私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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1章

続・護衛騎士の災難1

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俺は子爵家の3男だ。それほど裕福な家でもなく、継げる家督もないため、自分の身持ちは自分で立てなくてはいけない。体格にも恵まれ、体を動かす事が好きだったため騎士を選んだのは自然の流れだった。弁がたつ方ではないが、真面目なところが評価され王子の護衛ができるようになってもう5年が経つ。聖女ことカタリーナ様関係のいわれの無い嫉妬心から王子から殺気を向けられる事はあるが、それ以外は充実した毎日を過ごしている。王子は多くの人に人当たりのよい笑顔を向けてくださり、政務にも積極的に対応されている。頭の出来も良く、『1を聞いて10を知る』と言う言葉を体現し、要領も良い方だ。ただ、やはり完璧な人など存在しないと言うのも1つの事実であり、カタリーナ様に関わる事については非常に残念な人になる。最近あった事と言えば・・・カタリーナ様が顔色の悪い俺を気にかけて下さった事でヤキモチを焼いた事だろうか。ヤキモチと言っても機嫌が悪くなるなど可愛らしいものではない。空気が凍りつき、殺気まで向けられるのだ。2度とあんな事はごめんであり、翌日フォローを入れてくれたルルーシュ様には感謝してもしきれない。だが、それで納得しきれなかった王子は『カタリーナ様には邪な思いを決して抱かない』と言う念書を書かせようとした。しかし、その『邪な思い』とやらの定義があまりに曖昧だ。カタリーナ様は聖女と言う言葉が相応しい女性であり、ふとした所作に見惚れてしまう事は少なくないのだ。サインを悩んでいた俺に見かねたルルーシュ様が『王子とカタリーナ
様の幸せの為に騎士の誓いを立てる』と言う案をくれた。それならば、心から願っている事の1つであり、多少見惚れる事は許容されるはずだ。この念書の書類には特別な魔法がかかっており、破れば契約相手に分かる様になっている上に自動的に捕縛される様になっている。話だけ聞くと俺のデメリットが大きすぎる様に聞こえるかもしれないが、未来の国王に言われのない疑心を抱かせるよりよっぽどよい。悩む事なく念書にサインをすると、今まで以上に王子からの信頼を得ることが出来る様になった。そして、当然の流れの様にカタリーナ様絡みの仕事が増えたのだ。
そんな中、王子の辺境視察が決まり、そこで俺に与えられた仕事はカタリーナ様の護衛だった。控えめに申し上げても、王子はカタリーナ様を心の底から愛しまくっている。最近王子の想いに気づく様子が見られるようになったカタリーナ様だが、カタリーナ様が感じているような可愛らしい物では決して無い事は断言できる。そんな王子にとって愛という名の執着の根源であるカタリーナ様の護衛を任せられたと言う事実は、王子からの絶対的な信頼を得ていると言っても良いだろう。・・・念書のおかげと言えばそれまでかもしれないが。
そうして始まった俺の護衛生活は充実したものになるはずだった。公爵家の家長と奥方に挨拶を行い、門番との情報交換を行う。時には庭師も交えて警備について相談する事もあれば、外出予定先を侍女から教えてもらい事前に調査を行い報告する。そんな生活を1週間も続けると公爵家の使用人とも仲良くなり、よりスムーズに仕事に臨めるようになっていた。このまま、王子が戻ってくるまで仕事を頑張ろうと前向きな決意の元仕事に励めたのは、王子がこの地を離れて2週間までの事だった。
そう、この仕事への変化をもたらしたのは王子からの手紙だった。
王子からの手紙の内容はこうだ。
『カタリーナについて詳細に報告するように』
この手紙を見て、疑問が浮かんだ。詳細な報告書は毎日王子宛に送付していたからだ。公爵家への訪問客や、外出ではどのような所を訪れ滞在時間はどの程度か、どのような人との交流があったか・・・必要な人が見るのならば良いが、見方によってはストーカーとも思われる内容だ。そんな気持ちを追いやって書き上げ、毎日のように送っているはずの書類が王子に届いていないとなると問題だ。宛先を間違えているはずはないし、2週間もの間たまたま事故に巻き込まれて届いていないことも考えられない。となると、残された選択肢は誰かの故意によるものだ。手紙の足取りを追うための手段を整える間に、以前に送った書類のコピーを再び送る準備をする。カタリーナ様の情報が漏れるなど決してあってはいけない事である。こんな失態を王子に知られたならば職を失うだけでは済まないのは目に見えている。そこからの記憶は曖昧だ。護衛仲間皆青い顔をしながら過ごしていた記憶しかないし、食事をしていたかもよく覚えていない。それが証拠の様に1週間で3キロほど体重が落ちた。


護衛に関する報告書が何者かに奪われている事を想定した俺は、今回の手紙は護衛仲間の信用のおける者に依頼して直接運んでもらった。あわよくば、そのまま犯人を捕らえてもらう手筈も整っている。
手紙を運んだ護衛騎士が、王子からの返事を手に戻ってきたのはあれから8日後の事だった。こんなに早く、そして無事に戻ってきてくれた近衛騎士に感謝の気持ちしかない。そして、その手紙を開き一気に気が抜けた
『護衛の報告書については毎日こちらに届いているが、これだけではカタリーナの状況が分かりにくい。報告書とは別に日々の事が分かる内容を記した物を提出するように。最低でも、起床時間、服装、食事内容、自室での過ごし方、刺繍の柄、読んでいる本、昼寝の有無と時間、公爵邸で飲んでいるお茶の種類、お菓子の種類と特に好んでいるもの。・・・』
手紙の内容はまだ続いているが頭が痛くなり、目眩がしたためそれ以上読み進める事は出来なかった。どんな服装をしているかなど、屋敷の外にいる護衛には判断のしようもない。眉間に皺をよせ震えた手で手紙を持っていると、それを見ていた仲間の護衛が心配そうにこちらを見つめてきた。
「王子は何とおっしゃっているのでしょうか」
俺は無言で手紙を差し出し、手紙を読み終えた護衛仲間に一言告げる。
「明日からの仕事はもう少し忙しくなる。他の者にも手紙の内容を見てもらう様に。明日の朝全員でミーティングを行い方向性について相談する」
手紙を読み終えた仲間たちは困惑の色を隠しきれない。それはそうだろう。若くとも優秀な王子に心酔している兵は少なくないのだ。何か言いたげな者もいるが、あえて見ないふりをして俺は立ち去ることにした。

翌日、時間通りに皆揃っているのを確認し話し合いを始めた。王子から指示が出ている以上それは決定事項である為、どの様な方法で情報を得るかというのが話し合いの主題となった。お互いの魔法特性で出来ることを相談すると、俺以外の全ての人物が風魔法の使い手であった。それも、攻撃に特化した者ではなく情報収集に長けた者たちだった。風魔法は、風を刃として使うことで殺傷性が高くなる。ただし、そこまで使う為には魔力の絶対量が必要であった。今回同じ護衛に選ばれた者たちは、そこまでの魔力量はないものの、風の力で音を集めるという繊細な技術を使える者たちが集まっていた。これは偶然だろうか。否、そんな偶然はあり得ない。最初からそのつもりでこのチーム編成を行なったのだろう。情報収集の目処がたったのに、頭が痛くなってきた。護衛仲間も、同様の事を考えていたのか困惑した表情を隠し切れていない。尊敬していた王子が、こんなストーカーだとは思っていなかったのだろう。そういう俺も執着が強い残念王子というくらいの認識しかなく、まさか犯罪行為にまで手を出すとは露ほどにも思わなかった。

この日から俺たちの任務の中にストーカー行為が加わった。カーテンが開く事で起床の時間を確認する。侍女たちとの朝の会話から、今日のお召し物や装飾品の色形を判断していく。どうやら、人と会う予定のない日はシンプルなワンピースを好み装飾品もそれほどつけない事がわかった。装飾品もあまりつけたがらず、侍女達からの要望により仕方なしにつけているようだ。人との約束がある場合でも、華美な物は好まずシンプルであっても品のあるドレス姿をしていた。これは、性格なのだろうが、父親と一緒に王宮を訪問してくる側室狙いの令嬢達と比べるとよっぽど好感が持てる装いだ。あんなに完璧な令嬢の様に思われているカタリーナ様であるが、実は朝が弱く時折舌足らずな話し方になる事も分かった。朝一部の護衛がそれを聞き身悶えている様子を見ながら、顔を青くするのが俺の日課になった。こんな事を王子に知られたら血の雨が降るのは間違いない。いや、仲間の護衛の気持ちは分からなくはないが、熱を上げる前に釘を刺しておく必要はあるだろう。
時折、護衛仲間を諫めつつ、それでもストーカー行為は王子の指示の元続けられた。それは、最初は3ヶ月だったものが、6ヶ月になり、それでも終わらずにさらに期間が延長されたのは予想外だった。正直あの王子がカタリーナ様と3ヶ月も離れていられるとは思わなかったが、頑張っているらしい。ただ、3ヶ月を過ぎた頃からある弊害が現れた。俺個別に、王子から手紙が届く様になったのだ。この状況での、王子からの手紙など不幸の手紙以外の何物でもない事だけは封を開ける前から分かっていた。

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