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第1章~転生そして契約〜

内なる魔力

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「ふ、服を脱げ!?何を言ってるんですか!?」
こ、こいつさっきから変な眼差し向けてくると思ったがやっぱりか!

「何を焦っている?」

「いや服脱げっておかしくないですか!?」

「ククッ、青いな貴様。致し方ないから説明してやろう。我等が一族の眷属というのは本来契約時には蝙蝠こうもり等下等生物が主だ。人型等滅多に無い。さらに人型だろうと雌の姿として生まれ両性具有だ。雄として生まれたのはここ数百年1度も無い。だが貴様は人型。さらに男であろう?…であれば両性具有か確認すれば貴様が眷属かすぐにわかるのだ。」

「り、理由は何となくわかったんだけど……。」
男の前で脱ぎたくねーよ!
恥ずかしがり屋の我が息子は
いつも風呂とかで馬鹿にされたんだよ……。

「よもや貴様。恥ずかしいのか?」

「そ、そりゃそうでしょ!初対面の男に裸見せるなんて!」

「そうか、女であればよいのか?」

「え?どういう……?」
萌渕が質問を終わらせる前に
ヴァンドラを黒い霧が包む。
そして黒い霧が突然勢いよく萌渕に向かう。

「なっ……!」
やばい!何だこれ!とりあえず息を止めつつ防がないと……!

萌渕は両手を交差し防ごうとしたが
黒い霧は萌渕を突き抜ける。

「ふふっ、身構えなくともよいと申したはずぞ?」

背後から萌渕の頬に手が伸びる。

「えっ!?」

「我が一族に明確な性別など無い。この姿であればよいか?」

「ヴァ、ヴァンドラ…さん?」

「あぁ、そうじゃ。では、儂が手伝ってやろう。」

う、うおおっ!
細い指が!俺の服を脱がしてくる!
こ、これはやばい!

萌渕がそんなことを考えてる間に
気付けば残りは1枚。
「では、失礼するぞ?」

「アッー!」
ズルっと脱がされる最後の砦。

「ふふっ、ふふふっ、わ、悪い儂のせいとはいえ、くくっ、ふふふふっ、頑張っておるのぅ」


…………死にたい。
童貞にはキツすぎるよ…。

「うむ。笑って悪かった。では男性器は確認できた。もう片方がないかだけ失礼するぞ」

「あっ……。」
萌渕は思った。
逆に素晴らしい体験ではないかと。


「もうよいぞ。服を着て良い」
そういうとヴァンドラは
黒い霧になり王座に戻った。
そして元の姿に変異した。

…少し、いやだいぶ残念。


「そ、それでどうだったんでしょう……。」

「うむ、やはり貴様はただの眷属では無いな。」

「そうですか……ってやはり?」

「ククッ、実はというより初見からほぼわかっておったのだ。少し悪戯心が湧いてな、すまなかったな。」

ひ、ひでぇ。
ヴァンパイア嫌いになりそうだ。

「さて、本題といこうか。貴様、ここに生まれる前の記憶などあるだろう。話せ。」

「き、記憶……といっても、転生したくらいしか話すことは……。」

転生と言った途端目を見開いたヴァンドラ。
「ククッ、ククククッ!ハーッハッハ!やはりか!貴様!転生者か!」

こいつなんか怖いな。
早くアリスのとこ帰りたい。

「貴様その魔力で何が出来る?」

「ま、魔力?何のことですか?」

「む、貴様気づいておらんのか?前世界では魔力の概念自体が無かったとでも?」

「何のことだかさっぱり……。」

溜息をつくヴァンドラ。
「我の優しさに感謝しろ。眷属よ。魔力という物がこの世界にはある。この力を使うことでだいたいの事が出来る便利な物だ。みろ。」

ヴァンドラは片手を前に出した。

「愚かなる者に躾を与えよ。地獄鞭ヘルズルウィップ
ブォウ!!と音を立てヴァンドラの手に
炎でできた鞭のようなものが現れた。

「このように武器であったりこの城に巡らせてある魔法障壁であったりと使いこなせば便利な代物よ。代償としてその力を具現化する為には詠唱が必要であったり贄が必要ではあるがな。」

