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第二章
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──── あの夢での再会以降、お父さんの気配を感じることはなくなった。
「シャーナお姉ちゃん!! 早く起きてよお!!!」
メアリーのまだ幼くて可愛らしい声と近くの養鶏場の鶏の朝を知らせる鳴き声が、私の意識を現実に戻そうとする。それでも、私は失意の中、起き上がる力を失っていた。
だって、もうお父さんを見つけられなくなった。
あの真っ黒な空間では、ずっと私の傍にお父さんはいたのに、何処か遠くへ行ってしまったのだ。
そう。何処か遠くへ…………
────遠くへ?
「グルーシャさん達が海賊船に乗って新大陸に行ってしまうよお!!! 早く別れの挨拶しなきゃ!!!」
────そうだ。新大陸だった。
私が探しているお父さんがいるあの場所の名前は。
その事に気づいた私は、刹那、二段ベッドから飛び起きる。
「シャーナお姉ちゃん!! そんな急にどうしたの!!?」
そして、勢いよく落下して、メアリーのそのような心配の言葉に対して、こう返した。
「メアリー!! エリュガードとエルザを起こして!!! 今から急いでグルーシャさん達のところに行く!!!」
私はそう言うと速度全開で宿の廊下を走り抜けようとする。しかし、階段の手前辺りで、メアリーの幼さが心配になったので、少し止まり、後ろを振り向く。
「………シャーナお姉ちゃん」
「メアリー」
私の妹である彼女から感じられたのは………
"覚悟"。
それだけであった。
「はやく行って! 間に合わなくなるよ!!」
確かに、彼女のその声には僅かにも幼さが残っていた。
それも当然だろう。彼女はまだ幼いのだから。
それでも、彼女は、私の"覚悟"を悟ってくれた。
そして、それが幼い彼女なりの、"覚悟"なのだろう。
────やはり、父の死の痛みが、私達に決して折れることのない"覚悟"をくれたのだろう。
だから、お父さんの死による私達の成長は、お父さんが私達に最後に残してくれた贈り物なのかもしれない。
だとしても。
私は、まだお父さんを救えるなら、救いたい。
だから、私は決意を胸に、グルーシャさん達海賊のいる港町まで、足を止めなかった。
****
────そして、私達4人は遂に、グルーシャさん達が出航する前に、ギリギリ彼女達に会うことができた。
そして、もう既に目を見張るほどの巨大な船は出航する直前だった。なので、私はその船の上で待機しているグルーシャさん達に対して、ただ叫ぶことしか出来なかった。
グルーシャさん達が、私達を連れて行ってくれることを信じて。
「グルーシャさん!!! 私達も新大陸に連れて行ってください!!!!」
****
────新大陸に行きたい。
その想いを、張り裂けそうな胸の内を、私はグルーシャさんに伝えた。
伝わるかどうか…怖かった。
だって、伝わらなかったら、もうお父さんに絶対に会えない気がしたから。
それでも。
グルーシャさんは船頭から飛び降りて、唖然とする街の人達の目線をよそに、私達のところへ歩み寄ってきてくれた。
「シャーナ。なんで、新大陸に行きたいんだ?」
グルーシャさんのその問いかけに対して、私は彼女の瑠璃色の瞳をしっかり見て、答えた。
「そこに…お父さんがいるからです」
その答えに、当然、私の近くにいたメアリーやエリュガード、そしてエルザは驚きの声を上げていた。
特に、メアリーはあまりの衝撃的な私の推測に対して、涙が少しだけ溢れ出そうになっていた。
思えば、昔から、メアリーは感受性豊かな子であった。しかし、一つの推測だけで、ここまで一瞬にして涙が少しでも溢れそうになることはなかった。
それだけ、お父さんの死が彼女にとってこたえたのだろう。
そう。お父さんは、死んだのだから。
