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1章

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ルルーシュとカタリーナが話をしてから3ヶ月がたった。3ヶ月前の、あの後ルルーシュとエヴァトリスが何の話をしたか、カタリーナは教えてもらえなかった。
「そのうち殿下から直接話があるからそれまでもう少し待ってて。私からは言いにくいんだ」
ルルーシュから困った様な笑顔で言われれば、カタリーナらそれ以上問いかけることはできなかった。
そう、あれから3ヶ月たったのだ。もちろんエヴァトリスからの話はない。それどころか、定期的なお茶会も所用や体調不良で中止になり直接会うこともない状態だ。こんなに関わらない期間ができるのは初めてでカタリーナは少し不安になる。まぁ、カタリーナが考えたところで思い当たるのは前回のお茶会のことぐらい。それについては、話をしたであろうルルーシュから待つように言われたため、カタリーナにはどうしようもない。エヴァトリスに直接理由を聞いてもいいが、難し年頃だし考える時間も必要だろう・・・、などと自分を正当化してみるが、面倒になっただけだ。忘れてもらっては困るがカタリーナは引きこもりの面倒くさがりなのだ。とりあえず、タイムリミットだけは設けた方がいいかと思いながら、半年ぐらい様子をみることを決意する。そんな、よそ事を考えながら慣れた王宮の中を歩いていく。今日は王妃様と私的なお茶会だ。カタリーナはあわよくば、最近のエヴァトリスの様子でも聞こうかと思っていた。

王宮自慢の庭園には椅子と机が準備されていた。色とりどりの花たちが日の光を浴びて輝いている。カタリーナはこの広い庭に何種類の花が植えられているのか数えてみようと思ったが30を超えたところで諦めた。何をするでもなく庭の花を眺めながら椅子にこしかけて10分ほど待つと王妃がやってきた。立ち上がりカテーシーを行う。いつ見ても綺麗な方だ。どうみても20代、カタリーナと同じくらいの歳にしか見えない。未来のお姑さんはどうやら美魔女らしい。あと10年もすれば、息子の嫁となる私の方が年上に見られるかもしれないという不安を抱かずにはいられない。
王妃とのお茶会は穏やかにすすんだ。カタリーナが最近は神殿での魔法の練習を積極的に行なっている話しをすると、無理をしないように言われた。正式に婚姻を結んだあとは自由に神殿へ行くことができなくなるため、今できる事をと思ったがカタリーナが魔力量が少ない事を知っている王妃は心配らしい。そう言うところも含めてとても優し方で、嫁姑問題に関しては気にしなくてよさそうに思う。せっかくなのでカタリーナは最近のエヴァトリスの状況についても聞いて見た。王妃は不思議そうな顔をし
「特に何も聞いてはいないわ、何かあったの?」と逆に質問されてしまった。
隠すことでもないため、3ヶ月前のお茶会途中で護衛の方が調子を崩したため急に帰られた事。翌日突撃訪問されたが、誰とも話をせずにそのまま馬車で帰ってしまった事伝えた。同日の夕方ルルーシュとはしっかり話をされた様子だが、内容については知らされていない上にエヴァトリスには避けられている気がすることを伝えた。すると王妃はクスクスと笑い始めた。
「あの子もまだまだ子どもなのね。貴女がいつも息子の事を大事にしてくれるのを嬉しく思っているわ。時々でもいいから、政略的な事やや周りの反応ではなく、あの子自身の言葉を受け止めてくれると嬉しいわ。」困ったような、でも少しだけ楽しそうな声色で話す王妃に対して今後どうエヴァトリスと関わっていけば良いのか少し分からなくなったカタリーナだった。



身長もどんどん高くなるエヴァトリスは令嬢達の憧れの的だった。それだけでなく、少年と青年の間のエヴァトリスは幼さの中にも色気を含んでおり一部の未亡人も虜にしている様だった。
エヴァトリスと令嬢たちとの交流も順調に進んでいるようで個人的なお茶会などにも参加しているらしい。その話を聞くと嬉しいような寂しいような不思議な気持ちになる。そのたびに「ちゃんと弟離れしないとね」とカタリーナは自分に言い聞かせるのだった。

エヴァトリスと交流している令嬢には2パターンある。1つはエヴァトリスだけでなくカタリーナにも媚を売ってくる人。未来の正妃に気に入られた方が側室に上がる可能性が上がると思っているのかもしれない。
もう1つは敵意をむき出しにしてくる令嬢だが、こちらは少数派だ。そういう令嬢は高位貴族に多く、おそらく正妃の座を望んでいるのだろう。

「今日殿下と2人きりで庭園を案内してもらったの。とても素敵な庭園が殿下と一緒にみる事で輝いているように見えましたわ。でも、殿下ったら庭の花々じゃなくて私の髪や目が美しいと褒めてくれましたの。また会う約束もして下さって、殿下も私との時間をたのしみにしてくれているみたいですの。」
そして今その少数派の令嬢に捕まり一方的に話しかけられている。少し遠回りをして庭園を見ながら帰ろうとしたのが失敗だったのか、城の中であるため護衛を断り侍女のみつれて歩いたのが失敗だったのか、おそらくその両方だろう。しかし、今更何を考えても後の祭りだ。笑顔を向けながら話を聞くがどう反応して良いのかわからない。「よかったですね」と言うと上から目線だと逆上される可能性がある。「羨ましい」と言ってもいいが思ってもいないので、何が羨ましいのか具体的な話がでてきたら色々詰んでしまう。あとは泣きながらここを立ち去るという方法もあるが20を超えた女が10代半ばの小娘に泣かされたなど醜聞以外の何物でもないだろう。考え込んでいると先に向こうが焦れてしまったらしい。
「何とかいいなさいよ」と肩をどんと押されてよろめいてしまった。侍女が支えてくれたため倒れるのはどうにか回避したが、かどうしたものか。あれ?でもこれ良くあるヒロインのイジメシーンみたいじゃない?面倒臭くなってきたカタリーナあはよそ事を考え始めた。それにしても、もう少しでアラサーに足を突っ込むような女性がヒロインで10代半ばの小娘がいじめっ子ポジションとかないわー、自分の妄想が面白くうっかり吹き出して笑ってしまった。明らかなこの悪手に気づいたのは笑った後だった。正面にいる令嬢は顔を真っ赤にして右手を振り上げる。そこから
「バカにしないで」
大きな高い声で叫びながら令嬢の手が振り下ろされる。打たれる!思わず両目をきつく閉じ身を固くするが衝撃はいつになっても来ない。
恐る恐る目を開けてみるとすぐ近くに令嬢の手首を掴んだエヴァトリスの姿があった。
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