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第二章
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【シャーナ・ロビンソン】
この私…シャーナ・ロビンソンは、確か、白龍から逃げてた時に意識を失った。でも、どのように失ったかは記憶してない。そして、疑問はそれだけではない。──── 意識を失ったのに、何故…私は今、この暗闇の中で、思考できている? 呼吸できている? 心拍の鼓動が感じられる?
そして。どうして…私は。
この何も無い空間で、涙をしているのだろう。
この空間の何が悲しかったんだろう。何が切なかったんだろう。何が胸を締め付けるんだろう。
この何も無い空間の…何が懐かしいんだろう。
──── 思えば、私は…この激動の数週間の間、お父さんの死を深く悼む暇など無かった。お父さんを生き返らせるという"当たりのないくじ"に全てを賭けようとしたからだ。
もっと悼んであげれば良かった。
お父さんが生き返るかもって思って、躍起になっていた。
故人が生き返るわけないのに。
この世界の絶対的な規則によって、死んだ人は二度と生き返ることはできないのに。
お父さんの屈託のない笑顔は、もう………この世にはないというのに。
もう、どこにも………
「………え? なん…で………?」
刹那、人影が現れる。
────私は、当然…走馬灯を疑った。実際、この空間は、幻想以外の何物でもないことは確かだ。このことは、私とその人影の近く以外の全てが真っ暗闇なことからも、おおかた察せる。
しかし、その人影の実在感と、温もりだけは本物だった。本当に、そんな曖昧な答えしか、私は持ち合わせてはいない。それでも、私は…この人物が、まだ生きていると信じたかった。
そして、その私のよく知る人影の身長は私のそれよりはるかに高く、髭は不器用にも剃れておらず、いつも通りの服装を着ていた。
………そう。いつも通りの服装と髭。彼らしかった。
だから私は、彼に抱きついて、その感触を確かめる。
────私は、私の推測の正しさを悟る。
この温もりは、その人だけのもの。
私は、私の大好きな人の名前を泣き呼ぶ。
「お父さん…!!! お父さぁん!!!! お父さぁぁん!!!!!」
────私は、転生者だ。
前世の年齢を含めたら、余裕で30歳は超える………そんな女だ。
だから、こうしてただ惨めったらしく嗚咽するのは、情けないと思った。不甲斐なくて仕方がなかった。
だから、この温もりで、お父さんが死んでないと信じたかった。
でも、それでも。私は…ちゃんと、悲しみたかった。ちゃんと、向き合いたかった。
お父さんが死んだという事実を………
こうした形でも良いから、ちゃんと、受け止めたかったのだ。
****
「でも、駄目なんだ。シャーナ」
「…え?お父さん?」そう言うと、お父さんは私が抱きしめるのを振り払い、立ち上がる。私は何もないはずの闇の中で尻もちをつくが、それでもお父さんは構わず、何処かへと進み始める。「ごめん、そろそろ、俺…新大陸に戻らなきゃ」
だけど、私は全力で走る。あまりにも短いようで遠い距離だった。私は息を切らしながら、どこかへ歩き出す父の背中に追いつき、しがみつく。
それでも、振り払おうとするお父さん。
そして、私はその力に抗えなかった。
「うわあ!!!」
私はその勢いのまま、地面に叩きつけられた。
「ごめんな。シャーナ。でも、それでも………お前は、俺やあの方のいる新大陸に近づいたら駄目だ」
そう言い残し、お父さんは去ろうとする。
────絶対に行かせるものか!!!
それでも、私は前に進む。
立ち止まらない。決して、立ち止まってはいけない。
だって、お父さんは………この私"シャーナ・ロビンソン"のたった一人の父親なのだから。
「お父さん!!!」
私は、お父さんの足にしがみつく。
何度も強い力で振り落とされそうになっても、必死にしがみつく。
だって、まだ………
別れの言葉も、何も言えてないから。
だって、本当は、まだ………
諦めたくなかったから。
お父さんが死んだという事実を受け入れないから。
本当に、お父さんが生きているなら、救いたかったのだ。
お父さんの命を。お父さんの背中を。お父さんの笑顔を。
私達娘だけの大切なお父さんを。
取り戻したかった。
だから、私はお父さんに、私の気持ちを込めた呪いの言葉を放つ。
「私も…!! その新大陸に連れてって!!!」
しかし、それでも………
お父さんの力は強かった。
私の身体はお父さんの圧倒的な脚力で吹き飛ばされ、存在しないはずの地面に何度も叩きつけられた。
────まだ…!! 終われない!!!
「お父さん!!!」
私は叫ぶも、お父さんが言った言葉は、一つだけだった。
「お前達は、あの方に………勝てない」
そして、別れの際に、お父さんは涙を少しだけ流す。
「ごめんな。シャーナ。今日から、父さんはお前達の敵だ」
微かな哀愁の残滓…だろうか。
その時、お父さんの中から感じられたのは。
でも、それ以上でも、それ以下でもなかった。
このお父さんは、今まで私達が見ていたお父さんとは、一線を画すほど、人の心が欠落しているように見えた。
先ほど彼からまで感じられた温もりは、どこにいったのか。
それは、私には分からなかった。
先ほどまで、お父さんは人間らしさが溢れていたのに。その人間味が突然として、消えた。
────しかし、そんなことを私が考えていると、気づけば、お父さんは私の前から音も気配もなく、消えてしまっていたのだ。
「お父さあん!!! どこにいるの!!?」
私がそのような魂の叫びを続けようとする次の刹那。
その何者かのを鳴らす洒落た音と共に、私達を包みこんでいたその"黒い領域"は、音を立てて崩れ去った。
この私…シャーナ・ロビンソンは、確か、白龍から逃げてた時に意識を失った。でも、どのように失ったかは記憶してない。そして、疑問はそれだけではない。──── 意識を失ったのに、何故…私は今、この暗闇の中で、思考できている? 呼吸できている? 心拍の鼓動が感じられる?
そして。どうして…私は。
この何も無い空間で、涙をしているのだろう。
この空間の何が悲しかったんだろう。何が切なかったんだろう。何が胸を締め付けるんだろう。
この何も無い空間の…何が懐かしいんだろう。
──── 思えば、私は…この激動の数週間の間、お父さんの死を深く悼む暇など無かった。お父さんを生き返らせるという"当たりのないくじ"に全てを賭けようとしたからだ。
もっと悼んであげれば良かった。
お父さんが生き返るかもって思って、躍起になっていた。
故人が生き返るわけないのに。
この世界の絶対的な規則によって、死んだ人は二度と生き返ることはできないのに。
お父さんの屈託のない笑顔は、もう………この世にはないというのに。
もう、どこにも………
「………え? なん…で………?」
刹那、人影が現れる。
────私は、当然…走馬灯を疑った。実際、この空間は、幻想以外の何物でもないことは確かだ。このことは、私とその人影の近く以外の全てが真っ暗闇なことからも、おおかた察せる。
しかし、その人影の実在感と、温もりだけは本物だった。本当に、そんな曖昧な答えしか、私は持ち合わせてはいない。それでも、私は…この人物が、まだ生きていると信じたかった。
そして、その私のよく知る人影の身長は私のそれよりはるかに高く、髭は不器用にも剃れておらず、いつも通りの服装を着ていた。
………そう。いつも通りの服装と髭。彼らしかった。
だから私は、彼に抱きついて、その感触を確かめる。
────私は、私の推測の正しさを悟る。
この温もりは、その人だけのもの。
私は、私の大好きな人の名前を泣き呼ぶ。
「お父さん…!!! お父さぁん!!!! お父さぁぁん!!!!!」
────私は、転生者だ。
前世の年齢を含めたら、余裕で30歳は超える………そんな女だ。
だから、こうしてただ惨めったらしく嗚咽するのは、情けないと思った。不甲斐なくて仕方がなかった。
だから、この温もりで、お父さんが死んでないと信じたかった。
でも、それでも。私は…ちゃんと、悲しみたかった。ちゃんと、向き合いたかった。
お父さんが死んだという事実を………
こうした形でも良いから、ちゃんと、受け止めたかったのだ。
****
「でも、駄目なんだ。シャーナ」
「…え?お父さん?」そう言うと、お父さんは私が抱きしめるのを振り払い、立ち上がる。私は何もないはずの闇の中で尻もちをつくが、それでもお父さんは構わず、何処かへと進み始める。「ごめん、そろそろ、俺…新大陸に戻らなきゃ」
だけど、私は全力で走る。あまりにも短いようで遠い距離だった。私は息を切らしながら、どこかへ歩き出す父の背中に追いつき、しがみつく。
それでも、振り払おうとするお父さん。
そして、私はその力に抗えなかった。
「うわあ!!!」
私はその勢いのまま、地面に叩きつけられた。
「ごめんな。シャーナ。でも、それでも………お前は、俺やあの方のいる新大陸に近づいたら駄目だ」
そう言い残し、お父さんは去ろうとする。
────絶対に行かせるものか!!!
それでも、私は前に進む。
立ち止まらない。決して、立ち止まってはいけない。
だって、お父さんは………この私"シャーナ・ロビンソン"のたった一人の父親なのだから。
「お父さん!!!」
私は、お父さんの足にしがみつく。
何度も強い力で振り落とされそうになっても、必死にしがみつく。
だって、まだ………
別れの言葉も、何も言えてないから。
だって、本当は、まだ………
諦めたくなかったから。
お父さんが死んだという事実を受け入れないから。
本当に、お父さんが生きているなら、救いたかったのだ。
お父さんの命を。お父さんの背中を。お父さんの笑顔を。
私達娘だけの大切なお父さんを。
取り戻したかった。
だから、私はお父さんに、私の気持ちを込めた呪いの言葉を放つ。
「私も…!! その新大陸に連れてって!!!」
しかし、それでも………
お父さんの力は強かった。
私の身体はお父さんの圧倒的な脚力で吹き飛ばされ、存在しないはずの地面に何度も叩きつけられた。
────まだ…!! 終われない!!!
「お父さん!!!」
私は叫ぶも、お父さんが言った言葉は、一つだけだった。
「お前達は、あの方に………勝てない」
そして、別れの際に、お父さんは涙を少しだけ流す。
「ごめんな。シャーナ。今日から、父さんはお前達の敵だ」
微かな哀愁の残滓…だろうか。
その時、お父さんの中から感じられたのは。
でも、それ以上でも、それ以下でもなかった。
このお父さんは、今まで私達が見ていたお父さんとは、一線を画すほど、人の心が欠落しているように見えた。
先ほど彼からまで感じられた温もりは、どこにいったのか。
それは、私には分からなかった。
先ほどまで、お父さんは人間らしさが溢れていたのに。その人間味が突然として、消えた。
────しかし、そんなことを私が考えていると、気づけば、お父さんは私の前から音も気配もなく、消えてしまっていたのだ。
「お父さあん!!! どこにいるの!!?」
私がそのような魂の叫びを続けようとする次の刹那。
その何者かのを鳴らす洒落た音と共に、私達を包みこんでいたその"黒い領域"は、音を立てて崩れ去った。
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