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009.大臀筋対決
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獣人の世界には番というものがあるのだとアイリスが説明してくれた。
「獣人にとっては唯一無二の存在なのだそうです」
運命とかそう言う奴かしら?
「番だってどうやったら分かるの?」
「におい、だそうです」
さすが獣人と言うべきなのかしらね? つまり、本能って事かしら?
「その番は、同じ獣人なの?」
いえ、とアイリスは首を振る。
私が教えた紅茶の蒸らしを絶賛learning中のアイリスは、自室にいると頻繁にお茶を飲ませてくる。お陰でトイレが近くなったわ。
「人族であったり、魔族であったりと様々です」
「もし、番が既に誰かのパートナーだったらどうなるの?」
「……祖父の代ぐらいの事です。フィルモアからは遠く離れた獣人の国の王が代替わりしまして、隣国の魔族の王妃と対面したのだそうです。王妃は人族から政略の為に輿入れされた方でした」
ふむふむ。ドロ沼展開かしらね?
「もうお分かりでしょうが、王妃がその番だったのです。自身の番を手に入れようと魔族の王に申し入れましたが、当然拒絶されます。魔族の王にとってはただの政略の道具で、それ以上の意味はなかったと聞いておりますが、魔族は獣人と同じぐらいに、己の物に手を出されるのを嫌います。
ですが、獣人にとって番とは魂の片割れと言います。交渉が決裂し、獣王は魔族に宣戦布告して戦争が始まったのです。この戦争には周辺諸国も巻き込まれたとか」
まぁ、当然よねぇ。
いくら番だって言ったって、自分の妻をいきなり寄越せとか、正気なのかと思うわ。
獣人には常識でも、他種族の常識じゃないだろうし。
「……どうなったの?」
淹れてもらった紅茶を飲みながら続きを促す。
「長期戦の末、和解しました」
え? 和解出来るの、それ?
「王妃が自決したのです」
あー……。
はぁ、とアイリスはため息を吐いた。
「それからは、獣人の国賓と会う際は、異性の既婚者は出席不可となりました。婚約者のいる者も不可です」
戦争になるんじゃねぇ……。
それにしても、獣人って随分と本能主義に聞こえるわね。しかもそれを獣人以外にも求めるなんて。駄目じゃないかしら、それ?
「今回の姫の歓待には、殿下も出るんでしょう? 大丈夫なの?」
「お二人とも独身ですし、過去に何度も対面されておりますから」
なるほどね。
それなら問題なさそうね。
「レオ様はお会いした事あるのかしら?」
「おありですし、番ではないようです。ただ──」
ただ?! なに? 気になる。
「姫に大変気に入られております」
マッチョに見慣れた獣人の姫からしたら、マッチョメンなレオ様は恋愛対象になりうるって事ね?!
きたわ! ライバルいるじゃないの!
「もしかして、婿に来いとか言われてたりするのかしら?」
「ご明察にございます。アロウラス様はお断りしておられますし、王太子殿下も再三お断りなさってらっしゃいます。まだ、嫁にと言うなら話は変わるのでしょうが、姫が嫁は嫌だと仰せとの事です」
良かったわー!
一生婿ムコ言ってて頂戴!
とは言え、気になる点があるわ。
「でも、相手は姫なのでしょう? 国益はあるのではないの?」
「獣人の王は五年に一度のコロシアムで決まります。王族が入れ替わる訳です」
そうだったわ。弱肉強食な世界だったわね。
そんな所には王太子の従兄は送れないわねぇ。人族にメリットがないわ。
「それに、姫の番が見つかればアロウラス様は日陰の身になります」
色々駄目ね。
国益はあるでしょうけど、婚姻によるメリットはなさ過ぎて話にならないわ。
そう言う事もあって、あの腹黒王太子は私とレオ様をくっつけたかったのね。
ぐっじょぶじゃないの。
「受けて立つわ、レオ様を巡っての女の戦い」
「既に婚約者でいらっしゃるのに、対抗なさるのですか?」
「馬鹿ね、アイリス。自分の男に言い寄る女を蹴散らさないでどうするのよ」
姫の姿絵とかないかしら?
適当に構えてたけど、本気になるわ、私。
「アイリス、その日は完全武装するわよ」
「武装?!」
「そうよ。姫より美しくならなくちゃね」
「あぁ、そう言う意味でしたか。騎士服でもお召しになるのかと思いました」
「それはレオ様のお姿を見て楽しむから良いの」
フフフフフフ、獣人の姫がなんぼのもんだって言うのよ。大人しく帰って番でも何でも探して来いって言うのよ。
完全武装した私を見て、アイリスは目を潤ませている。ちょっと、何で泣いてるのよ?
「リサ様、素晴らしいですっ! お美しいです!!」
「ありがとう、アイリス」
先日のお茶会の時にも、結局メガネを取られてドレスを着させられた訳だけど、それぐらいのもの。最低限の装いと言う奴ね。
私を着飾らせたいアイリスには、今日は好きなだけやってもらったのよね。満足してもらえたようで良かったわ。
なにしろ今日はレオ様の恋敵をもてなさねばならないんだから、気合入れていかなくちゃね!
王太子が用意したドレスは、なかなかにセンスが良い。
あからさますぎない程度に身体のラインが出るように作られている。
レオ様から届いた宝石は、レオ様の瞳と同じ色の深い青色のイヤリングとネックレスだった。
結い上げた髪はアイリスがレオ様の髪の色と同じ金細工の飾りを付けてくれた。これは王太子から届いた物。
香水は気に入ったのがなかったから、転移時に一緒に運ばれた荷物に紛れ込んでいた奴をつけた。
消防士との合コンの時に使って、その後に何でかこのバッグに入れたのよね。
一緒に転移した荷物──薬局で買いまくった物──が入ったビニール袋の中にはシャンプーやらリンス、トリートメントなんかが入ってる。
最初はこれを使ってたんだけど、ここに残る事を決めた訳だから、こっちの物に慣れないといけないからと、使わないようにしてる。
「アロウラス様がお迎えにいらっしゃいました」
アイリスがドアを開けると、そこには正装の騎士服を着たレオ様が立っていた。
カッコいい! カッコいい! 筋肉がほとばしっちゃってるじゃないのー!
私と目が合った瞬間、顔が真っ赤になる。見惚れてくれてるのかしら? もしそうなら着飾った甲斐があったと言うものね!
「…………?」
待てど暮らせどレオ様が部屋の中に入って来ない。
どうしたのかしら?
「?」
アイリスがレオ様の前に立ち、手を振るも、レオ様に反応がない。
振り返ったアイリスが言った。
「立ったまま気絶なさっておいでです」
なんですって?!
意識を取り戻したレオ様は、恥ずかしそうに口元を押さえている。
「申し訳ない……リサの、あまりの美しさに意識が飛んでしまった」
好きな人に褒められて嫌な気持ちになる人間はいない。
うっふっふっ、レオ様と結婚した暁には、毎日フルでいくわよ、私!
でも、気絶ってどういう事なのかしら?
「嬉しい、レオ様」
笑顔を向けると、真っ赤な顔で私を見つめるレオ様。
「レオ様?」
「こんなに美しい女性が、私の婚約者なのかと、今でも信じられない」
「まぁ……」
さすが貴族ね。こんな言葉、日本の男なら絶対言わないもの。
でも、レオ様だから、お世辞じゃないのよね。本当にそう思ってるんだと分かる。はぁ、もう、可愛い。
赤い顔が可愛いわ!
「リサを会場に連れて行きたくない。皆がリサに夢中になるに違いない……」
「それは私もです。レオ様は姫のお気に入りだと伺っております」
「だが私は姫の番ではない。だから大丈夫だ」
「婿にと求められている事は伺っております」
あぁ、と呻くと、レオ様はこめかみに手を当てた。
「何度も断りを入れているのだが、聞いてくれなくて困ってはいるが……」
「それに、婚約者が出来たにも関わらず、今回レオ様がパーティに呼ばれているのは、姫のたっての希望と聞いています」
婚約者が出来た事を信じていないか、婚約者に勝てると思っているからレオ様を呼べと言ったんだと思うのよね。
結局姫の姿絵は見てないんだけど、見た所で私は変えられないんだから、このままでいくしかないわね。
「たとえそうであっても、私の身も心もリサに捧げている。安心して欲しい」
きゅん!
その身体が私の物って事ね?! あぁ、明日挙式したい! しかも心も私に捧げているんですって! きゅんきゅんしちゃうけど、騎士の心って普通、主君に捧げないかしら?
長い廊下を抜け、大きな扉の前に立つ。
扉の向こうには沢山の人の気配がする。
レオ様の手を握る。
「必ず私がレオ様をお守りしますわ」
途端にレオ様の顔が赤くなる。
「リサ、嬉しいが、それは私が言うべき言葉であって……」
扉が開き、中の光が廊下にいる私達の方に漏れる。
視線を会場に戻す。
「行こう」
「はい、レオ様」
レオ様にエスコートしてもらって会場に入る。
腹黒殿下こと、王太子に挨拶を済ましてからは、レオ様に挨拶に来る貴族達と話をした。次から次へと来る人物を捌く。面談千本ノックみたいな感じかしらね、コレ。
熱っぽい眼差しを送ってくるオッサンや若造なんかが現れるたびに、そっとレオ様に寄りかかる。
最初は戸惑っていたレオ様も、次第に慣れてきたのか肩に手をおいたり、腰に手を回したり出来るようになっていった。そのたびに触れる肉厚の手が! 大胸筋の厚みが! 三角筋の逞しさが!!
はぁ……たまらないわ……このままお持ち帰りしていただきたい。私がお持ち帰りでも可よ、勿論。
こんな事言ったらアイリスに怒られるって分かってるけど、思うだけなら自由よ! それに婚約者の事を思ってるんだから悪い事じゃないと思うのよね。
「レオニード様っ」
可愛い声が聞こえた。目の前の人が左右に分かれて、声の主の姿がよく見えた。
「リリス姫」
私達の前に現れたのは、ピンク色の髪をした、花のように可憐な少女だった。
淡いピンク色のふわふわのシフォンのドレスをまとった、いかにもお姫様といった風情の女子が立っていた。
…………え?
これが、獣人の姫? 私が予想していたのと真逆なんですけど?
「レオニード様、お会いしたかったですっ!」
真っ赤な顔で、直球の言葉をぶつけるウサギに、私は頭をトンカチで叩かれたような気持ちでいっぱいだった。
ムキムキマッチョが多いって言ってたから、女子もビルドアップ系か、女豹タイプが多いのかと思っていたのに。
これ、ウサギさんって奴? バニーじゃなくてね、小動物の方のウサギ。
「獣人にとっては唯一無二の存在なのだそうです」
運命とかそう言う奴かしら?
「番だってどうやったら分かるの?」
「におい、だそうです」
さすが獣人と言うべきなのかしらね? つまり、本能って事かしら?
「その番は、同じ獣人なの?」
いえ、とアイリスは首を振る。
私が教えた紅茶の蒸らしを絶賛learning中のアイリスは、自室にいると頻繁にお茶を飲ませてくる。お陰でトイレが近くなったわ。
「人族であったり、魔族であったりと様々です」
「もし、番が既に誰かのパートナーだったらどうなるの?」
「……祖父の代ぐらいの事です。フィルモアからは遠く離れた獣人の国の王が代替わりしまして、隣国の魔族の王妃と対面したのだそうです。王妃は人族から政略の為に輿入れされた方でした」
ふむふむ。ドロ沼展開かしらね?
「もうお分かりでしょうが、王妃がその番だったのです。自身の番を手に入れようと魔族の王に申し入れましたが、当然拒絶されます。魔族の王にとってはただの政略の道具で、それ以上の意味はなかったと聞いておりますが、魔族は獣人と同じぐらいに、己の物に手を出されるのを嫌います。
ですが、獣人にとって番とは魂の片割れと言います。交渉が決裂し、獣王は魔族に宣戦布告して戦争が始まったのです。この戦争には周辺諸国も巻き込まれたとか」
まぁ、当然よねぇ。
いくら番だって言ったって、自分の妻をいきなり寄越せとか、正気なのかと思うわ。
獣人には常識でも、他種族の常識じゃないだろうし。
「……どうなったの?」
淹れてもらった紅茶を飲みながら続きを促す。
「長期戦の末、和解しました」
え? 和解出来るの、それ?
「王妃が自決したのです」
あー……。
はぁ、とアイリスはため息を吐いた。
「それからは、獣人の国賓と会う際は、異性の既婚者は出席不可となりました。婚約者のいる者も不可です」
戦争になるんじゃねぇ……。
それにしても、獣人って随分と本能主義に聞こえるわね。しかもそれを獣人以外にも求めるなんて。駄目じゃないかしら、それ?
「今回の姫の歓待には、殿下も出るんでしょう? 大丈夫なの?」
「お二人とも独身ですし、過去に何度も対面されておりますから」
なるほどね。
それなら問題なさそうね。
「レオ様はお会いした事あるのかしら?」
「おありですし、番ではないようです。ただ──」
ただ?! なに? 気になる。
「姫に大変気に入られております」
マッチョに見慣れた獣人の姫からしたら、マッチョメンなレオ様は恋愛対象になりうるって事ね?!
きたわ! ライバルいるじゃないの!
「もしかして、婿に来いとか言われてたりするのかしら?」
「ご明察にございます。アロウラス様はお断りしておられますし、王太子殿下も再三お断りなさってらっしゃいます。まだ、嫁にと言うなら話は変わるのでしょうが、姫が嫁は嫌だと仰せとの事です」
良かったわー!
一生婿ムコ言ってて頂戴!
とは言え、気になる点があるわ。
「でも、相手は姫なのでしょう? 国益はあるのではないの?」
「獣人の王は五年に一度のコロシアムで決まります。王族が入れ替わる訳です」
そうだったわ。弱肉強食な世界だったわね。
そんな所には王太子の従兄は送れないわねぇ。人族にメリットがないわ。
「それに、姫の番が見つかればアロウラス様は日陰の身になります」
色々駄目ね。
国益はあるでしょうけど、婚姻によるメリットはなさ過ぎて話にならないわ。
そう言う事もあって、あの腹黒王太子は私とレオ様をくっつけたかったのね。
ぐっじょぶじゃないの。
「受けて立つわ、レオ様を巡っての女の戦い」
「既に婚約者でいらっしゃるのに、対抗なさるのですか?」
「馬鹿ね、アイリス。自分の男に言い寄る女を蹴散らさないでどうするのよ」
姫の姿絵とかないかしら?
適当に構えてたけど、本気になるわ、私。
「アイリス、その日は完全武装するわよ」
「武装?!」
「そうよ。姫より美しくならなくちゃね」
「あぁ、そう言う意味でしたか。騎士服でもお召しになるのかと思いました」
「それはレオ様のお姿を見て楽しむから良いの」
フフフフフフ、獣人の姫がなんぼのもんだって言うのよ。大人しく帰って番でも何でも探して来いって言うのよ。
完全武装した私を見て、アイリスは目を潤ませている。ちょっと、何で泣いてるのよ?
「リサ様、素晴らしいですっ! お美しいです!!」
「ありがとう、アイリス」
先日のお茶会の時にも、結局メガネを取られてドレスを着させられた訳だけど、それぐらいのもの。最低限の装いと言う奴ね。
私を着飾らせたいアイリスには、今日は好きなだけやってもらったのよね。満足してもらえたようで良かったわ。
なにしろ今日はレオ様の恋敵をもてなさねばならないんだから、気合入れていかなくちゃね!
王太子が用意したドレスは、なかなかにセンスが良い。
あからさますぎない程度に身体のラインが出るように作られている。
レオ様から届いた宝石は、レオ様の瞳と同じ色の深い青色のイヤリングとネックレスだった。
結い上げた髪はアイリスがレオ様の髪の色と同じ金細工の飾りを付けてくれた。これは王太子から届いた物。
香水は気に入ったのがなかったから、転移時に一緒に運ばれた荷物に紛れ込んでいた奴をつけた。
消防士との合コンの時に使って、その後に何でかこのバッグに入れたのよね。
一緒に転移した荷物──薬局で買いまくった物──が入ったビニール袋の中にはシャンプーやらリンス、トリートメントなんかが入ってる。
最初はこれを使ってたんだけど、ここに残る事を決めた訳だから、こっちの物に慣れないといけないからと、使わないようにしてる。
「アロウラス様がお迎えにいらっしゃいました」
アイリスがドアを開けると、そこには正装の騎士服を着たレオ様が立っていた。
カッコいい! カッコいい! 筋肉がほとばしっちゃってるじゃないのー!
私と目が合った瞬間、顔が真っ赤になる。見惚れてくれてるのかしら? もしそうなら着飾った甲斐があったと言うものね!
「…………?」
待てど暮らせどレオ様が部屋の中に入って来ない。
どうしたのかしら?
「?」
アイリスがレオ様の前に立ち、手を振るも、レオ様に反応がない。
振り返ったアイリスが言った。
「立ったまま気絶なさっておいでです」
なんですって?!
意識を取り戻したレオ様は、恥ずかしそうに口元を押さえている。
「申し訳ない……リサの、あまりの美しさに意識が飛んでしまった」
好きな人に褒められて嫌な気持ちになる人間はいない。
うっふっふっ、レオ様と結婚した暁には、毎日フルでいくわよ、私!
でも、気絶ってどういう事なのかしら?
「嬉しい、レオ様」
笑顔を向けると、真っ赤な顔で私を見つめるレオ様。
「レオ様?」
「こんなに美しい女性が、私の婚約者なのかと、今でも信じられない」
「まぁ……」
さすが貴族ね。こんな言葉、日本の男なら絶対言わないもの。
でも、レオ様だから、お世辞じゃないのよね。本当にそう思ってるんだと分かる。はぁ、もう、可愛い。
赤い顔が可愛いわ!
「リサを会場に連れて行きたくない。皆がリサに夢中になるに違いない……」
「それは私もです。レオ様は姫のお気に入りだと伺っております」
「だが私は姫の番ではない。だから大丈夫だ」
「婿にと求められている事は伺っております」
あぁ、と呻くと、レオ様はこめかみに手を当てた。
「何度も断りを入れているのだが、聞いてくれなくて困ってはいるが……」
「それに、婚約者が出来たにも関わらず、今回レオ様がパーティに呼ばれているのは、姫のたっての希望と聞いています」
婚約者が出来た事を信じていないか、婚約者に勝てると思っているからレオ様を呼べと言ったんだと思うのよね。
結局姫の姿絵は見てないんだけど、見た所で私は変えられないんだから、このままでいくしかないわね。
「たとえそうであっても、私の身も心もリサに捧げている。安心して欲しい」
きゅん!
その身体が私の物って事ね?! あぁ、明日挙式したい! しかも心も私に捧げているんですって! きゅんきゅんしちゃうけど、騎士の心って普通、主君に捧げないかしら?
長い廊下を抜け、大きな扉の前に立つ。
扉の向こうには沢山の人の気配がする。
レオ様の手を握る。
「必ず私がレオ様をお守りしますわ」
途端にレオ様の顔が赤くなる。
「リサ、嬉しいが、それは私が言うべき言葉であって……」
扉が開き、中の光が廊下にいる私達の方に漏れる。
視線を会場に戻す。
「行こう」
「はい、レオ様」
レオ様にエスコートしてもらって会場に入る。
腹黒殿下こと、王太子に挨拶を済ましてからは、レオ様に挨拶に来る貴族達と話をした。次から次へと来る人物を捌く。面談千本ノックみたいな感じかしらね、コレ。
熱っぽい眼差しを送ってくるオッサンや若造なんかが現れるたびに、そっとレオ様に寄りかかる。
最初は戸惑っていたレオ様も、次第に慣れてきたのか肩に手をおいたり、腰に手を回したり出来るようになっていった。そのたびに触れる肉厚の手が! 大胸筋の厚みが! 三角筋の逞しさが!!
はぁ……たまらないわ……このままお持ち帰りしていただきたい。私がお持ち帰りでも可よ、勿論。
こんな事言ったらアイリスに怒られるって分かってるけど、思うだけなら自由よ! それに婚約者の事を思ってるんだから悪い事じゃないと思うのよね。
「レオニード様っ」
可愛い声が聞こえた。目の前の人が左右に分かれて、声の主の姿がよく見えた。
「リリス姫」
私達の前に現れたのは、ピンク色の髪をした、花のように可憐な少女だった。
淡いピンク色のふわふわのシフォンのドレスをまとった、いかにもお姫様といった風情の女子が立っていた。
…………え?
これが、獣人の姫? 私が予想していたのと真逆なんですけど?
「レオニード様、お会いしたかったですっ!」
真っ赤な顔で、直球の言葉をぶつけるウサギに、私は頭をトンカチで叩かれたような気持ちでいっぱいだった。
ムキムキマッチョが多いって言ってたから、女子もビルドアップ系か、女豹タイプが多いのかと思っていたのに。
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