怪奇事変

桜木未来(小説家見習い)

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怪奇事変 千羽鶴

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病院に努めている看護師である松雪亨まつゆきとおるは4階に居る患者の担当で、良くその人物と話す事がある。
 至って普通の子と言うのが亨の感想で、404号室に居る少女の名前は雪村紗枝ゆきむらさえ
 病状は――脳血管疾患
 後遺症として、片方の手足の麻痺による歩行困難、視覚欠損と日常的な障害が重なっている。
 だが彼女は明るく、何より学友による見舞いがある事が、彼女にとっての希望になっていた。
 とは言え、普通の人達の時間の流れと彼女の時間の流れは同じようで全く違う、決まった時間に食事、リハビリ、入浴、就寝と従ったならないのと、
 彼女の場合は家族の都合による事で家での暮らしが出来ず、強制的に病院での暮らしを余儀なくなされている。
 そんな彼女に同情こそしているものの、担当になった時はどう話して良いか分からず、最初の挨拶は暗いスタートだと思っていたが、彼女は何時も明るかった。
 そして彼女の傍らにある“千羽鶴”は数年に1度作り替わり、その都度色合いなど変えてカラフラな千羽鶴となっている。
 
 「先生!今日も来てくれたんですね!」

 「いや、俺は先生じゃないよ、ただの看護師って何度も説明してるだろ?」

 彼女の容態を軽く確認しつつ、ペアで活動している水川綾みながわあやにデリケートな部分は任せる。
 外の景色は紅葉が咲き誇り秋を感じさせる季節となっていることを実感しており、たまに彼女を車椅子に乗せて景色を楽しみつつ紅葉の花見をさせてあげるのが、彼女へのストレス解消方法だ。
 ただ、症状が症状だけにあまり身体を酷使しすぎるのもダメ、またストレスを貯め過ぎるのも脳への負荷となる場合がある為、此処の塩梅は医者でないと難しいかもしれない。
 
 「終わったわよ」

 「ありがとう、お姉さん!」

 「もう中3ね……」

 「……」

 「そうだね、でも仕方ないかな……身体が治るまでは仕方ないし」

 そう、中学3年生と言う事は、もう同学年の学生は進級し、自分は取り残されると言う孤独を味わう事となる。
 当然、千羽鶴ももう変わる事はないだろう。
 
 「みんなこの紅葉を想像して赤と茶色の鶴にしてくれたのかな?」

 「そうね、黄色もあって、紅葉を連想させる素敵な千羽鶴だわ」

 「確かにね、今日はどうする?」

 「んー……リハビリはして、ちょっと散歩したいかも」

 「よし、じゃ今日はそれで行こう」

 「うん!」

 とは言っても専属担当ではい、担当とは言ったがあくまで患者1人1人に対しての発言と言う事もあり、彼女に付きっきりと言う訳には行かないのだ。
 午前から午後の数時間、それ以降は交代制で他の方の容態を見なくちゃならない。
 早速、車椅子を用意すると、紗枝は松雪と水川の手を借りて車椅子に乗車し、リハビリルームに進みそこでリハビリを行う。
 松雪は勉強の一環で、患者がもしそうなったらどうすれば良いのか?っと言った疑似体験をしているが、それでも実際の病気は過酷なものだろう。
 額に汗を作りながら歩く練習をし、マッサージを行い、そして今となってはご褒美の散歩となる。
 その後は交代となり、別の看護師が彼女のケアを担当し、入浴は当然女性が手伝い、そして夕飯を食し、彼女の1日は終わるのである。
 
 「どう?私、少しは歩けるようになったかな?」

 「うんうん、前よりちょっとだけど歩けるようになってる」
 
 水川はすかさずフォローを入れて、彼女の心身のケアを怠らない。
 こう言う純粋無垢な質問に対して自分は詰まってしまうと、松雪は考えこんでしまうが、患者の前で自分が暗い表情をするのは間違っていると改め笑顔を作る。
 