────そう思っていた。
でも、グルーシャさんは、私の推論に対して、私達の想定を上回る答えを返してきた。
「………そうか。なら、それは正解だ」
「正解………って、え?」
────正解。
私達4人はその言葉の意味がよく分からず、固まる。
しかし、実際には、その言葉はお父さんが死んでいないことを暗喩していた。
そして、グルーシャさんは目を丸にしている私達4人全員の顔を見て、真相を話す。
「だって、私は………シャーナとメアリーのお父さんに会ったからね」
────私達のお父さんに会った。
そのグルーシャさんの言葉は、あまりにも私達にとって甘く……
「お父さん…!! お父さあん…!!!」
メアリーが嬉しさのあまり泣きじゃくる程に、甘美な罠であった。
そう……あまりにも残酷で鋭い棘のある"甘美な罠"。
だからこそ、私はそのお父さんが生きているという話が信じられなかった。
グルーシャさんがそこに何かを付け加えるであろうと推測した。
だからこそ、もう一度グルーシャさんの顔を見た。
すると、やはり。
グルーシャさんの表情は、何かを言いかけたけど言えないような………何とも言えぬ罪悪感で満ちていた。
そして、その罪悪感に耐えられなくなったのだろう。
グルーシャさんは、その甘美な言葉に、おぞましい真実を付け加える。
「……ごめん。シャーナ。メアリー。お父さんは生きているけど、人間としてではない」
────メアリーの涙が一瞬、止まる。その絶望に満ちた表情に、沢山の鼻水が垂れている。町に響き渡った鼻の音は止まり、ただ彼女は何が起きたのかを徐々に理解していく。そして、段々と絶望していくのみであった。
しかし、かくいう私は絶望はしなかった。
だって、お父さんは私と会ってくれた。
そして、自分は敵だということを私達に伝えてくれた。そして、それだけでなく、私達の安全を考えて、『あの新大陸に近づくな』と、警告を残してくれた。
────それでも。私は、お父さんに会いにいきたい。
そして、お父さんを救いたい。
今度は、私達が。
そう………私は心に誓った。
「シャーナお姉ちゃん!! 早く起きてよお!!!」
メアリーのまだ幼くて可愛らしい声と近くの養鶏場の鶏の朝を知らせる鳴き声が、私の意識を現実に戻そうとする。それでも、私は失意の中、起き上がる力を失っていた。
だって、もうお父さんを見つけられなくなった。
あの真っ黒な空間では、ずっと私の傍にお父さんはいたのに、何処か遠くへ行ってしまったのだ。
そう。何処か遠くへ…………
────遠くへ?
「グルーシャさん達が海賊船に乗って新大陸に行ってしまうよお!!! 早く別れの挨拶しなきゃ!!!」
────そうだ。新大陸だった。
私が探しているお父さんがいるあの場所の名前は。
その事に気づいた私は、刹那、二段ベッドから飛び起きる。
「シャーナお姉ちゃん!! そんな急にどうしたの!!?」
そして、勢いよく落下して、メアリーのそのような心配の言葉に対して、こう返した。
「メアリー!! エリュガードとエルザを起こして!!! 今から急いでグルーシャさん達のところに行く!!!」
私はそう言うと速度全開で宿の廊下を走り抜けようとする。しかし、階段の手前辺りで、メアリーの幼さが心配になったので、少し止まり、後ろを振り向く。
「………シャーナお姉ちゃん」
「メアリー」
私の妹である彼女から感じられたのは………
"覚悟"。
それだけであった。
「はやく行って! 間に合わなくなるよ!!」
確かに、彼女のその声には僅かにも幼さが残っていた。
それも当然だろう。彼女はまだ幼いのだから。
それでも、彼女は、私の"覚悟"を悟ってくれた。
そして、それが幼い彼女なりの、"覚悟"なのだろう。
────やはり、父の死の痛みが、私達に決して折れることのない"覚悟"をくれたのだろう。
だから、お父さんの死による私達の成長は、お父さんが私達に最後に残してくれた贈り物なのかもしれない。
