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番外編
魔女の集い 後編
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予定していた日の前日なのに、始まることになった魔女の集い。
ラズロさん、僕、ノエルさん、クリフさん、ティール様、ナインさんが集まって準備をすることになった。
食堂にあったテーブルを二つ庭に運んで、くっつけるようにして並べる。丸いテーブルがあれば楽なんだけど、細長いテーブルしかないから、くっつけて四角くする。
僕の座る場所は石窯の近く。
スオウの花見でレンガを組み立てるからか、ラズロさんたちは手際よく積み上げていってくれた。その上に網を置いて、貝や魚を焼く。
洗い物なんかはさすがにできないから、厨房に戻らないといけないけど。
「できあがったものを持ってきて食べるのかと思うたが、目の前で出来上がっていく様を見られるのは面白い趣向だの」
「出来立ては美味しいですよ」
「それはいい。料理は得意ではないのでな」
……そういえば、パフィ以外の魔女って食事、どうしてるのかな?
網の上にギルドで買ってきた貝や魚を並べる。大きな二枚貝は、ラズロさんに開いてもらった。
弱い火でじっくりと焼いた貝も魚も、とても美味しい。臭みを消すようにニンニクやネギを刻んだものもたっぷり用意した。あとワイン。
テーブルに酢漬けを盛った大皿を置く。取り分けて食べる用の皿も。スプーンとフォークと、飲み物の器と。
「焼きあがるまでは酢漬けでもつまんでくれ。あとこれな、王都の出店の味を堪能してくれ」
魔女が相手でも気にしないことにした、ってラズロさんは言ってたけど、言葉遣いや態度のことだったんだ。ダリア様たちもまったく気にしてないみたい。
出店で売ってる貝の串焼きや、鶏肉の地獄焼き、砂糖のかかった揚げ菓子がテーブルの上に並べられる。いつの間に買ってきてくれたんだろう、ラズロさん。
準備をしている間に日が暮れてきた。
オレンジ色の空が、群青色の空に少しずつ押されていく。
用意が整ったので座ると、皆の器に飲み物が注がれていく。
「これまで幾度となく集まりはしたが、このような形は初めてで、実に面白い」
「いつもは乾燥した果物や豆類をつまんだり、適当に煮炊きするぐらいだものね」
アマーリアーナ様が楽しそうに笑う。ヴィヴィアンナ様は酢漬けが気に入ったみたいで、ずっと食べてる。
ラズロさんが器を持って立ち上がる。
「飲み会が三度の飯より好きなオレが、勝手に仕切らせてもらう。皆、酒は持ったな?」
周りを見渡してから、「新たな酒の仲間に、乾杯!」と言ってお酒を飲んだ。皆も乾杯!と応えてからお酒を飲む。僕とナインさんはジュース。
「さて、こちらも始めるか」
ダリア様が人差し指をたてると、指先に火が灯った。続いてヴィヴィアンナ様の指の先に火が。アマーリアーナ様とパフィの指先にも。その火に息を吹きかけると、四つの火が集まって、輪っかになった。ダリア様が手で風を送るように下から扇ぐと、火の輪っかは上がっていって、空中で止まった。
「あの火をな、絶やさずに燃やし続ける。本来であれば目立たぬように山の頂上でやるのだ。まったく……」
パフィが教えてくれる。ちょっと呆れた顔をしてる。ここに集うのは嬉しいけど、それ以外にも思うことがあるんだろうな。
「さっきみたいに火を足すってこと?」
「そうだ」
空中に浮かぶ火の輪っかに、なにかが当たって弾けた。
「今のは死者の魂が輪に触れて、浄化された音だ」
「死者の国に行くの?」
「魂となった者は、生ける時のように多くのものを見ることができん。光のみ見ることができる。その魂の導として門は光るのだ」
死者の門。
死んだ人が、魂が目指す場所。
「この時期は死者の門の光が弱くなるのでな、道に迷う死者が多い。生者の魂が放つ光を死者の門と見間違わぬように、こうして火を燃やす」
ダリア様の指先から火が飛んで、空に浮かぶ輪っかに吸い込まれる。
「火よ 美しき火よ 弱き人の子の犯した罪を燃やし尽くしたまえ」
「火よ 強き火よ この世の穢れを燃やし尽くしたまえ」
歌うように、ダリア様とヴィヴィアンナ様が言う。
「火よ 恐ろしき火よ 悪しきものを燃やし尽くしたまえ」
「火よ 悲しき火よ 悲しみにより流された涙を乾かしたまえ」
アマーリアーナ様とパフィも続く。
「魂が浄化されますよう」
四人が同時に言うと火の輪っかが強く光って、さっきよりちょっと上に上がった。
「この輪がな、一晩中やるとまぁまぁの大きさになる」
「じゃあ今回はもっと大きくなるんだね」
「いつもそれほど真面目にやらないが、今回はそれなりに浄化することになるだろうな」
戦争があって、北の国の人たちの多くが命を落としたって聞いた。その人たちの魂がちゃんと死者の国に行けますように。
焼き上がった貝にたっぷりのにんにくとネギをのせたものを、パフィが頬張る。見ていたダリア様たちも同じように食べる。
「おぉ、これは酒に合うな」
「美味」
「美味しいわぁ」
焼き上がった魚や貝をラズロさんがどんどん運んでいく。
「とっとと食えー。冷めると味が落ちるぞー。塩釜も焼きあがるからなー」
ザックさんが魚を塩で包んで蒸し焼きする塩釜を教えてくれたので、作ってみた。網で焼くには大きい魚も、石窯でなら焼ける。
「あつつっ」
「猫舌なのにいっぺんに口に入れるな」
「はい、ティール、水」
ダリア様たちを前に緊張していたノエルさん達は、お酒を飲んだり食べたりしてるうちに慣れたみたい。諦めかも?
「アシュリー、貝、食べた?」
「食べましたよ。ナインさんは?」
「美味しい、もっと食べたい。でも他のも食べたい。我慢」
真っ暗になった空を見上げると、始まった時よりも大きくなった火の輪っかが浮いている。死者の魂が輪っかに触れて、光って消えていく。
「死者の国、行ける、幸せ」
ナインさんも空を見上げて言った。
「北の国、言い伝えある。魂のままさまよう、自分何者だったか、分からなくなる。それ、とてもとてもつらいこと。苦しい、悲しい、憎い、悪い感情いっぱいなる、教えられた」
生きているときの良い思い出がそんな風になってしまったら悲しい。
「北の国ではそう教えておるのか」
ダリア様の指から出た火がまた一つ、空に向かって飛んでいく。続けてヴィヴィアンナ様の指から。
「死とはな、肉体という弱き枷から解き放たれた状態を言う。だが、自由とは必ずしも良いことばかりではない。時にそなた、我が殺めた者の記憶を受け継いでおるようだな」
そうだった! ナインさんの前世、クロウリーさんを手にかけたのはダリア様だった。
落ち着かない気持ちになる。どうしよう。どうしたらいいんだろう。
ナインさんはじっとダリア様を見る。
「クロウリー、悪いこといっぱいした。でも、殺される、かわいそう」
「うむ」
「でも、あのまま、クロウリー、冬の王に食い殺された」
どちらにしても殺されることになったとしても、しかたないってことではないと思うんだけど。でも、なんて言っていいのか分からない。
「すまぬ。もっと早くに気付けておればやりようがあった」
「クロウリーの記憶ある。でも、僕、ナイン。ナインの今、幸せ。だから許す」
ナインさんの言葉にちょっとだけほっとする。
しかたがなかったとしても、ダリア様のしたことは無くならない。だから、ナインさんがつらくないのが一番大事なことだと思う。
「そなたは強いな。詫びにもならぬが願いを叶えてやろう。度を超えた願いでなければだが」
「度を超えた願い、頼んだらどうなる?」
「理というものがある。魔女とて理の枠を逸脱することは許されておらぬのだ」
理。
「たとえそうしたとしてもな、干渉される」
「干渉」
「そうだ。神が必ず邪魔をする」
そう言ってダリア様はパフィを見た。
「理を捻じ曲げる術を我ら魔女は持ち得ているが、神が許さぬ場合がある。パシュパフィッツェがキルヒシュタフに滅ぼされることがそうだった」
ヴィヴィアンナ様たちがパフィを助けようとしても未来が変わらなかったって言ってたのを思い出す。
「我らは出来る限りの抵抗を試みた。神の意思がそこにないのなら、パシュパフィッツェは今、おらぬのだ」
ダリア様は目を細めて笑った。
胸がぎゅっとした。
神さまは、パフィが魔女の秘術で助かることを許してくれたってことが分かったから。
「そなたの願いをなんでも叶えてやりたいが、絶対に叶えてやると約束してはやれぬが、どうだ? 願いはあるか?」
ナインさんが頷く。
「願い、ある」
「言うてみよ」
「テイム、スキルない。でも僕も欲しい」
ナインさんは僕の隣にいるフルールをじっと見る。フルールに触るの好きだもんね、ナインさん。
「スキルは与えられぬが、我が育てている魔物ならくれてやろう。育ててみるか? 懐く保証はないがの」
「育てる!」
あのドラゴンの卵、渡したりしちゃうのかな。
「ちょうどアシュリーに空を飛べる魔物をと考えていたところだ。そなたにも用意しよう」
ノエルさんたちがぎょっとした顔をする。
「同じがいい!」
「同じ?」
「アシュリーと同じ魔物、育てたい」
「よかろう。無理であれば諦めよ、よいな?」
「うん」
さっき空を飛べるものって言ってたなぁ。
ちょっと不安もあるけど、空を飛んでみたい。前にパフィに空と海を見せてもらった時、とてもキレイだった。もし自分の目で見られたら、きっと幸せだろうな。
「焼けたぞー!」
ラズロさんが石窯から塩に包まれた魚を持ってきて、テーブルの上にのせる。カチカチに固まった焼けた塩を、とんかちで叩いた。
湯気と一緒に、香草の良い香りが広がる。
「冷めると身が固くなるぞ! ごっそり持ってけ!」
ナインさんとヴィヴィアンナ様が取り分けた魚を皿にのせる。二人とも嬉しそう。
「弟子よ、食べておるのか」
ダリア様は僕を弟子と呼ぶようになってしまった。
「はい、沢山は食べられないので、少しずつ食べてます」
「人の里で生きるパシュパフィッツェを不思議に思うておったが、こうして人の子と触れおうてみて、少し気持ちが分かった」
貝殻をパキパキと音をさせながら食べるフルールの頭を、ダリア様は撫でる。
「だからといって人と住みたいとは思わぬが。時折かように人とつながりを持つのは悪いことではないと思うた」
「はい。遊びに来てください」
「余計なことを言うな」
パフィにおでこを叩かれた。いつの間に来たの。さっきまでアマーリアーナ様と話してたのに。
「師匠が弟子に会いにくるのは自然なことぞ?」
にやりと笑うダリア様をパフィが睨む。
