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1章

婚約者1

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カタリーナの平和な日々はそこまでだった。今回父が仕事を早退した事、その理由と神殿での魔力検査の結果を王様に知られる事となったのだ。聖女しか持たないとされている聖魔法の持ち主を王家は欲しがっている。ここは聖女の国と呼ばれ聖女が王家に嫁ぐ事であらゆる厄災を避けて来た国だからだ。だが王家だけではなく教会も黙っては居なかった。異世界から来た聖女を今まで保護して来たのは神殿だ。それと同時に聖魔法についての知識も十分であり私を預かろうという動きが高まったのだ。

最近父がイライラしている。神殿の動きに関しては、元より生家である公爵家があるのだから保護の必要はないという事でとりあえずひと段落ついた。しかし、今度は国王との謁見の話が出ているらしい。それをのらりくらりとかわしている様だがいつまで持つかは分からない。国王との謁見のなどめんどくさいことになる以外の予想ができないカタリーナとしては、父にどこまでも頑張ってもらいたいが、そこは臣下の身であるため諦めなくてはいけないのだろう。だが、父と国王は学友らしく気のおける仲であり、謁見回避できている状況でここまでイライラしている理由がカタリーナにはわからなかった。私の顔を見た後いつもの様に口元を緩ませる父が、なぜかその数秒後には青筋を浮かべる。父に直接尋ねても言い淀む様子で何も教えてはくれない。この状態がいつまで続くのかとため息をつきそうになりながら家族揃って朝食を食べて居た時爆弾を落としたのは母だった。
「そう言えば婚約の釣書がたくさん届いてましたけど、どなたか良い方はいらっしゃった?」
空気が固まるのがわかった。家令は顔を青くしている。朝食の空気はすっかり凍りつき母が食事を続けているが、それ以外で動く者は居ない。私は頭の中が大混乱だ。えっ?誰の婚約?釣書?釣書ってあれでしょ?お見合い写真みたいなやつでしょ?ここに居るのは私だけよ?でも私はまだ6歳よ?頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。冷え切った空気の中スープを一口飲んでみたがそれ以上入る気がしない。父もそれ以上食事を続ける気がなくなったらしく家令に食後の紅茶を頼んでいた。そんな空気を物ともせずいつも通りに食事を済ませた母は
「あら?まだ候補も決めていなかったの?いっその事本人に見せて決めてもらったら?一生つきあう顔なのだから好みに越したことはないわよ」
笑顔で話す母に、なるほどと思ったがそれに対する返事をできる空気ではない。父は無言で部屋をでて仕事に向かった。
「困ったものね。旦那様はカタリーナのことが大好きでしょうがないみたいなの。貴女の顔をみて思わずにやけちゃうのはいつもの事だけど、その後に釣書の事を思い出して不機嫌になるんだから子どもみたいよね」
笑いながら答える母はきっとこの屋敷のヒエラルキーのトップなのだろうと思った。
母の話によると異世界からの聖女は例外なく神殿に保護された後、王妃になるが、私は貴族令嬢であることから他家との婚姻の可能性が出て来たため、こぞって皆動きはじてめて居るらしい。流石に婚約者のいる令息からの申し込みはないが、2歳~20歳までの子どもを持つ貴族からの申し込みがあるらしい。魔力量が少ない事までは公になっていないが、どこから噂が広がったのか、倒れるまで一心に治癒魔法を使い母を救ったことは美談として貴族内に広まり新たな聖女と持ち上げる声まで出ているようだ。次代の聖女(かもしれない娘)を得ることが出来れば国内での影響力は計り知れないものとなる。今やどの家にとっても喉から手が出るほど欲しい存在となったらしい。前世でそれなりの歳まで生きて、子どももいたが現世ではまだ6歳だ。貴族としての義務だとしても、まだ結婚など考えられない。翌日の朝食の際にその旨つたえると父は満遍の笑顔となった。
「カタリーナがそう言うなら仕方ないな。この話は一度全てお断りして、また12歳ぐらいになったら考えようか」
婚約者を決める年まで猶予が出来たことを嬉しく思ったのか父は鼻歌を歌いながら仕事に向かった。カタリーナは公爵家当主で逆らえる者が少ない中、カタリーナの気持ちを考え勝手に断ることをしない父を見て嬉しく思うのだった。だが、そんな父を満足そうに見ている母を見ると、カタリーナと父は母の手の上で転がされている気分になったのは仕方のないことだろう。
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