私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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1章

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公爵家に戻ったカタリーナはやりかけの刺繍に手をつけるが、馬車でのエヴァトリスとの出来事を思い出し赤面していた。集中出来ていないのは自覚済みであり、紅茶を淹れてくれた侍女はなにやら微笑ましいものを見るような生暖かい目で見つめてくる。その視線にいたたまれなくなったカタリーナは
「ありがとう。あとは大丈夫だから下がってもらって構わないわ」
と侍女に退室を促すと、また訳知り顔で微笑まれた。侍女が退室し、ドアがしっかり閉まり、足音が遠くなっていくのに耳を傾ける。カタリーナは、はしたない行為と思いながらもドアを少しだけ開けて廊下を覗き誰もいないことを確認する。ドアをしっかりと閉めると、
「あー、もう。なんなのよ!15歳の癖にあの色気は反則でしょ!どこでそんな事覚えて来るのよ。」
思わず地団駄を踏む。その姿は、端から見たら20代の淑女とは思えないものであるが、それを目撃できるものは今この場にいない。思わず前世に引っ張られ、言葉遣いも崩れているが、それを指摘してくれる者がいないのは良い事なのか、悪い事なのか、カタリーナの恨み辛みは止まらない。
「何なの?女たらしなの?あんな事言って恥ずかしくないの?もう頭沸いてるんじゃない?頭の中は砂糖でいっぱいよ」
だんだんと内容が意味不明なものになっていくが、それを止めてくれる者もいない。
「最近余計にチュッチュ、チュッチュと・・・こちとら婚姻前の公爵令嬢なんだから、もっと節度をわきまえてもらわないと。あー、もう!もう!もう!」
途中からは自分で言った言葉に悶えてしまい顔を赤らめてしまう。テーブルの上の刺繍道具と紅茶はすっかりと忘れ去られており、カタリーナの頭の中はエヴァトリスでいっぱいだ。一通り思いを吐き出し、地団駄を踏みながら体を動かすと少しだけだがスッキリする。こんな方法でストレスを解消するのは初めてだが、カタリーナはスッキリするなら悪くないと思ってしまった。20代の令嬢が行うには相応しくない行為であるが、この空間にいるのは忘れ去られた刺繍と紅茶のみであり、やはり、それを指摘してくれる人はいなかった。
「あー。もういいや。なるようになってしまえ」
少しスッキリとしたことでいつもの諦め精神がでてきたカタリーナは布団の上にダイブする。そしてそのまま気分転換にふて寝をすることにした。
どのくらい眠ったのかは分からない。部屋を何度かノックする音で目がさめる。外を眺めると日が傾き始めていた。眠りについたのは14時頃だったため、おそらく2時間ほど休んでいたのだろう。
「姉上大丈夫?」
何度目かのノックの後に続いてルルーシュの声がする
「あっ!はいっ!!」
勢い反射で返事をしたが、慌てて自身を姿見で確認すると眠っていたためボサボサの頭にドレスもシワになっておりひどい状態だ。
「ちょっと、待って・・・」
カタリーナは慌てて自身を整えるべく声を出すが、無常にも扉は開いていく。
「姉上、今日のことだけど・・・あははははっつ。ちょっと、その格好っ。」
「待ってって言ったじゃない」
怒気を含ませた声で話すが、それをルルーシュが気にする様子はない。
「で、殿下の様子もいつもより変だったからふふっ、姉上もっ大丈夫か心配になって来て見たんですけど・・・はははっ。その状況は違った意味で大変だね。」
目に涙まで浮かべ始めたルルーシュに羞恥で顔が赤くなるが、開き直って反論する。
「淑女の部屋を、静止も聞かず開けるなんて失礼よ」
「淑女とか、今の自分鏡で見てから言ってよ。今日の姉上は本当に笑わせてくれるね。それに、こんな時間に淑女が寝てるなんて誰も思わないよ」
ムッと睨みつける。カタリーナよりわずかに上なった視線はルルーシュが成長している証だが、今はそれすらも憎らしくなる。
「まぁ、元気そうだし大丈夫だね。私も家庭教師の時間が押してるから自室にもどるよ。じゃぁね~」
理由は分からないが、何かを心配してくれたルルーシュにカタリーナは胸の中が暖かくなるのを感じる。そして侍女をよび身の回りを整えてもらうのだった。

カタリーナは時間を持て余していた。理由は、エヴァトリスへ神殿通いを1ヶ月の間止められることになったからだ。
時間を潰すために、王宮の図書館から聖女に関する本を貸してもらい読みながら過ごしている。少しでも何か分かればと思っているが中々思うようには進まず少し歯痒いところがある。
聖女に関する記録が『黒目、黒髪』と聞いた時から、もしかしたら日本人の可能性を感じていたが、先日神殿で聖女の書物をよみそれが核心に変わった。
異世界から現れた人は皆聖女と呼ばれ聖魔法の適正がある。魔法適正は魂に刻まれると言われている。転生したカタリーナの魂に刻まれたの 魔法は聖魔法である。つまり、異世界の魂を持つ者は聖魔法を使える可能性が高いという事だ。
魔力量は体に刻まれると言われている。成長すると体力が増えるように幼少期に比べ魔力量も増える。また、親の魔力量が多いと、子どもの魔力量も多い傾向がある。それは、遺伝によるものとされている。
カタリーナは定期的に魔力の性質と魔力量の検査を行なっている。何がきっかけで現れたのかわからない聖魔法が、また何かのきっかけで消える可能性があるからだ。そして、ついでのように魔力量も見てもらっている。問題はその魔力量だ。魔力量は上がっているのに、治癒できるのは幼少期とほんど変わらない。
魔法を使う時はまず頭の中で、その魔法のイメージを行う。十分にイメージする事は魔力を練ることにつながる。十分にイメージした後は発動の呪文を唱えると、魔法は発動する。
いつも魔法を指導してくれているリシャールの話によると、成長とともに魔力量は増えているらしい。イメージも十分で、魔力を練る量も増えている。ただ、魔力を発動する際に、練った魔力の半分以上が空気中に広がりそのまま消えるそうだ。本来魔力が立ち消えることはない。場所を変え、治癒の対象を変え、他に魔法が作用している場所がないか入念にチェックをしたが、結果は変わらず『消えた』としか言えないものだった。ただ、魔力が消える方向には一貫性があるらしく、すべて同じ方向に消えて行くそうだ。
魔法に関する本をひたすらに読み漁ってみたが、聖魔法に関する記載は少なく新しい情報を得ることはできなかった。
次は視点を変えるべく聖女に関する書物を読み始めた。記録として残っている聖女は8人。聖女は治癒魔法のイメージが強かったが、どうやら初代の聖女は天候も操れたようだ。もはや神の所業である。それ以降の聖女は治癒魔法の記載しかないいことから、それ以外の術は使えな方と見てる。わかってはいたことだが、全てが王族と婚姻を果たしているようだ。どのタイミングで聖女の加護が働くかははっきりとは書かれていない。自然災害や疫病など、毎年起こるものではないのだから、それは仕方がないだろう。加護が働くタイイングが、異世界から現れた時なのか、それとも婚姻という儀式を終えた後なのか。それとも他にも何かのきっかけがあるのか。
カタリーナが確信を持てるのは自身が聖女ではないということだった。だいぶ前の感覚のためほとんど忘れてしまったが、幼いころ水魔法を使っていた時は『馴染む』という感覚だった。しかし、今は『違う』と思ってしまう。何が違うのかはわからない。体と心がバラバラになるような、違う自分になるような、少し落ち着くような・・・嫌な感覚ではないのに、自分が自分ではなくなってしまう気がして仕方がない。カタリーナは、この状態も何か理由があるのではと調べていたが、やはり手掛かりのようなものは見つけることができなかった。
異世界からの聖女の記録を見て、やはりと思ったことは、元の世界に戻った者が誰一人いないということだ。聖女は王家に嫁いでいることもあり、王家の墓に入っているらしい。ほとんどの聖女は60~70代で亡くなっているようだ。この国の平均寿命からすると長い方である。ただし、300年前に訪れた聖女だけは20代で亡くなっている。理由は病死と書いてあるが、やはり詳細はわからない。そして、300年前といえば、先日、日記を読んだ聖女である。日記の印象を見る限り病弱や繊細といった印象はない。当時のファビウス公爵家の次男と交流があった様子が日記からはわかったため、公爵家に何か手がかりがないか探すのも一つの方法かと思い立ち、公爵家の図書室へ向かう。目的はもちろん300年前の公爵家の次男だ。だが、どれだけ探しても該当する人物の存在を記した書物を見つけることはできなかった。
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