まったく気にしてないみたいで、ダリア様はお酒を飲む。
「パフィ、肉焼こうか?」
「大きめにな」
「おぉ、我にも頼むぞ」
肉の塊をいくつも網の上にのせる。
パフィの顔を見ると、目を細めてダリア様達を見ていた。
良かった。楽しんでるみたいで。
口ではあれこれ言うけど、パフィにとってダリア様達は大切な存在だと思う。
僕が見てることに気づいたのか、パフィがこっちを見た。
「なんだ、人の顔をじろじろ見おって」
「楽しんでるみたいで良かったなって思って」
「どこが楽しいんだ。毎回こうなったらどうしてくれる」
「毎回ごはんを作るよ」
魔女と人が交わることはないってダリア様達は言うけど、それはそれでいいと思う。たまに会って、楽しく過ごせるだけでも。
「二日もやったら、世界中の死者の魂が浄化されるかな」
僕の言葉にパフィが呆れた顔をする。
「そんなわけがあるか。どれだけ世界は広いと思っている」
「そっか。でも、一人でも多くの魂が死者の国に行けるなら、いいことだよね、きっと」
真っ暗な夜の空に、ぽっかりと浮かぶのは月じゃなくって。真っ赤な火の輪っか。浄化の火。
……キルヒシュタフ様と、冬の王と、キルヒシュタフ様の使い魔の魂も、浄化されて死者の国に行けるといいな。そうしたらパフィが願ったように、ずっと一緒にいられるから。
キルヒシュタフ様はもう、寂しくなくなる。冬の王がどんな人だったか分からないけど。
冬の王をパフィが滅ぼした時、パフィの頰を一度だけ冬の王の手がかすった。その時の傷は今もパフィの頰に残ってる。うっすらとだから近くで見ないと分からないけど。
あれは、わざとなんだろうなって思ってる。
二日間の魔女の集いは、あっという間に終わった。ノエルさんもよく食べるけど、魔女達はその倍は食べる。食糧庫、大丈夫かな。
「実に有意義な時間であった」
「美味しかった」
「楽しかったわ」
「もう来るな」
パフィは冷たく言うけど、皆気にしてない。いつもこんなやりとりをしてるのかも。
「ではまたな」
「じゃあね」
「また来る」
「早く帰れ」
ダリア様達は使い魔に乗ると、僕達に手を振って、そして消えた。
「疲れた、寝る」
人の姿から猫の姿になったパフィは、僕の腕に飛び込んできた。
見上げると、空は真っ青だった。
『なにを見ている』
「死者の門ってどこにあるのかなって思って」
『空の彼方だ。魔女とて到達できぬ高みにある』
「死者の国ってどんなところなんだろう」
『心穏やかに暮らせる地だそうだ』
「そっか」
キルヒシュタフ様達のことを考えていたら、パフィがぽつりと呟いた。
『幸せに暮らしているだろうよ』
「そうだね」
ラズロさん、僕、ノエルさん、クリフさん、ティール様、ナインさんが集まって準備をすることになった。
食堂にあったテーブルを二つ庭に運んで、くっつけるようにして並べる。丸いテーブルがあれば楽なんだけど、細長いテーブルしかないから、くっつけて四角くする。
僕の座る場所は石窯の近く。
スオウの花見でレンガを組み立てるからか、ラズロさんたちは手際よく積み上げていってくれた。その上に網を置いて、貝や魚を焼く。
洗い物なんかはさすがにできないから、厨房に戻らないといけないけど。
「できあがったものを持ってきて食べるのかと思うたが、目の前で出来上がっていく様を見られるのは面白い趣向だの」
「出来立ては美味しいですよ」
「それはいい。料理は得意ではないのでな」
……そういえば、パフィ以外の魔女って食事、どうしてるのかな?
