転生を希望します!

黛 ちまた

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第一章 学園編

054.ジュビリー視察隊

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「お帰りなさいませ、ご主人様」

 アビスを筆頭にズラリと他の使用人たちも並んでいる。

 恭しくお辞儀をしてくれるアビス。
 今日もとっても魔王の参謀感漂わせてます。

「ただいま戻りました、アビス。留守を守ってくれてありがとう。
みなさんもありがとう」

「勿体ないお言葉です」

 使用人たちは一斉にお辞儀をした。
 以前のアレクサンドリア家ではこんなにビシッと挨拶してなかったような気がするから、これはきっとアビスの教育の賜物に違いない。アビス、厳しそうだし……。

 セラが持っていた箱をアビスに渡す。

「ミチルちゃんからお土産よぉ☆」

 きょとんとした顔のアビス。

「ご主人様、これは?」

「王都で共同経営しているカフェでお出ししているお菓子です。休憩の時にでもみなさんで召し上がって下さい」

「いただいてよろしいのですか?」

 勿論です、と答えて、サロンに向かう。

 ルシアンと腕を組む。組まされるといったほうが正しい。
 前は手を引いてくれる感じだったんだけど、更に身体接触が増えた気がスル。
 ……着実に、距離を詰めてきている……!
 間違いない、これは計画的なものだ……!
 疑いの目でルシアンを見ると、ふふ、と笑う。
 くそぅ、このイケメンめ……。

 サロンでアビスにお茶を淹れてもらい、ひと息吐く。セラのお茶はホッとする。

「イスタニャ産のファーストフラッシュになります」

 アビスの淹れるお茶も、セラの淹れるお茶とは違った味で美味しい。アビスのは紅茶の風味を最大限に引き出す感じで、セラのとはまた違う味わいなのだ。
 私が淹れてもこんな風にはならないなぁ、これがプロ執事というものか……。
 セラに淹れ方を聞いたら、愛よ☆と言われてしまったので、それ以上聞くのは諦めた。

 愚父がこさえた借金はなくなったので、無駄遣いではあるものの、模様替えをアビスに頼んでおいた。
 こちらに来るたびにどピンクの部屋で過ごすことが耐えられないからだ。あの部屋にルシアンがいることの居心地の悪さにも耐えられない……。
 両親の部屋、兄の部屋は、不要な物は売るなり何なりしてもらって、来客用に変えてもらった。
 姉の部屋は両親の手によって既に来客用に変えられていた。何というか、仕方ないとは言え、冷たいものです。

「先日、旦那様から頂戴致しましたトマトの苗は全て耕作済みの畑に植えさせて頂きました。
野生動物に掘り起こされないよう、地元住民には注意するよう指示を出しております。
あの近辺は大型の動物も少ないので、地元住民で何とか対処可能かと」

 アビスから報告を受ける。
 報告する姿は執事と言うより何処ぞの文官のようだ。
 トマトは様子見として、これから向かうジュビリーが気になるところ。

「ジュビリーですが、ご指示通りご主人様が向かうことは伝えておりません。
前当主様が無策だった割には酷くない状況ですが、一部のエリアで治安、衛生面において若干問題を抱えております」

「分かっております」

 あの愚父がやったことと言えば、道楽することと借金作ることだけだったもんね。
 とは言え、どの程度の治安と衛生状況なのかが問題だよね……。

「ご身分を隠す為に変装をなさった場合、ご主人様は見目が大変優れてらっしゃいますので、破落戸ゴロツキ等に絡まれる心配がございます」

 あからさまな清潔感と裕福な感じが出てると悪目立ちしそうだけど、汚い格好をわざわざするのもちょっと嫌だなぁ……。
 それに、ルシアンとセラが一緒に行ったら、それだけで目立ちそうだし……。

 アビスはちら、とセラの方を見る。セラは手のひらをひらひらさせて「問題ないわ」と答える。

 執事たるもの、武術の心得とかもあるんだろうか、やっぱり。
 アレクサンドリア家の前の執事はなさそうだけど、アルト家が選んだこの二人はありそう。



 お忍びの格好に着替える。

 私はエマから洋服を借りて、シンプルな頭からスポッと被るタイプの青いワンピースを借りた。無論足は出さずにタイツに編み上げブーツ。髪は緩く私でも出来る三つ編みにしておく。

「お待たせー☆」

 着替えて部屋から出てきたセラを見た瞬間、吹き出すかと思った。それを耐えきった私偉い。

 何故なら、セラが女装していた。しかも超美人。
 私の目は自然と一点に集中する。セラさんや、そのダイナマイツな胸はどうやって?
 え? 自前じゃないよね?

「もうやっだー、ミチルちゃんたら、見過ぎ!」

 いやん、と胸を隠してしなるセラに、色気を感じた。
 これはおじさんグッときちゃうな。おじさんじゃないけど。

「これで破落戸の視線がワタシに来ると思うのよねー」

 あ、なるほど。そういうことでしたか。私はてっきり、素なのかと……。
 いや、割と本気でしょ? という目でセラを見ると、うふふふふ、と笑うセラに、乾いた笑みを浮かべた。

 ドアが開き、ルシアンも出て来た。

「!!」

 シンプルな白いシャツとネイビーのキュロットをはき、ロングブーツという出で立ちのルシアン。
 いつもよりくしゃくしゃになっている黒髪に、懐かしい厚底眼鏡……。

「わぁ……!」

 あまりの懐かしさにルシアンに駆け寄り、色んな角度で見る。
 イケメン感は全然隠し切れていないものの、残念なイケメンには見える。
 あの恐ろしいまでのイケメンが、残念なイケメンに……!

「この眼鏡、まだ持ってらっしゃったの?」

「さすがに以前のはもうありません。今回セラが購入しました」

 セラがうふふ、と笑う。

「どう、ミチルちゃん。懐かしくなーい?あの頃のルシアン様を思い出すでしょ?」

「そうそう、ちょっと小動物のようでとっても可愛くて……」

 ついうっかりセラに乗せられて口走ってしまった後、冷気を感じ、首をギギギ、とルシアンの方に向ける。
 あかん。厚底眼鏡で表情がまったく読めん。
 読めないけど、怒ってる気がする……! 間違いなく!

「ミチル、視察から戻りましたら詳しく聞きたいことがあります」

 やっぱり怒ってらっしゃいました!

 恐れ慄いていたらひょいと抱き上げられてしまった。セラが横でぶはっと吹き出した。

「セラ! ずるいですよ! 自分だけ逃げて……!」

「年頃男子に可愛いとか言っちゃうミチルちゃんがいけないわよぉ、今のは」

「あ、あのですねルシアン、可愛いというのは悪い意味ではなくってですね?」

 口元がにっこり笑ってるんだけど、如何せん眼鏡で見えない!
 厚底眼鏡すっごいな?! ちょっと防御力高過ぎるよ、何も見えない!!






 アレクサンドリア家の馬車で行く訳にもいかないので、辻馬車を呼んでもらい、それに四人で乗り込む。
 そう、四人で。
 私とルシアンと、セラとリジーの四人。リジーもメイド服から町娘スタイルになっている。

 ジュビリーには馬車で三十分ぐらいかかっただろうか。
 街の中心の噴水の辺りで下してもらい、リジーがお金を辻馬車に払って降りた。

 馬車から降りて早々、セラは衆目を浴びていた。まぁ、あれだけの美女でダイナマイツバデーならな。
 人目を集めて当然ですよ。
 そもそも、あのばいんばいんはどうやって作って……。

「お嬢様、行きますよ」

 リジーに声をかけられてハッとした。
 いかんいかん、あまりのセラのボインに意識がまた飛んでしまった。

 ……今、リジーってばお嬢様って呼んだ? ということは、今日はお忍びお嬢様の体でいくのかな?

 男性はセラを。目敏い女性はルシアンを見ていて、私やリジーに目を向ける人はほとんどいない。
 街の男たちがセラに群がる。
 うお! 入れ食い状態ってあんな感じ?!
 さすがに女性はルシアンに話しかけたりはしていない。厚底眼鏡は何の効力も発揮していないようで、あつーい視線が送られています。 
 ……と思ったら果敢にもルシアンに話しかけた女性が! ルシアン、首を横に振って相手にしません! 結構な美人さんだったのに! なんというつれない態度なんでしょうか! さすがイケメン! 容赦ありません!

