その心の声は。

久恵立風魔

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その心の声は。第一章

ハンカチ

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 次の日曜日。前日にハンカチのクリーニングが上がったのと、ランチの約束の連絡を彼女にして、俺は例のフィットネスジムの前で待ち合わせをした。

 5分遅れて彼女は現れた。

 「お待たせしました。ごめんなさい。」

 ジムのシャワー室を借りて汗を流してきたのであろう。彼女からは、ほのかにシャンプーの香りが漂ってきた。その香りに少し心地よさを感じながら、俺は話し始めた。

 「いえいえ。俺も今、来たところです。何か食べたいもののリクエストあります?」

 「う~ん。お任せします!」

 彼女の屈託のない笑顔に、俺は少しときめいていた。

 「じゃあ、俺の行きつけの店があるのでそこに行きましょう。少し歩きますが。」

 そう言うと俺は駅前にある『行きつけ』の店へと彼女をエスコートし、幹線道路沿いの桜並木の道を歩きながらお互いの事を話した。桜は五分咲きではあったが、春の風に揺らめき薄紅の光に輝いていた。

 「桜が綺麗ですね。」

 そう言う俺に彼女は「うん」と小さく頷き、微笑んだ。

 「鈴木さんの下の名前は何と言うのですか?」

 「雫です。」

 彼女は笑顔で答えた。

 「良い名前だ。」

 知っていたが、素直な気持ちだった。

 「佐藤さんは?」

 「雄大って言います。」

 「へぇ~。男らしくて良い名前ですね。」

 なんだか照れ臭く、耳が赤くなるのが自分でも分かった。

 「男らしいなんて言われたこと無かったから照れ臭いなぁ。ランニングマシン、運動不足で足がもつれて転んだし。」

 「ふふふ。あの時はビックリしましたよ。おもいっきり大きな音を立てて転んだから。」

 右手で口を押さえ、笑いを堪える彼女の頬を春の風が撫で、耳のピアスがキラリと光った。

 「あはは。俺、人生もつまずいてばかりなんですよ。誰か支えてくれる人がいてくれると良いのですけどね。」

 「結婚されてないのですか?」

 「はい。結婚どころか彼女もいません。こればかりは縁ですからね。」

 「縁。そうですね。」

 彼女は微笑み、遠くを見つめていた。

 桜並木を抜け、駅前の『行きつけ』の店に着いた俺達は店内に入り、窓際の席に腰を下ろした。

 「お洒落なお店をご存知なのですね。」

 店内は、アンティーク調の調度品でまとめられ、落ち着いた雰囲気の創作料理店であった。

 実はこの店、友人に紹介され一回だけ来た店で行きつけでもなんでもなかった。出来る男を演じてみたわけだ。

 「そうなんですよね。この雰囲気が好きでいつも来ているのです。」

 嘘だった。

 「ふ~ん。」

 周りを見渡し微笑む彼女は少し高揚している様にも見えた。

 「ハンカチですけど・・・」

 俺はハンカチをクリーニングに出してはみたものの、汚れがあまり綺麗に取れなかったので新しいハンカチを購入した事を伝え、ハンカチを彼女に差し出した。

 「そんな。気もお金も使わなくて良かったのに。」

 そう言うと彼女はハンカチを広げた。

 「雫さんの趣味に合うか分かりませんが。」

 「素敵な柄のハンカチ。ありがとうございます。」

 すると、ハンカチの隙間からセール品のタグが出てきてしまった。

 「あ、いや、これは、俺、お金無いもので・・・」

 「ふふふ。いいえ。ありがとうございます。」

 「いえいえ。お礼を言うのは俺の方。こちらこそありがとうございました。」

 お互い見合って笑いあった。俺はそんな良い雰囲気の二人の関係が心地よくなっていた。

 「雫さんは彼氏いないのですか?」

 彼女は顔色が少し曇り、すぐに笑顔になり答えた。

 「今はいません。」

 俺は少し、ホッとした。

 その後も話しに華を咲かせ、ランチを食べ終えた頃、俺はあのスマホをポケットに忍ばせトイレへと席を立った。

 トイレで俺はスマホを開き訊ねた。

 「OK、ゴーグル。雫さんの今の気持ちを教えて。」

 「雫さんは楽しい時間を過ごせたと思っています。」

 「OK、ゴーグル。じゃあ、また雫さんをデートに誘っても断られないかな?」

 「雫さんは雄大さんに対して悪い印象を持っていなく、友人としてならいいと思っています。」

 (友人として、か。まぁ、それでも良いか。)

 席に戻った俺はスマホを彼女へ返す話しはせず、次のデートの約束を取りつけようと話し始めた。

 「今日はご一緒させて頂いて楽しい時間を過ごせました。ありがとうございました。」

 「いえいえ。こちらこそ楽しかったです。美味しいランチも頂けて。」

 「もし良かったらまた食事をご一緒しましょう。勿論、一人の友人として。」

 「ええ。」

 彼女は微笑み頷いた。

 そして、俺達は次のデートの約束を交わしその店を後にした。

 帰り道。俺は一人で歩きながら彼女のスマホを握りしめ二人でいた時間、会話を思い返していた。そして、彼女へと惹かれている自分の気持ちに気付き、その気持ちと反比例するように、このスマホを返せなくなっていた。
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