網の上にギルドで買ってきた貝や魚を並べる。大きな二枚貝は、ラズロさんに開いてもらった。
弱い火でじっくりと焼いた貝も魚も、とても美味しい。臭みを消すようにニンニクやネギを刻んだものもたっぷり用意した。あとワイン。
テーブルに酢漬けを盛った大皿を置く。取り分けて食べる用の皿も。スプーンとフォークと、飲み物の器と。
「焼きあがるまでは酢漬けでもつまんでくれ。あとこれな、王都の出店の味を堪能してくれ」
魔女が相手でも気にしないことにした、ってラズロさんは言ってたけど、言葉遣いや態度のことだったんだ。ダリア様たちもまったく気にしてないみたい。
出店で売ってる貝の串焼きや、鶏肉の地獄焼き、砂糖のかかった揚げ菓子がテーブルの上に並べられる。いつの間に買ってきてくれたんだろう、ラズロさん。
準備をしている間に日が暮れてきた。
オレンジ色の空が、群青色の空に少しずつ押されていく。
用意が整ったので座ると、皆の器に飲み物が注がれていく。
「これまで幾度となく集まりはしたが、このような形は初めてで、実に面白い」
「いつもは乾燥した果物や豆類をつまんだり、適当に煮炊きするぐらいだものね」
アマーリアーナ様が楽しそうに笑う。ヴィヴィアンナ様は酢漬けが気に入ったみたいで、ずっと食べてる。
ラズロさんが器を持って立ち上がる。
「飲み会が三度の飯より好きなオレが、勝手に仕切らせてもらう。皆、酒は持ったな?」
周りを見渡してから、「新たな酒の仲間に、乾杯!」と言ってお酒を飲んだ。皆も乾杯!と応えてからお酒を飲む。僕とナインさんはジュース。
「さて、こちらも始めるか」
ダリア様が人差し指をたてると、指先に火が灯った。続いてヴィヴィアンナ様の指の先に火が。アマーリアーナ様とパフィの指先にも。その火に息を吹きかけると、四つの火が集まって、輪っかになった。ダリア様が手で風を送るように下から扇ぐと、火の輪っかは上がっていって、空中で止まった。
「あの火をな、絶やさずに燃やし続ける。本来であれば目立たぬように山の頂上でやるのだ。まったく……」
パフィが教えてくれる。ちょっと呆れた顔をしてる。ここに集うのは嬉しいけど、それ以外にも思うことがあるんだろうな。
「さっきみたいに火を足すってこと?」
「そうだ」
空中に浮かぶ火の輪っかに、なにかが当たって弾けた。
「今のは死者の魂が輪に触れて、浄化された音だ」
「死者の国に行くの?」
「魂となった者は、生ける時のように多くのものを見ることができん。光のみ見ることができる。その魂の導として門は光るのだ」
死者の門。
死んだ人が、魂が目指す場所。
「この時期は死者の門の光が弱くなるのでな、道に迷う死者が多い。生者の魂が放つ光を死者の門と見間違わぬように、こうして火を燃やす」
ダリア様の指先から火が飛んで、空に浮かぶ輪っかに吸い込まれる。
「火よ 美しき火よ 弱き人の子の犯した罪を燃やし尽くしたまえ」
「火よ 強き火よ この世の穢れを燃やし尽くしたまえ」
歌うように、ダリア様とヴィヴィアンナ様が言う。
「火よ 恐ろしき火よ 悪しきものを燃やし尽くしたまえ」
「火よ 悲しき火よ 悲しみにより流された涙を乾かしたまえ」
アマーリアーナ様とパフィも続く。
「魂が浄化されますよう」
四人が同時に言うと火の輪っかが強く光って、さっきよりちょっと上に上がった。
「この輪がな、一晩中やるとまぁまぁの大きさになる」
「じゃあ今回はもっと大きくなるんだね」
「いつもそれほど真面目にやらないが、今回はそれなりに浄化することになるだろうな」
戦争があって、北の国の人たちの多くが命を落としたって聞いた。その人たちの魂がちゃんと死者の国に行けますように。
焼き上がった貝にたっぷりのにんにくとネギをのせたものを、パフィが頬張る。見ていたダリア様たちも同じように食べる。
「おぉ、これは酒に合うな」
「美味」
「美味しいわぁ」
焼き上がった魚や貝をラズロさんがどんどん運んでいく。
「とっとと食えー。冷めると味が落ちるぞー。塩釜も焼きあがるからなー」
ザックさんが魚を塩で包んで蒸し焼きする塩釜を教えてくれたので、作ってみた。網で焼くには大きい魚も、石窯でなら焼ける。
「あつつっ」
「猫舌なのにいっぺんに口に入れるな」
「はい、ティール、水」
ダリア様たちを前に緊張していたノエルさん達は、お酒を飲んだり食べたりしてるうちに慣れたみたい。諦めかも?
