その心の声は。

久恵立風魔

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その心の声は。第二章

復讐

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 その日、本庁のスカイハック対策本部に一報が入った。

 「剣崎さん、武田達の班から逃亡中だった落合の足取りの情報が入りました。どうやら奴は都内に潜伏しているようです。」

 興奮してそう報告する橋本に剣崎は落ち着いて、

 「そう興奮するな。しかし、これで俺達のミスをチャラに出来そうだな。詳しい情報を教えてくれ。」

 「はい。武田の報告ですと落合は都内のビジネスホテルに偽名で宿泊、滞在しており、今現在近所のパチンコ店で遊んでいる様です。」


 「そうか。誰か第三者とコンタクトを取った形跡はあるのか?」

 「いえ。落合は携帯を所持していない様です。そして、スカイハックともコンタクトしていないようです。」

 顎髭をワシャワシャして剣崎は落合の身柄をどうするか考えていた。

 「確保しますか?」

 そう訊ねる橋本に剣崎は、

 「そうだな。スカイハックとの接触の可能性がない限り泳がせても時間の無駄か。よし。尾行を継続してビジネスホテルに戻ったところを確保だ。橋本、お前は裁判所に行って令状をとってきてくれ。罪名はとりあえず窃盗でいいだろう。頼む。」

 「分かりました。」

 そう言い橋本は対策本部を後にした。そして剣崎は本庁の上方に読心スマホ使用の伺いを立てるべく本庁第二調査部部長の堀内の元へと赴いた。

 「そうか。落合も足取りを掴めたか。で、確保するのか?」

 堀内は剣崎から渡された報告書に目を通し、そう訊ねた。
 部長の堀内はキャリア官僚である。が、しかし現場への理解があり、そんな堀内に剣崎は信頼を寄せていた。

 「はい。そこで相談なのですが、ゴーグル社から預かっている読心スマホの使用許可をお願いしたくて伺いました。」

 「落合に使うのか?」

 剣崎は深く頷いた。

 「分かった。いいだろう。しかし使用にあたっては条件がある。決して本人に気付かれずに使用するように。これは基本的人権に関わる問題になりかねないからな。」

 「承知いたしました。ありがとうごいます。」

 剣崎は堀内に深く一礼すると、部長室を後にした。

 「クソっ!また今日も負けた。」

 落合はブツブツとパチンコ店への恨み節を垂れながら宿泊先のホテルへと戻っていた。

 「奴はこちらには気付いていないな?」

 「はい。大丈夫です。」

 尾行中の武田と合流した橋本はそう話すとこの後の段取りを武田に説明した。

 「今、令状を持った剣崎さん達が滞在先のホテルの協力を得て張り込みをしている。落合が部屋に戻ったところを確保する予定だ。そのあと本庁に連行、読心スマホを本人に気付かれない様に使用して尋問するとのことだ。」

 「ええ!?アレを使うのですか?」

 驚く武田に橋本は冷静に頷き、

 「堀内部長の許諾も得ている。大丈夫だ。」

 武田は落合の背中を見ながら、大きく唾を飲み込んだ。

 ホテルに戻った落合はフロントで鍵を貰うと、部屋へと向うエレベーターに乗った。エレベーターには落合の他に男二人が乗り込んだ。落合と男二人は同じフロアで降り、落合の後に続くように男二人も付いていった。落合は部屋の鍵を開け、ドアを開けた瞬間、後ろにいた男二人がドアと落合を掴み、部屋へと押し入れた。それと同時に落合の部屋の両隣りと、向かい側のドアが開きそこから男数人が一斉に落合の部屋へと押し入った。

 「な、何なんだ?お前ら何者だ?」

 慌て、動揺する落合に群がる男達をかき分け剣崎が近寄っていった。

 「落合健作だな?警視庁だ。お前に令状がでている。同行願おうか。」

 剣崎は令状を指し示すと、落合はうなだれ、諦めたその表情は薄っすら笑っていた。
 今回公安調査庁の名を出さなかったのは、罪名が窃盗なのに何故公安がという事にならない様にと、ホテル内での確保になるので、あまり公安調査庁が目立って行動してしまうと、後からマスコミ等がうるさいだろうという配慮から身分を隠しての落合確保であった。それに実際のところ警視庁からの応援も貰っていたので警視庁を名乗っても嘘にはならない。
 剣崎は細井に落合へ手錠をする様指示し、警視庁へ連行するため落合の傍を細井と剣崎がかため、護送車に乗せた。落合は終始うなだれ、沈黙していた。

