その心の声は。

久恵立風魔

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その心の声は。第二章

電撃作戦

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 仕事を終え、マンションの玄関ドアを開けた神谷はリビングに入り、ソファーにカバンを放り投げてスーツとシャツを脱いだ。そしてテレビを付けると部屋着へと着替え、ソファーに腰掛け自分のスマホを開いた。
 ここは神谷の自宅マンションで間取りは1LKと若い独身男性にしてはいい部屋に住んでいた。神谷はしばらくスマホを眺めてから、キッチンの冷蔵庫を開け、缶ビールを一つ取り出すとまたソファーへと戻り帰宅途中で買った近所のコンビニ弁当を広げ、ビールと共に食した。
 弁当を食べ終えた神谷はまたしばらくスマホを眺め、観終わると、自分のスマホとカバンから取り出した読心スマホとをリビングのテーブルに置き、テレビを観始めた。

 「いつもの日常パターンだな。いつもならこの後風呂に入るな。風呂に入ったら少なくとも15分は部屋に戻ってこない。今日決行するか?」

 伊村はそう訊ねると劉はモニターを観ながらしばらく考え、「よし!今日決行しよう。」と言い、伊村と牧野は慌ただしく準備を始めた。

 「面倒くせーなー。俺は肉体労働は苦手なんだがな。」

 顔をしかめて嫌そうな表情をする牧野に伊村は

 「神谷の自宅への侵入のためのカードキーの解除にはお前の技術が必要だ。これも仕事。成功すれば報酬ははずむさ。」

 「スペアのカードキーは作って渡しておいただろ?なんでまた俺なんだ。劉に行かせればいいだろ。」

 そう言うと牧野は劉を指差した。劉はジロリと牧野を見ると少し笑って

 「お前はまだ若い。ここで冷静な指揮と判断が出来るとは思えんがな。」

 と、言うと牧野は不機嫌そうにまた準備を続けた。

 こちらは神谷の自宅マンションから少し離れた場所にあるスカイハックの新しいアジトである。少し広めのワンルームマンションで部屋には大阪から引っ越してきた魔改造されたパソコンに、数台のモニター、高性能な巨大アンテナでごった返していた。モニターにはそれぞれ神谷の自宅リビング、寝室、キッチン、玄関が映し出されており、どれも伊村に魔改造されたもので、リビングのBlu-rayレコーダーのリモコン受光部に、キッチンにはエアコンのリモコン受光部、玄関には天井ライトに、寝室にはBluetoothスピーカーの穴にそれぞれ盗撮用小型カメラが仕込まれていた。巨大アンテナはその電波を受信するための物であった。

 大阪のアジトを引き払ってから1ヶ月。伊村達スカイハックは着々と読心スマホ奪取に向け、任務を遂行していたのであった。先の計画案通り神谷の日常の行動を闇サイトで雇ったバイト二人に調べさせた。もちろんそのバイト君達には神谷から50m以内には入らないよう(遠巻きに監視して神谷の読心スマホの受信エリアに絶対に入らないよう)指示していた。そして自宅が留守の時間帯を割り出しその時間帯に牧野にカードキーの解除させ、自宅に潜入。そこにある家電を調べそれと同じ製品を購入。アジトにてその製品に盗撮用小型カメラを取り付け、再度自宅に潜入。製品をすり替えカメラから送信される電波を受信して神谷の自宅での日常行動を調査、監視して神谷がスマホを手放し奪取出来る隙をうかがっていた。神谷に気付かれぬように。

 「準備は出来たか?リミットは15分だ。二人神谷の自宅マンション付近にて待機。あまりマンションに近付き過ぎるなよ。奴に心を読まれたらこの計画は失敗する。指示は各スマホにて出す。どうだ?イヤホンに俺の声が聴こえるか?」

 劉はそう言いい、確認を促した。

 「伊村、了解した。聴こえる。俺の声も聴こえるか?」

 「ああ。牧野はどうだ?」

 そう言うと劉は牧野を見た。

 「牧野了解。行くぞ。」

 牧野はそう言い、伊村とアジトを後にした。

 劉はモニターを見つめ、その時を待った。しばらくすると伊村が配置に着いたと言ってきた。そうしていると、神谷が動いた。

 「よし。神谷が動いた。奴はバスルームへ向かった。スマホはいつものようにリビングのテーブルの上だ。リミットは15分。ミッションスタートだ。」

 「了解。行くぞ。」

 伊村はそういい二人マンションエレベーター入り、神谷の自宅階へ昇った。

 「牧野。お前は神谷の自宅玄関で出口の確保を頼む。俺がリビングに侵入してスマホを奪取する。」

 そう言うと牧野は頷き、伊村は偽造したカードキーを通し、そっと神谷の自宅へと潜入した。

 「侵入をこちらでも確認。神谷はバスルームの中だ。今ならリビングはガラ空きだ。神谷の個人スマホと読心スマホの二つある。取り違えるなよ。行け。」

 劉の指示で伊村はリビングに入り、さっとテーブル上の読心スマホを奪取した。伊村はほくそ笑み、牧野と共に神谷の自宅を出た。

 「ふははは。遂に手に入れたぞ。劉、ミッションコンプリートだ。」

 「ふふふ。了解だ。アジトにもどってきてくれ。」

 劉も心が小躍りしていた。

 「よし。電話会社に連絡。奴らの携帯の回線を切れ。橋本班、伊村と牧野を確保しろ。武田班は劉のいるアジトのマンション管理者に計画通りアジトのあるフロアの電源と電話回線を切るよう依頼しろ。すぐにだ。そしてアジトにスペアキーで突入し、劉を確保しろ。令状の表示は身柄確保後でもよし。スカイハックの他のメンバーに連絡がいってしまわないよう迅速に行動せよ。抜かるなよ。」

