祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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眞澄ルート 3章

嫉妬と羨望 8

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 理沙子が目を覚ました時、すでに橋姫の気配はなかった。
 あれだけ大きな口を叩いておきながら、真堂家に祓われたのだろう。

 理沙子が妖術士として呼び出したインキュバスと言い、全く思い通りにならない。苛立ちが募る。

 奥歯を噛み締め、強く拳を握った。

 せめて渇きを癒やさなければ、と冷蔵保存されている血液を飲み干した。
 それでかろうじて壁を殴ることは思い留まれた。

 精神を蝕む生活。このままでは遠からず人間を襲ってしまいかねない。
 今ならまだ辛うじて自制心が歯止めをかけてくれている。早く、一刻も早く、亘理の眷属になりたい。

 少しでも確実性を高めるために武藤眞澄の身体を、遺伝子を調べたい。
 もしかするとそれが理沙子のかすかな希望を打ち砕くことになるかもしれないが。

 それならそれで、死ぬ覚悟ができて良い。

 己の臆病さに理沙子は自嘲した。



 ††††††††



 静かに軽くドアがノックされた。
 その音でドキリと心臓が跳ね上がった。急いで起き上がって扉を開く。

「入って良いか?」

 目の前に現れた、背の高いしなやかな彼。どこか照れくさそうに、漆黒の瞳は伏し目がちになっていた。心なしか頬も赤い気がする。
 かわいいと思うのと同時に、期待と不安でぐちゃぐちゃになっている私を自覚する。

「うん……」

 眞澄くんを招き入れる。誰にも気づかれないように、できるだけ音を立てないでドアを閉めた。みやびちゃんには悪いけど、二人きりでいたいから鍵をかけてしまう。

 隠密行動できたと胸を撫でおろした瞬間、眞澄くんに背中から抱きしめられる。

「依り代、ありがとう」

 力強い腕と鼓膜に触れる甘い声。返す言葉が何も浮かんでこない。

「みさきがどんどん強くなってくから、俺も置いていかれないようにがんばらないと」
「眞澄くんがいるからだよ。依り代だって、眞澄くんのためにって思ったから上手くいったんじゃないかな」

 血液が顔に集中しているように思えるほど、頬が熱い。耳まで真っ赤になっているかもしれない。後ろにいる眞澄くんに気づかれてしまいそうだ。

 お祖父ちゃんの言ったことの意味が今ならわかる。大好きな眞澄くんを守りたいと思う気持ちが、私の力になってくれた。普段の何倍も発揮できたのだと感じた。

「栗原さんのことだけど」

 ドキリとした。多分、眞澄くんが話したかったのはこのことだ。
 あれだけ全身が火照っていたのに、一瞬で指先が冷たくなる。

「淳と一緒に呪いの話をした時に付き合ってほしいって言われて、断った。だから、もしかしたらまた彼女の取り巻きが何か言ってくるかもしれないけど、俺に言えって伝えて、無視して良いから。負担かけて悪い」
「眞澄くんは悪くないよ……!」

 眞澄くんの腕を振り解いて、思わず身体ごと振り返っていた。
 漆黒の双眸は驚いたように丸くなっていたけれど、すぐに優しく細められる。

「サンキュ」

 正面から優しく抱きしめてくれた。厚い胸板に額を預ける。眞澄くんの匂いだ。とても安心して、身体がとろけていく。このまま溶けあえたら良いのに。

「……本当にゴメンな」

 申し訳なさそうな声に、私は顔を上げた。眞澄くんの目をまっすぐに見つめる。

「眞澄くんの彼女でいるの、誰にも譲る気ないから大丈夫。負けないよ」

 ニヤッと笑う私の前の眞澄くんは、どこか呆然としているように感じた。だけどすぐに眞澄くんも不敵に微笑む。

「……ったく」

 今度は強く引き寄せられた。ピッタリと互いの身体がくっつく。

「かわいすぎだろ」

 頬ずりされて、くすぐったくて肩をすくめて目を閉じる。
 大きな手が頬を包み込んだのを合図に私は顎を上げた。

 重なった唇。幾度も触れ合うだけのキスを繰り返した。もっと深く繋がりたいと思った時、眞澄くんの舌が遠慮がちに私の口の中へ入りたいと意思を示す。

 私が迎え入れると舌が絡まった。引き出されて、吸われて、甘噛みされる。

 互いに溢れる熱い吐息。眞澄くんの双眸が艶やかに潤んでいるように私の目に映る。

 眞澄くんがその力強い腕の中に、私を閉じ込めるように抱き締めた。

「……離したくない」

 私も離れたくなくて、眞澄くんの背中に手を回してぎゅっとしがみつく。

「こ、ここで……一緒に寝るの、ダメ……かな?」

 ドキドキしながら聞いてみる。少し間があって、眞澄くんがそっと額を重ねた。

「みさき、俺のこと信用しすぎ」

 鼓膜を優しく撫でる甘い声にとろけて胸がキュンとなる。
 私の視界には吸い込まれそうに深い漆黒の瞳だけ。

「信じてるもん……」

 そう呟いたけれど、本当は眞澄くんとなら何が起こっても構わないと思っていた。恥ずかしいから言わないけれど。

「あんまり信じられるのもな……」

 苦笑いをしながら眞澄くんが私の唇にキスをする。

 お互いどこかぎこちなく、ベッドに潜り込んだ。

 どうすれば良いのか迷いながら眞澄くんを見る。目が合った次の瞬間、箍が外れたように唇を貪り合った。

 眞澄くんの手が私の左胸に触れる。私は思わず息を呑んだ。

「みさきの心臓、すごく速く動いてる」
「ドキドキするもん……」
「俺も」

 額に優しく眞澄くんの唇が触れた。

「みさきって、何でこんなに良い匂いするんだろ……」

 眞澄くんが私を抱き枕みたいに抱え込む。

「安心するし、かわいいし」
「あ、ありがと」

 眞澄くんの体重で動けない。だけど眞澄くんも動かない。

「好きだ……」

 しばらくおとなしく腕の中にいたけれど、頭上から寝息が聞こえてきた。

 あんなに緊張していたのに、何だか拍子抜けしてしまう。
 眞澄くんもきっと、すごく気を張って疲れていたのだろう。

 私が癒やしになるのならそれも嬉しい。

「……おやすみなさい」

 何とか照明のリモコンに手を伸ばして、灯りを消した。
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