「アシュリー、貝、食べた?」
「食べましたよ。ナインさんは?」
「美味しい、もっと食べたい。でも他のも食べたい。我慢」
真っ暗になった空を見上げると、始まった時よりも大きくなった火の輪っかが浮いている。死者の魂が輪っかに触れて、光って消えていく。
「死者の国、行ける、幸せ」
ナインさんも空を見上げて言った。
「北の国、言い伝えある。魂のままさまよう、自分何者だったか、分からなくなる。それ、とてもとてもつらいこと。苦しい、悲しい、憎い、悪い感情いっぱいなる、教えられた」
生きているときの良い思い出がそんな風になってしまったら悲しい。
「北の国ではそう教えておるのか」
ダリア様の指から出た火がまた一つ、空に向かって飛んでいく。続けてヴィヴィアンナ様の指から。
「死とはな、肉体という弱き枷から解き放たれた状態を言う。だが、自由とは必ずしも良いことばかりではない。時にそなた、我が殺めた者の記憶を受け継いでおるようだな」
そうだった! ナインさんの前世、クロウリーさんを手にかけたのはダリア様だった。
落ち着かない気持ちになる。どうしよう。どうしたらいいんだろう。
ナインさんはじっとダリア様を見る。
「クロウリー、悪いこといっぱいした。でも、殺される、かわいそう」
「うむ」
「でも、あのまま、クロウリー、冬の王に食い殺された」
どちらにしても殺されることになったとしても、しかたないってことではないと思うんだけど。でも、なんて言っていいのか分からない。
「すまぬ。もっと早くに気付けておればやりようがあった」
「クロウリーの記憶ある。でも、僕、ナイン。ナインの今、幸せ。だから許す」
ナインさんの言葉にちょっとだけほっとする。
しかたがなかったとしても、ダリア様のしたことは無くならない。だから、ナインさんがつらくないのが一番大事なことだと思う。
「そなたは強いな。詫びにもならぬが願いを叶えてやろう。度を超えた願いでなければだが」
「度を超えた願い、頼んだらどうなる?」
「理というものがある。魔女とて理の枠を逸脱することは許されておらぬのだ」
理。
「たとえそうしたとしてもな、干渉される」
「干渉」
「そうだ。神が必ず邪魔をする」
そう言ってダリア様はパフィを見た。
「理を捻じ曲げる術を我ら魔女は持ち得ているが、神が許さぬ場合がある。パシュパフィッツェがキルヒシュタフに滅ぼされることがそうだった」
ヴィヴィアンナ様たちがパフィを助けようとしても未来が変わらなかったって言ってたのを思い出す。
「我らは出来る限りの抵抗を試みた。神の意思がそこにないのなら、パシュパフィッツェは今、おらぬのだ」
ダリア様は目を細めて笑った。
胸がぎゅっとした。
神さまは、パフィが魔女の秘術で助かることを許してくれたってことが分かったから。
「そなたの願いをなんでも叶えてやりたいが、絶対に叶えてやると約束してはやれぬが、どうだ? 願いはあるか?」
ナインさんが頷く。
「願い、ある」
「言うてみよ」
「テイム、スキルない。でも僕も欲しい」
ナインさんは僕の隣にいるフルールをじっと見る。フルールに触るの好きだもんね、ナインさん。
「スキルは与えられぬが、我が育てている魔物ならくれてやろう。育ててみるか? 懐く保証はないがの」
「育てる!」
あのドラゴンの卵、渡したりしちゃうのかな。
「ちょうどアシュリーに空を飛べる魔物をと考えていたところだ。そなたにも用意しよう」
ノエルさんたちがぎょっとした顔をする。
「同じがいい!」
「同じ?」
「アシュリーと同じ魔物、育てたい」
「よかろう。無理であれば諦めよ、よいな?」
「うん」
さっき空を飛べるものって言ってたなぁ。
ちょっと不安もあるけど、空を飛んでみたい。前にパフィに空と海を見せてもらった時、とてもキレイだった。もし自分の目で見られたら、きっと幸せだろうな。
「焼けたぞー!」
ラズロさんが石窯から塩に包まれた魚を持ってきて、テーブルの上にのせる。カチカチに固まった焼けた塩を、とんかちで叩いた。
湯気と一緒に、香草の良い香りが広がる。