だとしても。
私は、まだお父さんを救えるなら、救いたい。
だから、私は決意を胸に、グルーシャさん達海賊のいる港町まで、足を止めなかった。
****
────そして、私達4人は遂に、グルーシャさん達が出航する前に、ギリギリ彼女達に会うことができた。
そして、もう既に目を見張るほどの巨大な船は出航する直前だった。なので、私はその船の上で待機しているグルーシャさん達に対して、ただ叫ぶことしか出来なかった。
グルーシャさん達が、私達を連れて行ってくれることを信じて。
「グルーシャさん!!! 私達も新大陸に連れて行ってください!!!!」
****
────新大陸に行きたい。
その想いを、張り裂けそうな胸の内を、私はグルーシャさんに伝えた。
伝わるかどうか…怖かった。
だって、伝わらなかったら、もうお父さんに絶対に会えない気がしたから。
それでも。
グルーシャさんは船頭から飛び降りて、唖然とする街の人達の目線をよそに、私達のところへ歩み寄ってきてくれた。
「シャーナ。なんで、新大陸に行きたいんだ?」
グルーシャさんのその問いかけに対して、私は彼女の瑠璃色の瞳をしっかり見て、答えた。
「そこに…お父さんがいるからです」
その答えに、当然、私の近くにいたメアリーやエリュガード、そしてエルザは驚きの声を上げていた。
特に、メアリーはあまりの衝撃的な私の推測に対して、涙が少しだけ溢れ出そうになっていた。
思えば、昔から、メアリーは感受性豊かな子であった。しかし、一つの推測だけで、ここまで一瞬にして涙が少しでも溢れそうになることはなかった。
それだけ、お父さんの死が彼女にとってこたえたのだろう。
そう。お父さんは、死んだのだから。
────そう思っていた。
でも、グルーシャさんは、私の推論に対して、私達の想定を上回る答えを返してきた。
「………そうか。なら、それは正解だ」
「正解………って、え?」
────正解。
私達4人はその言葉の意味がよく分からず、固まる。
しかし、実際には、その言葉はお父さんが死んでいないことを暗喩していた。
そして、グルーシャさんは目を丸にしている私達4人全員の顔を見て、真相を話す。
「だって、私は………シャーナとメアリーのお父さんに会ったからね」
────私達のお父さんに会った。
そのグルーシャさんの言葉は、あまりにも私達にとって甘く……
「お父さん…!! お父さあん…!!!」
メアリーが嬉しさのあまり泣きじゃくる程に、甘美な罠であった。
そう……あまりにも残酷で鋭い棘のある"甘美な罠"。
だからこそ、私はそのお父さんが生きているという話が信じられなかった。
グルーシャさんがそこに何かを付け加えるであろうと推測した。
だからこそ、もう一度グルーシャさんの顔を見た。
すると、やはり。
グルーシャさんの表情は、何かを言いかけたけど言えないような………何とも言えぬ罪悪感で満ちていた。
そして、その罪悪感に耐えられなくなったのだろう。
グルーシャさんは、その甘美な言葉に、おぞましい真実を付け加える。
「……ごめん。シャーナ。メアリー。お父さんは生きているけど、人間としてではない」
────メアリーの涙が一瞬、止まる。その絶望に満ちた表情に、沢山の鼻水が垂れている。町に響き渡った鼻の音は止まり、ただ彼女は何が起きたのかを徐々に理解していく。そして、段々と絶望していくのみであった。
しかし、かくいう私は絶望はしなかった。
だって、お父さんは私と会ってくれた。
そして、自分は敵だということを私達に伝えてくれた。そして、それだけでなく、私達の安全を考えて、『あの新大陸に近づくな』と、警告を残してくれた。
────それでも。私は、お父さんに会いにいきたい。
そして、お父さんを救いたい。
今度は、私達が。
そう………私は心に誓った。
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