 「そう言えば、お婆ちゃん亡くなっちゃったの?」

 「へ?」

 急な質問に驚いてしまう松雪にアイコンタクトと水川は意志を伝える。
 
 「そ、そうかな?俺は担当とは言っても、飯島さんの事はさっぱりでね、良く分からないんだ」

 困り顔で伝えると、つまらなそうに「ふ~ん」とだけ答え、水川の方に振り向く。

 「お姉さんは?」

 「飯島さんの話は私も聞いてないわ、なんでそこまで飯島さんの事が気になるの?」

 純粋な疑問に雪村は返す。

 「ううん、ちょっとお婆ちゃんに教えてもらった事があって、それの感謝を伝えたくて……」

 「教えてもらった事?」

 そう疑問を返すと、先ほどまで暗かった顔とは一見し笑顔で返す。

 「うん!コレ!お婆ちゃんが暇なときに作ってくれたの!作り方も教えてもらってつい楽しくて、だからお礼しないとって思ってたんだけど……知らないなら良いや!」

 折り鶴を見せた雪村は笑顔で、大切そうにその折り鶴を胸元に抱え込む。
 まるで本当に大切な自分の宝物の様に。

 「私、コレでみんなにがしたいんだ!」

 「へぇ~それは立派だな」

 「素敵ね!きっと喜ぶと思うわ」

 「うん、絶対喜ぶよ!私だって嬉しくなるし!」

 「……」

 何故だかこの瞬間、松雪はとても背筋が凍るような凍てつ差を感じた。
 鳥肌が立つような……どうしてその理由は分からなかった。
 だが彼女の話した内容に嘘偽りが含まれている訳ではなく、寧ろ素晴らしいと思う。
 本来なら自分の事で精一杯のはずなのに、他の人の事まで考えられるなんて、そんな少女が何故こんな重い病気を患ってしまったのか、本当に神様は不平等だと感じた。

 休憩時間――

 「はぁ~」

 「ため息なんてどうしたんだよ」

 ファイルを漁りながら同じ休憩時間の同僚に話をかける。

 「いや、だって午後は404号室だぜ?嫌に決まってんだろ?」

 「どうして?雪村さんは良い子だよ」

 「あのちびっ子じゃなくて……お前、午前の担当してて何もしらねーのかよ?」

 「なにが?」

 「亡くなった飯島さん」

 その言葉でファイルを探す手が止まる。
 実は先ほどまでその飯島さんのカルテを探していたのだから。
 
 「何時も窓を眺めていたお婆さんだろ?末期のガンの」

 「ああ、別に亡くなったのはもうステージ的には仕方なかった、でもよ、亡くなり方がな……」
 
 「亡くなり方?」

 「深夜だと思うんだが、屋上から飛び降りたらしい」

 「……ガンが理由?」
 
 「って線だろうな、やれる事は全部やったが報われる事がなかった、諦めたかったんだろうが、その時に選んだ場所が404号室から見ていた場所、つまり見える景色の下に落下して亡くなったらしい」

