44 / 93
1章
2
しおりを挟むエヴァトリスの顔を見たくなり、カタリーナそのまま視線を上に向ける。いつの間にかエヴァトリスはカタリーナの身長を超えており少し見上げる姿勢となっていた。そこで、顔を真っ赤にしたエヴァトリスが目に入りカタリーナは現状を思い知る。
夜着でエヴァトリスに抱きついてしまったこと、涙を流しながらというみっともない顔をエヴァトリスにさらしていること。顔を真っ赤にしたエヴァトリスの視線はカタリーナの顔と胸元を行き来している。
カタリーナの夜着は生地もしっかりしており、膝下までしっかりと隠れる長さであるが、胸元は広く開いており角度によっては、胸の間が見えてしまう。その事実に気づいたカタリーナは急いでエヴァトリスから離れると両手で胸元を隠す。エヴァトリスと目を合わせるのは気まずく、自然と視線が左右に動くと、視線の端に呆然と立ち尽くす父の姿を見つけることとなった。目と口を開いたまま動かない少し間抜けな父の顔など初めてみたが、状況が状況であり全く笑えない。さらに視線を動かすとそこには額に手を当て呆れ顔のルルーシュが見えた。ルルーシュはあからさまなくらい大きなため息を吐きながら
「姉上、とりあえず着替えてきたらどうですか?」
と一人冷静に声をかけてくる。
「キャーーーーーーーー!!」
カタリーナは自分から王子に抱きついたにも関わらず、その後は悲鳴を上げながら部屋に駆け込んだ。顔を真っ赤にして呆然としているエヴァトリスの様子に気づくこともなく、カタリーナはバタンと大きな音を立てて部屋の扉を閉める。許容量を超えたのだろう、カタリーナのキャラクターは完全に崩壊していた。
そんな事は気にした様子もなく、ルルーシュはカタリーナの部屋に侍女を手配し呆然と立ち尽くす王子と父を応接室押しやるように移動させて行った。
カタリーナが部屋の中へ戻ると、ほとんど間を開けることもなくノックの音が聞こえ侍女が入室する。侍女がキラキラとした目でこちらを見ているのは気のせいではないだろう。部屋に入ってきた侍女は「あれでもない」「これでもない」と言いながらドレスをみつくろっている。
「エヴァトリス殿下をあまり待たせるわけにもいかないので簡単なものでお願いするわ」
時間がかかるようではいけないと諌めるつもりでカタリーナは声をかけるが
「せっかく王子様がいらしているのに、今着飾らずにいつ着飾るんですか!」
必死の形相で返答する侍女の勢いに、カタリーナは飲まれてしまう。普段は穏やかな侍女がこのように話す事はない。本来であれば公爵令嬢にこのような口の聞き方をするのは処罰の対象となるが、勢いに飲まれたカタリーナは首を縦にふり了承の意思を伝えるしかなかった。
「殿下を待たせてしまうかも」と言うカタリーナの心配は杞憂に終わり、侍女は青色と黒のドレスを選ぶとこれでもかと言う速さで準備を整えていく。髪に関して侍女は
「あまり時間がありませんので、今回は簡単にまとめさせていただきます」
とだけ断り、編み込みをしながらサイドにまとめ、百合のコサージュを飾っている。大きめのコサージュは豪華であり、シンプルに見えた髪型にとても良くあっている。全ての準備が終わると侍女は少し遠くからカタリーナを眺め満足そうに頷く。
姿見で自身の姿をみたカタリーナは思わず顔が赤くなる。エヴァトリスの印である百合と髪色の黒をモチーフとした姿にどう反応して良いかわからない。カタリーナは突然エヴァトリスの色をまとうなど失礼になるのではと思案する。
「さすがにこれはどうかしら。了承もないのに、ここまで殿下の象徴のようなものを身にまとうのは失礼に当たるわ。時間がない中申し訳ないけれど、服装とか髪飾りを変えてもらってよいかしら」
小さくため息を吐いてしまったのは仕方のないことだろう。このため息はもしかしたらこの侍女にも聞こえてしまったかもしれないが、主人の手を煩わせているのだから多少は気にしてもらいたいと思ってしまう。だが、侍女からは予想外の答えが返っている。
「大変申し上げにくいのですが、これらは以前に王子様からカタリーナ様に贈られたものでございます。夜会の際など何度かおすすめしましたが『このような服装をすれば他の令嬢方が遠慮してしまう』と頑なにおっしゃったので着る機会がございませんでした。ですが、本日は他のご令嬢はいらっしゃらないので、心ゆくまでそのお姿を王子様に見ていただければと思い、このような装いを選ばせていただいております」
どうやら侍女は服を選んでいたのではなく、久しぶりに出す服を探していただけだったらしい。どうりで悩んでいたわりに決まるのが早いはずだ。そしてこの服がエヴァトリスからのプレゼントであることをカタリーナは全く覚えていなかった。
エヴァトリスからの贈り物は、本人が意図しているかは分からないが黒や青などエヴァトリスを示す色が多い。着る側としてはどうしても、少し気恥ずかしくなってしまう。だが、今回見られるのは送った本人と家族のみ。贈られたものを身に纏わないのも失礼に当たるため、ここが妥協点である気がしたカタリーナは渋々頷きながら
「わかったわ。せっかくエヴァトリス殿下が下さったものをいつまでも身につけないことも失礼よね」
と了承の言葉を小さく呟き応接室に向けて重い足を踏み出したのだった。
カタリーナには、重厚な応接室の扉がいつにも増して重そうに見えた。のなど思いつくわけもない。応接室前で待機しドアをあけてくれようとしている家令対して首を横に振り一度行動を止めさせる。カタリーナは、一度気持ちを落ち着けたかった。エヴァトリスに会えて嬉しさのあまり衝動的な行動に出てしまったが、このような時間に王子がくるなど緊急性の高い案件が何かあったのだろうか。カタリーナが関わることでの、思い当たる理由は見つからないため、それを思案するのはすぐに諦めた。しかし、問題があり心の準備だけはしたかった。その問題とはカタリーナの服装だ。これでもかと言うくらいエヴァトリスを連想させる衣装をろ纏った自身が恥ずかしくて仕方ない。後ろから付いてきている侍女に眉を下げながら申し訳なさそうに視線を合わせてみるが、毅然とした態度の侍女はしっかりと首を横に振る。カタリーナの着替えたいという願いは伝わっているようだが、その願いが叶う様子はない。カタリーナに残された手段は諦めてその場でため息をはくことだけだった。そのまま深呼吸を繰り返し、心の準備を整える。応接室内からは話し声などは聞こえず、時間帯の問題か廊下も静まり返っている。そのまま、ドアの前に立つ家令に視線を向けドアを開けるように合図すると低いノック音が廊下に響く。
「カタリーナ様がいらっしゃいました。お通ししてもよろしいですか?」
家令の声は形式上疑問の形をとっているが、ドアを開ける準備はすでに整っており、父からの
「入りなさい」
の言葉とほぼ同時に応接室のドアが開けられた。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
最愛の聖騎士公爵が私を殺そうとした理由
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
マリアンヌ・ラヴァルは伯爵家の長女として、聖女の血を引いていた。女当主である母が行方不明になってから父と継母とエグマリーヌ国王家の思惑によって、エドワード王子と婚姻を迫られつつあった。それを救ってくれたのは母の祖国にいた本来の婚約者であり、聖騎士団長のミシェルだった。
マリアンヌは愛しい人との再会に安堵するも、ミシェルに刺されてしまう。
「マリー、──、──!」
(貴方が私を手にかけたのに……どうして……そんな……声を……)
死の淵で焦る愛しい人の声が響く中、気づけば死ぬ数日前に戻ってきて──。
※旧タイトル:私を愛していると口にしながらアナタは刃を振りおろす~虐げられ令嬢×呪われた伯爵~の大幅リメイク版のお話です(現在全て非公開)
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)
夕香里
恋愛
無実の罪をあえて被り、処刑されたイザベル。目を開けると産まれたての赤子になっていた。
どうやら処刑された後、同じ国の伯爵家にテレーゼと名付けられて生まれたらしい。
(よく分からないけれど、こうなったら前世の心残りを解消しましょう!)
そう思い、想い人──ユリウスの情報を集め始めると、何やら耳を疑うような噂ばかり入ってくる。
(冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?)
記憶と真反対の噂に戸惑いながら、17歳になったテレーゼは彼に会うため皇宮の侍女に志願した。
だが、そこにいた彼は17年前と変わらない美貌を除いて過去の面影が一切無くなっていて──?
「はっ戯言を述べるのはいい加減にしろ。……臣下は狂帝だと噂するのに」
「そんなことありません。誰が何を言おうと、わたしはユリウス陛下がお優しい方だと知っています」
徐々に何者なのか疑われているのを知らぬまま、テレーゼとなったイザベルは、過去に囚われ続け、止まってしまった針を動かしていく。
これは悲恋に終わったはずの恋がもう一度、結ばれるまでの話。
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる