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序章 暗殺者、異世界転移する
第1話 暗殺者、雷に打たれて人生終了
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雨にけぶるロンドン。
晩秋を迎えた首都はぐっと冷え込んでいる。イギリスは日本と違って降ったとしても、すぐに天気が変わる。降ったかと思えば気付けばやみ、また視界が滲むように雨が降る。日本よりも北方に位置するが意外に気温は低くない。それでも朝晩は冷え込むために――そして目的遂行のために俺は手袋をしているが。
夕暮れという時間帯と曇天という気象条件も相まって、周辺は薄暗い。雷も鳴り始めており、住宅街ということもあってか人通りは少ない。周囲の薄闇に溶け込むような、暗い色のフード付きのジップアップパーカーを着ている俺は、前方から人が歩いてきたことを確認すると、おもむろにフードを目深にかぶった。その瞬間、俺の右手へフードから鞘入りのナイフが滑り落ちてきたが、ごく自然な動作で手に握りこんでしまう。
やんでいた雨がまた降り始めたタイミングだったのでフードを被るのは不自然ではないが、雨を避けるほど強く降ってはいない。現に近づいてきた中年の男は軽く空を見上げただけで、なにも雨を避ける素振りを見せなかった。
俺たちの距離が縮まるたびに、急激に雨足が強まってきた。ついでに雷の音も大きくなり稲光が薄闇を切り裂く。真っ白な閃光と轟音に包まれたとき、俺は足がすくみ瞬時に死を覚悟した。
雷が鳴っている段階でマズイなとは思っていたが。標的を仕留める絶好の機会を得られたのだから仕方がない。天気予報では快晴の筈だったのに、自分が雨男だということを忘れていた。俺が殺しの仕事をするとき、たいていが雨天だ。余計な音が消えるので気取られる確率が下がるのはありがたいが、ときおり嫌なおまけも付いてくる。
そう、雷雨だ。別に雨が降っていても射撃の精度には殆ど影響はない。ないが……雷はマズイ。俺は幼少期から雷が苦手だ。苦手というより恐怖を覚える。まず音が駄目だ。男が情けないと言われようが、怖いものは怖いんだ。
児童養護施設育ちの俺は、両親の顔を知らない。乳児の時に養護施設の玄関前に捨てられていたそうだ。施設長の話では、俺は雷雨の日に捨てられていたそうだ。自我の芽生えなどまだない零歳児が――いや、だからこそ雷の恐怖を植え付けられたのかもしれない。
俺は前方から歩いてくるターゲットを真正面に捉え、すれ違い様にナイフで頚動脈を掻き切った――筈だった。
ナイフに稲光が反射する。くそ、やっぱり銃にすれば良かった。しかしここは住宅街で、雷雨のせいか人通りがない。消音器を装着していたとしても完全に音を消せないので、住民たちに気付かれ通報される危険性があった。だからナイフにしたんだが……金属と雷の相性は最悪。
俺の持つナイフに雷が落ちてくる! ああ、散々仕事とは言え人を殺してきたからこれが報いかな。俺の視界が真っ白に染まった瞬間、俺の右手はターゲットの頸動脈を確実に深く切り裂いた手応えを感じた。しかし、そこまでだ。俺は意識が遠のいていくことにわずかな恐怖を覚えつつ、衝撃が来る前に俺は意識を飛ばすべく目を閉じた。最後までナイフを手放さなかったことだけは、なぜか覚えている。
晩秋を迎えた首都はぐっと冷え込んでいる。イギリスは日本と違って降ったとしても、すぐに天気が変わる。降ったかと思えば気付けばやみ、また視界が滲むように雨が降る。日本よりも北方に位置するが意外に気温は低くない。それでも朝晩は冷え込むために――そして目的遂行のために俺は手袋をしているが。
夕暮れという時間帯と曇天という気象条件も相まって、周辺は薄暗い。雷も鳴り始めており、住宅街ということもあってか人通りは少ない。周囲の薄闇に溶け込むような、暗い色のフード付きのジップアップパーカーを着ている俺は、前方から人が歩いてきたことを確認すると、おもむろにフードを目深にかぶった。その瞬間、俺の右手へフードから鞘入りのナイフが滑り落ちてきたが、ごく自然な動作で手に握りこんでしまう。
やんでいた雨がまた降り始めたタイミングだったのでフードを被るのは不自然ではないが、雨を避けるほど強く降ってはいない。現に近づいてきた中年の男は軽く空を見上げただけで、なにも雨を避ける素振りを見せなかった。
俺たちの距離が縮まるたびに、急激に雨足が強まってきた。ついでに雷の音も大きくなり稲光が薄闇を切り裂く。真っ白な閃光と轟音に包まれたとき、俺は足がすくみ瞬時に死を覚悟した。
雷が鳴っている段階でマズイなとは思っていたが。標的を仕留める絶好の機会を得られたのだから仕方がない。天気予報では快晴の筈だったのに、自分が雨男だということを忘れていた。俺が殺しの仕事をするとき、たいていが雨天だ。余計な音が消えるので気取られる確率が下がるのはありがたいが、ときおり嫌なおまけも付いてくる。
そう、雷雨だ。別に雨が降っていても射撃の精度には殆ど影響はない。ないが……雷はマズイ。俺は幼少期から雷が苦手だ。苦手というより恐怖を覚える。まず音が駄目だ。男が情けないと言われようが、怖いものは怖いんだ。
児童養護施設育ちの俺は、両親の顔を知らない。乳児の時に養護施設の玄関前に捨てられていたそうだ。施設長の話では、俺は雷雨の日に捨てられていたそうだ。自我の芽生えなどまだない零歳児が――いや、だからこそ雷の恐怖を植え付けられたのかもしれない。
俺は前方から歩いてくるターゲットを真正面に捉え、すれ違い様にナイフで頚動脈を掻き切った――筈だった。
ナイフに稲光が反射する。くそ、やっぱり銃にすれば良かった。しかしここは住宅街で、雷雨のせいか人通りがない。消音器を装着していたとしても完全に音を消せないので、住民たちに気付かれ通報される危険性があった。だからナイフにしたんだが……金属と雷の相性は最悪。
俺の持つナイフに雷が落ちてくる! ああ、散々仕事とは言え人を殺してきたからこれが報いかな。俺の視界が真っ白に染まった瞬間、俺の右手はターゲットの頸動脈を確実に深く切り裂いた手応えを感じた。しかし、そこまでだ。俺は意識が遠のいていくことにわずかな恐怖を覚えつつ、衝撃が来る前に俺は意識を飛ばすべく目を閉じた。最後までナイフを手放さなかったことだけは、なぜか覚えている。
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