その心の声は。

久恵立風魔

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その心の声は。第二章

ディザート・ローズ

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 「ディザート・ローズへの報告は済んだか?」

 大阪のアジトのアパートで不機嫌そうに訊ねる伊村に劉は「ああ」と、一言だけ答えた。

 「こちらの計画がダダ漏れだったのは明白だ。ジャミング装置も携帯していたのに心を読まれたとなると、新型はジャミング機能を無効に出来るようだな。厄介なことになった。これでは心を読まれずに神谷に近づくのは困難だな。」 

 そう言いイライラ短気な伊村は爪を噛みながら魔改造されたオリジナルのパソコンの前で今後の読心スマホ奪還の計画を考えていた。

 「そうだな。ディザート・ローズもその事については危惧していた。」

 劉も中国製のオリジナルパソコンでカタカタとキーボードを叩きながらディザート・ローズとチャットで連絡をとっていた。

 ここでディザート・ローズについて少し触れておきたい。ディザート・ローズは俗称で国籍はアメリカ合衆国。性別は男性で40歳代後半。パソコンに精通しており、スカイハックのナンバー2と目されている人物で、レイヴンと唯一連絡が取れるとも言われている。

 「こういうのはどうだ。」

 伊村はディザート・ローズとチャットする劉に提案した。

 「ちょい強引だが、神谷の持つ読心スマホの思念受信範囲の外から一気に間合いを詰め、読心スマホを持つ神谷ごと拉致るのはどうだ?」

 自信ありげにそう計画する伊村に劉は、

 「いや、それは危険だな。もうすでに神谷には日本の公安当局が張り付いていると考えた方がいい。拉致るとなれば公安も相手しなければならない。神谷一人を相手するわけじゃない。ヤバすぎるだろ。」

 「じゃあ、どうしろっていうんだ!」

 声を荒げる伊村に劉は冷静に答えた。

 「とにかく、神谷の生態を徹底的に調べるのだ。その中で、スマホを肌身から離す時を狙う。例えば、神谷が銭湯に行った時ロッカーをこじ開けてスマホを抜き取るとか、神谷の留守をねらって、自宅部屋に盗聴器、盗撮カメラを仕込んで監視、その中で読心スマホを手離す瞬間を調べ上げ、その時に部屋に侵入してスマホを奪取する、とかな。」

 「くっ!相変わらず頭のキレる奴だな。悔しいがその案に乗ろう。ディザート・ローズに今の提案を聞いてみてくれ。」

 「いや、もう聞いてディザート・ローズからOKも貰ってある。今人員の調達について聞いているところだ。」

 「クソッ!いちいち癪に触るヤローだな!じゃあ俺に聞くなって話だ!」

 短気な伊村だが、今日は一段とキレキレ(別な意味で)であった。

 「誰もお前さんには聞いていない。お前さんが勝手に話出した事ではないか。」

 「うるせぇー!」

 劉も黙っていればいいものを火に油を注ぐタイプなのだろう。伊村を挑発する事を少し楽しんでいる様でもあった。そして劉は人員の手配をディザート・ローズへ依頼した。その内容は尾行等、神谷の生態を調べる調査班にこの件についての内容を知らない知らせない闇サイトで雇うバイトを2名。これは公安調査庁の剣崎らがとった手法と一緒である。それと神谷の自宅への侵入、盗撮、盗聴等の機材の設置をする実行班に伊村ともう一人のスカイハックメンバー、牧野直哉という男を呼び寄せる。そして、カメラ、盗聴器設置等が済んだ後の監視班に劉の計5名による読心スマホ奪還ミッションが計画された。

 「実行は準備が整い次第随時行う様に、だとよ。」

 劉がディザート・ローズからのメッセージを読み上げると、伊村は面倒くさそうな顔をして、「はい、はい」と、二つ返事をした。

 三日後、大阪の前川から東京の剣崎へ連絡がはいった。

 「はい、そうです。伊村と劉は大阪のアジトを引き払い東京へと向かいました。おそらく神谷が所持している読心スマホの奪還を狙っての事でしょう。しかし、心を読めるスマホ。一度お目にかかりたかったです。読心スマホなる物があれば、私達の仕事も格段に捗るのですがね。」

 「その節は永野がお世話になり、ご協力ありがとうございました。そうですね。ただ私共、ゴーグル社から一台読心スマホを借りているのですがコンプライアンスやモラル等に問題があるため、使っていないのですよ。使用にあたっては法的、倫理的にも問題がないか上に伺いをたてているところです。諜報機関だから法的に問題があるものを使ってもいいという根拠は私らにもないですからね。」

 「確かにそうですね。読心スマホの新たな法律も必要な世の中になりそうだ。」

 「日本の政治家は後手後手になるのが常です。あまり期待しない方がいいでしょうな。」

 そう言うと剣崎と前川は電話口で笑いあった。そして剣崎は東京駅に伊村達スカイハックのメンバーの尾行の引き継ぎ要員を向かわせた旨を伝えた。

 「伊村と劉の大阪で活動した情報は後で送信しておきます。剣崎さんのご健闘を祈ります。それでは。」

 「ありがとうございます。それでは。」

 剣崎はそう言うと電話の受話器を戻しデスクの椅子で大きく背伸びした。

 (スカイハックめ、今度は何を企んでいるのか。読心スマホを狙ってどう動いてくるかな。)

 デスクの上にあるコーヒーを飲み干し、前川から貰ったスカイハック5名の顔写真付きの資料をデスクの上に放り投げた。
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