 剣崎はそう指示出すと、私服警官を引き連れアジトの劉のいる階へと向かった。

 「もしもし?劉、聴こえるか?ダメだ。回線が切れた。まあいい。アジトにもどるぞ。」

 伊村は電話を切ると牧野を連れエレベーターへと向かった。

 「伊村忠と牧野直哉だな。警察だ。住居潜入と窃盗の容疑で緊急逮捕する。」

 橋本は複数の私服警官を連れエレベーター前に現れ立ちはだかった。

 「ちっ!」

 伊村は舌打ちすると、通路の反対側の非常階段へ向かったが、そちらにも大勢の私服警官で塞がれていた。」

 「これまでか・・・」

 伊村は諦め、その場に立ち尽くしたが、牧野は暴れ、もがき、騒いだがしかし、複数の警官に羽交締めされ、口を塞がれてすぐにエレベーターに乗せられた。

 「伊村忠だな。スマホを返してもらおう。」

 伊村は険しい表情をし、悔しさを滲ませていたが、すんなりとスマホを橋本へと渡した。橋本は警察の特殊車両でモニタリングしている細井に連絡を入れ何かの確認を済ますと、すぐにひとりの私服警官にそのスマホを渡すと神谷の部屋に戻すよう指示を出した。

 「何故だ?何故また神谷にスマホを戻すのだ?」

 不審に思った伊村は橋本に訊ねた。しかし、橋本はその質問に答えず、伊村を連行するよう他の警官に指示した。

 「クソっ!あと一歩だったのに・・・・」

 伊村はそう言葉を吐き捨て、連行されていった。

 剣崎は警察の特殊車両の細井に連絡を入れた。

 「神谷はどうだ?侵入や逮捕のゴタゴタに気付いているか?」

 「いえ。奴はまだバスルームに入ったまま出てきていません。」

「よし。橋本班は速やかにそこを撤収しろ。」

 無線で橋本に指示を出し、剣崎がアジト前に着いた時にはアジトは電源が落ち、警官により占拠されたあとでそこにはLEDライトに照らされうなだれる劉がいた。武田もマンションの管理室から戻り剣崎と合流した。

 「劉玄英だな。入管法違反、共謀罪、組織犯罪処罰法違反で令状が出ている。同行してもらおうか。」

 「くっ!」

 劉は悔しい表情を浮かべ剣崎を睨んだ。

 「いろいろ話を聞かせてもらおうか。いろいろな。」

 剣崎は少し笑うと、劉を連行するよう、そして武田にスカイハックの魔改造されたパソコンを鑑識にまわし、分析するよう指示した。

 この剣崎の公安による電撃作戦は遡る事1ヶ月前。近畿公安調査局の前川からの報告より伊村達スカイハックメンバーが東京に戻って来た時から始まっていた。剣崎の指揮の下、橋本、武田、細井によるチームによりスカイハックメンバーの行動を密かに監視、調査していたのだ。そしてメンバーが神谷の自宅に潜入して隠しカメラを設置しているのも把握しており、そのカメラから送信される電波の探知、解析にも成功。その情報も逆に利用させてもらっていたのであった。勿論彼等の携帯の盗聴の許可も裁判所から得て情報を入手、彼等の会話や目論みは剣崎達の公安職員に筒抜けであった。その様な剣崎達公安調査庁職員の地道な努力の結果、今回の電撃作戦は成功裏に終わった。

 「さて。いよいよ、スカイハック壊滅に向けての序章、そして読心スマホの出番だな。伊村達には悪いが、心の中を調べさせてもらおうか。そして奴等の中枢に切り込むぞ。」

 「はい。読心スマホによって、どんな情報を入手、もたらしてくれるか、楽しみですね。」

 落合の件で読心スマホの威力の味をしめた剣崎に罪悪感はもう感じられなかった。相手は人間ではなく、テロリストという名の悪魔だと割り切っていたのであろう。剣崎の傍らにいる武田も高揚感が隠せない様子だった。

 その頃、神谷は風呂からあがり、2本目のビールを冷蔵庫から取り出しソファーに座り、ぐびぐび飲んでふと、風呂に入っている時外が少し騒がしかった事を思い出した神谷は、

 「お隣さん、新婚夫婦だったよな。喧嘩でもしていたのか。」

 と、的外れな推測をしていたが、それも長く気に留める事もなく、ビールを飲み干してまた能天気にテレビを観てその夜を過ごした。
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