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その心の声は。第二章
報復
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その時は近づいていた。
押収されたPCのデータ解析も済み、世界各国のスカイハックのアジトの位置とメンバーの所在も大方把握された。世界各国のCIAと地元の公安当局との連携も極秘裏に進められ、後はダリル・ローズの身柄確保と同時に世界各国のスカイハックメンバーの一斉同時検挙という一大ミッションが始まろうとしていた。
「いよいよですね。緊張でさっきからトイレが近いです。」
照れ笑いしながらトイレから戻ってきた橋本は剣崎にそう話すと
「俺もさっきからタバコが止まらん。」
と、剣崎は鼻からタバコの煙をスパーッと吐いてニヤッと笑った。
ここは公安調査庁の庁舎の一フロア。フロアのデスクには複数のパソコンと電話、モニターがある。そこにCIAのジョージ・ワーカー、剣崎をはじめとする多くの公安調査庁職員、そして、ゴーグル社から佐藤雫、そして調査第二部部長の堀内も同席していた。今回のミッションの指揮をとるのは米国のCIA本部でそこから世界各国のCIAと地元公安当局に指示を出す事になっていた。日本にいるスカイハックメンバーは調査の結果今現在は劉をはじめとする身柄を確保した者達だけで、今回のミッションとは剣崎達公安調査庁は直接関係はないのだが、特別に作戦の推移を見届けることが出来る事になっていた。
「よくぞここまでやってくれたな。これを日本の公安主導で出来た事を誇りに思うぞ。」
堀内は剣崎にそう言うと、
「これも部長が読心スマホの使用許可を出してくれたからです。感謝します。読心スマホを駆使しなければ、ここまでスムーズに事は運ばなかった事でしょう。」
「しかし、ここまで世界規模の大きいミッションになるとはな。正直震えるよ。」
「私もです。」
堀内と剣崎はお互いを見合い、笑った。
「シンガポールの公安に動きがあったようだな。どうやらダリルの身柄確保のミッションが始まるようだ。」
デスクの上のパソコンの画面の情報が目紛しく動く。ジョージはその様子をジッと見つめそう言った。剣崎達もパソコンの画面に食い下がり見守っていた。
「先日劉のPCでやり取りしたチャットをダリルが信じていればチャンギ国際空港にダリルが出向いてくるはずだ。」
ジョージはそう言うとゴクリと生唾を飲んだ。
「ダリルの顔は分かるのか?」
そう疑問に思った剣崎に
「ああ。昔の写真だが顔はわれている。それに今回は読心スマホという重要な受け取りだからダリル本人がくる可能性がかなり高いだろう。」
パソコン画面には次々と情報が入り乱れている。
「読心スマホ所持役の囮は大丈夫なのですか?」
心配性の橋本にジョージは、
「大丈夫だ。ダリルにはこちら(劉)の信頼出来る人物に預けたと伝えてある。中身は我々CIAの凄腕のエージェントだがな。」
ジョージはそう言い、ニヤリと笑い己の作戦に自信を覗かせていた。
「お、囮に近づく数名の男がいるようだ。いよいよだな。」
モニターに目を向ける。空港内の一角に備え付けた監視カメラは囮に近づく複数の人影を捉えた。
「ダリルはいるか?」
「ああ。多分先頭の男だ。面影がある。」
ジョージは剣崎にそう言うとモニターを凝視した。
「よし!スマホを受け取った。チェックメイトだ。」
CIA本部からの指示だろう。モニターに一斉に人がなだれ込む。ダリルの身柄確保、かと思われた。しかし状況は最悪な事態へとなった。
「な、何だ?銃撃戦?こんな人のいる空港内でか。」
モニター内が修羅場と化す。光る閃光に倒れる人々。勿論地元公安当局も応戦する。
「なんて事だ。どうなっているのだ。」
叫び、頭を抱えるジョージを横目に剣崎達は為す術もなく、ただモニターを見つめる事しか出来なかった。
「スカイハックは武装もするのか。」
