私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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2章

新しい生活

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夜会翌日から早速カタリーナは公務に参加することになった。といっても、まずは見習いの様に王妃の執務室と、エヴァトリスの執務室での見学の様なものだ。どの様な人が出入りしてどの様な書類を処理しているか。王妃教育を終えてはいたが、やはり実際となると大きな違いがある。気疲れもあるのだろう。カタリーナは1日が終わった頃にはクタクタで自室に戻ってはすぐに眠ってしまうという毎日が続いた。
エヴァトリスとは朝食と夕食は必ず一緒にとっているが、あれ以降聖女の話も婚姻に関する話も出ていない。会話がないわけではない。ただ、会話の内容がカタリーナの質問大会になっているのだ。今日の公務での処理方法、それぞれの貴族の立ち位置など話しながら食事をしているとあっという間に時間が過ぎていく。
最初の頃は
「食事の時間ぐらい仕事のことは忘れよう。」
と言っていたエヴァトリスも1週間もすれば諦めたのだろう、その時間を受容するようになっていた。
「話の内容は別にして、リーナに毎日会えて、こうやって食事の時間を持てるのは幸せなことだね。」
穏やかな笑顔でエヴァトリスは話す。
「ごめんなさい。せっかくの食事の時間なのに、でも気になっちゃって・・・。こういう仕事を15歳の頃からなさってたエヴァを本当に尊敬するわ。」
カタリーナの言葉をうけたエヴァトリスは嬉しそうに頬をかく。2人の間には以前のような穏やかな空気が流れてはいた。そして、愛称呼びも続いてた。
「正妃だろうが側妃であろうが、家族なら愛称で呼ぶだろう」
とエヴァトリスが無茶苦茶な理論を述べた後に、愛称で呼ぶ以外返事をしなくなったのだ。そのうち、飽きるだろうと放置していた所国王から苦笑いで
「申し訳ないが、愛称ぐらい許してあげてくれないか?流石に可哀想になってきた」
と言われてしまった。国王に言われたならまぁ、仕方ないとまた愛称で呼ぶようになったのだが、久しぶりに愛称で呼んだ時の喜び様は今後も忘れる事はないだろう。
忙しいのが良かったのか、気持ちが乱れる事もなく気がつけば3ヶ月もの時間が過ぎていた。それほどの時間が経てばカタリーナも慣れたもので、一人処理できる業務が、増えてくる。カタリーナ用にに用意された執務室は、エヴァトリスの隣の部屋で続き部屋になっている。「正妃の為の執務室では?」と辞していたが、エヴァトリスからの
「他の部屋は空きがなく用意ができない」
と言う何とも無茶苦茶なゴリ押しに負けてこの部屋を使う様になった。
部屋の準備は全てエヴァトリス自らしてくれたらしい。白で統一され装飾も華美ではない室内は、それほど物にこだわりがなかったカタリーナの好みを捉えたものだった。椅子や机はカタリーナの身長に合わせたのだろう。これらのものについては公爵家で使っていた物よりも使い心地は良いくらいだ。
「ありがとう」
そうカタリーナがエヴァトリスに、お礼を言うと少しはにかんだ様な笑顔を見せてくれた。
不自然な程、聖女に関する話題はなく平和な時間が過ぎていく。自分ができることを精一杯やるために、公爵家の娘として国に仕えるためにと決意をしたもののどうも気持ちがついていかない。ははなエヴァトリスとの距離は離れるどころか、皮肉なことに、公爵家にいた時より会う機会が増えてしまった。

ただ、カタリーナがエヴァトリスに答えられないのを分かってか、以前のように愛を囁く事はなくなった。それが、ホッとするような、悲しいようなカタリーナを複雑な気持ちにさせる。


仕事で王妃の執務室に向かっていると見知った後姿を見つける。白い神殿の衣装に、長くストレートの金髪が、なびいている。
久しぶりの再会に、カタリーナは思わず声をかける。
「リシャール様お久しぶりです。どちらに行かれる所ですか?」
振り返ると、少し疲れた顔をしたリシャールの姿があった。
「お久しぶりです、聖女様」
異世界からの聖女が現れたにも関わらず、リシャールからの対応は変わらず安心する。相変わらず、表情は読めず淡々と話す様子が少し懐かしい。
「今日は佳奈様に魔法の説明をさせていただきに伺ってました。それが終わりましたので、経過について国王様にお伝えするところです。」
「カナ様?」
カタリーナは聞き覚えのない名前に首をかしげる。
「あぁ、異世界からいらしたという、聖女様のお名前です。」
だが、リシャールの言葉にカタリーナは疑問を覚える。
本来聖女は婚姻まで神殿で預かり、その間に国の常識や魔法について覚ぶ予定になっている。リシャールの話し振りだと、聖女様はまるで王宮に泊まっている様だ。
「聖女様は、神殿ではなく王宮に滞在されているのですか?」
リシャールは少し驚いた様に目を開いた。
「何もお聞きになってはいないのですね。聖女様だって、今後に関係する話ですから、ちゃんとお話しは伺っていた方が良いでしょうに。佳奈様ですが、ご本人様の強い希望で王宮に滞在されています。元々の習わしの通り、この国や魔法の使い方については神殿の方で行う予定となっているため、私が王宮を訪問させていただいておりました。どこまで話して良いものか・・・私では分かり兼ねますのであとで殿下にでもお聞きください。私からも、声はかけておきますので」
面倒だと顔にはかいてあるが、何だかんだ言いながらリシャールはカタリーナのために動いてくれる。
「ありがとうございます。異世界の聖女様のことでお忙しいとは思いますが、お暇ができた時また私にも魔法の使い方について教えてくださいますか?」
「良いですよ。私の方でも伺いたいいことがありますし。」
聞いたのはカタリーナだったが、思いがけない快諾に少し驚く。だが、最近カタリーナが行っているのは王宮の公務だけであり、リシャールが知りたがっている情報を持っているのか不安になる。
「本当は王様にカタリーナ様との面会許可をもらおうと思っていたのです。簡単には聞いていましたが、異世界からの聖女様が現れた時どの様な状態だったのか・・・。それに、魔力が以前より安定されていますね、何か特別な事をされていますか?」
リシャールの言葉にカタリーナはすぐ様納得する。聖女が残した日記をあれだけ読みたがっていたリシャールなら聖女が現れた時の事も気になるだろう。だが、魔力の安定についての心当たりは何もない。むしろカタリーナの方が詳しく聞きたい状況であるが、今いる場所は廊下でありそう長話もできないのだろう。
「では、近いうちにお会いできる様お手紙を書かせていただいてよろしいですか?」
「ありがとうございます。お待ちしております。」
カタリーナの提案に快諾したエヴァトリスを見て、思わず笑みを浮かべるカタリーナだった。

リシャールとカタリーナの目的地が近く、会話が終わった後も二人はそのまま連れ立って歩く。少し進むと、正面からは急ぎ足でやってくるエヴァトリスがいた。
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