私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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1章

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被害の状況は思った以上に深刻らしい。家を失った者、家族を失った者、仕事を失った者、それらすべてを失った者。自棄を起こした者も多く暴行・窃盗・強姦の被害が拡大しているらしい。エヴァトリスの安全のため視察であっても立ち入れない場所が多くあるそうだ。濁流で運ばれてきた土砂や流木の除去作業も長引いている。衛生面を確保できる状況にならなければ他国との貿易も再開できない。それは被災地だけでなく、国全体への影響を示唆していた。重要な案件が多く、人手も食料も足りない状況らしい。エヴァトリス自身の戸惑いも大きく、何ができるかわからない状況であるがまずは自身ができることを探していきたい事が書かれていた。そして最後に『カタリーナ、あなたのことをずっと愛している』の一文が書かれていた。
最後の一文で心が温かくなるのが分かったが、辺境の思った以上に深刻な状況に胸が痛くなる。

自身が聖女と呼ばれているが、わずかな治癒魔法が使えるだけで国の役に立つことは何もできない。だからと、知識を詰め込み王妃教育に励んできたがそれは聖女でなくても成せることである。聖女が現れれば国の繁栄がもたらされると言われているが、カタリーナ自身それを実感できることもなく、5歳の時には疫病が流行ったし、つい先日は大規模な川の氾濫が起こったばかりだ。周りの声に比べてカタリーナがやれる事が少ないため、申し訳ない気持ちになってしまう。

エヴァトリスが不在の間カタリーナは時間に余裕ができた。聖女・聖魔法についてより詳しく知るために神殿に行きたいと思ったが、それには、ルルーシュについてきてもらわなくてはいけない。非常に面倒な事であるが、約束を破ったらさらに面倒なことになるのが目に見えているため大人しく指示に従うべく夕食の時間にでも予定を聞くことを心に決めた。
予定を調整し2週間後ルルーシュとカタリーナは神殿へ向かう事になった。リシャールからの手紙でルルーシュが聖女の私室には入れない事は言われている。聖女達が残した書物は貴重なものであり、神殿の責任者と聖女しか知り得ないものとなっている。王族も知りえない情報をカタリーナは知ってしまったことを驚くとともに、恐ろしくなり手が震えてしまった。

神殿を訪問すると、魔力制御の練習を行うための部屋に通される。そこも真っ白な部屋であり、一緒に来たルルーシュは興味深そうに部屋中を見ている。エステルが通される部屋はすべて真っ白な部屋であり、この部屋にも何度も訪れているため身新しいものはなく、そのまま席に着く。
「あまりジロジロみるのは失礼よ」
軽くルルーシュを諌めるが、そんな言葉を気にする様子はない。
「こんな、白い部屋見るのは初めてだからなんだか不思議な気分になるんだよ」
確かに公爵家の部屋の壁は真っ白であるが、家具には一部クリーム色も使用してあり、金での装飾もある。家具も装飾もすべてが白で統一された部屋をを初めてみたルルーシュは異質に感じたのだろう。
「慣れなければ落ち着かないわよね。私も慣れるまで少し時間がかかったわ」
そんなたわいもない話をしていると、部屋にリシャールがやってくる。エステルは席から立ち上がり、部屋をウロウロしていたルルーシュは慌ててエステルの隣の席へ移動した。
「今日はお時間いただきありがとうございます。」
エステルが淑女の礼をするのに合わせルルーシュも軽く頭を下げる。
「いえ、こちらこそお待たせして申し訳ありません。先日の手紙で、聖女様の力について詳しく知りたいとのことでしたので、それらが記されている書物を何冊かお持ちしました。」
リシャールはあいも変わらず表情を変えずに淡々と話す。リシャールの後ろからついて部屋に入って来た神官見習いの男性は3冊ほどの分厚い本を机の上におく。
「ありがとうございます。お恥ずかしい話ですが、聖魔法についてばかり学んでおり具体的な聖女様がなさったことについては分からないことが多く、『国の繁栄』というのがどのような意味を示しているのか知りたく思ったのです。最近も辺境で被災された方が多くいらっしゃいますし、私にできることを探したいと思いまして・・・」
異世界からの・・・本物の聖女でないのにこのようないい方は、おこがましいのでは思ったカタリーナの言葉は話しているうちにだんだんとしりすぼみになっていく。話を聞いていたリシャールは相変わらずの無表情であり、カタリーナの言葉に対して何を考えているの全く分からない。
「民のことを思ってくださりありがとうございます。ですが、今のカタリーナ様には少し難しいかと思います。国の繁栄についてですが、それは婚姻がなされた後と言われています。繁栄の内容としても、災害の減少や豊穣といったものですね。戦争回避という記載も残されておりますが私が考えるに聖女が現れたことを恐れた敵国が和平を促したと考えています。他にも疫病患者を一気に治療したなどの記載も残っていますね。詳しくはこちらの本に記載されておりますので、お読みになってもよいかと思います。」
淡々と話すリシャールを見ると不快感を露わにする様子はなくカタリーナはほっとする。よく考えてみれば、聖女の私室に通してもらえたと言うことは彼はカタリーナのことを聖女として多少なりとも認めていると言うことだ。ほっと一息ついた後、本の貸し出しを依頼する。初めて見る本ではあるが本棚から、他室へ移動可能な本のほとんどは貸し出しが可能なのだ。そのまま貸し出しの手続きをし馬車で帰る。リシャールは今のカタリーナには難しいと言ったが、知識が無駄になる事はないとカタリーナは思っている。これからの道標になるかもしれない本を抱きしめ、馬車の中で急く気持ちは止められなかった。

