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番外編
トネリコの森
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ノエルさんに神殿に連れてきてもらった。村にあるのとは比べものにならない大きさで、建物が全部石で出来てた。
ここには神様への祈りを捧げることだけをしたい人が集まるんだって。教会にいる神父さん達は、人を救いたいと思ってる人達。
「神殿にいる人達は修道士といってね、男性なら修道士、女性なら修道女と呼ぶんだよ」
「神父じゃないんですね」
「うん。俗世の名前を捨ててるからね。彼らはとても禁欲的で、神の教えを絶対としてるからね、神の言葉を受け取る聖女様をとてもとても大切にすることはこの前話したね」
それでね、と言ってから僕達をジロジロ見てくる修道士を睨みつけるノエルさん。
「聖女様は俗世とは離れた場所に生きるべき、と考えている者達からすると、異性のアシュリーが聖女様に会うことをよく思ってなくて」
恋をしてはいけないんだもんね。
「そんなことにはならないと思います。僕、子分一でした」
「子分一……。一ってことは他にもいたの?」
「はい、あと三人」
「……三人……」
ノエルさんが絶句してる。
「そういえば神殿の人達は魔女のことをどう思ってるんですか?」
教会の神父さんは、魔女を嫌ってはいなかったけど。
「あんまりよく思っていないかなぁ」
「どうしてですか?」
「ほら、魔女ってとてつもない力を持ってるでしょ? そんな力を持つのは神以外にありえないんだって」
……ちょっとむっとした。
大きな門の前に立って、ノエルさんが門番の人に要件を伝える。
「付き添いの方はここでお待ちを」
これは分かっていたことだから、ノエルさんは頷いた。
「いってらっしゃい、アシュリー」
「いってきます」
開いた門の中に入ると、ローブを着た女の人二人が立っていて、睨まれた。
「神託がなくば、聖女様に会わせはしないものを」
呼ばれたから来たのに、この態度はちょっとどうなんだろう?
「聞けばあなたは魔女の庇護を受けているそうですね」
「まったく、穢らわしい」
「魔女など邪悪な存在です」
「この世界から消えればいいのです」
……うん、これは、怒っていいと思う。
「魔女は神様を悪く言いません」
眉間に皺をよせて僕を見る二人。
「もし、魔女が邪悪な存在なら、神様はそれを許さないと思います。聖女様のいた村には元々魔女が住んでいました。神様が魔女を嫌っていたのなら、そんなことありえないと思います。神様の気持ちを聞いたんですか? それで穢らわしいと言ってるんですか? そうじゃないなら、神様が許してる魔女のことを否定するのは、神様の気持ちに逆らっているんじゃないですか?」
神様にはスキルをもらったから感謝してる。魔女にはそれよりも感謝してる。僕にとって大切な存在を、パフィ達を知らない人達に勝手に言われるのは嫌だ。
言い返す言葉がないのか、二人は僕を睨む。
「僕を聖女様に会わせたくないのなら、僕、帰ります。僕が会いたいと言ったわけじゃないです」
神託に逆らうのは嫌みたいで、二人の修道女達は慌てたように笑顔になった。ひきつってるけど。
魔女のこと、嫌いでも別にいい。そういう人だっていると思う。でもそれを僕に言うのって、正しくない。どういう気持ちでいってるのか分からないけど、言われる必要はないと思う。
「なにをしてるの?」
聞き覚えのある声がした。
「なかなか来ないと思えば、こんなところで油を売っていたのね?」
「聖女様」
修道女達は頭を下げた。
聖女は崇拝の対象になる、って言葉を思い出す。
ずっと前に村を出ていったアリッサは、すっかり成長していた。
真っ白いキレイな服を着てる。髪も難しそうな編み込みがされてた。
「アンタはいつまで経ってもグズね。さっさと来なさいよ」
アリッサについて奥の部屋に入る。
「そこに座んなさい」
指さされた椅子に座る。
「それにしてもアンタ、ちゃんと食べてるの? 大して成長してないじゃないの」
「食べてるよ」
「聖女様になんて口の利き方を!」
怒り出した修道女を、アリッサが止める。
「邪魔するなら部屋から出てってもらうわ」
「聖女様……」
ジロリとアリッサが睨むと、修道女は静かになった。
相手が変わったけど、アリッサは相変わらずだなと思った。
「アンタを呼べって言われたけど、そこから先は何も言われてないのよねー」
こんな言い方よくないんだけど、早く終わらせて帰りたい。
『…………人の子よ』
アリッサの口から、アリッサの声なのに、アリッサとは思えない声がした。表情もアリッサとは違ってた。
修道女達はその場にひれ伏したので驚いた。
『そなたにしか出来ぬことがあった故に、呼んだ』
僕にしか出来ないこと?
『そなた達人の子が魔女と呼ぶ者達は、この世界を支える柱のようなものだ』
修道女達が驚いた顔をしてる。
嫌ってる魔女にそんな役割があるって知ったら、驚くよね。
『初めに二人の魔女を生んだ。だがそれでは世界を支えきれず、また魔女を生み出した』
ダリア様、キルヒシュタフ様、ヴィヴィアンナ様のことかな。
『以前よりは安定したが、完全ではなかった。故にもう一度生み出した。世界は大いに安定した』
アマーリアーナ様。
魔女は神様が生み出した存在だったんだ。だからあんなにも強い力を持ってるんだ。
『二番目の魔女は壊れてしまった。五番目の魔女を二番目の魔女の代替とせねばこの世界の均衡が崩れる。されどかの者は完全な魔女にあらず。世界を支えるだけの力を持たぬ』
ダリア様達が未来を変えようとしても駄目だったと言ってたのを思い出す。神様がそれを許さないからだって。
『そなた、魔女とならぬか。そなたは他の魔女にも受け入れられている。力を欲していたろう。魔女となれば力を得られるぞ』
魔女って男でもなれるの? 男でも魔女って呼ぶのかな?
……魔女になったら、パフィとずっと一緒にいられて、もうパフィを一人にしないで済むのかな。
「断れ」
声がして、振り返るとパフィがいた。
アリッサを、アリッサの中の?神様を睨んでる。
「支える者がいなければ存在出来ない不完全な世界を作っておきながら、その皺寄せを人の子にまでさせようとは、神が聞いて呆れる」
修道女達がパフィに酷い言葉を投げつける。パフィが指を鳴らすと、修道女達の口に紙が貼り付いた。
「私が不完全な魔女ならば、私を完全な魔女とするがいい」
『……よかろう。次の満月に、第一の魔女の元に行くのだ』
ふん、と鼻を鳴らすとパフィは消えた。
僕はアリッサ──神様を見る。
「本当は、僕を魔女にする気持ちはなかったのではないですか?」
多分、パフィもそれは分かってる。でも、僕に何かあったらと思ってあんな風に言ったんじゃないかな。
『我らはこの世界を愛しく思っている。魔女も人の子も等しく我らの子である。世界の均衡を保つ為に魔女が必要なのは、ひとえに人の子の心が弱いからだ』
修道女達はへなへなと座り込む。
嫌いな魔女がこの世界を支えてて、しかも支えるのは人の心が弱いからだと言われてしまって。
これで考えを変えてくれるといいな。
『五番目の魔女が、そなたを魔女にするならば自分が全てを引き受けるというのは分かっていた』
やっぱりそうなんだ。
「不完全な魔女と完全な魔女の違いはなんですか?」
『様々な差はあるが、二番目の魔女の手にかかり命を落としかけた際に、他の魔女が力を分け与えた。あれにより完全な魔女に近づいたが、あともう少しであるのに、それをあの者は拒んでいる』
パフィは人の部分──父さんからもらったものを残しておきたいんじゃないかな。その気持ちを大切にしてあげたいって思うのは間違えてるのかな。
『人の子よ。そなたにこれを授けよう』
差し出されたのは、なにかの種だった。
『これは輪廻の種』
「輪廻の種?」
『飲んだ者は前世の記憶を引き継いだまま生まれ変わる』
ナインさんも飲んだのかな?
『そなたの近しい者にも前の記憶を持つ者がいるが、あれは命を奪われたからだ。同じように命を奪われたことで記憶を持つ者はいるが、あそこまではっきりと覚えているのは稀だ。次に生まれ変わる時には真っ新な魂となっているだろう』
命を奪われると、前の人生の記憶を受け継ぐんだ。
それは、知らないほうが良さそうだなって思う。
『飲んでも良い。飲まずとも良い。そなたが選ぶといい』
受け取った種を、じっと見る。
たぶん、持って帰ったらパフィが捨てちゃう気がする。だから、飲むなら今しかないと思う。
種を口に入れて飲み込む。
『躊躇せず飲むとは、豪胆な』
「僕は人です。生まれ変わってもあまり変わらないと思います」
生まれ変わっても、そんなに変わらない気がする。
「でも、こんな僕を大切だと思ってくれるんです、皆も、パフィも」
パフィ、きっと怒るだろうけど。
でもね、新しい人達がいるから寂しくないよってパフィに言ったけど、不安もあって。
本当かなって。パフィが絶対に寂しくないなんて約束できないのに、あんなこと言っちゃって。
パフィは優しいから、問題ないとか言いそうだけど。僕は知ってる。あの魔女はとても寂しがり屋なのを。それなのに、長い長い時を生きないといけない。
「これで、生まれ変わってもパフィに会いに行けます」
帰り道、ノエルさんにあったことを話した。輪廻の種のことも話したら、レンレンには絶対話さないようにね、と言われた。
頭を撫でられる。
少し悲しそうな顔で。
「アシュリーが強い子だって知ってるけど、もっと頼ってくれたら嬉しい」
「ありがとうございます、ノエルさん」
「ところでその種のこと、パシュパフィッツェ様に言うの? めちゃくちゃ怒られると思うよ?」
「そうですね、しばらく口をきいてくれないかもしれないです」
ノエルさんが困った顔をする。
「でも、もう飲んでしまったので」
これが僕の気持ちだから。
思ったとおり、パフィに話したらめちゃくちゃ怒られて、家出されてしまった。
ひと月程経ったら戻ってきたけど。
『この先もずっとおまえの面倒を見るハメになるとは。あの時帰らずにその場にいればよかった』
……と、ブツブツ言ってたけど。
パフィ、しっぽが揺れてて隠せてないよ。
「ごめんね? パフィとずっと一緒にいられるのかって思って。ただ、たまには会わない人生があってもいいとは思う」
しっぽでバシバシ叩かれて怒られた。
「でも、きっと会いたくなっちゃうと思うけど」
ふん、と鼻で笑うと、パフィはしっぽで叩くのをやめた。
「怒ってる?」
『当たり前だ』
「でも、パフィだって勝手なことをしたよね?」
『なんだと?』
「神様が僕を魔女にしてくれようとしたのに、断ったでしょ?」
『おまえ、魔女になりたかったのか?』
「魔女になりたいんじゃないよ。パフィが寂しい思いをするのが嫌なだけで」
黒猫姿のパフィはため息を吐く。
『おまえは何故そこまで私が一人になるのを嫌がるのだ。同じ魔女はいる。おまえ以外の人の知り合いもいる。これからも増えるだろう。私が一人きりになることはない。そう言ったのはおまえだ』
改めて聞かれると、ちょっと困る。考えてないわけではなくって、考えてこうなんだけど。
それに記憶がなくても僕達人は生まれ変わるのだし、次の人生で前の記憶があっても別にいいんじゃないかなって、ナインさんを見ててそう思った。
「だってパフィ、僕がいないと駄目だよね?」
パフィはまたひと月ほど家出をして、ダリア様達に連れられて帰ってきた。
「アシュリーってば、肝が据わってるわよねぇ」
アマーリアーナ様の言葉にヴィヴィアンナ様が頷いた。
「さすが我が愛弟子。人の子でありながら輪廻の種を飲むとはな」
カラカラとダリア様は笑う。
「後悔しないの?」
「たまにはするんじゃないでしょうか」
「たまにはね」
パフィは猫の姿のまま丸くなって背を向けてる。
「でも、もうあんな思いしたくなくって」
ダリア様達がパフィをじっと見る。
見られているのに我慢出来なくなったみたいで、ポンと音をさせてパフィが元の姿に戻る。
「永遠に付き纏ってこき使ってやるから覚悟しろ!」
「うん、よろしくね」
永遠ってなんだろう。
もっと僕が大人になって、色んなことを知ったら、後悔したりもするのかも知れない。
でもあの種を飲まなかったら、それも後悔しそう。生まれ変わったら何もかも忘れてるのかも知れないけど。
忘れない人間がいても、いいんじゃないかな、世界に一人ぐらい。
──この世界には永遠の命と途方もない力を持つ者がいる。人はそれを魔女と呼ぶ。
焦熱の魔女ダリア、氷花の魔女キルヒシュタフ、予言の魔女ヴィヴィアンナ、秩序の魔女アマーリアーナ、混沌の魔女パシュパフィッツェ。
何があったのかは不明だが、氷花の魔女キルヒシュタフは消滅したという。
彼女達は時折きまぐれに人と交わるが、人を受け入れることはほとんどないという。
しかし、混沌の魔女パシュパフィッツェだけはその限りではなく、彼女のそばにはいつも一人の人間がいたと記録されている。
その人間はヒッポグリュプスを従えており、少年であったり、青年であったり、名前も異なっていたようだったが、魔女達は皆、その者を必ずアシュリーと呼んだという。
アシュリーとはトネリコの森という意味であり、トネリコの樹は世界樹の別名ともいわれる。
かの者が何者なのかはいずれの書物にも記されてはいないが、永遠を生きる魔女の寄る辺となる世界樹が、人の姿に化けた姿なのではないかと言う者もいる。
ここには神様への祈りを捧げることだけをしたい人が集まるんだって。教会にいる神父さん達は、人を救いたいと思ってる人達。
「神殿にいる人達は修道士といってね、男性なら修道士、女性なら修道女と呼ぶんだよ」
「神父じゃないんですね」
「うん。俗世の名前を捨ててるからね。彼らはとても禁欲的で、神の教えを絶対としてるからね、神の言葉を受け取る聖女様をとてもとても大切にすることはこの前話したね」
それでね、と言ってから僕達をジロジロ見てくる修道士を睨みつけるノエルさん。
「聖女様は俗世とは離れた場所に生きるべき、と考えている者達からすると、異性のアシュリーが聖女様に会うことをよく思ってなくて」
恋をしてはいけないんだもんね。
「そんなことにはならないと思います。僕、子分一でした」
「子分一……。一ってことは他にもいたの?」
「はい、あと三人」
「……三人……」
ノエルさんが絶句してる。
「そういえば神殿の人達は魔女のことをどう思ってるんですか?」
教会の神父さんは、魔女を嫌ってはいなかったけど。
「あんまりよく思っていないかなぁ」
「どうしてですか?」
「ほら、魔女ってとてつもない力を持ってるでしょ? そんな力を持つのは神以外にありえないんだって」
……ちょっとむっとした。
大きな門の前に立って、ノエルさんが門番の人に要件を伝える。
「付き添いの方はここでお待ちを」
これは分かっていたことだから、ノエルさんは頷いた。
「いってらっしゃい、アシュリー」
「いってきます」
開いた門の中に入ると、ローブを着た女の人二人が立っていて、睨まれた。
「神託がなくば、聖女様に会わせはしないものを」
呼ばれたから来たのに、この態度はちょっとどうなんだろう?
「聞けばあなたは魔女の庇護を受けているそうですね」
「まったく、穢らわしい」
「魔女など邪悪な存在です」
「この世界から消えればいいのです」
……うん、これは、怒っていいと思う。
「魔女は神様を悪く言いません」
眉間に皺をよせて僕を見る二人。
「もし、魔女が邪悪な存在なら、神様はそれを許さないと思います。聖女様のいた村には元々魔女が住んでいました。神様が魔女を嫌っていたのなら、そんなことありえないと思います。神様の気持ちを聞いたんですか? それで穢らわしいと言ってるんですか? そうじゃないなら、神様が許してる魔女のことを否定するのは、神様の気持ちに逆らっているんじゃないですか?」
神様にはスキルをもらったから感謝してる。魔女にはそれよりも感謝してる。僕にとって大切な存在を、パフィ達を知らない人達に勝手に言われるのは嫌だ。
言い返す言葉がないのか、二人は僕を睨む。
「僕を聖女様に会わせたくないのなら、僕、帰ります。僕が会いたいと言ったわけじゃないです」
神託に逆らうのは嫌みたいで、二人の修道女達は慌てたように笑顔になった。ひきつってるけど。
魔女のこと、嫌いでも別にいい。そういう人だっていると思う。でもそれを僕に言うのって、正しくない。どういう気持ちでいってるのか分からないけど、言われる必要はないと思う。
「なにをしてるの?」
聞き覚えのある声がした。
「なかなか来ないと思えば、こんなところで油を売っていたのね?」
「聖女様」
修道女達は頭を下げた。
聖女は崇拝の対象になる、って言葉を思い出す。
ずっと前に村を出ていったアリッサは、すっかり成長していた。
真っ白いキレイな服を着てる。髪も難しそうな編み込みがされてた。
「アンタはいつまで経ってもグズね。さっさと来なさいよ」
アリッサについて奥の部屋に入る。
「そこに座んなさい」
指さされた椅子に座る。
「それにしてもアンタ、ちゃんと食べてるの? 大して成長してないじゃないの」
「食べてるよ」
「聖女様になんて口の利き方を!」
怒り出した修道女を、アリッサが止める。
「邪魔するなら部屋から出てってもらうわ」
「聖女様……」
ジロリとアリッサが睨むと、修道女は静かになった。
相手が変わったけど、アリッサは相変わらずだなと思った。
「アンタを呼べって言われたけど、そこから先は何も言われてないのよねー」
こんな言い方よくないんだけど、早く終わらせて帰りたい。
『…………人の子よ』
アリッサの口から、アリッサの声なのに、アリッサとは思えない声がした。表情もアリッサとは違ってた。
修道女達はその場にひれ伏したので驚いた。
『そなたにしか出来ぬことがあった故に、呼んだ』
僕にしか出来ないこと?
『そなた達人の子が魔女と呼ぶ者達は、この世界を支える柱のようなものだ』
修道女達が驚いた顔をしてる。
嫌ってる魔女にそんな役割があるって知ったら、驚くよね。
『初めに二人の魔女を生んだ。だがそれでは世界を支えきれず、また魔女を生み出した』
ダリア様、キルヒシュタフ様、ヴィヴィアンナ様のことかな。
『以前よりは安定したが、完全ではなかった。故にもう一度生み出した。世界は大いに安定した』
アマーリアーナ様。
魔女は神様が生み出した存在だったんだ。だからあんなにも強い力を持ってるんだ。
『二番目の魔女は壊れてしまった。五番目の魔女を二番目の魔女の代替とせねばこの世界の均衡が崩れる。されどかの者は完全な魔女にあらず。世界を支えるだけの力を持たぬ』
ダリア様達が未来を変えようとしても駄目だったと言ってたのを思い出す。神様がそれを許さないからだって。
『そなた、魔女とならぬか。そなたは他の魔女にも受け入れられている。力を欲していたろう。魔女となれば力を得られるぞ』
魔女って男でもなれるの? 男でも魔女って呼ぶのかな?
……魔女になったら、パフィとずっと一緒にいられて、もうパフィを一人にしないで済むのかな。
「断れ」
声がして、振り返るとパフィがいた。
アリッサを、アリッサの中の?神様を睨んでる。
「支える者がいなければ存在出来ない不完全な世界を作っておきながら、その皺寄せを人の子にまでさせようとは、神が聞いて呆れる」
修道女達がパフィに酷い言葉を投げつける。パフィが指を鳴らすと、修道女達の口に紙が貼り付いた。
「私が不完全な魔女ならば、私を完全な魔女とするがいい」
『……よかろう。次の満月に、第一の魔女の元に行くのだ』
ふん、と鼻を鳴らすとパフィは消えた。
僕はアリッサ──神様を見る。
「本当は、僕を魔女にする気持ちはなかったのではないですか?」
多分、パフィもそれは分かってる。でも、僕に何かあったらと思ってあんな風に言ったんじゃないかな。
『我らはこの世界を愛しく思っている。魔女も人の子も等しく我らの子である。世界の均衡を保つ為に魔女が必要なのは、ひとえに人の子の心が弱いからだ』
修道女達はへなへなと座り込む。
嫌いな魔女がこの世界を支えてて、しかも支えるのは人の心が弱いからだと言われてしまって。
これで考えを変えてくれるといいな。
『五番目の魔女が、そなたを魔女にするならば自分が全てを引き受けるというのは分かっていた』
やっぱりそうなんだ。
「不完全な魔女と完全な魔女の違いはなんですか?」
『様々な差はあるが、二番目の魔女の手にかかり命を落としかけた際に、他の魔女が力を分け与えた。あれにより完全な魔女に近づいたが、あともう少しであるのに、それをあの者は拒んでいる』
パフィは人の部分──父さんからもらったものを残しておきたいんじゃないかな。その気持ちを大切にしてあげたいって思うのは間違えてるのかな。
『人の子よ。そなたにこれを授けよう』
差し出されたのは、なにかの種だった。
『これは輪廻の種』
「輪廻の種?」
『飲んだ者は前世の記憶を引き継いだまま生まれ変わる』
ナインさんも飲んだのかな?
『そなたの近しい者にも前の記憶を持つ者がいるが、あれは命を奪われたからだ。同じように命を奪われたことで記憶を持つ者はいるが、あそこまではっきりと覚えているのは稀だ。次に生まれ変わる時には真っ新な魂となっているだろう』
命を奪われると、前の人生の記憶を受け継ぐんだ。
それは、知らないほうが良さそうだなって思う。
『飲んでも良い。飲まずとも良い。そなたが選ぶといい』
受け取った種を、じっと見る。
たぶん、持って帰ったらパフィが捨てちゃう気がする。だから、飲むなら今しかないと思う。
種を口に入れて飲み込む。
『躊躇せず飲むとは、豪胆な』
「僕は人です。生まれ変わってもあまり変わらないと思います」
生まれ変わっても、そんなに変わらない気がする。
「でも、こんな僕を大切だと思ってくれるんです、皆も、パフィも」
パフィ、きっと怒るだろうけど。
でもね、新しい人達がいるから寂しくないよってパフィに言ったけど、不安もあって。
本当かなって。パフィが絶対に寂しくないなんて約束できないのに、あんなこと言っちゃって。
パフィは優しいから、問題ないとか言いそうだけど。僕は知ってる。あの魔女はとても寂しがり屋なのを。それなのに、長い長い時を生きないといけない。
「これで、生まれ変わってもパフィに会いに行けます」
帰り道、ノエルさんにあったことを話した。輪廻の種のことも話したら、レンレンには絶対話さないようにね、と言われた。
頭を撫でられる。
少し悲しそうな顔で。
「アシュリーが強い子だって知ってるけど、もっと頼ってくれたら嬉しい」
「ありがとうございます、ノエルさん」
「ところでその種のこと、パシュパフィッツェ様に言うの? めちゃくちゃ怒られると思うよ?」
「そうですね、しばらく口をきいてくれないかもしれないです」
ノエルさんが困った顔をする。
「でも、もう飲んでしまったので」
これが僕の気持ちだから。
思ったとおり、パフィに話したらめちゃくちゃ怒られて、家出されてしまった。
ひと月程経ったら戻ってきたけど。
『この先もずっとおまえの面倒を見るハメになるとは。あの時帰らずにその場にいればよかった』
……と、ブツブツ言ってたけど。
パフィ、しっぽが揺れてて隠せてないよ。
「ごめんね? パフィとずっと一緒にいられるのかって思って。ただ、たまには会わない人生があってもいいとは思う」
しっぽでバシバシ叩かれて怒られた。
「でも、きっと会いたくなっちゃうと思うけど」
ふん、と鼻で笑うと、パフィはしっぽで叩くのをやめた。
「怒ってる?」
『当たり前だ』
「でも、パフィだって勝手なことをしたよね?」
『なんだと?』
「神様が僕を魔女にしてくれようとしたのに、断ったでしょ?」
『おまえ、魔女になりたかったのか?』
「魔女になりたいんじゃないよ。パフィが寂しい思いをするのが嫌なだけで」
黒猫姿のパフィはため息を吐く。
『おまえは何故そこまで私が一人になるのを嫌がるのだ。同じ魔女はいる。おまえ以外の人の知り合いもいる。これからも増えるだろう。私が一人きりになることはない。そう言ったのはおまえだ』
改めて聞かれると、ちょっと困る。考えてないわけではなくって、考えてこうなんだけど。
それに記憶がなくても僕達人は生まれ変わるのだし、次の人生で前の記憶があっても別にいいんじゃないかなって、ナインさんを見ててそう思った。
「だってパフィ、僕がいないと駄目だよね?」
パフィはまたひと月ほど家出をして、ダリア様達に連れられて帰ってきた。
「アシュリーってば、肝が据わってるわよねぇ」
アマーリアーナ様の言葉にヴィヴィアンナ様が頷いた。
「さすが我が愛弟子。人の子でありながら輪廻の種を飲むとはな」
カラカラとダリア様は笑う。
「後悔しないの?」
「たまにはするんじゃないでしょうか」
「たまにはね」
パフィは猫の姿のまま丸くなって背を向けてる。
「でも、もうあんな思いしたくなくって」
ダリア様達がパフィをじっと見る。
見られているのに我慢出来なくなったみたいで、ポンと音をさせてパフィが元の姿に戻る。
「永遠に付き纏ってこき使ってやるから覚悟しろ!」
「うん、よろしくね」
永遠ってなんだろう。
もっと僕が大人になって、色んなことを知ったら、後悔したりもするのかも知れない。
でもあの種を飲まなかったら、それも後悔しそう。生まれ変わったら何もかも忘れてるのかも知れないけど。
忘れない人間がいても、いいんじゃないかな、世界に一人ぐらい。
──この世界には永遠の命と途方もない力を持つ者がいる。人はそれを魔女と呼ぶ。
焦熱の魔女ダリア、氷花の魔女キルヒシュタフ、予言の魔女ヴィヴィアンナ、秩序の魔女アマーリアーナ、混沌の魔女パシュパフィッツェ。
何があったのかは不明だが、氷花の魔女キルヒシュタフは消滅したという。
彼女達は時折きまぐれに人と交わるが、人を受け入れることはほとんどないという。
しかし、混沌の魔女パシュパフィッツェだけはその限りではなく、彼女のそばにはいつも一人の人間がいたと記録されている。
その人間はヒッポグリュプスを従えており、少年であったり、青年であったり、名前も異なっていたようだったが、魔女達は皆、その者を必ずアシュリーと呼んだという。
アシュリーとはトネリコの森という意味であり、トネリコの樹は世界樹の別名ともいわれる。
かの者が何者なのかはいずれの書物にも記されてはいないが、永遠を生きる魔女の寄る辺となる世界樹が、人の姿に化けた姿なのではないかと言う者もいる。
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周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
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話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
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ただのほのぼの系じゃないけどシリアス過ぎない絶妙なバランス感覚。面白かったー!
期待しないで読んだら最高に面白かった
ありがとうございますm(_ _)m
完結なのがとても名残惜しいです
素敵な美味しいお話をありがとうございました
お読みいただきありがとうございます!
美味しいといっていただけて嬉しいです。
飯テロを目指しておりました。
また別の話でお目にかかれますように。