驚く武田に剣崎は、
「ああ。スカイハックはテロ支援国家との繋がりもあるからな。武器の入手など容易いだろう。」
苦虫を噛んだ様な顔をして剣崎は行く末を見守った。
モニター内では銃撃戦が続いたが、しばらくして、静かになった。
「ダリルはどうなったのだ・・・・・」
ジョージはPC画面に目を移した。地元公安当局の職員1人死亡、5人負傷、民間人8名負傷、そしてダリル・ローズ心肺停止、その他のスカイハックメンバー3名全員死亡、情報は淡々とパソコン画面に流れ込んできた。
「クソッ!最悪な結果だ。このままではレイヴンに辿り着けない。」
そう言いジョージはデスクを叩いた。PC画面上では指令が次のフェーズへと移行していた。作戦通り世界各国のスカイハックのアジトに一斉にガサが入った。
ドイツのアジト占拠、メンバー3名の身柄確保、ロシアのアジト占拠、メンバー2人確保、米国の3拠点占拠、合わせて8名の身柄確保、中国の2拠点占拠、合わせて4名の身柄確保、韓国のアジト占拠、3名の身柄確保、インドのアジト占拠、4名の身柄確保、サウジアラビアのアジト・・・・・。
次々と情報と報告が入ってくる。
「まさに一網打尽ですね。」
「ああ。・・・・・」
興奮する武田をよそに力無く剣崎は答え、横目でジョージを見た。
「事が大きくなりすぎた。遅かれ早かれこのことはいずれレイヴンの耳に入る事だろう。ダリル亡き今、レイヴンへの道が閉ざされた。最悪だ。」
うなだれるジョージにかける言葉が剣崎には見つからなかった。
突然、PC画面が消え、モニターも消えた。
「ん?どうした?」
「他のPCもダウンしています。」
剣崎の問いにそう答えた細井にどういうことか調査する様指示を出した剣崎は悪い予感がしていた。フロア全体が騒然とする中、橋本と、雫を連れ剣崎は劉の拘留されている留置所へと向かった。
車での移動中も何が起こっているのかさっぱりわからない橋本に剣崎はある仮説を話した。
「これはレイヴンによる報復攻撃かもしれん。」
「報復?それにしては事を起こすのが早すぎませんか?」
橋本の疑問も確かにそうであった。そこに何かしらのカラクリがあるのではと、剣崎は考えた。そして、そのヒントが劉の心の中にあるのではと睨んだ。
「確かにそれはあるかもしれませんね。読心スマホは基本的には今現在考えている事や思っている事しか引き出せない。心の奥底にある思念は質問したり考えるきっかけを与えない限り引き出せないのです。読心スマホの盲点ですね。」
雫はそう答えた。助手席の剣崎は顎の無精髭をまたワシャワシャして深く考え込んだ。そこへPCがダウンした原因を調査していた細井達から連絡が入った。
「剣崎さん、大変です。PCがダウンした原因がわかりました。サイバー攻撃です。それも全世界規模の。今、政府の内閣危機管理センターからの連絡で、警視庁、公安調査庁、防衛省、その他主要機関へのサイバー攻撃が確認出来たそうです。その他にも世界各国、米国のCIA本部、国防省、ホワイトハウス、その他にもロシアのクレムリン、公安当局、と、とにかく世界各国で大規模なサイバー攻撃がされている様です。」
「レイヴンだ。野郎、やりやがったな。」
剣崎の横顔に悔しさが滲む。留置所へと到着した剣崎達は劉を特別面談室に呼び話を聞くことにした。(正確には心を読むのだが。)
部屋へと入室した劉は物々しい3人に少し驚いた様子だったが、すぐに冷静になって席に着いた。
「今日は何の用だ?」
「ダリルが死んだ。」
斜に構えて伏し目がちだった劉はハッと剣崎を見、そしてまた目を伏せ小さく笑った。
「そうか。」
小さな声でそう答え、劉は全てを悟った様だった。
「そして、今世界各国で大規模なサイバー攻撃がされている。犯人はレイヴンだな?どういうカラクリだ?お前、何か知っているだろ?答えて貰おう。いや、心を読まさせて貰う。」
そう言い、剣崎は劉を睨んだ。劉はその話を聞くと下を向き、その後天を仰いで高笑いした。
「ダリルらしいな。ダリルは守ったのだ。レイヴンを。組織を。」
不敵な笑みを浮かべ劉は剣崎を睨み返した。その視線を遮る様に橋本が身を乗り出して劉に質問した。
「ダリルが死亡してレイヴンによる報復攻撃までが早かった。どういうことだ?」
劉は少し笑い答えた。
「ダリルはいつもスマートウォッチを着けていた。理由はもし自分に生命の危機が生じ、セーフティーが解除されずに脈が止まった時は自動でレイヴンに連絡が行き、レイヴンが報復攻撃をする事になっていたのだろう。そしてレイヴンが組織に危機が迫っていると判断した場合、最終手段に出るであろう。」
「最終手段?それは何なのだ?」
珍しく橋本が声を荒げて問い詰めると劉は、
「フッ。私の心を読んでみろ。そうすればおぞましい結末を知る事になるだろう。」
「雫さん、お願いします。」
剣崎はそう言うと雫に読心スマホの使用を促した。
「OKゴーグル。劉の言う最終手段とは何なの?」
『セキュリティの脆弱な某国の国防システムに侵入、ハッキングして核ミサイルを無差別に発射。全世界を火の海にする事。某国の国防システムへの侵入はすでに始まっているであろう。』
「なんて事を!」
橋本も雫も冷静ではいられなかった。
「劉。それを止める方法があるのか?」
剣崎は冷静に、優しく聞いた。劉は黙り込んだ。自らの口から話したくない様であった。剣崎は横目で雫を見て、静かに頷いた。それに答える様に雫も頷き、読心スマホに訊ねた。
「OKゴーグル。劉の言うレイヴンの最終手段を止める方法は何?」
『国防システムへの侵入には数時間かかる。それまでに侵入プログラムのキャンセルをすれば止められる。ただ、侵入プログラムキャンセルのコードはダリルとレイヴンしか知らない。』
「ダリルは死んでる。レイヴンは何処にいるのか分からない。これではお手上げだ!」
読心スマホの答えに、橋本は絶望していた。そして、劉はまた大きな声で高笑いした。その姿に剣崎は舌打ちした。雫はしばらく下を向き深く考えた後、ある質問を劉にぶつけてみた。
「劉さん、レイヴンの所在は分からないのですよね?では、レイヴンの所在を調べる方法はありますか?」
「ああ。無い事もない。我々が追っていた神谷の持つ読心スマホGL-05なら突き止められるかもしれないな。ただ、今から調べてももう遅いがな。」
「そうだったのか。クソッ。その事に早くに気付いていれば・・・・・・」
悔しがる剣崎にさらに劉は雄弁に語り出した。
「我々がGL-05を追っていたのはその性能を利用して世界を混乱させる事も目的だったが、1番の目的はレイヴンの所在を検索されない内に奪取、検索データを分析して全ての検索からレイヴンを除外してその所在の秘匿性を保つためでもあったのだ。しかし、こうなってはそれももうどうでもいい事。世界の終わりをこんな所で迎えるのは本意ではなかったが、我々の崇高は目的は今日達成されるであろう。フハハハ。叫べ!喚け!スカイハック万歳!」
「そうはさせないわ!あなた達の野望、必ず砕いてみせる。剣崎さん、神谷さんの確保に向かいましょう。まだ間に合うわ!」
珍しく怒りに震えながらそう言う雫に剣崎と橋本も頷き、席を立とうとした。
「フッ。無駄なあがきを。」
呆れて笑う劉に剣崎は鋭い眼光を向け、劉の胸ぐらを掴み一言、
「また後で会おう。その時は我々が笑う番だ。」
そう言い残し剣崎達は急ぎ神谷の元へと留置所を後にした。
移動の車中、神谷に張り付いている永野に連絡を入れて神谷の所在の確認を取った。神谷は休日で自宅にいるとのことであった。
「橋本。神谷は自宅だ。」
「読心スマホを奪取しますか?」
そう問いかける橋本に剣崎は、
「ああ。神谷は民間人だ。この件について巻き込むわけにはいかないだろう。」
「間に合いますかね?」
「奇跡が起きてくれ。」
そう願う剣崎に雫が一言、
「大丈夫。」
と、言うと剣崎は小さく微笑んだ。
神谷のマンションに到着した剣崎は永野達と合流して神谷の自宅ドア前に向かった。インターホンを鳴らし公安調査庁である事を名乗ると、神谷はすんなりと扉を開けた。
「神谷大輔だな。ゴーグル東京支社で取得したスマートフォンについて聞きたいことがある」
剣崎はストレートに話した。
「そろそろ来るだろうと思ってたよ。失礼ながらあなた達の心も読まさせて貰ってる。急いでいるのだろ?話は移動しながらだ。」
神谷はそう言うとサッと着替え、自宅を出た。そして剣崎達の車に乗り込み、神谷はゴーグル東京支社へ向かうよう橋本に指示した。
「はじめまして、ではないな。あの駅前でもう我々の事は知っているのだな?」
剣崎は手短かに挨拶した。
「ああ。知ってたよ。あなたが剣崎さんだね。お互い何だか妙な挨拶になるな。」
少し微笑み神谷も手短かに挨拶した。
「どうして我々がそろそろ来ると思ったのだ?」
「さっき速報であったシンガポールの国際空港での銃撃戦、世界規模のサイバー攻撃。裏でスカイハックが動いてると思ったよ。」
「なるほど。では手短かついでに単刀直入に言う。我々はテロリスト集団スカイハックの首謀者の所在を探している。それには君が所持しているスマホが必要だ。返してもらえるか?」
「レイヴンの事だろ?調べはついてるよ。」
そう言う神谷に剣崎達は驚いた。
「何故レイヴンを知っている?調べはついている?居場所を知っているのか?」
「ああ。俺もバカじゃないからな。俺の持っている読心スマホを狙うスカイハックの事を調べないわけがない。組織の内容から所属人員、思想から目的まで。そして調べている内に首謀者レイヴンの事も調べさせてもらった。」
神谷は移動中の車内で剣崎達にGL-05で調べた情報を淡々と話し伝えた。レイヴンの所在、そしてその正体。全て剣崎達の驚く内容であった。
「雫さん、今神谷が話した内容に間違いはないか?」
そう訊ねる剣崎に、
「ええ。間違いなさそうです。でも、まさか、そのような事実だったとは・・・・・・」
雫は少し震えながら答えた。
「間に合ってくれ・・・」
剣崎は願った。普段、神の存在など信じないタチであったが、この時ばかりは、神にすがるような思いで願った。
(奇跡よ。起こってくれ。)
押収されたPCのデータ解析も済み、世界各国のスカイハックのアジトの位置とメンバーの所在も大方把握された。世界各国のCIAと地元の公安当局との連携も極秘裏に進められ、後はダリル・ローズの身柄確保と同時に世界各国のスカイハックメンバーの一斉同時検挙という一大ミッションが始まろうとしていた。
「いよいよですね。緊張でさっきからトイレが近いです。」
照れ笑いしながらトイレから戻ってきた橋本は剣崎にそう話すと
「俺もさっきからタバコが止まらん。」
と、剣崎は鼻からタバコの煙をスパーッと吐いてニヤッと笑った。
ここは公安調査庁の庁舎の一フロア。フロアのデスクには複数のパソコンと電話、モニターがある。そこにCIAのジョージ・ワーカー、剣崎をはじめとする多くの公安調査庁職員、そして、ゴーグル社から佐藤雫、そして調査第二部部長の堀内も同席していた。今回のミッションの指揮をとるのは米国のCIA本部でそこから世界各国のCIAと地元公安当局に指示を出す事になっていた。日本にいるスカイハックメンバーは調査の結果今現在は劉をはじめとする身柄を確保した者達だけで、今回のミッションとは剣崎達公安調査庁は直接関係はないのだが、特別に作戦の推移を見届けることが出来る事になっていた。
「よくぞここまでやってくれたな。これを日本の公安主導で出来た事を誇りに思うぞ。」
堀内は剣崎にそう言うと、
「これも部長が読心スマホの使用許可を出してくれたからです。感謝します。読心スマホを駆使しなければ、ここまでスムーズに事は運ばなかった事でしょう。」
「しかし、ここまで世界規模の大きいミッションになるとはな。正直震えるよ。」
「私もです。」
堀内と剣崎はお互いを見合い、笑った。
「シンガポールの公安に動きがあったようだな。どうやらダリルの身柄確保のミッションが始まるようだ。」
デスクの上のパソコンの画面の情報が目紛しく動く。ジョージはその様子をジッと見つめそう言った。剣崎達もパソコンの画面に食い下がり見守っていた。
「先日劉のPCでやり取りしたチャットをダリルが信じていればチャンギ国際空港にダリルが出向いてくるはずだ。」
ジョージはそう言うとゴクリと生唾を飲んだ。
「ダリルの顔は分かるのか?」
そう疑問に思った剣崎に
「ああ。昔の写真だが顔はわれている。それに今回は読心スマホという重要な受け取りだからダリル本人がくる可能性がかなり高いだろう。」
パソコン画面には次々と情報が入り乱れている。
「読心スマホ所持役の囮は大丈夫なのですか?」
心配性の橋本にジョージは、
「大丈夫だ。ダリルにはこちら(劉)の信頼出来る人物に預けたと伝えてある。中身は我々CIAの凄腕のエージェントだがな。」
ジョージはそう言い、ニヤリと笑い己の作戦に自信を覗かせていた。
「お、囮に近づく数名の男がいるようだ。いよいよだな。」
モニターに目を向ける。空港内の一角に備え付けた監視カメラは囮に近づく複数の人影を捉えた。
「ダリルはいるか?」
「ああ。多分先頭の男だ。面影がある。」
ジョージは剣崎にそう言うとモニターを凝視した。
「よし!スマホを受け取った。チェックメイトだ。」
CIA本部からの指示だろう。モニターに一斉に人がなだれ込む。ダリルの身柄確保、かと思われた。しかし状況は最悪な事態へとなった。
「な、何だ?銃撃戦?こんな人のいる空港内でか。」
モニター内が修羅場と化す。光る閃光に倒れる人々。勿論地元公安当局も応戦する。
「なんて事だ。どうなっているのだ。」
叫び、頭を抱えるジョージを横目に剣崎達は為す術もなく、ただモニターを見つめる事しか出来なかった。
「スカイハックは武装もするのか。」
驚く武田に剣崎は、
「ああ。スカイハックはテロ支援国家との繋がりもあるからな。武器の入手など容易いだろう。」
苦虫を噛んだ様な顔をして剣崎は行く末を見守った。
モニター内では銃撃戦が続いたが、しばらくして、静かになった。
「ダリルはどうなったのだ・・・・・」
ジョージはPC画面に目を移した。地元公安当局の職員1人死亡、5人負傷、民間人8名負傷、そしてダリル・ローズ心肺停止、その他のスカイハックメンバー3名全員死亡、情報は淡々とパソコン画面に流れ込んできた。
「クソッ!最悪な結果だ。このままではレイヴンに辿り着けない。」
そう言いジョージはデスクを叩いた。PC画面上では指令が次のフェーズへと移行していた。作戦通り世界各国のスカイハックのアジトに一斉にガサが入った。
ドイツのアジト占拠、メンバー3名の身柄確保、ロシアのアジト占拠、メンバー2人確保、米国の3拠点占拠、合わせて8名の身柄確保、中国の2拠点占拠、合わせて4名の身柄確保、韓国のアジト占拠、3名の身柄確保、インドのアジト占拠、4名の身柄確保、サウジアラビアのアジト・・・・・。
次々と情報と報告が入ってくる。
「まさに一網打尽ですね。」
「ああ。・・・・・」
興奮する武田をよそに力無く剣崎は答え、横目でジョージを見た。
「事が大きくなりすぎた。遅かれ早かれこのことはいずれレイヴンの耳に入る事だろう。ダリル亡き今、レイヴンへの道が閉ざされた。最悪だ。」
うなだれるジョージにかける言葉が剣崎には見つからなかった。
突然、PC画面が消え、モニターも消えた。
「ん?どうした?」
「他のPCもダウンしています。」
剣崎の問いにそう答えた細井にどういうことか調査する様指示を出した剣崎は悪い予感がしていた。フロア全体が騒然とする中、橋本と、雫を連れ剣崎は劉の拘留されている留置所へと向かった。
車での移動中も何が起こっているのかさっぱりわからない橋本に剣崎はある仮説を話した。
「これはレイヴンによる報復攻撃かもしれん。」
「報復?それにしては事を起こすのが早すぎませんか?」
橋本の疑問も確かにそうであった。そこに何かしらのカラクリがあるのではと、剣崎は考えた。そして、そのヒントが劉の心の中にあるのではと睨んだ。
