転生を希望します!

黛 ちまた

文字の大きさ
93 / 101
第一章 学園編

075.虹色の魔石と赤い糸

しおりを挟む
 剣術大会も無事に終わり、週末を迎えた。

 一体どんな無理難題を言われるのかと戦々恐々としていた私に、ルシアンは魔石を作りましょう、と言った。
 なんだろう、その散歩でも行こうか、みたいな軽さは。

「魔石?」

 はい、とルシアンは頷く。

「先日読んでいた書物に面白い記述があって、是非ミチルと試してみたいと思ったんです」

 面白い記述? なんだろう??

「私もミチルも、作れる魔石は黄色でしょう?」

 頷く。
 そう、私もルシアンも魔石は黄色だ。

「虹色の魔石が作れるのです」

 虹色?!
 そんなものが作れるの?!

「カーネリアン先生にも質問して、作り方が判明したので、ミチルも試してみたらどうかと」

 へぇーっ。
 魔石も色々あるんだね。
 ……で終わる訳はないですよ。

「ルシアン、何を企んでいるのですか?」

 このイケメンが、何の脈絡もなく魔石を作りましょう、珍しい色なんですよ、なんて言う筈ない。
 絶対何かある筈。

「ミチルはごまかせませんね」と言ってルシアンは苦笑した。

 ほら、やっぱり!

「人生で一度だけ、ある方法を用いると虹色の魔石を作れるのです」

 へぇ。
 人生で一度だけ。
 それだけで普通じゃない感出てます。

 部屋から出て行く前に、セラが淹れてくれたお茶を飲む。

「その魔石は食べられるんですが、自分が食べても意味はありません」

 ふむふむ?
 食べられる魔石とな? 
 一生に一度しか作れない上に食べられる??

「自分以外の他者がその魔石を食べると、魂が結びつき、来世でも出会える、と言われています」

 え、何その乙女チックな話。

「……ルシアンは私の虹色の魔石を食べたいと言うことですか?」

 ルシアンって、結構こういうの好きだよね。

「はい。出来れば私のをミチルに食べていただきたいとも思っていますが、それは無理強いはしません。ミチルの魔石だけいただければそれで。
それを、剣術大会で優勝したご褒美にいただきたいのです」

 また、そうやって。
 ルシアンはいつもそう。
 私のことを好き好き言うけど、自分にもその気持ちを向けて欲しいと言う欲求が薄い。

「来世で私がルシアンに気付かなくてもいいのですか?」

「私が見つけます。見つけて、絶対に逃がしません」

 ……そうでした。
 ルシアンはこういう人でした。

「それなら、私もルシアンの魔石をいただいた方がいいのでは? その方が私もルシアンと出会えるのでしょう?」

 どちらかと言うとそっちの方が重要なんじゃないだろうか?
 来世もイケメンに転生しそうなルシアンと、どうなるか分からない私だったら、そのチートな技は私が持っていた方が良いような気がしてならない。
 でも、見つけられるだけなのかな?

「受け取って下さるのですか?」

 驚いてるし。
 なんでそこで驚くかな。

「それは、出会うだけなのですか?」

 前世の記憶がなかったら、いくら出会えてもなんだか駄目なような気も……いや、出会えるだけで幸運なのか?

「そこまではカーネリアン先生もご存知ありませんでしたね」

 そっかー。
 私としては、出来たら来世もルシアンと出会って、前世の記憶もあって……っていうのがベストだけど、そんな美味しい話はないか。

 なんとなくご機嫌度がアップしたように見えるルシアンから、虹色の魔石の作り方を教わる。
 身体中を回る魔力を心臓に集め、それから、足から順に頭に向けて魔力を流していく。
 これを七回繰り返し、頭にいった魔力を心臓に戻し、魔力を球体になるようにイメージしてから、そのひと欠片を魔石にする。
 そうすると虹色の魔石が出来るらしい。
 不思議だ。
 聞いてる限り、そんなに難しそうには思えない。



 いやいやいや、なにこれ……。
 朝からずっとやってるけど、出来ないんですよ、虹色の魔石……。
 黄色い魔石ばかりが出来ていく。

 ルシアンは気にした風でもなく、「お昼にしましょう、疲れているでしょうし」と休憩を提案する。

 お昼はサンドイッチにしてもらったので、取りに行って来ます、と言ってルシアンは部屋を出て行った。
 立ち上がってお茶を淹れる。

 うーん……虹色の魔石。
 聞いている通りにちゃんと魔力も流せているし、集まった魔力からひと欠片取り、魔石にするのも出来てるように思えるのに、何がいけないんだろう?
 気合いか?
 気合いなのか?

 私はルシアンが戻って来る前にもう一度試してみることにした。
 魔力を心臓に集め、足から頭に向けて魔力を流し、また心臓に戻し…これを七回繰り返す。
 心臓に戻した魔力を丸めて、まん丸になるようにイメージしていく。

 虹色の魔石……。
 これがあれば、私は来世でもルシアンと出会うことが出来る!
 お願い、虹色の魔石になって!
 どうか私を来世でもルシアンに会わせて下さい! そしてあわよくば、前世の記憶を二人とも持ってますように!!
 強く強く、己の欲望を念じてから魔力のひと欠片を魔石に変えていく。

 そっと目を開けると、手の上に虹色の魔石があった。

「……っ!!」

 出来た!
 出来たよ!!
 私が来世でも、ルシアンと出会えるチートアイテムが!
 本当か嘘か分からないけど、虹色の魔石は出来た!

「やったー!」

 魔石を握りしめて飛び跳ねて回転していたら、ふふっ、と笑う声がして、ぎくっとした。

 こ、これは……。

 そっとドアの方を振り返ると、ルシアンが肩を震わせて笑っていた。

「る、ルシアン……いつからそこに……?!」

「やったーのあたりから」

 ええええええ?!
 一番見られたくないとこから全部見てるじゃないですか?!

「喜んで跳ねるミチルがとても可愛くて、見ていたのですけど、あまりに可愛くて笑いが堪えられなくなってしまって……」

 いいから! それ以上言わなくていいです!!

 ルシアンはドアを閉めると、バスケットをテーブルの上に置いた。
 料理長が作ってくれたサンドイッチがたっぷり入っている。
 私は赤い顔のまま、しれっとお茶をルシアンに出し、椅子に座った。
 ルシアンは私の横に座ると、私のおでこにキスをする。

「出来たのでしょう?」

 虹色の魔石のことだろう。

「いただけますか?」

 私は頷き、ルシアンに魔石を差し出す。
 手のひらの上で虹色に光る魔石は、パッと見、オパールのようにも見える。
 ルシアンは私の魔石を手にすると、魔石にキスをした。
 どきっとする。
 自分がキスされたみたいな気持ちになる。

 ぎゅっと魔石を握ると、ルシアンは目を閉じた。
 祈るように、魔石を握った手を額に当てる。

 ……あの、喜びすぎだと思う……。

「ありがとうございます、ミチル」

 ルシアンは手の中の私の魔石を口に入れる。ルシアンの喉が上下した。飲み込んだのだと思う。
 次の瞬間、私の心臓がどくん! と跳ねた。

「?!」

 え、何?!

 身構えるものの、それ以上は何もなかった。

「ミチル、口を開けて?」

「?」

 なんだろう、サンドイッチはまだバスケットの中だけど。
 ルシアンは胸ポケットから虹色の魔石を取り出した。

「それは……!」

 ルシアンの虹色の魔石?
 あれ? もう作ったの? 作ってあったってこと?

「あーん」

 控えめに口を開けると、ルシアンは魔石を私の口の中に入れた。
 驚いたことに、舌の上で魔石が溶けた。

「?!」

 味はなかった。
 溶けてしまったけど、液体になった風でもないので、どうすればいいのか分からない。
 そう言えばさっき、ルシアンが嚥下した時に、私の心臓がどきっとした。
 同じようにすればいいのかな?
 そう思って飲み込んでみる。

「!」

 ルシアンはちょっと目を細め、俯いた。
 あ、ルシアンも同じようになったんだ。

「ルシアン、大丈夫ですか?」

 だ、大丈夫かな?
 ルシアンの顔を覗き込む。
 顔を上げたルシアンは、とろけるような目で私を見る。
 な、何?!

「これで、ミチルは永遠に私のものですね」

 え、永遠?!
 いくら来世でも出会えるからって、そんな大袈裟な……。
 ……大袈裟……。
 ……まさか?!

「こ、この虹色の魔石って……」

 ルシアンが、不確かな情報だけで動く筈がない。
 ある程度の確証を得てから私にこの話をした筈。

 ルシアンは嘘は吐いてないんだと思う。
 ただ、教えてくれた情報が断片的なだけで。
 カーネリアン先生は、虹色の魔石の作り方は知っていても、詳しい効果を知らなかった。

「私だけがミチルの魔石を取り込めば、私は来世以降もミチルを見つけ出すことが出来る。
お互いに取り込んだ場合は、魂が結びついて、来世以降も必ず出会うのです」

「?!」

「私の魔石は、ミチルが眠っている時にでも口にしていただこうかと思っていたのですが……」

 さっきいただきましたね……。
 自分から下さいって言っちゃってるしね……。
 っていうか寝てる時って、私の意思は無視ですか……。
 それ普通に無理強いって言わない……?

「来世の私を、ルシアンが好ましく思うか分からないではないですか?」

 ご機嫌なルシアンはバスケットからサンドイッチを取り出し、テーブルに並べていく。

「記憶は引き継がれます」

 ルシアンの手からサンドイッチを餌付けされている間にしてもらった話では、ルシアンはゼファス様──マグダレナ教会に援助をする代わりに、各地の転生者や、転生に関するありとあらゆる情報を集めてもらったらしい。
 その結果は一つ一つは大したものではなかったけど、まとめてみた結果、ルシアンは一つの結論に至ったという。

・虹色の魔石は魂の一部を結晶化したものである。
・作成できるのは、一度のみ。
・虹色の魔石を他者が口にすると、口にした他者は、魔石の主が何処にいるのか分かるとのこと。
・お互いに虹色の魔石を取り込んだ結果、魂が欠けた魂を引き寄せる為、生まれ変わっても絶対に近くに生まれること。そして、前世の記憶を保持すること。

 どうも、過去の転生者で来世も記憶を持ち続けたいと、生涯を研究に捧げた人が何人もいたらしい。
 そういった人たちの研究結果を、ルシアンは手に入れたのだそうだ。
 ははぁ……みんな、色々考えるもんだなぁ……私なんて、なったらいいなーぐらいしか思わなかったって言うのに。

 前世で言うなら、運命の赤い糸みたいなものを、ルシアンは己の意思で作った、っていうことか。
 それにしても……病んでるというか……ルシアンがこんなに私を好きだとは思わなかったよ……。
 永遠て……。

「ルシアン……私のこと、好きすぎじゃありませんか?」

 今生は良いとして、来世でもっと好きな人が現れたらどうするんだろう……。

「私がこの記憶を持ったまま、ミチル以外を愛する筈ありませんよ」

 そうかなー。
 そんなの分からないと思うけどなー。

「ミチル、私にも食べさせて下さい」

 言われるままにサンドイッチをルシアンの口に運ぶ。

 やってしまった後だから、取り返しもつかないんだけど、いいのかな、コレ。

「そんなに嫌でしたか?」

 子犬みたいな顔をするルシアン。
 もー、それ卑怯だから!

「私はいいのですが、ルシアンの方が大丈夫なのかと、そればかり気になります」

「私が望んだことなのに、私の心配をミチルがするんですか?」

 当然でしょう。

「来世の自分に自信がないです」

 ルシアンに好きになってもらえるかな……何で来世の心配までしなくちゃならんのだ……。

「最も心配が不要な部分ですよ」

 ルシアンが私の指を舐めて、びっくりして我に返った。

「!」

 私の指に垂れた照り焼きチキンのソースを、ルシアンが舐めたのだ。
 って言うか、いつのまにか私、ルシアンにサンドイッチ食べさせてるし!
 もしかして考えごとしてるときに誘導された……?

「あ、気が付きました?」

「……っ!」

 ルシアンはふふ、と笑う。

「今回は随分長い時間考え事をしてましたね。
私にサンドイッチを食べさせて下さいましたし」

 ……ルシアンは、私の悪い癖を、上手くコントロールしすぎだ……。

 はぁ……もう、考えても仕方ない。
 終わっちゃってるし。

「……ルシアンが、もうミチルに飽きたって思っても、私はルシアンに付き纏いますからね……観念して下さい」

「はい」

 満面の笑みを浮かべて、ルシアンは私にキスをした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。 そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。 1~2万文字の短編予定→中編に変更します。 いつもながらの溺愛執着ものです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...