私が聖女になった時(旧:聖女の国)

海栗

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2章

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「そろそろ朝食の準備が終わる時間だと思うのですが、お部屋に向かいますか?それとも・・・昨日のこともありますし、お疲れの様でしたら少し部屋で休まれますか?」
カタリーナは気持ちを切り替えるように明るい声を意識して話しかける。すると、エヴァトリスはそれまでの沈んだ表情を消し笑みを浮かべた。
「ありがとう!カタリーナのいない昨日の食事は味気ないものだったから、とても嬉しいよ」
その表情と大げさな話ぶりに、カタリーナも少し肩の力を抜く。
「それは少し大げさですわ。」
「本当だよ!・・・本当に私はリーナが居ないとダメなんだ」
エヴァトリスの言葉は尻すぼみになっていく。再度カタリーナが明るく声をかける。
「では行きましょう。エスコートはしてくださらないの?」
最後の冗談めかした言い方に、今度こそエヴァトリスは破顔した。
「ありがとう。」
エヴァトリスの噛みしめるようにお礼の言葉を告げる。この言葉にどれだけの思いがこもっているのか、わかるのはエヴァトリスだけだった。

食事の時は、今までのように取り留めのない話や政務の話をした。その日以降エヴァトリスとカタリーナの間で聖女の話が出ることはなかった。そう、婚姻の2ヶ月前までは・・・。


いつもの食事の後のお茶を一緒に飲んでいる時間、その日は突然やって来た。最近の話はもっぱら婚姻の儀に関する話だった。衣装の話をすることもあれば、儀式の流れの確認をすることもある、時折エヴァトリスから「二人の子どもが欲しい」と言われることもあったが、それには答えることができず曖昧に微笑むだけだった。

2人での穏やかな時間を過ごしている中、ノックの音が響く。この時間での来客はそうあるものではないため、二人とも目を合わせて訝しんだ。ドアから、現れたのはこの国の王妃であり、慌てて二人は立ち上がる。
「いいのよ、二人とも。そのまま座ったままでいてちょうだい。急なんだけど、少しでも早く二人に伝えて起きたいことができたのよ。」
王妃の表情は優れず、その話が『良いこと』ではないと容易に分かった二人は顔を強張らせる。
「聖女様についてよ。」
そのまま、王妃はカタリーナに申し訳なさそうな視線をむける。
「貴方達の婚姻から2ヶ月後に、聖女の発表とエヴァトリスとの婚約発表を行うわ。その翌月には正式に側妃として召し上げられることになるの。それに伴って、事前にカタリーナと聖女様の顔合わせを行うことが正式に決まったわ。時期は婚姻の儀の30日前よ。婚姻の儀が終わった後からはカタリーナに皇子妃としての仕事が割り振られることになるんだけど、聖女様にもどのような仕事があるか知ってもらいたいから、少し見せてもらって欲しいの。」
最後まで話し切ると王妃は再度カタリーナに視線を向ける。カタリーナは、突然の報告に始めは驚きを見せたものの、先のこととは言え予想できていたことであり、すぐに冷静さを取り戻した。だが、同席していたエヴァトリスは違うようだ。
「側妃の話はすでにお断りしています。それほど、王家に取り込みたいのであれば王家の養子として扱えば良いでしょう。」
「その話は何度もしたでしょう。王族と聖女が結ばれることで国に平穏が訪れるというのが言い伝えで、それを信じている多くの人がいるのがこの国での現実です。歴史の中でもそれは伝説ではなく明らかです。万が一養子にすることが認められたとして、後継者はどうするのですか?王家の色は聖女の色です。聖女の子を後継者とするのであれば、王家の血が途切れます。エヴァトリスの子を後継者とすれば、いずれ王家の色は消えていくでしょう。」
「私はカタリーナがいればそれで良い。後継者の座もどうだっていい!」
「いい加減にしなさい。」
王妃の強く諌める声が部屋に響く。これほど、王妃が声を荒げることは珍しい。
「王子としての責任から逃れる事は許されません。カタリーナ、ごめんなさい。あなたの前でこんな話をする事になって・・・。議会から正式な話を持ってくる前に少しでも心の準備をしてもらいたかったの」
本来では議会からの話が来る前にカタリーナに伝えるのはルール違反だ。これも王妃なりの気遣いだろう。カタリーナが人前で取り乱す事のないように、矜持を守れるように。
「ありがとうございます。」
カタリーナは静かに微笑みながら王妃へと返事をする。
「余計なお世話だったみたいね。」
王妃は少し悲しそうな顔をしながらカタリーナへと返事をする。仕方のない事なのは分かっていても同じ女性として思う所があるのだろう。その間、エヴァトリスは口を挟む事はないが、悔しそうな顔をながら王妃を睨んでいた。

その日はそのまま解散になった、そして1週間後議会から正式な通達としてカタリーナに告げられたのは王妃から話された内容と全く同じもので、立ち会ったエヴァトリスは小さく
「ごめん」
と呟いていた。

分かっていた事で覚悟していた事であってカタリーナはどこか現実味のない思いで過ごす。それは、差し迫った婚姻の儀についもだが、聖女の事についても同じだった。時折ぼーっとする事がカタリーナを王妃は心配そうな顔で見つめるのだった。




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