 「……まさか」

 変な妄想が頭の中を巡るが直ぐに拭う。

 「あの外を見ていた内情は、自殺の場所を決めていたんじゃないかって噂まで流れてくる始末だ、オマケに――」

 「コラ!……飯島?アンタ亡くなった方で遊ぶような真似するんじゃないよ!」

 「は、はい!すみません……でした」

 「松雪も!こんなバカの話なんて信用しなくて良いから、さっさと食事済ませて午後の仕事お願いね」

 「は、はい!」

 副主任の号令の様な言葉でまだ手付かずだった弁当を開き食事を開始する。
 だがまだ話足りない飯島がこっそりこちらに椅子を近づけて先ほどの話をする。

 「例の婆さん、死ぬ前にちびっ子に折り鶴を教えてたらしいぜ?」

 小声で話す飯島にそれは今朝聞いた話と合致する部分がある為、聞き返す。

 「それは雪村さんから聞いたよ、それのどこが問題なんだい?」

 「噂だけどよ、その折り鶴――自分の為に折ってくれって頼んだらしい、気味悪いよな」

 「……」

 何故?と言う言葉が浮かんだ。
 自分の為に折る折り鶴……言わば亡くなった時の手向けの花の代わりとでも言いたいのだろうか?
 もしそうだとしたら、確かに不気味だ。
 何故そのような事をお婆さんは雪村さんにさせたのか?
 いや、あの性格だ、きっと彼女ならばどんな願いも叶えてくれると僅かな願いを残して、この世を去っていったのだろうと自己完結させた。
 昼食もそこそこに終わらせたあとロッカーに弁当箱を戻そうとした時、雪村さんが車椅子で移動させられているのを見た。
 こちらと目線が合い手を振ってくれている。
 毎度の事なので手を振り返すと――その手には折り鶴が握られていた。



 深夜――

 夜間の見回りは最初はとても怖くてどうしようもなかったが、今は1人で巡回できるようになった。
 だがそれでも怖さは拭えず、特に4階は不気味な噂が立つ事が多い。
 この院内でもそう言った噂は流れているが、此処の4階を利用してるお客様がいる以上、個人的な気持ちでやる・やらないの選択をするのは失礼だろう。

 「401……よし、402……よし」

 聞こえないぐらいの声量で確認を行っていく。
 いびきしか聞こえない為、寝ているのは一目瞭然だが、それでも起きていたら?
 眼球をこれでもかと言う程、開けてこちらを見つめていたらどうしようっと言う不安もあったが、杞憂だった。
 そんな何時の日課の中、404号室……雪村さんが寝ている寝室だ。
 今は1人になってしまい心細いのか、他の女性看護師が寝るまで付き添ってくれてはいるが、稀にナースコールで呼ばれ眠れない不安と怖さを相談される事もある。
 今日は寝ている……っと、あの時、持っていた折り鶴が目に入った。
 お婆さんが死の間際に教えてもらい、自分の為に折ってくれと頼んだ折り鶴……それを窓際に置いてあったのはお婆さんの為だろ。
 そっと置いてある折り鶴に触れると、折り方がまだ拙い部分があったせいで紙が崩れてしまう。

 「(し、しまった……)」

 急いで直そうとするも、流石に折り鶴なんて折った事など、小学生以来な為、もう覚えてない。
 何とか修復させようとする内に紙は完全にしわくしゃになった、正方形の紙へと形状を元に戻した。

 「(しまった、折角雪村さんが飯島さんの為に折った鶴なのに……)」

 余計な事をしてしまったっと、明日何か詫びを入れようと紙をそのまま置いて立ち去ろうとした時、ふと紙に様な気がした。 
 もう一度確認すると、そこには『お婆ちゃん、天国でも幸せに』とだけ書かれていた。

 「……」

 雪村さんは優しい、それはこの院内の全ての人が知っているのではないかと思うぐらいに広がっている。
 何故そんな彼女がこんな目に遭っているのか……世界は不平等だと感じた。
 


 「えぇー!?アレやったのお兄ちゃんなの?」

 「ごめんよ!わざとじゃないんだ、気になって触ったら解けてしまって……」

 早速翌日に謝りに行き、ご機嫌を取ろうとするも、雪村さんはちゃんと怒っていた。
 いつも優しいあの雪村さんが……だ。
 つまりそれほど大切にしていたのだろうと言う事が伺える。
 
 「良ければ俺にも折り方教えてくれないか?そうしたら飯島さんの折り鶴、俺も折れるし」
 
 「んー……良いよ、もう怒ってないし、お兄ちゃんも仕事で仕方なくなんでしょ?だったら伝えなかった私が悪いよ」

 「え?」

 「だから良いよ、許してあげる!でも折り方は教えられない」

 「ど、どうして?」

 「私、あと何百枚か折らないといけないの?」
 
 そう言って雪村さんは千羽鶴に視線を移す。

 「ああ、もしかして友達に送るつもりなのかい?」

 「んー……送るまで間に合うか分からないけど、なるべくそうするつもり!」

 「なら尚更――」

 「い・い・の!私の楽しみ奪わないでよね、お兄ちゃん!」

 「わ、悪かったよ」

 どうやらこの病院での世界で唯一憩いになったのが折り鶴ならば邪魔できないだろう。
 こうしてまた昨日と同じ時間が行われ休み時間となると、また話をかけてきた。

 「お前雪村さんに怒られたんだって?」

 「……言うな」

 「レディーが丹精込めて作った作品を壊すからだよ、余計な事して噂広まると他の患者にも伝わるぞ~」

 「余計なお世話だ!」

 いつの間にかこの病院でのマドンナとなった雪村さんを怒らせればそれは学園で言うマドンナを怒らせるのと等しい。
 そうする事で他の患者からの冷たい態度や、仕打ち、叱責などを頂戴する事が多くなってしまうのは、分かっていたつもりだが……。

 「(飯島さんが亡くなったのは数日前なのに、今になってなんで……)」

 慣れてなかった?と言えばそうなのかもしれないが、あまり深く考えないでおこう。
 
 夜間――

 またこの時間になって4階の見回りを行い雪村さんの部屋に音連れると、今度はちゃんと治った折り鶴が置かれていた。
 その他には、朝聞いた友人に送るであろう千羽鶴の一部が机の上に置かれていた。
 千羽鶴を1人で完成させるのはとても大変だ、本当に手助けしなくて大丈夫なのだろうか?
 だが彼女自身が1人で完成させる事を望んだ以上、これ以上余計な言葉は返って逆鱗に触れるだけだと感じ、手伝うのを辞めた。
 部屋を後にしようとすると、机の下に折り鶴が落ちているのを発見し、拾い上げた方が良いだろうと思い、起こさないように近づき拾うと――

 「何してるの?」

 「ッ!?」

 顔面スレスレに近づいた、瞼を大きく開いた彼女の目が自分を捉えていた。
 ホラー映画などである展開に、あまりの驚きに声が出ないが、何とか呼吸を整え話す。

 「お、お、起きてたん……だね」

 「うん、先生がコソコソ何かしてるから」

 「ご、ごめん、夜間の巡回なん――」

 「知ってる、返して」
 
 強引に自分の手にある折り鶴を奪うと、しばらくジッと見られた後、布団を被り就寝に着く様だ。

 「さ、紗枝ちゃん」

 「先生、寝るの、おやすみ、早く仕事戻らないと言い振らしちゃうよ?」

 「ご、ごめん!お、おやすみ」

 急いでその場から出て行き、早鐘する心臓を落ち着ける。
 あんな表情の彼女を見た事がない。
 まるで何表情。
 兎に角、彼女の言う内容は間違ってはいない、早く仕事を再開しなければっと歩き出しその日の巡回は終わる。
 ナースステーションに戻ると、同僚と交代する際に指摘される。

 「松雪、袖ってそんな黒く汚れてたっけ?」

 「え?」
 
 確認すると、何やら黒い汚れが付いており、それは彼女……雪村紗枝に握られた部分であった。



 翌日――

 「先生大丈夫?何だか疲れてる様に見えるけど……」

 「い、いや、大丈夫」

 正直、雪村紗枝の印象は松雪の中で大きく変わって行った。
 偶々とは言えあの形相と今行っている不思議な行為、だが急に何かをしてみたい!と言う気持ちは確かに誰でもあるもの……だが、どうしても噂が尾ヒレをつけてしまい、素直にその真実を受け入れ難いのだ。
 飯島さんが息を引き取る前に教えて折り鶴、死後数日後に良く飯島さんが見ていた場所に置かれていた折り鶴、そして偶然折り鶴を開けてみた中身の内容。
 一件どれもこれも普通の事で心が温まるはずなのに――胸騒ぎがした。
 結局、その日の午前は呆けたまま仕事を機械的に熟し、雪村さんや水川が掛ける言葉に機械的に反応するだけだった。

 休憩時間に何時も言って来る同僚が居ない事に気づき、今日は公休だったか?っと思うと、何やら副主任が忙しなく動いていた。

 「手伝いましょうか?」
 
 「松雪君?太田君とは友達だったわね?」

 太田とは休憩時間に話をかけてきた男の名だ、それがどうかしたのか?と言う前に、強引に腕を掴まれ、立たされた挙句連れて行かれる。

 「副主任!いたいです」

 「わ、悪いわね、私もつい……」

 一体何なんだ?っと思うと、ゾっとした気配の方向に向くとそこには雪村さんが居た。
 
 「(今の違和感は一体……)」

 「松雪君、良い?どうせ後になって知られるけど混乱はなるべく招きたくないから聞いて」

 「はい」

 「太田君が機能、心筋梗塞で亡くなったわ」

 「はい?」

 「警察が調査した際に、こんなモノが握られてたそうよ」

 「……折り紙?」

 「赤い折り紙ね、でもこの紙に書かれた内容が――誰の悪戯なのか、本当に“死ね”って書かれてたのよ」

 「……はい?」

 「私も何がなんだか……でもこの紙、何処かで見た事あるのよね、巡回時に見つけてそのまま持ち帰ったみたいだけど――」

 「それって――」

 「先生!」

 急に声をかけられ副主任と2人驚いてそちらを見ると、雪村さんが手を振っている。
 その挨拶に返すと、少し肩に入っていた力を抜いた副主任が説明する。
 
 「多分、太田君は結構怪談話とか好きじゃない?それの影響で持ち帰ったモノだと思うのよ」

 「か、怪談……ですか?」

 「ええ……って知らないの?」

 「はい」

 「そうね、に挨拶できてたし」

 どういう意味だろうと言う前に話は途切れることなく続く。

 「あまり仕事に支障になるかもしれないから、雪村さんとの付き合いはほどほどにしときなさい、後彼女、折り鶴作るのには気合が入ってるみたいだからあまり触れない様にね」

 「あ、はい」

 わざわざ言う事なのだろうか?

 「それと――申し訳ないけど、今日は太田君が居ない分、松雪君には夜の巡回お願いしたいから宜しくね」

 「え……あ、はい」

 最悪だと思うが、未だに太田が死んだと言う事実が受け入れがたい。
 そして折り紙に書かれていた“死ね”と言う文章――折り紙と折り鶴がどうしても結びついてしまう。
 それに松雪は一度飯島さん宛てのメッセージを読んでしまったが、それと無理やりつなげると――さっきの意味深な副主任の会話には意図がある。
 雪村紗枝とはなるべく交流を最小限にし、業務のみに集中する事、悪戯に相手を刺激するような事をしない、言わない事ってところだろう。
 言い終わると副主任はその場を移動しようとするが、急に立ち止まり膠着した。
 
 「副主任?」
 
 視線の先を見ると、恨みがましそうな目をした雪村さんがそこには居た。
 どうやらまだ移動していなかったようだ。

 「兎に角、仕事はスマートに、余計な事は一切首を突っ込まない事、良いわね」

 「は、はい。分かりました」

 それだけ言うと足早にそこを立ち去って行く副主任。
 雪村さんは――いつの間にか移動した様で、そこにはいなくなっていた。
 ただあの恨みがましい目線だけが気になった。



 夜間巡回――

 4階を巡回し終えた松雪は、太田が巡回していた5階を巡回する事になっており、そこを巡回している。
 イビキが強い患者が居ると話で聞いていたが、此処まで強いイビキだと怖さがまぎれるなと思い、巡回は無事に終えた。
 その帰り、3階を目指して4階の階段を降りた先に、折り鶴が1羽落ちていた。

 「これは……雪村さんの?」

 そうして前を見ると、まるで獲物を捕らえる罠の様に鶴が落ちていた。
 雪村さんの悪戯だろうと思い、そのまま鶴を拾うとやはり404号室へと繋がっていた。
 そしてやはり雪村さんの就寝しているベットだ。
 膨らんでいる所を見ると居るには居るみたいだが、寝て居ないのだろう、起こす様な発言をするのは流石に不味いが流石に悪ふざけが過ぎると思い声をかける。
 
 「紗枝ちゃん、君の折り鶴だろ?5階から降りた4階の踊り場に落ちてあった」

 だが向こうからの反応はない、流石に腹が立った松雪は彼女を揺すり起こす様に肩を掴むが、どうも小柄な彼女の身体と言うより、これは大人の体格の様に感じた。
 
 「……紗枝ちゃん、いい加減――」

 布団を捲ると、そこには無数の折り鶴と――副主任が眼球を開けたまま天井を向いていた。

 「わぁぁぁぁぁ!?」

 唇も真っ青になっており、誰がこんな事をっと確認すると、ベットの下に誰かが居る事を確認する。
 
 「紗枝……ちゃん?」

 「違うよ、先生、間違いだよ、私は雪村紗枝だよ」

 「な、なに、して」

 「先生、昼間、大先生と、何話してたの?」
 
 「お、俺は――」

 急に明かりが点灯すると、他の看護師達が来てくれた。

 「何が遭ったんですか!?」
 
 「ふ、副主任が」

 「そ、そんな……コレは、松雪さんが!?」

 「ち、違います!私が発見した時には既に――」

 「コレは折り鶴か……なんでこんなもん――」
 
 っと折り鶴を掴むと簡単に鶴の形状は崩れ、くしゃくしゃの正方形の紙へと戻った。
 そこには短文で“死ね”と書かれていた。
 そして雪村紗枝も、その場に最初から居なかったかの様に姿を消していた。


 
 事件翌日――

 死因は太田同様に心筋梗塞による死亡が確定した。
 容疑者となった松雪はその日の出来事を事細かく説明し、その場では無罪となったが最初に発見した容疑者と言う事で疑われている。
 ちなみに雪村紗枝はベットの下にはおらず、別の看護師に介護され、お手洗いに行っていた事が確認を取れていた。
 だが警察も言っていたが、短い時間で死体に装飾を施す様な真似をできるなんてことは不可能に近い事から、入念に準備された犯行と予測。
 使われていた折り鶴は全て指紋検査で雪村紗枝となっているが、彼女の病状で副主任を殺害するのは不可能に近い事が判明している。
 これにより第三者、つまり雪村紗枝に成りすました“何者か”の仕業として調査を進められているが、彼女の容疑が完全に無くなった訳ではない。
 余談だが亡くなった太田も同じ様な状態で発見されていた事から同一犯と言う事で進められているらしい。

 夜間――

 404号室から別の階層に移動をした雪村紗枝の前室を清掃していると、1羽の折り鶴が見つかる。
 触れると簡単に崩れ、くしゃくしゃの正方形の紙へと変身した。
 中身を見るとそこには『先生、大好き』と書かれた紙が1枚。
 
