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第二章 マレビト

028-2

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 ナインさんが両手を重ねた。僕はその真似をする。

「"魔なる素、大気に溢るるもの"」

「"魔なる素、大気に溢るるもの"」

 ナインさんの言った言葉を復唱する。

「"力流れて"」

「"力流れて"」

 手が触れるみたいに、風が頰を撫でた。
 ううん、風じゃない。何て言うんだろ、エーテルじゃない。もっと、力強いって言うか……。

「"力止まりて"」

「"力止まりて"」

 身体の中の魔力が、熱くなる。
 こんなこと、初めてで、どうして良いか分からない。
 魔力はいつも、自分の中にあるって分かるもので、でもそれは熱くも冷たくもなくって、使えば減ったと感じたり、寝たり食べることで元に戻ったな、と感じられるもの。

「"集まりしをここに"」

「"集まりしをここに"」

 魔力が身体のまんなかに、集まっていくのが分かる。
 とても、不思議な感覚。

「"我に満ちたる力をもって"」

「"我に満ちたる力をもって"」

 僕の手が光り出す。ナインさんの手は光らない。
 それは、僕しかダンジョンメーカーのスキルがないからだって分かるけど、少し怖くて、ほんの少しワクワクする。

「"魔の力を閉じ込めしうろを作らん"」

「"魔の力を閉じ込めしうろを作らん"」

 ナインさんが両手を土に付けて言う。

「"成れ"」

 同じように土に両手を付けて叫ぶ。多分、叫ぶ必要はなかったんだと思う。でも、身体の中の熱がどんどん手に向かって流れていって、出し切らなくちゃ! って思ったら叫んでた。

「"成れ"!!」

 僕の身体からどんどん魔力が抜けていって、手から土に吸い込まれていく。

「頭の中で、どんなダンジョンにするか、考える」

 えっ?! 今考えるの?!

「平で、広いの想像する。大丈夫、後で調整する」

 平で、広い……? えっ、なんだろう……野原みたいな感じかな?

「やったことない。けど、層は追加出来る、かも。だからここまでで良い」

 手をついていた土が下から盛り上がって来て、穴が空いた。慌てて手を離すと、更に土が盛り上がって来た。
 ナインさんがその場から離れて、僕も後ろに下がった。
 どんどん盛り上がった土は、僕の目の前で、大人でも屈まなくて入れるような大きな穴を開いたまま、まるで家の入り口みたいに屋根のある形で動きを止めた。

「ダンジョンの入り口、作る人によって違う。アシュリーのダンジョン、家みたい」

 ナインさんに言われて、確かに、と思う。
 キレイに縦長の四角い穴がぽっかりと空いてる。

「扉でも付けたら、本当に、地下に続く家みたいですね」

 村にあった、食糧を保管する為の倉庫で、ひとつだけ地下に作られたものがあって。それには扉があって……。

「あ、扉出来た」

 僕の目の前で、扉が出来た。それは、何度も見ていた村の地下倉庫と同じ扉だった。
 ナインさんが扉を開ける。そこは真っ暗だった。

「アシュリー、何か思い出してる?」

「え? あ、村にあった、地下倉庫を……」

 扉の先には地下に続く階段があって、滑らないように木の板が一段一段敷かれてて……。

「階段、出来た」

『氷室代わりの地下倉庫か』とパフィが言ったので、僕は頷いた。

『そのまま思い出せ』

 思い出す……? 地下倉庫を……?

『ダンジョンの第一層に至るまでの道は、地下倉庫を参考にしろと言ってる』

 あぁ、なるほど。
 木の板が敷かれた階段は、両脇に手すりがあって、明かりもついてて、十五段程で中に入れた。

 ナインさんが僕の手を掴んで、ダンジョンの中に引っ張る。

「入る」

 頷いてダンジョンに入る。
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