23 / 28
足りない
しおりを挟む誕生日前日の夜。じいやに連行された私は、パパの部屋に来ていた。
相変わらずいい匂い。パパって歩く芳香剤みたい。
「リシア」
パパに呼ばれて、てててーとソファーに近づく。またガウンがはだけている。一応私もレディーなんだからね!
ソファーに到着すると、ぐっと体を持ち上げられ、パパのお膝に着席。む、胸が近い。
一応念の為ちらっと周りを見渡す。パパ以外誰もいない。二人きり。よし、とパパの胸に頬寄せすりすり。
堪能していると、べりっと引き離された。どうしてとパパを見る。
「まだ寝るな」
目を瞑りながらすりすりしていたから、勘違いしたのかも。
眠くないよと頭を振る。それに満足したのか、パパがテーブルに手を伸ばして何かを取った。パパと向かい合って座っているのでテーブルに何があるのか分からない。
手に取ったものをちょんと口に付けられて、反射的にあむっと食べる。あ、いちごだ。
視線を下ろすと、私の歯型がついたヘタのないいちご。みずみずしくて、美味しい。
あーんと口を開くと残りを口にほおりこんでくれた。
まだ食べたくて、可愛くおしゃぶりをすると、察してくれたのかもう一粒摘んできた。
いちごを持つパパの手を両手で掴み、行儀悪くむしゃむしゃ。
私の口の周り、すごいことになってるかも。パパの手はベトベトだし。ごめんよ、幼児は食べ方が汚いもんで。
「下手くそだな」
酷い、レディーに向かってそんなこと言うなんて。手をバタバタさせて抗議していると、グイッと濡れたタオルで口の周りを拭かれた。
パパも自分の手を拭う。
濡れタオルを用意してくれた人、ファインプレー。
他に何があるかなと、振り返りテーブルを見ると、おお! プリン発見。あれは私のプリンだ。
「パパ、プリン」
「ああ」
取ってくれたので、口を開けて待つ。すぐに入れてくれた。うまー。パパ絶対あーんにハマってる気がする。分かりにくいけど、楽しそうな雰囲気だもん。
せっせと運ばれるプリンをお腹に収めていると、苦しくなってきた。ちなみにプリンは3つ目に突入している。ディリアが見てたら怒りそう。
口に近づけられたスプーンを押しやり、もう要らないと頭を振る。中途半端に浮かんでいるスプーンを見つめたあと、自分の口にパクリとくわえた。
パパには甘かったのか、眉間に皺を寄せ、テーブルに食べかけのプリンを戻す。
「ミルク飲むか」
「ううん、いらない」
これ以上飲み食いすると、お腹がはち切れそう。苦しいなーとお腹を撫でていると、パパも一緒になって撫でてきた。うーん、前も思ったけど、形を確認しているような触り方に感じる。
「パパ?」
「……もう寝るか?」
「んー、パパはねむい?」
「全く」
「じゃあ、遊ぶ!」
バンザイと両手を広げて立ち上がり、パパの膝上で飛び跳ねる。すごい、ビクともしない。
とうっ、前世で見たアニメのヒーローをイメージして、床は怖いのでソファーへ飛び下りる。……前に、捕まった。
お腹に腕を回され、強制的にパパのお膝へ戻される。
「大人しくしろ」
パパの膝からソファーに移るだけだったのだが、私の行動は危険だと判断されたらしい。
厳しい声で注意された。
確かに、人の上ですることじゃなかった。反省します。後悔はしません。
きつく私を抱きながら、チリンとベルを鳴らした。入ってきた侍女達がテーブルの上を片していく。
あれ、この前の腹立つ侍女達がいない。どこかに移されたのだろうか。
歯磨きカプセルを噛んでスッキリすると、ベッドに運ばれた。眠くないのにー。
「ここで飛べ」
一瞬頭にはてなマークが浮かんだ。すぐにさっきパパの膝上でしていたことだと思い出す。
パパはベッドの上に足を伸ばして座り、私はベッドの上で直立不動。
片手で私の両手を掴むと、また飛べって言われた。
一回、軽く飛び跳ねる。続けて二回、三回と跳ねると、段々と楽しくなってきた。
「きゃはは、きゃーっ!」
ジャンプ、ジャンプ。楽しい。パパと遊べて楽しい。
前世の古い記憶と重なる。お父さんとお母さんがいて、リシアじゃない私がいて、楽しそうに3人で笑っている姿。決して戻れない日々。
うるっと涙で視界が歪んだ。手を繋いだまま、パパの膝に座る。
パパが泣きそうな私の目元をなぞるように触ってきた。
「どうした?」
「……ううん、たのしすぎたの」
にこっと笑って、可愛く首を傾げる。
「パパ、だいちゅき」
グリグリとパパの手に頬を擦りつけたあと、体を傾けてパパの胸に頭を預けた。とくとく、心臓の音。
パパ、足りない。足りないの。もっと好きになって。もっと、もっと。
愛に溺れたいの。
11
あなたにおすすめの小説
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】私は聖女の代用品だったらしい
雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。
元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。
絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。
「俺のものになれ」
突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。
だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも?
捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。
・完結まで予約投稿済みです。
・1日3回更新(7時・12時・18時)
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる