その心の声は。

久恵立風魔

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その心の声は。第二章

取り調べ

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 翌日、警視庁の特殊取調室では劉達スカイハックの正規メンバー三人の確保の前に神谷に張り付いていた闇サイトで雇われたバイト君二人を任意で同行してもらっていた。
 部屋は落合の時より少し広い10畳程の広さの中央にテーブルと2脚の椅子があり、橋本とバイト君がテーブルを挟んで対峙じていた。バイト君の座る後方には大きな鏡がありその鏡はマジックミラーになっていて、その奥には剣崎、武田、細井、そしてゴーグル社から佐藤雫が、CIAエージェントのジョージ・ワーカーも同席して取り調べの行く末を見守っていた。
 橋本の耳にはワイヤレスイヤホンが装着されており、剣崎からの指示で、質問していた。

 「橋本、聞こえるか?まずは名前と年齢、国籍、住所を聞いてくれ。」

 バイト君二人は取り調べに素直に答え、読心スマホでの裏取りでも正直に話ししていて、ただ単にいい金額で雇われ、神谷の尾行だけをしていた様でスカイハックとの強い繋がりもない事が分かった。

 「バイト君二人は白ですね。これといって不法行為もしていませんし、これでは罪には問えません。どうしますか?」

 そう言う武田に剣崎も、

 「そうだな。任意での同行だし、これ以上は何も出てこないだろうな。いいだろう。バイト君二人は解放だ。」

 こうしてスカイハックに雇われたバイト君は丁重に帰宅して頂いた。

 「さて、ここからが本番だ。まずはニューフェイスの牧野から始めようか。」

 剣崎は指の骨をバキバキと鳴らすと不敵な笑みを浮かべた。何と言ってもこちらには読心スマホがある。それを駆使してどう料理してやろうかと思案していた。
 取調室に制服警官に両脇を固められて連行されてきた牧野はふて腐れた表情で橋本に席に着くよう促されると、チッと舌打ちをひとつして席に着いた。

 「よし。まずは住所氏名の確認だ。」

 剣崎の指示に従い橋本が牧野に質問した。が、牧野は答えない。一言、「黙秘します」とだけ言った。

 「雫さん。出番だ。読心スマホで牧野の心を読んでくれ。」

 「はい。OK、ゴーグル。牧野の今の質問の答えを教えて。」

 『牧野直哉 28歳 日本国籍  住所は大阪府大阪市・・・・・』

 「こちらの調査してある情報と一致したな。では次の質問だ。牧野のスカイハックでの役割とポジションを聞いてくれ。」

 橋本は剣崎の質問を繰り返した。が、牧野は沈黙していた。
 雫が読心スマホに問いかけた。読心スマホの答えだと、牧野はスカイハック内でピッキングや電子カードキーの偽造などと、コンピュータウィルスの製造、注入などを専門に担当していたが、ポジションは若いのもあり、あまり高いとはいえないようであった。

 「今の話だと小者のようだが、一応、単刀直入に聞いてみよう。スカイハックの首謀者、レイヴンとは誰だ?」

 剣崎の問いを受け、橋本は質問した。が、しかし、牧野はダンマリだ。雫が読心スマホを駆使するものの、『牧野も分からない』との答えだった。その後もいくつかの質問をしたが、あまり重要な情報は得られなかった。

 「こいつはスカイハックでも下っ端中の下っ端ですね。」

 そう言う武田に剣崎は頷き、次に、伊村を呼ぶよう指示した。

 牧野と入れ替わりで伊村が特殊取調室に入室した。伊村は部屋を見渡すとマジックミラーを覗き込み、薄ら笑いを浮かべ、席へと着いた。

 「こいつ、こちらの存在に気付いてますね。舐めやがって。」

 不快感を表す細井に「まぁ、いいさ。心を丸裸にしてやるよ」と、剣崎も薄ら笑いを浮かべ、質問を始めた。

 「住所指名は確認が取れてるからもういい。伊村のスカイハック内での役割とポジションを聞いてくれ。」

 伊村も沈黙を守ったが、読心スマホの前では無力であった。伊村はスカイハック内では中堅といったところで、主に前線に立って行動する実行役であることが分かった。
 そして牧野と同じくレイヴンについて質問してみたが、読心スマホを駆使してもやはり詳細は聞き出せなかった。そこで剣崎は、

 「では質問を変えてみよう。レイヴンと連絡を取れる人物は誰だ?」

 伊村の顔が少し曇った。剣崎は何か知ってるなと踏んで雫に読心スマホによって本心を引き出させた。

 「OK、ゴーグル。今の伊村への質問の答えを教えて。」

 『レイヴンと連絡を取れるのは、唯一、ディザートローズという人物です。』

 「ディザートローズ?誰だそりゃ?」

 鏡の裏にいた人物達は一同顔を見合わせた。一人だけ微動だにしなかったのはCIAのジョージだけであった。

 「ディザート・ローズ。本名をダリル・ローズと言う。米国籍カリフォルニア出身。48歳。スカイハックのナンバー2だ。」

 そう言うジョージに剣崎は不快感を抱いた。

 (そういう情報はこちらにも教えてもらわんとな。自分達だけ情報を独占しやがって。)