な、何を言ってるかよくわからないが
とりあえず魔力を持っているやつを
怒らせたらいけないのはよくわかった。

「魔力というものは基本的に生まれつき備わる素質のような物。総量はこの世界に生まれた時点で決まっている。」

「じゃあ俺は使えないのか……。前の世界じゃ縁もなかったしそんなこと……。」

「魔力が無かった?ではどこでどのようにして手に入れた?答えよ。」
 
「ま、全くわかりません。」
パァン!ヴァンドラが鞭を鳴らす。

「理由は解らぬが貴様は中々の魔力量をもっているぞ?1つ試しだ。我が教えてやるからこの地獄鞭ヘルズルウィップ出してみろ。」

え?それ俺出せるの?てか魔力あるの?
超やりたい!

「そのヘルズリップってのはどうやったらいいんでしょう?すぐに出来ます?」

「たわけが。我の地獄鞭ヘルズルウィップがいきなり使えるわけないだろう。初めての詠唱ならせいぜい小さな火の玉が限界だろう。」

そうなのか……。
あれかっこいいから残念だ……。

というか出してみろって
言われたらすぐ出来ると思うじゃないか。
…でも魔法みたいなもの使えるなんて最高じゃないか!!

「ぜひ教えてください!」

「ふん。よく聞け。眷属よ、詠唱とは己が持つ魔力をイメージ通りに具現化するために行う。なので詠唱よりもまずはイメージをしろ。掌を広げそこにある空気を圧縮しつつ、熱を持たせ発火させる。このイメージをしてみろ。」


「む、難しいな……。」
えぇと……。
掌に空気を圧縮……?
集める感じでいいのか?
集めて集めて……、温める感じ…。
おぉ、温かくなってきた!てか少し熱い!
「ヴァンドラさん!熱くなってきました!」

「ククッ、想像力豊かなのは魔力を扱う上では優秀だぞ。では詠唱を伝えよう……。」

え?ちょっと待って、マジで熱い!
手が燃えそう!
この熱さ掌から上にあげないと!
手が燃える!……ってうおおおっ!?

ボゥッ。
音が鳴ると同時に
拳大の火の玉が掌の上に現れた。

「ヴァンドラさん!なんかでました!」

「……貴様。詠唱は?」

「あぁ!そうでした!えぇと愚かな者に罰を与えよ……」

「そうではない!その火球はどう出した?」

「え?言われた通りにイメージしたら出来たんですが……。」



こやつ……。
詠唱無しで魔力を扱ったというのか?
魔力について全く知らなかった者が?
この転生者……。
こいつは使える…!化けるぞ!

「ヴァンドラさん……火の玉小さすぎてやっぱり駄目ですか?」

こやつ魔力について
本当に感知が出来ていないようだな…。
あの火球、あの大きさであの魔力量……。
一等魔力持ちでもここまでの制御は中々出来ないぞ…。

「おい貴様……」

「あっつ!」 
ヴァンドラが口を開いていたが
つい手を振ってしまった萌渕。
その反動に掌に浮いていた火球は
ヴァンドラに向かう。


「あっ!!」

ゴオオオゥ!
ヴァンドラに火球が触れると同時に
火球に内包する魔力が弾けた。

燃える王座。
ヴァンドラの姿は見えないほどの炎。


なんだこれ……!
あんな小さな火の玉でこんな威力!?
ゲームかよ!!
……ってそうじゃない!ヴァンドラさん!!

「ヴァンドラさん!ヴァンドラさん!!大丈夫ですか!!」


その時炎からでてくる影が1つ。
「この程度の技で我に傷がつくとでも?笑わせてくれるな!」
炎の中だというのに
笑顔を浮かべるヴァンドラ。
俺は悟った。
転生したけど終わったな。これ。
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