祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

文字の大きさ
134 / 145
眞澄ルート 3章

嫉妬と羨望 8

しおりを挟む
 理沙子が目を覚ました時、すでに橋姫の気配はなかった。
 あれだけ大きな口を叩いておきながら、真堂家に祓われたのだろう。

 理沙子が妖術士として呼び出したインキュバスと言い、全く思い通りにならない。苛立ちが募る。

 奥歯を噛み締め、強く拳を握った。

 せめて渇きを癒やさなければ、と冷蔵保存されている血液を飲み干した。
 それでかろうじて壁を殴ることは思い留まれた。

 精神を蝕む生活。このままでは遠からず人間を襲ってしまいかねない。
 今ならまだ辛うじて自制心が歯止めをかけてくれている。早く、一刻も早く、亘理の眷属になりたい。

 少しでも確実性を高めるために武藤眞澄の身体を、遺伝子を調べたい。
 もしかするとそれが理沙子のかすかな希望を打ち砕くことになるかもしれないが。

 それならそれで、死ぬ覚悟ができて良い。

 己の臆病さに理沙子は自嘲した。



 ††††††††



 静かに軽くドアがノックされた。
 その音でドキリと心臓が跳ね上がった。急いで起き上がって扉を開く。

「入って良いか?」

 目の前に現れた、背の高いしなやかな彼。どこか照れくさそうに、漆黒の瞳は伏し目がちになっていた。心なしか頬も赤い気がする。
 かわいいと思うのと同時に、期待と不安でぐちゃぐちゃになっている私を自覚する。

「うん……」

 眞澄くんを招き入れる。誰にも気づかれないように、できるだけ音を立てないでドアを閉めた。みやびちゃんには悪いけど、二人きりでいたいから鍵をかけてしまう。

 隠密行動できたと胸を撫でおろした瞬間、眞澄くんに背中から抱きしめられる。

「依り代、ありがとう」

 力強い腕と鼓膜に触れる甘い声。返す言葉が何も浮かんでこない。

「みさきがどんどん強くなってくから、俺も置いていかれないようにがんばらないと」
「眞澄くんがいるからだよ。依り代だって、眞澄くんのためにって思ったから上手くいったんじゃないかな」

 血液が顔に集中しているように思えるほど、頬が熱い。耳まで真っ赤になっているかもしれない。後ろにいる眞澄くんに気づかれてしまいそうだ。

 お祖父ちゃんの言ったことの意味が今ならわかる。大好きな眞澄くんを守りたいと思う気持ちが、私の力になってくれた。普段の何倍も発揮できたのだと感じた。

「栗原さんのことだけど」

 ドキリとした。多分、眞澄くんが話したかったのはこのことだ。
 あれだけ全身が火照っていたのに、一瞬で指先が冷たくなる。

「淳と一緒に呪いの話をした時に付き合ってほしいって言われて、断った。だから、もしかしたらまた彼女の取り巻きが何か言ってくるかもしれないけど、俺に言えって伝えて、無視して良いから。負担かけて悪い」
「眞澄くんは悪くないよ……!」

 眞澄くんの腕を振り解いて、思わず身体ごと振り返っていた。
 漆黒の双眸は驚いたように丸くなっていたけれど、すぐに優しく細められる。

「サンキュ」

 正面から優しく抱きしめてくれた。厚い胸板に額を預ける。眞澄くんの匂いだ。とても安心して、身体がとろけていく。このまま溶けあえたら良いのに。

「……本当にゴメンな」

 申し訳なさそうな声に、私は顔を上げた。眞澄くんの目をまっすぐに見つめる。

「眞澄くんの彼女でいるの、誰にも譲る気ないから大丈夫。負けないよ」

 ニヤッと笑う私の前の眞澄くんは、どこか呆然としているように感じた。だけどすぐに眞澄くんも不敵に微笑む。

「……ったく」

 今度は強く引き寄せられた。ピッタリと互いの身体がくっつく。

「かわいすぎだろ」

 頬ずりされて、くすぐったくて肩をすくめて目を閉じる。
 大きな手が頬を包み込んだのを合図に私は顎を上げた。

 重なった唇。幾度も触れ合うだけのキスを繰り返した。もっと深く繋がりたいと思った時、眞澄くんの舌が遠慮がちに私の口の中へ入りたいと意思を示す。

 私が迎え入れると舌が絡まった。引き出されて、吸われて、甘噛みされる。

 互いに溢れる熱い吐息。眞澄くんの双眸が艶やかに潤んでいるように私の目に映る。

 眞澄くんがその力強い腕の中に、私を閉じ込めるように抱き締めた。

「……離したくない」

 私も離れたくなくて、眞澄くんの背中に手を回してぎゅっとしがみつく。

「こ、ここで……一緒に寝るの、ダメ……かな?」

 ドキドキしながら聞いてみる。少し間があって、眞澄くんがそっと額を重ねた。

「みさき、俺のこと信用しすぎ」

 鼓膜を優しく撫でる甘い声にとろけて胸がキュンとなる。
 私の視界には吸い込まれそうに深い漆黒の瞳だけ。

「信じてるもん……」

 そう呟いたけれど、本当は眞澄くんとなら何が起こっても構わないと思っていた。恥ずかしいから言わないけれど。

「あんまり信じられるのもな……」

 苦笑いをしながら眞澄くんが私の唇にキスをする。

 お互いどこかぎこちなく、ベッドに潜り込んだ。

 どうすれば良いのか迷いながら眞澄くんを見る。目が合った次の瞬間、箍が外れたように唇を貪り合った。

 眞澄くんの手が私の左胸に触れる。私は思わず息を呑んだ。

「みさきの心臓、すごく速く動いてる」
「ドキドキするもん……」
「俺も」

 額に優しく眞澄くんの唇が触れた。

「みさきって、何でこんなに良い匂いするんだろ……」

 眞澄くんが私を抱き枕みたいに抱え込む。

「安心するし、かわいいし」
「あ、ありがと」

 眞澄くんの体重で動けない。だけど眞澄くんも動かない。

「好きだ……」

 しばらくおとなしく腕の中にいたけれど、頭上から寝息が聞こえてきた。

 あんなに緊張していたのに、何だか拍子抜けしてしまう。
 眞澄くんもきっと、すごく気を張って疲れていたのだろう。

 私が癒やしになるのならそれも嬉しい。

「……おやすみなさい」

 何とか照明のリモコンに手を伸ばして、灯りを消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...