 そう思った剣崎は、ハッと我に帰り、「ジョージは今も読心スマホによって、我々の心も読んでるかも知れん」と、自分の思念を必死に消そうとした。そしてそっと横目でジョージを見ると、ジョージも剣崎を見て少しだけ口角をあげた。

 (こいつ・・・・・)

 剣崎はそれ以上考えるのをやめた。

 「さて、どうやってダリルの居場所を聞くか。」

 剣崎が質問の仕方を考えていると、ジョージが

 「ズバリ、ダリル・ローズは何処にいる?と聞いてみては?」

 「しかし、それでは我々が読心スマホを使っている事がバレてしまいうのではないですか?」

 部長の堀内との約束であった。読心スマホの使用は極秘であることと。剣崎はバレる事は絶対に避けなければならないと、ジョージに話した。しかし、ジョージはそれは逆だと話した。

 「読心スマホの威力を充分知っているからこそ、無駄なあがきはしないだろう。」と。

 確かにそうであった。否定しようが、黙秘しようが、どちらにしろ心を読まれたら同じである。剣崎は質問してみた。

 「ダリル・ローズを知ってるか?」

 橋本の問いに伊村の顔色は一気に険しくなった。そして、その一言で全てを悟ったようだった。しばらくの沈黙の後ボソッと言った。

 「ああ。知っている。」
 
 「何処にいるか知っているか?」

 「俺は知らない。連絡のやり取りは劉がしているからな。」

 伊村は取り調べに抵抗せず、次々と質問に答えていった。

 「最後に再度聞く。レイヴンは何処にいる?何者だ?」

 橋本の問いに

 「さあな。俺も知らん。本当に存在するのかもどうかな。」

 伊村はきっぱりと言い切った。

 「雫さん、どうです?」

 剣崎は読心スマホを操る雫に答えの正否の確認をした。

 「はい。本当に知らないようです。」

 剣崎と武田は顔を見合わせ、頷き、最後に劉を呼ぶよう指示を出した。

 劉は入室するなり、マジックミラーを一瞬見つめ、伏し目がちに席に着いた。

 「さて、どんなお宝情報が手に入るかな。」

 細井はそう言うと高揚感を隠し切れずにいた。剣崎も、武田もそこに居る全員が劉の心をリンチするかの様に取り調べることに、罪悪感など、ほとんどなかった。

 「そこに居るのは分かっている。CIAの犬もいるのなら、読心スマホも手元にあるのだろう。そんな物いらんよ。私は正直に話そう。黙秘も、嘘も意味がないのは分かってるからな。」

 劉はそう言うと顔を上げ、マジックミラー越しに剣崎達を睨んだ。

 「こいつ、頭がいいですね。幹部クラスなのでしょうか。」

 「いや。幹部が前線で身体を張らないよ。それにしても頭のキレる奴だな。」

 剣崎の言葉に納得した武田はひとつ頷いた。

 「では、橋本。質問を始めよう。」

 マジックミラー内の薄暗い中で全員の生唾を飲み込む音が聞こえて来そうな緊張感が室内に漂っていた。

 「まず手始めに劉のスカイハック内での役割とポジションだ。」

 剣崎はそう橋本に指示した。

 「劉玄英。お前のスカイハック内でのポジションと役割は何だ?」

 「俺は軍隊で言えば前線でのリーダー、軍曹クラスとでも言っておこうか。指示も出すし、現場で実行役もこなす。自分で言うのも何だが、オールマイティーだな。」

 「なるほど、やはり他の二人とは格が違うな。では、前戯なしだ。橋本、ダリル・ローズを知っているか聞いてくれ。」

 橋本はダリル・ローズについて訊ねた。

 「ああ。知っている。通称ディザート・ローズと呼ばれているスカイハックのナンバー2だ。」

 「ダリルは今、何処にいる。」

 「シンガポールだ。」

 「連絡はどうやってとってる?」

 「私の魔改造したパソコンでチャットしながらになるな。パソコンの起動ならびに、チャットに入るなら、パスワードが必要だ。」

 「パスワードは何だ?」

 劉は躊躇せず、12桁の英数字を2つ読み上げた。

 剣崎は雫に目配せし、

 「雫さん、今の答えで間違いないか?」

 「ええ。間違いないようです。」

 読心スマホには12桁の英数字の羅列が2つ表示された。剣崎はそのパスワードの確認をすると細井に渡し、すぐに鑑識に回すよう伝え、

 「パソコンの起動を試みてくれ。スカイハックの情報を調べ上げろ。」

 そう指示を出したがその指示を遮る者がいた。

 「ちょっと待ってください。トラップが仕掛けられてるかも知れません。」

 そうジョージが推測するのには訳があった。

 「こちらが心が読めるとはいえ、あまりにもすんなりパスワードを教えている。焦らして心の奥に秘めている事まで読まれないようにしたのではいのか、と推測したのだがね。」

 剣崎も、ハッと気付き、

 「橋本、こう聞いてくれ。パスワードの入力に関して、トラップが仕掛けられているか?と。」

 橋本はジロリと劉をみると、質問をぶつけた。劉の顔が歪んだ。その後険しい表情になり、そして、冷笑した。

 「フハハハ。なるほど。中々に頭のキレる奴がそちらにもいるようだな。悔しいがトラップはある。詳細は私の心を読めよ。」

 「危なかったですね。」

 そう言う細井に「ああ」と一言だけ言って剣崎は雫にトラップの内容を読心スマホにて聞き出すよう伝えた。トラップの内容はこうだった。PC起動後とチャット入室後それぞれにパスワード入力後、質問ボックスが出現する。その質問に1分以内に答えられないとPCのデータが全て消える、と言う魂胆であった。読心スマホにより質問に対する答えは聞き出せた。

 「チャットはテレビ電話か?」

 テレビ電話だと、コンタクト時こちらが探っている事がバレる可能性がある。剣崎はその確認をしたかった。

 「いや、ダリルは用心深く、顔が流出しないよう文字によるチャットのみの連絡の取り合いだった。」

 剣崎は本当にそうか読心スマホで確認後、ダリル・ローズ確保に向けての計画をヒソヒソとジョージと話した。
 そして、スカイハックの首謀者、レイヴンについて聞いた。

 「レイヴンが何者なのかは私は知らない。ただ、スカイハックはレイヴンの策定する計画により動き、レイヴンの手によりサイバーテロが実行されている。俺達はそれの補助とレイヴンの出来ない事の補完作業をしていた。」

 「どう言う事だ?レイヴンの手によりテロが実行?計画して実行するまで全てを手掛けているのか。レイヴンは神か。」

 驚く武田にジョージはある可能性を話した。

 「我々もレイヴンを追ってかなりの歳月をかけてきたが、その実態に近づけないのが現状だ。レイヴンという人物が何者なのか。レイヴンが神かどうかは分からないが、人ではないのかもしれないな。」

 「神でもなく、人でもない・・・」

 髭をワシャワシャした後に髪をかきむしって、剣崎は溜め息をひとつついた。

 「実はレイヴンはダリル・ローズ本人という可能性はないですかね?」

 そう言う細井にジョージも眼を細めて、

 「確かにその可能性もある。レイヴンはダミーで実際の指令、実行はダリルがしているという可能性もないでもない。」

 そして、こう続けた。

 「今スカイハックの主要メンバーの一部を我々が確保した事がダリルをはじめ、スカイハック全体に知られるといろいろとマズイ。世界各国で泳がせているスカイハックメンバーもいるからな。ここは一気にスカイハック壊滅に動く。まず、押収した劉のPCデータの分析、解析を急ぎ行なう。私の本国からPCデータの解析のスペシャリストも呼んである。そして、我々CIAのエージェントをシンガポールへ向かわし、現地公安当局の協力を得てダリルの確保を図る。」

 「しかし、どうやってダリルを誘き寄せる?」

 そういう武田にジョージは少し微笑んで答えた。

 「ダリルはまだ我々が劉、伊村達の身柄を確保した事を知らない。その劉達が読心スマホの奪取に成功した事にして、それを引き渡すと連絡を入れたなら?」

 「あはは。諸手を挙げてダリルは出てくるでしょうね。」

 笑う武田に剣崎達も笑った。

 「壮大な魚釣りですな。」

 そう言う剣崎に一同、ドッと笑った。

 「釣り上げて見せるさ。大物をな。」

 ジョージも笑い、そして笑いを収めると鋭い眼光で、

 「この好機を利用して一気にスカイハックを追い詰め、壊滅する。」

 ジョージはそう言うとマジックミラー越しの劉を見つめて不敵に笑った。

 「ところで神谷と神谷の読心スマホはどうする?」

 そう問う剣崎に、

 「今のところ何も問題が起きていない。今、回収して神谷に事を荒立てられたら厄介だ。この件が終わってから窃盗罪か何かで検挙して回収すればいい。」

 と、ジョージは言い、忙しくて神谷や神谷の読心スマホにまでは構ってられない様子であった。

 (そうだな。特に問題も起きていない。尾行を引き続きして、読心スマホの回収は後回しでもいいだろう。)

 そう剣崎も考えた。後にこの判断が正解だった事を剣崎達は知る由もなかった。
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