 そんな様子を、リジーが買ってきてくれたドライフルーツを食べながら脳内実況中継しながら見守る。
 こうなるだろうから落ち着くまで待てと馬車で言われてたんだよね。
 ひとしきり男たちからの誘いを蹴った後は、ようやく周囲、というかセラの周りが落ち着いた。

 噴水のあたりから周囲を見て回りたいんだけど、あんまりジロジロ見て回るのも良くないかなぁ。
 そんなことを考えていたら、セラが小声で言った。

「ミチルちゃん、見て周りたいんでしょう?」

「えぇ」

「言葉遣い」

「え?」

「今日は平民設定です。平民の裕福なお家のお嬢さん設定よ」

 なるほど……って転生してから平民と接点殆どないからね、正解が分からん。

「えっと……」

 前世の自分みたいな感じでしゃべればいいのかな。

「セラ、わたし、お店を見て回りたいの」

 にっこり微笑んでセラは了解、と答えた。

 中央広場に面しているお店は食品系が多かった。

「わぁっ! エンドウ豆! そら豆もある! 新じゃがも……!」

「食材買いに来た主婦か」

 セラのツッコミに当初の予定を思い出した。

「そうだった。ごめんなさい。でも買いたいです」

「仕方ない子ねぇ。リジー、ちょっと欲しいものさっさと買っちゃって。こんなんじゃいくら時間あっても足りなくなっちゃうわ」

 呆れたように笑うとセラはリジーの方を向いて指示する。
 リジーは笑顔で頷いた。
 なんだかんだ言いながら優しいセラ。

「やったー! セラ、ありがとう!」

 その後も図々しくお店を見て回った。

「楽しそうだね」

 いつもと違う口調のルシアンに一瞬ドキッとした。

「う、うん。楽しい」

「たまにはこういうデートもいいかも知れない」

 庶民派デートってこと?

「ルシアンと二人で?」

「そう」とルシアンは頷く。

「面白いかも知れないけど、ロイエが絶対許してくれないと思う」

「それはそうだね」

 そう言って笑うルシアンを見ていたら、急に中等部一年の頃を思い出した。
 それにしてもあの時はこんなことになるなんて、露ほどにも思ってなかった。
 人生って分からん。

 ひと通り色んな店を見て回った訳ですが、ちゃんと本来の目的も覚えてますよ!
 街並みや働いている人たちの顔色、服装、売られているものの値段もチェックしております。

 商業エリアを見終わったので、売っていた揚げ芋を食べながら、今度は住居エリアを歩いてみる。
 いやー、転生後初ですよ、食べ歩き!
 揚げ芋はその名の通り乱切りにしたじゃがいもを素揚げして、塩を振ってあるだけのシンプルな奴だった。つまり、フライドポテト!
 お店のおじちゃんが言うように新じゃがだったので、それだけでほくほくして美味しい。

「美味しい?」

 お育ちの良いルシアンにもいるかと尋ねたら断られたので、私とセラだけ買って食べてたのだが、気になったのか聞いて来た。

「美味しいよ」

 揚げ芋を一つ串に刺してルシアンに差し出す。
 ちょっとびっくりした顔になったけど、ぱくりと口に入れる。

「……美味しい」

「ほら、ルシアンも買えば良かったでしょ」

 いや、大丈夫、と答えるルシアン。
 素直に認めたまえよ、美味しかったんでしょ?

「っていうかミチル、何でそんなに庶民のフリが上手いの?」

「フリっていうか、前世を思い出してるだけ、かな」

「前世……」

「あっちは貴族とかないから、みんなこんな感じなの。なんかちょっと懐かしい」

「……帰りたくなる?」

「え? 別に?」

「本当に?」

「うん、だってあっちに特別未練ないし」

 ルシアンいないし。

「ちょ……」

 顔を上げるとルシアンが口元を押さえていた。口元も隠すと、もはや何も分からない。耳も見えないし。
 正面から顔を覗き込んで見るものの、全然分からん。

「夜……覚えてて下さいね」

 えぇっ、何を!?
 っていうか何か怒ってる?! 何故に!?

 住居エリアを通り抜けると、あからさまに怪しい雰囲気のストリートが。
 何処にでもあるんだろうなぁ、きっと。
 所謂いかがわしいお店。
 前世の日本だったらピンク系のネオンが品なく点滅しちゃう感じだよね。

 まだ昼間だから大丈夫だとは思うけど、ルシアンてば、客引きに連れて行かれちゃうんでは?
 行かないほうがいいかも知れない、と思っているのにセラがぐんぐん進んで行ってしまう。

「ちょっと、そっちは……!」

 慌てて三人で追い駆ける。

 少し進んだだけで、えらいスッケスケなせくすぃな格好のお姉さんたちがルシアンに絡み始めた。
 まだ昼ですのに!

「あらぁ、変な眼鏡してるけど、お兄さん格好いいわねぇ」

「ほんとほんと。身体も鍛えられてるみたいだし」

「身体を鍛えるだけじゃ発散出来ないものってあるでしょぉ?」

 ねっとりした喋り方でルシアンにしなだれるお姉さんズ。
 凄い! プロのオンナノヒト凄い!
 って、いかんいかん。私はツマとしてルシアンを守らねば!

「ちょっと、人の物に気安く触らないでよ」

 そう言ってセラがオネーサンたちとルシアンを引き剥がす。
 っていうかセラ、君何処に行ってたの? 君を追い駆けて来たら絡まれたんだよ?

「あら、残念」

「またね」

 オネーサンたちはセラの美貌に敵わないと思ったのか、あっさりと去って行った。っていうかルシアンには私もリジーも付いていたのにね。フフ……どうせつるんぺたんだよ!
 私だって、私だってもっと出るとこ出てだな……!

 ふん、とセラは鼻で笑う。

「ワタシより美しくなってから来なさいって言うのよ」

 無茶言うな! 性別無視したド級美形め!!

「こっから先は行かないほうがいいわ。さ、今日は帰りましょ」

 有無を言わせぬ力で元いた通りに連れ戻される。その時にちらっと振り返ると、道端に座る汚れた人達の姿が見えて、あぁ、あっちはスラム街なのだと理解した。






 夕食は新じゃがとそら豆、エンドウ豆を使った季節の料理を堪能しました。
 王都の屋敷では和食が多いので、久々に和食じゃない料理は新鮮で良かった。学食とも違う味付けだし、素材も旬のものだし。満足!

 ……そう、ここまでは良かったんですよ。

 今はルシアンのお膝の上ですよ。
 無論、厚底眼鏡は外していつものイケメンに戻ってらっしゃいますよ。

「ルシアン、あの……」

 何か言って欲しいんだけどな……今日の沈黙ちょっと居づらい……。

「ミチルは、以前の私に言いましたね」

 何言ったかなー、何だったかなー。何のことかなー?
 良くない汗が出てくる。

「私のことを可愛いと」

 あぁ……言ったかも……でもあの時のルシアンは本当に清純な感じで可愛かったよ?

「……ハイ、イイマシタ……」

 次に何を言われるのか分からなくて、緊張する。

「今は?」

 え?

「今も可愛いと思っていますか?」

 本人に面と向かってカッコいいって言うのは、勇気がいりますよ?!
 いや、好きとか言ってるんだから今更かも知れないけど、言い慣れてない言葉は、緊張する。

「今は……カッコいいです」

 超絶イケメンだけどね、そこまでは恥ずかしくて表現出来ない!

「可愛いは、褒め言葉なのでしょうが、自分が恋愛対象外と言われているようで、あまり嬉しくありません」

 なるほど、男性はそう受け止めるのか。
 あれか、いい人なんだけどねー的な。
 私の可愛い人、っていうのは男性には当てはまらないのか? 女性限定?

「女性にとっては、可愛いはどういう意味合いですか? 恋愛対象にも使う言葉ですか?」

「そうですね。胸がときめいた時に使うような気がします」

「なるほど。そう伺うと、印象が全く違いますね」

 確かにね。

「では、中等部一年の時、ミチルは私にときめいていた?」

「あの時は……キース先生に憧れていましたから……」

 瞬間的にルシアンの表情が暗くなったので、慌ててフォローする。

「で、でも、可愛いとは思ってました。皇都に行ってしまった時ショックで、私の可愛いルシアンがいなくな……」

 ルシアンが艶めいた笑顔を浮かべる。

「私の?」

 あああああああああ、口が、すべって……。

「前世にも未練がないとおっしゃってましたね。私がいないからと」

「!」

 そ、それは心の中だけで思った筈! 思った筈!? もしかして漏れてた?!

「言って下さい」

 ななな、何をでございましょう……あわわわわわ。

 ルシアンは私の耳を軽く噛み、囁いた。

「言って?」

 背筋がゾクゾクする。
 心臓の鼓動が早まる。
 どうして、どうしてこう、私をどきどきさせるんだろう、この人……っ!

「わ……私の……ルシアン……」

 うああああ、もう駄目、恥ずかしい!!

「真っ赤です」

 ルシアンの手が私の頰を包み、唇が重なった。
 唇が離れ、ほっとした瞬間、ルシアンの舌が私の唇を舐めた。

「!!」

 腰と頰をがっちりホールドされ、身じろぎも出来ない。
 強引に、ルシアンは私に侵入した。
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