「冷めると身が固くなるぞ! ごっそり持ってけ!」
ナインさんとヴィヴィアンナ様が取り分けた魚を皿にのせる。二人とも嬉しそう。
「弟子よ、食べておるのか」
ダリア様は僕を弟子と呼ぶようになってしまった。
「はい、沢山は食べられないので、少しずつ食べてます」
「人の里で生きるパシュパフィッツェを不思議に思うておったが、こうして人の子と触れおうてみて、少し気持ちが分かった」
貝殻をパキパキと音をさせながら食べるフルールの頭を、ダリア様は撫でる。
「だからといって人と住みたいとは思わぬが。時折かように人とつながりを持つのは悪いことではないと思うた」
「はい。遊びに来てください」
「余計なことを言うな」
パフィにおでこを叩かれた。いつの間に来たの。さっきまでアマーリアーナ様と話してたのに。
「師匠が弟子に会いにくるのは自然なことぞ?」
にやりと笑うダリア様をパフィが睨む。
まったく気にしてないみたいで、ダリア様はお酒を飲む。
「パフィ、肉焼こうか?」
「大きめにな」
「おぉ、我にも頼むぞ」
肉の塊をいくつも網の上にのせる。
パフィの顔を見ると、目を細めてダリア様達を見ていた。
良かった。楽しんでるみたいで。
口ではあれこれ言うけど、パフィにとってダリア様達は大切な存在だと思う。
僕が見てることに気づいたのか、パフィがこっちを見た。
「なんだ、人の顔をじろじろ見おって」
「楽しんでるみたいで良かったなって思って」
「どこが楽しいんだ。毎回こうなったらどうしてくれる」
「毎回ごはんを作るよ」
魔女と人が交わることはないってダリア様達は言うけど、それはそれでいいと思う。たまに会って、楽しく過ごせるだけでも。
「二日もやったら、世界中の死者の魂が浄化されるかな」
僕の言葉にパフィが呆れた顔をする。
「そんなわけがあるか。どれだけ世界は広いと思っている」
「そっか。でも、一人でも多くの魂が死者の国に行けるなら、いいことだよね、きっと」
真っ暗な夜の空に、ぽっかりと浮かぶのは月じゃなくって。真っ赤な火の輪っか。浄化の火。
……キルヒシュタフ様と、冬の王と、キルヒシュタフ様の使い魔の魂も、浄化されて死者の国に行けるといいな。そうしたらパフィが願ったように、ずっと一緒にいられるから。
キルヒシュタフ様はもう、寂しくなくなる。冬の王がどんな人だったか分からないけど。
冬の王をパフィが滅ぼした時、パフィの頰を一度だけ冬の王の手がかすった。その時の傷は今もパフィの頰に残ってる。うっすらとだから近くで見ないと分からないけど。
あれは、わざとなんだろうなって思ってる。
二日間の魔女の集いは、あっという間に終わった。ノエルさんもよく食べるけど、魔女達はその倍は食べる。食糧庫、大丈夫かな。
「実に有意義な時間であった」
「美味しかった」
「楽しかったわ」
「もう来るな」
パフィは冷たく言うけど、皆気にしてない。いつもこんなやりとりをしてるのかも。
「ではまたな」
「じゃあね」
「また来る」
「早く帰れ」
ダリア様達は使い魔に乗ると、僕達に手を振って、そして消えた。
「疲れた、寝る」
人の姿から猫の姿になったパフィは、僕の腕に飛び込んできた。
見上げると、空は真っ青だった。
『なにを見ている』
「死者の門ってどこにあるのかなって思って」
『空の彼方だ。魔女とて到達できぬ高みにある』
「死者の国ってどんなところなんだろう」
『心穏やかに暮らせる地だそうだ』
「そっか」
キルヒシュタフ様達のことを考えていたら、パフィがぽつりと呟いた。
『幸せに暮らしているだろうよ』
「そうだね」
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―――――――――
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異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
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