 「紗枝ちゃん……」

 正直、素直に喜べない。
 まだ移していない千羽鶴を触ると触った場所が悪かったせいで、連なった鶴は全て崩れてしまい、鶴が散乱する。

 「なにやってんだよ……」
 
 文句を言いながら1つ1つ丁寧に拾うも、先ほどの衝撃で崩れてしまった鶴は元の折り紙に戻ってしまった。
 だが――それが――いけなかった。
 
 「なんだよ……コレ」

 紙には決してと言う事が一瞬で分かる。
 それは言葉の暴言や悪口と言った呪詛に近い表現だった。

 ――バーカ・くたばれ・早く死んでくんね?・ズル休み・ブス・お前なんか誰も愛してくれないよ・キモイんだよ、さっさと死ね・見舞いなんて嘘♪――

 「なん……だ、コレ」

 「見ちゃったね、先生」

 「ッ!?」

 背後に立っていたのは病室を後にしたはず雪村紗枝だった。

 「ど、どうして――」

 「千羽鶴はね、全部千個の悪口で固められてるんだ!1年生の時から6年間、凄いよね、私!凄く頑張ったんだよ!」

 笑顔で話す紗枝ちゃんだったが、それよりも――

 「どうして、介護なしに立てて――」

 「ああ、先生、ダメだよ、今は私の番、多分ずっとになるかもしれないけど!それでね、飯島のクソババアが教えてくれたんだ!“呪詛の作り方”!」

 「じゅ、呪詛?」

 「呪いだよ?こんな事するやつ全員死ねば良いなって思ってたから、1羽1羽丁寧に作ってたんだ~」
 
 「この赤い文字――」

 「私の血だよ!そこに呪いたい人をイメージして書くだけで呪詛の完成!試しに飯島のクソババアに試したら本当に死んじゃった☆」

 「……どうしてそんな事、平気で、笑顔で言えるんだ?」

 「だって、私に優しくない世界なんてどうでも良いもん!それより先生にも私のラブレター……渡さなきゃ!」

 そう言って渡して来たのは赤い1羽の折り鶴だった。
 
 「開けてみて!ずっと先生、開けたがってたじゃん!」

 「……」

 「今は誰も居ないし、ナースコールも押せないから大丈夫だよ」

 「……どうして、今まで騙してた?」

 「ううん、違う、勝手にみんなが信じてただけで――今までのなんて存在しないよ」

 「じゃ身体は?」

 「治ってるよ?ほら!」

 足を延ばし、手を動かし、元気な素振りを見せる。

 「お医者さんを脅してね、目の前で実際に呪詛で殺して見たら、本当に効果があってね、もう言いなり!逆に新発見も合って、治る呪いをかけたら治ったの!」

 「治った?」

 「だから、ついこの間までは本当に身体がダメダメだったんだよ、そこは本当なんだ~信じてね☆」

 「……」

 医者を脅した、まさか――

 「太田も、副主任も?」

 「うん!殺したよ!アイツ等私の陰口ばかり吐いてたから、でも先生は違うから特別に生かしてたけど――もう――良いよね?」
 
 「紗枝……ちゃん」

 「早く開けて!先生の為に、その折り鶴、作ったんだよ?」

 言われた通りゆっくりと開いていくとそこには――

 ――死ね――

 と書かれた短文と共に、急に息苦しくなり倒れ込む。

 「先生、大好きだったよ、フフフ、アハハハハハ!」

 意識が朦朧とする中、何故こうなってしまったのか?
 理想……と言うより、今までの雪村紗枝は最初から存在していないと本人は言いきった。
 つまり、これが彼女の本性。
 そしてあり得ない、こんな呪いで本当に自分は命を落としてしまうのか……と。
 目がグルリと一回転してその場に倒れる。

 「先生も1羽になったね、千羽作の大変だ~」

 背筋を伸ばしながら気だるそうにその場を後にする、これが雪村紗枝の本性、そして――

 「水川先生もこうなりたくなかったら、私の言う事、今まで通り聞いてね?じゃないと、ラブレター渡しちゃうから」

 「わ、わか、ったわ」

 「ビビってるの受ける~、これだから子供に余計な事教えちゃダメなんだよ!馬鹿だな~」

 この病院に起こる謎の死因は後に霊術院との協力捜査を行うも、結論として雪村紗枝と言う人物を特定する事はできなかった。
 彼女に呪いの力を与えてしまったのは苛めによる影響である事は間違いない、その中で消化しきれない、やり返せない、そんな沸々とした黒い気持ちが――この悪夢を再現したのだろう。
 こうして巡る呪いの連鎖は千羽鶴を作るまで行われ、その後、この病院では心筋梗塞による死者の数があまりにも多い為、閉院となった。
 

 第十二怪 まじないの千羽鶴
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