前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第四章 魔女の国

055-1

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 冬の寒さは日に日に増しているけど、去年ほどじゃないな、と感じるのは僕だけなのかな。

「寒いけど、いつもの年ほどじゃない気がする」

 僕の独り言をパフィが拾う。

『ダンジョンを封じて回った甲斐があったな』

 僕は行ってないけど、騎士団や魔法師団の人たちがダンジョンを回ってモンスターを倒し、ダンジョンの入り口を封印したんだって。
 だからこの冬もこの国から冬の王は出ないだろうって皆言ってる。

「北の国や南の国には出るのかな」

 他の国がどんな対応をしているのかは分からないけど、僕たちのいるこの国のようにやってくれているとは思えない。

『出たとして気にすることもない。東や西の国ならば救援要請がくるだろうがな』

 思わずため息を吐いた僕の手を、パフィのしっぽが軽く叩く。

『何を悩む』

「悩むっていうか……皆なんで仲良くできないのかなって思って」

『無理だろう』

 あっさりと否定されてなんとなく悲しくなる。
 長い時間を生きてきたパフィからしたら、僕たち人はとても弱くて愚かに見えるんだろうな。

『おまえも、スキルを手にした時に思ったはずだ』

「スキル?」

 聞き返すとパフィのしっぽがゆらりと揺れた。

『人並みの魔力が欲しい、と』

「それは、そうだけど。あったら色んなことができるのを知ってるから」

『なかったものを与えられたのに、何故それに感謝しない? 人と同じものを望む? 何故他者を羨む?』

「幸せになりたいからだよ、誰もがそう思うから優れたものを欲しがる」

 言葉に詰まってしまった僕の代わりにラズロさんが答えた。
 僕の肩をラズロさんはポンと叩く。それから困ったように笑う。

「子供にも厳しいなぁ、魔女様は」

『考えさせるための問いにおまえが答えてどうする』

 ははは、とラズロさんは笑う。

『欲を持つことが悪いことではない。その欲を満たすための方法が問題なのだ』

 パフィの言葉にラズロさんが真面目な顔で頷く。
 欲を満たす。

『甘い果実は魅力的だ。甘露は私も抗えん。
欲の全てを悪とは言わんがな。多くを人より求めたいと思った回数だけ、おまえは人の心を少しずつ失うことを覚えておけ』

 しっぽをゆらゆらと揺らし、パフィは泡が弾けるように目の前から消えた。

「……前から思ってたんだけどな」

 ラズロさんの眉間に皺が寄ってる。

「今みたいな問答、ずっとやってたのか?」

「はい。魔力が欲しいってパフィの元を訪れてからずっとこんな感じです」

 大きなため息を吐き、「こりゃアシュリーが老ける訳だ。子供への教えじゃねぇよ」とこぼす。

「子供の僕を、大人と同じように扱ってくれてるって分かってからは気にしてないです」

「その答えがそもそもだなぁ……」

 もう一度ため息を吐くと、ラズロさんは僕を見る。

「青春は味わえよ」

「青春?」

 そうだ、と力強く頷く。

「アシュリーは子供らしい子供時代を過ごしてないだろ。このままじゃ青春時代すら枯れそうで、オニーサンは不安なわけよ」

「青春ってどんなことをするんですか?」

 ラズロさんはニヤリと笑う。

「そんなん決まってんだろ、ウフフでアハハだよ」

「じゃあ今もラズロさんは青春真っ只中ですね」

「ちょっ! アシュリーさんってばオレのことをそんな目で?!」
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