133 / 145
眞澄ルート 3章
嫉妬と羨望 7
しおりを挟む
頭を切り替えて、川のすぐ側へ移動する。
足元を水がサラサラ流れるところまで行って、眞澄くんに依り代とペンを渡した。
「サンキュ」
眞澄くんが丁寧にそれらを受け取ってくれる。
名前と誕生日を書き入れて、眞澄くん自らそれを川に流す。
このまま誰の手にも触れられず自然に還ってもらえれば。
そう願いながら依り代の行き先を目で追っていると、川の流れと同じ方向に少し強い風が吹いた。
依り代にとっては追い風だった。より速いスピードで下っていく。
周囲に人がいないので、誰かが知らずに拾ってしまうこともないだろう。もし依り代に触れてしまうと、眞澄くんへの呪いが拾った人に移ってしまう。
「大丈夫そうだね」
淳くんが少しほっとしたように呟いた。
依り代が見えなくなったところで私たちは駐車場へ戻った。再び透さんに車の運転をしてもらって、家へ帰る。
車に揺られながら大島先生に言われたことを考えていた。今日と言われたけれど、明日がだめだとは言われていない。それで何とかならないか連絡してみようと思った。
電話はつながると空間がつながるので、誰か一緒にいてもらった方が良さそう。
そんなことを考えていたけれど、疲れているのか勝手にまぶたが閉じようとする。
「……みさき」
眞澄くんの声に目を開くと、いつの間にか自宅の前に車が停まっていた。
「寝ちゃってた……」
「疲れたんだろ」
ぽんと頭に触れた眞澄くんの大きな手に安心する。自然に口元が緩んだ。
透さんにお礼を伝えてから車を降りる。地面に両足をしっかりついて、大きく伸びをした。
家の中に入ってしまえば結界に護られる。もしも橋姫の呪いが完全に解けていなくても、もう問題ない。
それで大島先生が『今日』と言ってきた理由に思い当たった。
まだ橋姫の力が残っていたら、夜に目覚めた雪村さんが再び力を与えるからだ。
それでも今日、万全でない状態で突っ込んでいくのは得策ではないと私は思う。他のみんなはどう思うのか聞きたい。
「眞澄くん」
立ち止まっていた私を追い越した眞澄くんを呼び止める。彼はこちらを振り返ってくれた。吸い込まれそうな漆黒の瞳がこちらを見ている。
「大島先生に言われた協力、どうしたら良いと思う? 私は……できれば今日は避けたいって思うんだけど……」
後ろ向きな意見だから何となく言いづらくて、声が小さくなってしまう。
「俺も、今日は止めといた方が良いと思う。あの女の言うことなんて信用できないし」
眞澄くんが肯定してくれたことに安心した。とても心強く感じる。
それに私も、どうしても大島先生の言葉を素直に信じられない。何か魂胆がありそうに思える。
「みんなの意見も聞いた方が良いだろうけど」
その言葉に私はうなずいた。
「あ、あのさ、みさき……」
眞澄くんが続きを言い淀んで、少しうつむく。
「話したいことがあるから、夜、部屋行って良いか……?」
ドキリと心臓が大きくなった。もちろん眞澄くんが来てくれるのは大歓迎だからこくこくと何度も首を縦に振る。
そんな場合じゃないのに、大島先生のことも雪村さんのことも私の頭の中では隅に追いやられていた。
††††††††
今日は連戦でみんな疲れただろうからと、誠史郎さんが夕飯の用意をしてくれた。
ご飯を食べながら、大島先生の提案をどうするか話し合わなければと思って切り出したのだけど。
「研究所に行く必要ないと思うで。あの半分サキュバスのオネーチャンの言うことも間違ってへんけどな。せやけど、みさきちゃんの力を甘く見てるわ」
「え……?」
「私も真壁さんの意見に賛成です。昼間にかなり力を削いでいますし、周がみさきさんに依り代を作るように伝えたということに意味があると思います」