「確かにそれはあるかもしれませんね。読心スマホは基本的には今現在考えている事や思っている事しか引き出せない。心の奥底にある思念は質問したり考えるきっかけを与えない限り引き出せないのです。読心スマホの盲点ですね。」
雫はそう答えた。助手席の剣崎は顎の無精髭をまたワシャワシャして深く考え込んだ。そこへPCがダウンした原因を調査していた細井達から連絡が入った。
「剣崎さん、大変です。PCがダウンした原因がわかりました。サイバー攻撃です。それも全世界規模の。今、政府の内閣危機管理センターからの連絡で、警視庁、公安調査庁、防衛省、その他主要機関へのサイバー攻撃が確認出来たそうです。その他にも世界各国、米国のCIA本部、国防省、ホワイトハウス、その他にもロシアのクレムリン、公安当局、と、とにかく世界各国で大規模なサイバー攻撃がされている様です。」
「レイヴンだ。野郎、やりやがったな。」
剣崎の横顔に悔しさが滲む。留置所へと到着した剣崎達は劉を特別面談室に呼び話を聞くことにした。(正確には心を読むのだが。)
部屋へと入室した劉は物々しい3人に少し驚いた様子だったが、すぐに冷静になって席に着いた。
「今日は何の用だ?」
「ダリルが死んだ。」
斜に構えて伏し目がちだった劉はハッと剣崎を見、そしてまた目を伏せ小さく笑った。
「そうか。」
小さな声でそう答え、劉は全てを悟った様だった。
「そして、今世界各国で大規模なサイバー攻撃がされている。犯人はレイヴンだな?どういうカラクリだ?お前、何か知っているだろ?答えて貰おう。いや、心を読まさせて貰う。」
そう言い、剣崎は劉を睨んだ。劉はその話を聞くと下を向き、その後天を仰いで高笑いした。
「ダリルらしいな。ダリルは守ったのだ。レイヴンを。組織を。」
不敵な笑みを浮かべ劉は剣崎を睨み返した。その視線を遮る様に橋本が身を乗り出して劉に質問した。
「ダリルが死亡してレイヴンによる報復攻撃までが早かった。どういうことだ?」
劉は少し笑い答えた。
「ダリルはいつもスマートウォッチを着けていた。理由はもし自分に生命の危機が生じ、セーフティーが解除されずに脈が止まった時は自動でレイヴンに連絡が行き、レイヴンが報復攻撃をする事になっていたのだろう。そしてレイヴンが組織に危機が迫っていると判断した場合、最終手段に出るであろう。」
「最終手段?それは何なのだ?」
珍しく橋本が声を荒げて問い詰めると劉は、
「フッ。私の心を読んでみろ。そうすればおぞましい結末を知る事になるだろう。」
「雫さん、お願いします。」
剣崎はそう言うと雫に読心スマホの使用を促した。
「OKゴーグル。劉の言う最終手段とは何なの?」
『セキュリティの脆弱な某国の国防システムに侵入、ハッキングして核ミサイルを無差別に発射。全世界を火の海にする事。某国の国防システムへの侵入はすでに始まっているであろう。』
「なんて事を!」
橋本も雫も冷静ではいられなかった。
「劉。それを止める方法があるのか?」
剣崎は冷静に、優しく聞いた。劉は黙り込んだ。自らの口から話したくない様であった。剣崎は横目で雫を見て、静かに頷いた。それに答える様に雫も頷き、読心スマホに訊ねた。
「OKゴーグル。劉の言うレイヴンの最終手段を止める方法は何?」
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「ダリルは死んでる。レイヴンは何処にいるのか分からない。これではお手上げだ!」
読心スマホの答えに、橋本は絶望していた。そして、劉はまた大きな声で高笑いした。その姿に剣崎は舌打ちした。雫はしばらく下を向き深く考えた後、ある質問を劉にぶつけてみた。
「劉さん、レイヴンの所在は分からないのですよね?では、レイヴンの所在を調べる方法はありますか?」
「ああ。無い事もない。我々が追っていた神谷の持つ読心スマホGL-05なら突き止められるかもしれないな。ただ、今から調べてももう遅いがな。」
「そうだったのか。クソッ。その事に早くに気付いていれば・・・・・・」
悔しがる剣崎にさらに劉は雄弁に語り出した。
「我々がGL-05を追っていたのはその性能を利用して世界を混乱させる事も目的だったが、1番の目的はレイヴンの所在を検索されない内に奪取、検索データを分析して全ての検索からレイヴンを除外してその所在の秘匿性を保つためでもあったのだ。しかし、こうなってはそれももうどうでもいい事。世界の終わりをこんな所で迎えるのは本意ではなかったが、我々の崇高は目的は今日達成されるであろう。フハハハ。叫べ!喚け!スカイハック万歳!」
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珍しく怒りに震えながらそう言う雫に剣崎と橋本も頷き、席を立とうとした。
「フッ。無駄なあがきを。」
呆れて笑う劉に剣崎は鋭い眼光を向け、劉の胸ぐらを掴み一言、
「また後で会おう。その時は我々が笑う番だ。」
そう言い残し剣崎達は急ぎ神谷の元へと留置所を後にした。
移動の車中、神谷に張り付いている永野に連絡を入れて神谷の所在の確認を取った。神谷は休日で自宅にいるとのことであった。
「橋本。神谷は自宅だ。」
「読心スマホを奪取しますか?」
そう問いかける橋本に剣崎は、
「ああ。神谷は民間人だ。この件について巻き込むわけにはいかないだろう。」
「間に合いますかね?」
「奇跡が起きてくれ。」
そう願う剣崎に雫が一言、
「大丈夫。」
と、言うと剣崎は小さく微笑んだ。
神谷のマンションに到着した剣崎は永野達と合流して神谷の自宅ドア前に向かった。インターホンを鳴らし公安調査庁である事を名乗ると、神谷はすんなりと扉を開けた。
「神谷大輔だな。ゴーグル東京支社で取得したスマートフォンについて聞きたいことがある」
剣崎はストレートに話した。
「そろそろ来るだろうと思ってたよ。失礼ながらあなた達の心も読まさせて貰ってる。急いでいるのだろ?話は移動しながらだ。」
神谷はそう言うとサッと着替え、自宅を出た。そして剣崎達の車に乗り込み、神谷はゴーグル東京支社へ向かうよう橋本に指示した。
「はじめまして、ではないな。あの駅前でもう我々の事は知っているのだな?」
剣崎は手短かに挨拶した。
「ああ。知ってたよ。あなたが剣崎さんだね。お互い何だか妙な挨拶になるな。」
少し微笑み神谷も手短かに挨拶した。
「どうして我々がそろそろ来ると思ったのだ?」
「さっき速報であったシンガポールの国際空港での銃撃戦、世界規模のサイバー攻撃。裏でスカイハックが動いてると思ったよ。」
「なるほど。では手短かついでに単刀直入に言う。我々はテロリスト集団スカイハックの首謀者の所在を探している。それには君が所持しているスマホが必要だ。返してもらえるか?」
「レイヴンの事だろ?調べはついてるよ。」
そう言う神谷に剣崎達は驚いた。
「何故レイヴンを知っている?調べはついている?居場所を知っているのか?」
「ああ。俺もバカじゃないからな。俺の持っている読心スマホを狙うスカイハックの事を調べないわけがない。組織の内容から所属人員、思想から目的まで。そして調べている内に首謀者レイヴンの事も調べさせてもらった。」
神谷は移動中の車内で剣崎達にGL-05で調べた情報を淡々と話し伝えた。レイヴンの所在、そしてその正体。全て剣崎達の驚く内容であった。
「雫さん、今神谷が話した内容に間違いはないか?」
そう訊ねる剣崎に、
「ええ。間違いなさそうです。でも、まさか、そのような事実だったとは・・・・・・」
雫は少し震えながら答えた。
「間に合ってくれ・・・」
剣崎は願った。普段、神の存在など信じないタチであったが、この時ばかりは、神にすがるような思いで願った。
(奇跡よ。起こってくれ。)
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