 警視庁では取り調べの準備のため先に来ていた橋本と、武田が到着を待っていた。そして警視庁の特殊取調室へと落合を通した。特殊取調室は証人に容疑者の顔の確認をしやすくするようマジックミラーで仕切られた暗室のある取調室で映画やドラマなどでよく出てくるアノ部屋である。

 マジックミラーの奥では剣崎と細井と、ゴーグル社から雫がアドバイザーとして来てもらっていた。

 「佐藤さん、ご足労願い、申し訳ない。今日はよろしくお願いします。」
 
 「いえ。落合さん、見つかったのですね。」

 雫は複雑な心境なのか、顔が強張っていた。

 「私達がこちらから武田へ質問を無線で送り、武田に取り調べしてもらいます。その答えを読心スマホで読む事にしましょう。」

 剣崎の説明に雫と細井は軽く頷いた。

 「武田、俺の声が聞こえるか?聞こえているなら耳のワイヤレスイヤホンを触ってくれ。」

 武田はそっと左耳のワイヤレスイヤホンを触った。

 「では、始めようか。」

 そう剣崎が指示を出すと武田は部屋の入り口に立つ落合を招き入れた。

 「こちらに座ってください。」

 武田はマジックミラーとは対面になる席へ落合を座らせると、

 「取り調べを担当する武田です。隣にいるのは橋本と言います。私どもの問いに答えて貰いますが、話したくなければ話さなくてもいいです。黙秘権というやつですね。では始めます。」

 落合は返事も頷きもせず、ただ机の一点をジッと見つめていた。

 「まず手始めにいつ、何処で、どうやってスカイハックの伊村と接触したかを聞いてくれ。」

 剣崎の問いを武田が繰り返す。しかし、落合は沈黙し答えなかった。

 「黙秘権か。佐藤さん、お願いします。」

 剣崎はそう言うと雫に読心スマホで落合の心を読んでもらった。

 「OK、ゴーグル。今の質問の落合の答えを教えて。」

 読心スマホによるとこうだ。
 伊村と知り合ったのは約2年前、SNSを介して出会った。最初にコンタクトしてきたのは伊村の方からで、落合をゴーグルの新技術開発の研究員と知っていて近づいて来たようだと。その時伊村の事はPCにかなり詳しい技術者と思っていたようだ。

 「では、何故テロリスト、スカイハックに手を汚そうとしたのか、それはいつからなのか?」

 武田が質問したがやはり落合は黙り込んでいる。黙秘を貫くようであった。

 「黙秘をしても無駄なのだがな。雫さんお願いする。」

 剣崎に躊躇はない。聞ける事は全て引き出そうと思っているようだった。雫は少し躊躇していた。相手はつい最近まで一緒に仕事をしていた仲間だからだ。しかし今はテロリストの加担者と割り切るよう言い聞かせていた。

 「OK、ゴーグル。今の質問の落合の答えを教えて。」

 『落合はゴーグル社内での読心スマホ開発競争で佐藤雫に敗れ、出世コースから外れた事で佐藤や会社に恨み妬みを持ち、その腹いせに読心スマホを社外へ流出せしめようと画策、ちょうどその頃伊村が新技術の情報を集めておりコンタクトしたところ、実は伊村はテロリストハッカー集団スカイハックのエージェントと知り、格好の復讐になると思い、今回の件に至ったようです。』

 「落合さん・・・・・・」

 雫としては複雑な心境であった。それもそうだ。落合が闇に手を染めた原因が自分にもあったのであれば・・・。雫としては職務を忠実に勤めただけであったのだが、その影で落合が自分を不幸であると思い込みそれを妬んでいたと知り、胸が痛くなっていた。
 剣崎は横目で雫の表情や心境の変化に気付くと、そっと読心スマホを手に取り、雫に少し休むよう促したが、雫は最後まで立ち会うと、気丈に振る舞っている様であった。
 剣崎は続けて質問した。

 「今後のスカイハックの動きで何か知っている事があるか?」

 落合は相変わらず沈黙していた。剣崎が読心スマホに問いかけたが、落合は技術の流出とその見返りの報酬以外のことは知らない様であった。その後も取り調べは続いたが、有力な情報は手に入らなかった。

 「ここまでだな。」

 剣崎はそう言うと落合を退室させ、留置所へと送った。

 「佐藤さん、すみませんでした。嫌な思いをさせてしまいましたね。」

 申し訳なくそう言う剣崎に雫は首を横に振り、

 「いえ、私は大丈夫です。」

 と、笑ってみせた。剣崎はひとつ頷くと、雫に必ずスカイハックを壊滅させてみせますと、約束した。
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