「多分、橋姫は宇治に戻されてると思うで。実家に確認してもらうわ」
驚いて目を丸くした私に、誠史郎さんと透さんは優しく微笑みかけてくれる。
「自信持ち。みさきちゃん、どんどん強くなってるから」
褒められて、そこからの時間はずっと何だかふわふわしていた。
もちろん、まだまだ透さんや誠史郎さんには遠く及ばないことはわかっているけれど嬉しかった。
まだおそらくの段階だし、雪村さんが眞澄くんを研究所に連れて行こうとしている件は何も進展がない。だから浮かれている場合ではないのだけど。
食事の後片付けをしてから、一番にお風呂に入れさせてもらった。リビングのドアを開けて顔を覗かせる。みんなここにいた。
「お先にいただきました」
「あ、俺入らせてもらう」
眞澄くんがすぐに立ち上がった。
「後でな」
すれ違いざまに低く囁かれて、ドキリとする。
何かおかしなところはないだろうか。思わず前髪を直してしまう。
「みさきちゃん、今連絡来たわ」
透さんがスマホを片手にニヤリと片頬で笑う。
「ちょっと封印が解けた痕跡はあったから、向こうで対処してくれたみたいや。せやけど中の良くないモンはちゃんと今まで通りあったて」
「みさき、すごい! 初めて依り代作ったんでしょ?」
「うん……」
もちろん、呼び出された橋姫が本当に一部だったと言うこともあるのだと思う。それでも、まさか一度で押し返せるなんて思ってもなかった。
「橋姫はやっぱりみさきちゃんの依り代で戻されてたな。怖いオネーチャン二人の目論見はどっちも上手いこといかんかったから良かった」
「透さん、誠史郎さん、ありがとうございます!」
勢いよくお辞儀をして、私はちょっと弾むように自室へ移動した。
早く眞澄くんにも知らせたい。
ベッドに寝転んで、一人で彼を待つ。とてもドキドキしていた。
足元を水がサラサラ流れるところまで行って、眞澄くんに依り代とペンを渡した。
「サンキュ」
眞澄くんが丁寧にそれらを受け取ってくれる。
名前と誕生日を書き入れて、眞澄くん自らそれを川に流す。
このまま誰の手にも触れられず自然に還ってもらえれば。
そう願いながら依り代の行き先を目で追っていると、川の流れと同じ方向に少し強い風が吹いた。
依り代にとっては追い風だった。より速いスピードで下っていく。
周囲に人がいないので、誰かが知らずに拾ってしまうこともないだろう。もし依り代に触れてしまうと、眞澄くんへの呪いが拾った人に移ってしまう。
「大丈夫そうだね」
淳くんが少しほっとしたように呟いた。
依り代が見えなくなったところで私たちは駐車場へ戻った。再び透さんに車の運転をしてもらって、家へ帰る。
車に揺られながら大島先生に言われたことを考えていた。今日と言われたけれど、明日がだめだとは言われていない。それで何とかならないか連絡してみようと思った。
電話はつながると空間がつながるので、誰か一緒にいてもらった方が良さそう。
そんなことを考えていたけれど、疲れているのか勝手にまぶたが閉じようとする。
「……みさき」
眞澄くんの声に目を開くと、いつの間にか自宅の前に車が停まっていた。
「寝ちゃってた……」
「疲れたんだろ」
ぽんと頭に触れた眞澄くんの大きな手に安心する。自然に口元が緩んだ。
透さんにお礼を伝えてから車を降りる。地面に両足をしっかりついて、大きく伸びをした。
家の中に入ってしまえば結界に護られる。もしも橋姫の呪いが完全に解けていなくても、もう問題ない。
それで大島先生が『今日』と言ってきた理由に思い当たった。
まだ橋姫の力が残っていたら、夜に目覚めた雪村さんが再び力を与えるからだ。
それでも今日、万全でない状態で突っ込んでいくのは得策ではないと私は思う。他のみんなはどう思うのか聞きたい。
「眞澄くん」
立ち止まっていた私を追い越した眞澄くんを呼び止める。彼はこちらを振り返ってくれた。吸い込まれそうな漆黒の瞳がこちらを見ている。
「大島先生に言われた協力、どうしたら良いと思う? 私は……できれば今日は避けたいって思うんだけど……」
後ろ向きな意見だから何となく言いづらくて、声が小さくなってしまう。
「俺も、今日は止めといた方が良いと思う。あの女の言うことなんて信用できないし」
眞澄くんが肯定してくれたことに安心した。とても心強く感じる。
それに私も、どうしても大島先生の言葉を素直に信じられない。何か魂胆がありそうに思える。
「みんなの意見も聞いた方が良いだろうけど」
その言葉に私はうなずいた。
「あ、あのさ、みさき……」
眞澄くんが続きを言い淀んで、少しうつむく。
「話したいことがあるから、夜、部屋行って良いか……?」
ドキリと心臓が大きくなった。もちろん眞澄くんが来てくれるのは大歓迎だからこくこくと何度も首を縦に振る。
そんな場合じゃないのに、大島先生のことも雪村さんのことも私の頭の中では隅に追いやられていた。
††††††††
今日は連戦でみんな疲れただろうからと、誠史郎さんが夕飯の用意をしてくれた。
ご飯を食べながら、大島先生の提案をどうするか話し合わなければと思って切り出したのだけど。
「研究所に行く必要ないと思うで。あの半分サキュバスのオネーチャンの言うことも間違ってへんけどな。せやけど、みさきちゃんの力を甘く見てるわ」
「え……?」
「私も真壁さんの意見に賛成です。昼間にかなり力を削いでいますし、周がみさきさんに依り代を作るように伝えたということに意味があると思います」
「多分、橋姫は宇治に戻されてると思うで。実家に確認してもらうわ」
驚いて目を丸くした私に、誠史郎さんと透さんは優しく微笑みかけてくれる。
「自信持ち。みさきちゃん、どんどん強くなってるから」
褒められて、そこからの時間はずっと何だかふわふわしていた。
もちろん、まだまだ透さんや誠史郎さんには遠く及ばないことはわかっているけれど嬉しかった。
まだおそらくの段階だし、雪村さんが眞澄くんを研究所に連れて行こうとしている件は何も進展がない。だから浮かれている場合ではないのだけど。
食事の後片付けをしてから、一番にお風呂に入れさせてもらった。リビングのドアを開けて顔を覗かせる。みんなここにいた。
「お先にいただきました」
「あ、俺入らせてもらう」
眞澄くんがすぐに立ち上がった。
「後でな」
すれ違いざまに低く囁かれて、ドキリとする。
何かおかしなところはないだろうか。思わず前髪を直してしまう。
「みさきちゃん、今連絡来たわ」
透さんがスマホを片手にニヤリと片頬で笑う。
「ちょっと封印が解けた痕跡はあったから、向こうで対処してくれたみたいや。せやけど中の良くないモンはちゃんと今まで通りあったて」
「みさき、すごい! 初めて依り代作ったんでしょ?」
「うん……」
もちろん、呼び出された橋姫が本当に一部だったと言うこともあるのだと思う。それでも、まさか一度で押し返せるなんて思ってもなかった。
「橋姫はやっぱりみさきちゃんの依り代で戻されてたな。怖いオネーチャン二人の目論見はどっちも上手いこといかんかったから良かった」
「透さん、誠史郎さん、ありがとうございます!」
勢いよくお辞儀をして、私はちょっと弾むように自室へ移動した。
早く眞澄くんにも知らせたい。
ベッドに寝転んで、一人で彼を待つ。とてもドキドキしていた。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる