143 / 271
第二章 マレビト
035-5
しおりを挟む
「…………ギドは王位継承権を剥奪の上、王族籍からも抜かれた。貴人専用の塔に移される事が決まっている。生涯出て来る事は叶わない。
第二妃は…………杯を王から賜るだろう」
杯を賜るの意味は分からないけど、沈黙が罰の重さを教えてくれた。第二妃はきっと、遠くないうちに、ここではない、二度と戻って来れない遠い遠い所に行くんだろうと思う。
「侯爵とそれに類する者たちの咎は、解毒剤確保の為に侯爵邸に押し入った際に諸々発見された。
係累は須く処罰の対象となり、侯爵とその妻子は極刑が言い渡された」
そこまで言って、殿下は俯いて何も言わなかった。
王都に毒をまき、関係のない人たちをまきこんだ。
そんなつもりがなかったとしても、王様の命を狙ったと同じことになって。
お屋敷で北の国と手を組んで戦争を起こす為の何かが出てきたのだとしたら、それは重い罪で、厳しい罰が与えられるんだろうと思う。
自分の弟が、自分の命を狙っていた事に怒る事なく、諦めて死を待っていた殿下は、きっと、とても優しい人だ。
賢くて、でも優しい殿下は王様になってからも沢山傷付くんだと思う。
「今日の夜は、ミルクたっぷり、野菜たっぷりのスープなんです」
「え」
「それと、平パンです。
温かくて、きっと美味しいと思います」
顔を上げた殿下は、困ったように眉が下がってて、何て言っていいのか分からない、って顔をしていた。
僕は口下手だから、慰めるとかは出来なくて、申し訳ない。
「ダンジョンの中に、今度香辛料の木を植えようと言う話になっているんです。
もっと、美味しいものが作れるようになると、嬉しいです」
僕の作った料理を美味しいと思ってもらえたら嬉しいし、身体が健やかになって欲しいって思う。
心の傷は、時間でしか治せなかったり、誰かの何気ない言葉で癒されたり、自分自身でしかどうしようもないものがあるって、パフィが教えてくれた。
殿下の傷も、そうだと思う。
「僕、これからも殿下に食事を作っても良いですか?」
殿下の少し後ろにいたトキア様と騎士団長が頷いた。
「……これからも、楽しみにしているよ、アシュリー」
ぽろりと殿下の目から涙がこぼれて、僕は頷いた。
「はい。いっぱい食べて下さい」
たくさん嫌なことがあって、悲しいことがあって、逃げたくても逃げられないことはいっぱいある。
僕でもあるんだから、殿下やトキア様、騎士団長やクリフさん、ノエルさんもティール様も、ラズロさんもナインさんも、たくさんたくさん抱えているんだと思う。
明日なんて来ないで欲しいって思っても、明日はきてしまう。
おなかが空くと、心が寂しくなる。
温かくて、美味しいものを食べると、ちょっと気持ちが和らぐ気がする。
おなかが満たされると、ちょっとだけ頑張れる気がしてくるのは、不思議だと思う。
……僕の作る料理が、みんなの助けになれたら良いなって、思う。
あともうちょっと頑張ろうって、思ってもらえたら、嬉しい。
みんながいなくなった後、カウンターに座ったラズロさんが僕をじっと見る。
「オレの中でアシュリー、年齢詐称疑惑が再燃してる」
思いもしなかった言葉に笑ってしまった。
「ほら、それだよそれ。その達観しちゃった態度だよ、アシュリーさん」
「なんですか? 笑わせないで下さい、ラズロさん」
もう、ラズロさんときたらそんな事ばっかり言って僕を笑わせる。
「……被害は王都中に広がったものの、重体を負った人間はいないようだぞ」
あぁ、そうなんだ。
良かった、本当に。
「デカイ一派だったし、北の国とのやりとりもあるからな、しばらくはゴタつくだろうが、なんとかなんだろ」
「良かったです」
「一時はどうなるかと思ったけどなぁ」
「そうですね」
殿下の事が頭に浮かんだ。
一番の被害にあった人。
心も身体も。たくさん傷付けられた優しい人。
それからちょっとの沈黙があって、ラズロさんがコーヒーを飲んで言った。
「……大丈夫だ。
前とは違って今は沢山の人間が側にいるんだから、孤独に潰される事も、諦める事もないだろうよ」
ラズロさんも殿下の事を思い出していたみたいで、その言葉はじんわりと僕の胸にしみこんでいった。
寂しく感じたり、食べることが嫌になることがないと良いな。
「明けない夜は、ねぇんだよ」
僕は頷いて、扉の隙間から差し込む西陽に目をやった。
太陽が沈んでいく前の強い光の西陽。
夜はすっぽりと全てをおおって、あたりを見えなくして、音も消してしまうように感じる。
でも、夜は癒しもくれる。
長い夜が明ければ、眩しい朝陽が降り注ぐ。
どんな夜も、必ず明ける。
明日は今日とは違う。
みんなの明日が、今日よりもより良い日となると良い、そう、強く思った一日だった。
第二妃は…………杯を王から賜るだろう」
杯を賜るの意味は分からないけど、沈黙が罰の重さを教えてくれた。第二妃はきっと、遠くないうちに、ここではない、二度と戻って来れない遠い遠い所に行くんだろうと思う。
「侯爵とそれに類する者たちの咎は、解毒剤確保の為に侯爵邸に押し入った際に諸々発見された。
係累は須く処罰の対象となり、侯爵とその妻子は極刑が言い渡された」
そこまで言って、殿下は俯いて何も言わなかった。
王都に毒をまき、関係のない人たちをまきこんだ。
そんなつもりがなかったとしても、王様の命を狙ったと同じことになって。
お屋敷で北の国と手を組んで戦争を起こす為の何かが出てきたのだとしたら、それは重い罪で、厳しい罰が与えられるんだろうと思う。
自分の弟が、自分の命を狙っていた事に怒る事なく、諦めて死を待っていた殿下は、きっと、とても優しい人だ。
賢くて、でも優しい殿下は王様になってからも沢山傷付くんだと思う。
「今日の夜は、ミルクたっぷり、野菜たっぷりのスープなんです」
「え」
「それと、平パンです。
温かくて、きっと美味しいと思います」
顔を上げた殿下は、困ったように眉が下がってて、何て言っていいのか分からない、って顔をしていた。
僕は口下手だから、慰めるとかは出来なくて、申し訳ない。
「ダンジョンの中に、今度香辛料の木を植えようと言う話になっているんです。
もっと、美味しいものが作れるようになると、嬉しいです」
僕の作った料理を美味しいと思ってもらえたら嬉しいし、身体が健やかになって欲しいって思う。
心の傷は、時間でしか治せなかったり、誰かの何気ない言葉で癒されたり、自分自身でしかどうしようもないものがあるって、パフィが教えてくれた。
殿下の傷も、そうだと思う。
「僕、これからも殿下に食事を作っても良いですか?」
殿下の少し後ろにいたトキア様と騎士団長が頷いた。
「……これからも、楽しみにしているよ、アシュリー」
ぽろりと殿下の目から涙がこぼれて、僕は頷いた。
「はい。いっぱい食べて下さい」
たくさん嫌なことがあって、悲しいことがあって、逃げたくても逃げられないことはいっぱいある。
僕でもあるんだから、殿下やトキア様、騎士団長やクリフさん、ノエルさんもティール様も、ラズロさんもナインさんも、たくさんたくさん抱えているんだと思う。
明日なんて来ないで欲しいって思っても、明日はきてしまう。
おなかが空くと、心が寂しくなる。
温かくて、美味しいものを食べると、ちょっと気持ちが和らぐ気がする。
おなかが満たされると、ちょっとだけ頑張れる気がしてくるのは、不思議だと思う。
……僕の作る料理が、みんなの助けになれたら良いなって、思う。
あともうちょっと頑張ろうって、思ってもらえたら、嬉しい。
みんながいなくなった後、カウンターに座ったラズロさんが僕をじっと見る。
「オレの中でアシュリー、年齢詐称疑惑が再燃してる」
思いもしなかった言葉に笑ってしまった。
「ほら、それだよそれ。その達観しちゃった態度だよ、アシュリーさん」
「なんですか? 笑わせないで下さい、ラズロさん」
もう、ラズロさんときたらそんな事ばっかり言って僕を笑わせる。
「……被害は王都中に広がったものの、重体を負った人間はいないようだぞ」
あぁ、そうなんだ。
良かった、本当に。
「デカイ一派だったし、北の国とのやりとりもあるからな、しばらくはゴタつくだろうが、なんとかなんだろ」
「良かったです」
「一時はどうなるかと思ったけどなぁ」
「そうですね」
殿下の事が頭に浮かんだ。
一番の被害にあった人。
心も身体も。たくさん傷付けられた優しい人。
それからちょっとの沈黙があって、ラズロさんがコーヒーを飲んで言った。
「……大丈夫だ。
前とは違って今は沢山の人間が側にいるんだから、孤独に潰される事も、諦める事もないだろうよ」
ラズロさんも殿下の事を思い出していたみたいで、その言葉はじんわりと僕の胸にしみこんでいった。
寂しく感じたり、食べることが嫌になることがないと良いな。
「明けない夜は、ねぇんだよ」
僕は頷いて、扉の隙間から差し込む西陽に目をやった。
太陽が沈んでいく前の強い光の西陽。
夜はすっぽりと全てをおおって、あたりを見えなくして、音も消してしまうように感じる。
でも、夜は癒しもくれる。
長い夜が明ければ、眩しい朝陽が降り注ぐ。
どんな夜も、必ず明ける。
明日は今日とは違う。
みんなの明日が、今日よりもより良い日となると良い、そう、強く思った一日だった。
17
あなたにおすすめの小説
あの子を甘やかして幸せにスローライフする為の、はずれスキル7回の使い方
tea
ファンタジー
はずれスキル持ちなので、十八になったら田舎でスローライフしようと都落ちの日を心待ちにしていた。
しかし、何故かギルマスのゴリ押しで問答無用とばかりに女勇者のパーティーに組み込まれてしまった。
追放(解放)してもらうため、はずれスキルの無駄遣いをしながら過去に心の傷を負っていた女勇者を無責任に甘やかしていたら、女勇者から慕われ懐かれ、かえって放してもらえなくなってしまったのだが?
どうなる俺の田舎でのスローライフ???
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる