私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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1章

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応接室の中を見るとエヴァトリス、父、ルルーシュだけではなく母もいた。遅い時間ではあったが、あれほど騒がしかったのだから気づいてやってきたのだろう。部屋の中に入りまずはカーテシーを行い再度応接室に居る面々に視線を向ける。一人がけのソファーに座ったエヴァトリス王子は驚いたような視線を向けてきた。3人がけのソファーに座る父は眉間に皺をよせ難しそうな顔をしているが、その隣に座る母は乙女のようなキラキラとした視線をむけてくる。王子の斜め後に立っているルルーシュはその三者三様の表情をみて苦笑を浮かべていた。そんな応接室内に入ったところで、カタリーナは現状を把握できるはずもなかった。首を傾げたい気持ちを心の中に押しとどめながら表情を作り上げる。
「大変お待たせして申し訳ありませんでした。このような時間にどうされましたか?」
カタリーナの言葉にハッとしたように立ち上がったエヴァトリスはカタリーナの前まで急ぎ足でやってくるとそのままカタリーナを抱きしめた。成長期であるエヴァトリスの身長差はいつの間にか15cm程となっており、抱きしめられると肩口に顔をうめる形となる。カタリーナの顔はあっという間に朱色に染まる。
「あっ、殿下・・・あの、その・・・」
突然現れたエヴァトリスに抱きしめられるというハプニング、カタリーナの頭の中は混乱を極めていた。

ソファーに座っていた父が勢いよく立ち上がると、ルルーシュが部屋の皆に聞こえるような大きなため息をはいた。そしてそのまま口を開く。
「エヴァトリス殿下、久しぶりの再会で嬉しいのはわかりますが、声をかける前にそれでは流石に驚いてしまいます」
「そっ、そうです、殿下!!急に女性に抱きつくなど紳士のすることではありません」
父も慌てたように声をかける。王宮では氷の宰相と呼ばれているらしいが、その姿は見る影もなく、ここに居るのは娘のラブシーンに|憤っているただの父親だ。
「そうは言っても久しぶりにカタリーナに会えて嬉しんだから仕方ないだろう。それに今日は私が送ったドレスや宝石をつけてくれているんだから、喜びも一入だ。」
堂々と言い放ったエヴァトリスはカタリーナを離す様子はなくそのまま抱きしめ続けている。ルルーシュや父の言葉で我に返っていたカタリーナは、離れようとエヴァトリスの胸を両手で押しているがどれほど力を込めても離れることはできず、余計にぎゅうぎゅうと抱きしめる力が強くなる。いつの間にこれほど力の差がついたのかわからないが、カタリーナはいくら頑張ってもこの腕を振りほどくことができる気がしなかった。カタリーナは助けを求めようと視線を彷徨わせる。まず視線があったのは扉の前に立っていた父の従者だったが、その視線は光の速さで逸らされた。次に視線があったのは母だが、満足そうな笑顔で首を縦に振っている。どうやっても、助けてくれそうな雰囲気には見えない。父は金魚のように口をパクパクさせており、もはや目は虚ろである。もちろんカタリーナと視線が合うこともなければ、助けを求められる状態ではない。ルルーシュはというと、ため息をついて額に手をあて天井を仰ぎ見ている。こちらも視線は合わず、助けを求めることすらできなかった。その間もエヴァトリスはカタリーナを抱きしめたままであり
「幸せだ。カタリーナ、愛している」
恒例になったとろけるような笑顔で見つめられれば、カタリーナ自身も仕方がないかと思い少しだけ、エヴァトリスの背に手を回す。
「おかえりなさい」
カタリーナが小さな声で伝えた一言は、すぐ側にいたエヴァトリスにはしっかりと聞き取ることができた。一瞬だけ驚いたように、エヴァトリスの体がこわばったが、すぐにカタリーナを抱きしめる腕に力がこもる。
「ただいま。本当に、本当に君に会いたかったんだ」

無言の時間が部屋に訪れると、再度ルルーシュのため息が部屋にこぼれる。
「姉上・・・ほだされてるよ。」
はっとしたように顔を上げるカタリーナ。
「殿下、そろそろお離しください」
カタリーナは声を上げながら背中にまわしていた腕をエヴァトリスの胸板に移動させ強く押すと今度はすっと身体がはなれる。
「ルルーシュ、君は私の味方だろ?もう少し、この時間を楽しませてくれたっていいじゃないか」
「いやいや、この空気居た堪れないんで。父上もそろそろ戻ってきてください。母上は楽しそうで何よりですけど、私一人ではどうにもできないのでいい加減、助け舟くださいよ」
カタリーナがどうにもできなかった空気がルルーシュによって変えられる。空気を読んでいるのか、読んでいないのかカタリーナはルルーシュのことがわからなくなることがある。ただ、今回のことに限っては助けられたのは明白だ。
「まずは、皆座って話をしよう。殿下もそれで良いですか?」
ルルーシュの言葉により我に返った父は全員を見回して声をかける。
「そうだな、カタリーナも立ちっぱなしで疲れただろう?ほら、おすわり」
エヴァトリスはカタリーナの手を引きながら先ほどまで座っていた一人がけのソファーに戻り腰掛けると、自身の膝の上を叩きながら声をかける。呆然と立ち尽くすカタリーナに対してさらに手を引き促すが、それを打ち破ったのは又してもルルーシュだ。
「馬鹿なことしてないで、話が進みませんよ」
エヴァトリスはルルーシュの言葉を無視してそのままエステルを促し続ける。ルルーシュはさらに大きなため息を吐きながら、無理やりエヴァトリスとカタリーナの手を離すと、そのままカタリーナの手を握り、別のソファーに誘導する。エヴァトリスはというと、機嫌をそこねた様子もなくそれでも嬉しそうにカタリーナを見続けている。
「る、ルルーシュ、不敬な言動は控えなさい」
慌てて父がルルーシュを諌める発言をするが、ルルーシュはそれを気にする様子はない。
「父上はあのまま、姉上を座らせたかったのですか?」
飄々と話すルルーシュに対して、父は即答だった。
「そんなわけはないだろう!!」
「まぁまぁ、そんな話ばかりしていると時間がなくなりますよ。殿下に伺いたいことがいくつかあったのではないのですか?」
母の発言によりようやく話が進む兆しが見える。
「そうです。殿下!!護衛も連れずにこのような時間に何を考えておられるのですか。どうやってここまでいらしたのですか?」
父が責めるような口調になるのは仕方のない事かもしれない。護衛なしで王子が出歩くなどあってはならない事なのだから。そんな中、特に気にした様子のない王子は優雅に紅茶を飲んでいる。ちょっとした仕草が美しく見える。いつの間にこれほど成長したのか、気づくとカタリーナはエヴァトリスの所作に見惚れていた。
「宰相だって何となくの予想はついているだろう?護衛なしで王都まで安全に戻ってくる方法だよ」
父は苦虫を噛み潰したような顔をしているが、他の者には心当たりはなく疑問符を浮かべている。そんな中やはり何も気にした様子のないエヴァトリスはさらっと答えを告げた。
「王族のみに使用が許可された移動手段があってね。転移門って言うんだけど知ってる?」
またしても父がソファーから勢いよく立ち上がり、話を遮った。
「知るわけがないでしょう!それは、王族と上層部のみが知る極秘事項です。このような場所で話していいことではありません。それに、転移門を守る近衛はどうしたのですか?転移門を使ってきたのだとしても、近衛は連れてこれたでしょう。」
父の怒涛の質問により、転移門に対する質問ができない。カタリーナはファンタジーに出てくる移動装置を想像していたが、現時点でそれを確かめるためにエヴァトリスと父の話に入る勇気はない。
「近衛は一人連れてきて、そのまま国王に報告に行くように伝えているから大丈夫だよ。ここに行くことも伝えてはあるからそのうち来るんじゃないか?」
攻めるような口調で話していた父であったが一気に顔色が悪くなる。
「も・・・もしかして、王の許可なく転移門を使用されたのですか?我が家に来る際にも、王の許可は得ずにやってこられたのですか?」
父の言葉には覇気がなく、いっそ哀れに思うほどだ。
「小言を言われるのがわかっているのに待つ必要はないだろう?」
話始めに勢いよく立ち上がった父は力なくソファーに腰を下ろし、家令を呼び至急王城に使いをやる指示を出す。そんな、父を気にする様子もなくカタリーナと視線を合わせるとエヴァトリスはとびっきりの笑顔を見せたのだった。
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