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第一章 新しい生活の始まり

007-2

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 僕が買ってきた荷物を片付けている間、トキア様が書類を持って食堂にいらした。ノエルさんから話を聞いて来たんだろうけど、本当に機密書類を処分したかったんだな……。

「トキア様、貴重な"核"をありがとうございました」

 フルールは一心不乱に書類を食べていく。紙だからかウサギって言うよりヤギみたいになってる。

「いや……こちらの都合を押し付けるからな、これぐらい大した事はない。それよりもこのスライム、消化速度が早いようだな」

 消化速度?

「スライムは時間をかけて体内に取り込んだ対象物を融解する。見た所、ちゃんと分解されているようだ」

「そうなんですね」

 うむ、と頷かれると、フルールの身体をマジマジと見る。

「もしかしたら擬態したこの形が良いのかも知れん。通常テイムしたスライムは若干形状を変化させはするものの、擬態までさせる事は無い」

 頭の良い方は難しい事ばかり考えるんだなー、と思いながら買ってきたタオルをたたむ。

「そう言えば洗濯はどうしてるんだ?」

「あ、魔法で」

「どうやる?」

「水と風の魔法を組み合わせて、水を回転させて水流を作るんです。その中に洗濯物と洗剤を入れると、汚れが落ちます」

 洗い終えたら一度水を抜き、水で濯ぐのを2回ぐらいやれば完了だ。それを今度は風だけの中で回転させて水気を切り、干す。

 じっと見つめられる。魔法師団の長からしたら、僕の魔法の使い方が許せないとか、あるかも知れない。

「アシュリーは魔力こそ少ないが魔法の才能があるな。……いや、魔力が無いからこその知恵か?」

 ううむ、と唸りながらトキア様は顎を撫でている。
 不意にトキア様のおなかが鳴った。

「トキア様、おひるは……」

「時間がなくてな。食べていない」

 フルールに全ての機密書類を食べさせ終えたトキア様は、執務室に戻られた。

 トキア様は忙しくてお昼も満足に食べない事がほとんどらしく。忙しいからこそちゃんと食べないと身体に悪いと思う。でも、どうやったら食べていただけるかな……。仕事の手を止めたくないから食べないんだよね……。
 仕事しながら食べられる物……。パンだけならそのまま食べられそうだけど、それじゃ栄養が足りないだろうし。
 
「あ! ネロ!」

 気が付いたらネロが畳んだタオルの中に潜り込んでいた。もー、猫って本当、こういうふかふかした中に潜り込むの大好きだよね。
 …………あれ? もしかしてコレ、使えるかも?

 厨房に立ち、簡単パンの準備をする。それから、野菜の切れ端を包丁で食べやすいようにみじん切り。肉を薄くスライスして、塩、胡椒を揉み込んでおく。
 簡単パンを丸く形を整えて、両手で挟んで潰し、熱したフライパンで焼いていく。生地の真ん中がぷっくりと膨らんできた。空洞部分が出来たから、これを半月になるように二つに切って、中に具を挟もう。

「あちちっ」

 焼き終えたばかりの簡単パンは熱いので、ちょっと置いておく。うん、本当熱かった。

「お? 何作ってんだ?」

 ラズロさんが食堂にやって来た。

「トキア様に、お仕事しながらでも食べれる料理をと思って」

「ほぅ?」

 フライパンで肉を焼いていく。おひるに沢山食べたのに、フルールをテイムしたからかお肉の焼ける良い匂いが鼻をくすぐる。うーん、食べたい。
 焼いた肉とみじん切りした野菜を、簡単パンの空洞部分に詰めていく。

「なるほどなぁ。これなら手を汚さずに食えるな」

「ラズロさん、味見してもらえますか?」

「おっ、良いのか?」

「はい」

 ラズロさんは片手でパンを持ち、頬張る。多分、トキア様が仕事をしながら食べるのを想定してだと思う。
 食べ終えてから、頷く。

「美味いな。手軽だし。これ、屋台でも売れるんじゃないか?」

「屋台だとパンも肉も用意しなくちゃいけないから、大変だと思います」

 残念そうな顔をするラズロさん。でも、屋台でこう言うのが売ってたら旅をする人とか、お仕事で時間がない人なんかには便利かも、と思う。

「美味い飯に、コーヒーでも付けて持ってってやろうぜ」

 そう言ってラズロさんはコーヒーを淹れてくれた。トキア様はコーヒー好きだもんね。
 出来上がったパンとコーヒーをワゴンに乗せて、僕とラズロさんはトキア様のいる魔法師団長室に向かった。
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