エヴァトリスとカタリーナは1週間に1回程度のペースで手紙のやり取りをしていた。手紙の内容は楽しいことばかりではないが、それでも手紙が届くのが楽しみになるには時間がかからなかった。文章の最後には必ず『カタリーナ、あなたのことをずっと愛している』の一文が入っておりその文字にドキドキする自分に気づくようになる。これまで何度も口で伝えられていたが、こんな気持ちになるのは初めてであり、カタリーナはいつからそう思うようになったのか分からなかった。
初めてその言葉を言われたのはいつだったか。おそらく婚約発表の頃からだったと思う。その頃は年の離れた弟が慕ってくれるようで嬉しかった。
10歳を過ぎた頃からは、エヴァトリスの初恋を心配するようになった。
15歳を過ぎたころには、エヴァトリスの真剣さが伝わってくるようで、カタリーナはどうすれば良いか分からなくなった。
気づけば今まで近くにいた年の離れた弟だったエヴァトリスが知らない男の人になってしまった。異性としての振る舞いをされるたびに、緊張は高まったが嫌な緊張ではなかった。少しずつではあるが、国を背負うパートナー以外の意味合いが二人の関係の中に生まれても良いのではないかと思うようになってくる。
「ほだされてる気がすけれど、嫌じゃないのよね」
一人の自室で小さく呟いた声は誰に拾われることもなく、カタリーナの口元には笑みが浮かんでいた。

カタリーナが神殿から借りて来た本はといえば勉強にはなったが、現状として私にできることはやはりなかった。どの聖女にも共通しているのは魔力が膨大であることと黒目・黒髪であることだった。年齢は10代~30代まで、どの聖女も子を残しているようだった。王族に現れる黒目、黒髪はもしかすると聖女の名残かもしれないと思った。聖女の中には聖魔法以外にも特殊な力を使える人もいたらしい。その代表的なのは初代聖女であり、予言の能力があったらしい。この本にはどのような予言をしたかまでの記載はなかったがもしかするとその内容が記載された本もあるかもしれないので、次に神殿に行った時にリシャールに聞いてみようと思った。
そして、本を見る限りリシャールの言っていた王族との婚姻後の災害減少や豊穣といったものは事実であるようだった。しっかりとデーターが残っていた。台風の数やそれに伴う二次災害、地震、疫病などそれぞれの分野で発生件数が通年の3割以下に減っており、この減少率はあまりに不自然だった。それと同時に確認されているのは、婚姻後の雷雨だった。結婚式の夜は必ず、王宮の木に雷が落ちているらしい。それを祝福と呼ぶのかは正直微妙なもののように感じたが、それを始まりとして繁栄がもたらされているのであれば分かりやすいし国民としては嬉しいのかもしれない。エステルとしてはその雷により被害をうける人がいないことを祈るばかりだ。そして、どうせ祝福を示すなら流星群とかもう少し安全で見る人が喜べるようなものにしてほしいと思わずにはいられなかった。
思考が脱線していることに気づき途中で頭をふり、気分をリセットさせる。とにかく、次の予定だ、なぜ婚姻後でなければ繁栄の恩恵が得られないかが分からなかったのでそれも聞いて見たい。もし、裏技のようなもので恩恵を受けれるならカタリーナは試したいと思ったのだ。
エヴァトリスが不在の状況では付き添いについて来てくれるのはルルーシュのみであるため、またルルーシュと予定を調整し神殿への訪問日を決めるのだった。
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