてるけど?」

 透さんは誠史郎さんに判断を委ねた。経験値はもちろんだけど、多分、冷静さと能力もふたりの方が上だ。

「危ないと思えばすぐに割り込みますよ?」

 その言葉に眞澄くんは深く頷いた。

「ありがとう」
「気をつけてください」

 淳くんと私も頷いたのを確認して、眞澄くんが玄関の扉を開ける。

 門扉のところには身なりの乱れた大島先生が薄ら笑いを浮かべて立っていた。

「眞澄クンひとりで良かったのに」

 どんな事態になっても困らないように、私が結界を張る。ふたりは私の前に立って魔性の女性と対峙した。

「眞澄クンじゃないとダメみたいなの……。お願い。アタシと……」

 淫らな空気を振り撒いて眞澄くんに手を差し伸べる。

「俺に、あんたの魔力は効かない。もう諦めろ。俺たちと戦えば死ぬんだ」

 聞こえているのかいないのか、大島先生は恍惚としているような表情でいる。焦点も合っていない。

「貴方でないと、アタシの渇きが癒えないのよぉ!」

 抱きつこうとハイヒールを鳴らして突進してきた大島先生を、眞澄くんはするりとかわす。

 バランスを崩した彼女は、私の目の前で膝から転んだ。

「あんた、男でしょ!? アタシがここまで言ってあげてるのに!」

 立ち上がると、緩く巻いた髪を振り乱して大島先生は抗議しながら詰め寄った。

「あんたは、それで良いのか?」
「は?何言ってるの?」

 眞澄くんの問いに対する答えは嘲笑だった。

「……だよな。ま、サキュバスの魔力も、みさきの魅力の前じゃ形なしってことだよ」

 大島先生が私を振り返って睨み付けてくる。理性はしっかり働いているみたいで、それ以上のことはなかった。

「こんなちんちくりんより、アタシの方が……!」
「それを決めるのは、俺だ。みさき以上の恋人なんていない」

 私は思わず照れて、頬を掌で隠した。だけどここに淳くんもいるとはっとして姿勢を正す。
 大島先生の甘い印象を与える面は、みるみる般若のように変貌していった。

「もう諦めてくれませんか?眞澄の意思は変わりません」

 淳くんが呆れたように大島先生に告げる。それに反応した彼女はゆっくりと反転し、淳くんに向かって歩みを進めた。

「アンタだって、眞澄クンに真堂サンを取られて悔しいんじゃないの?アタシと組めば……」

「一緒にしないでください。僕は、大切なひとには幸せになってもらいたい」
「偽善者ね」

 挑発するような大島先生の微笑みを映す、淳くんの双眸は冷たい。

「偽善で構いません。誰にも迷惑はかけていない」

 淳くんがこんなに嫌悪感を露にするのはあまりない。大島先生とはとことんそりが合わないのだろう。

「安い挑発は見苦しいですよ」

 近頃、時々淳くんが見せる凍てつくような瞳。

「あ、淳くん」

 止めないといけない気がした。彼の側へ小走りで行き、袖口を引っ張る。眞澄くんも淳くんのすぐ隣にやって来た。

 ふたりで淳くんを挟むように立つ。
 白皙の王子様はびくりと反応する。

「……みさき」
「あんなのまじめに聞くなよ」

 そう言った眞澄くんはニヤリと笑って、淳くんの白い頬に両手の人差し指を添える。口角を上げるように力を加えていた。

 パッと手を離して柔らかく微笑んだ眞澄くんを前に、淳くんは呆然とする。

「眞澄……」

 ミルクティー色の双眸は、いつもの優しくて穏やかなそれに戻っていく。
 唇の端を上げながら目を伏せた。

「……僕には、眞澄がいる。だけど」

 迷いのない視線が大島先生に向けられる。

「あなたには誰もいなかったのですね」
「ば……っ、バカにしないで!」

 敵対心を向けられるのは慣れていたけど、憐れまれるとプライドを傷つけられたみたいだ。唇を噛んで、こちらを睨み付ける。

「……寂しいですね」

 ポツリと淳くんの呟きが落ちた瞬間、大島先生は鬼のような形相で彼に掴みかかろうとした。

 だけどそれは叶わない。

 淳くんへ伸ばした手は空を切り、彼女は崩れ落ちる。アスファルトの上にぺたりと座って、胸の辺りを押さえ苦しんでいた。低く唸る声がする。

「止めとけよ。今なら間に合う。これ以上俺たちに関わるな」
「ま、すみクン……」

 サキュバスとひとつになった女性は、顔を上げると縋るように眞澄くんを見つめる。眞澄くん以外の狙った男性には、この潤んだ瞳が通用していたのだろう。

「どうしてもできないっていうなら、誠史郎が記憶を消す術が使える」

 大島先生が愕然とした。うつむくと、乾いた笑い声をこぼす。

「お優しいこと……」

 あのときは雪村さんのところへ案内してもらわないといけなかったから、大島先生の眞澄くんに関する記憶を消すという選択肢はなかった。

 だけど今は、忘れてもらった方が良い。勝手な話だけど。
 それで大島先生も命を落とさずに済む。

「利用価値がなくなったら忘れろ、なんて言うヤツのために死ぬ必要ない」

 大島先生は呆然と眞澄くんを見上げる。

「……ひどい男ね」

 そう言った彼女の顔に、これまで見たことのない穏やかな微笑みが浮かんでいた。
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