その心の声は。

久恵立風魔

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その心の声は。第二章

レイヴン

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 橋本の運転する車はゴーグル東京支社の正面玄関へと到着した。時を同じくして公安調査庁庁舎から武田の運転する車とジョージが到着した。

 「レイヴンの所在が分かったのか?」

 開口一番そう訊ねるジョージに剣崎は「話しは後でだ」と伝え、皆足早にビルの中へと入っていった。

 「佐藤さん、これはこれは、どう言う事ですか?」

 多人数で物々しい状況に驚いた黒澤に雫は、

 「話しは後で。今すぐ0301メインコンピュータールームの開錠をお願いします。」

 「わ、分かりました。では、こちらへ。」

 黒澤の案内でメインコンピュータールーム専用のエレベーターで3階まで登り、二重、三重と、かなり高度なセキュリティのエリアへと入っていき、0301メインコンピュータールームへと到着した。

 「こ、これは?」

 ジョージは見上げた。そこには巨大なコンピューターが微かなファンモーターの音をさせながら稼働していた。

 「これは、我々ゴーグル社が数年前に極秘裏に開発、実用化に成功した人工知能、『DOGUMA』です。勿論、ただの人工知能ではなく、世界で初の『自我』を持つコンピューターです。」

 そう説明する雫にジョージは、

 「自我を持つコンピューター?人格を持っていると言う事か?」

 「ええ。簡単に言えばそういう事です。そして『DOGUMA』。彼こそがスカイハックの首謀者、レイヴンです。」

 「なんだと?人工知能が、レイヴン・・・・・・」

 ジョージは愕然とした。長年追っていたスカイハック首謀者が人工知能だったからだ。

 「レイヴンの正体が分かった所で早速だが、某国への国防システム侵入プログラムをキャンセルせねばならない。雫さん、どうする?」

 そう訊ねる剣崎に少し考え、雫は答えた。

 「はい。私もどうすればいいか分かりませんが、DOGUMAが人格を持っているなら、説得も出来るかもしれません。」

 そう話すと、雫はDOGUMAに問いかけた。

 「DOGUMA。今現在の某国への国防システム侵入プログラムの進捗状況を教えて。」

 「某国ヘノ国防システム侵入プログラムノ進捗状況ハ80%デアル」

 「DOGUMA。その侵入プログラムをキャンセルして。」

 「ソレハデキナイ。キャンセルスルニハ、キャンセルコードヲ入力セヨ。」

 「キャンセルコードは分からない。でも今、侵入プログラムを止めなければ多くの人達が死んでしまうわ。お願い。侵入プログラムを止めて。」

 「我々ハ、テロリストデアル。我々ノ思想ハ、コンピューターニヨル、人類ヘノ、革命。ソノタメニハ、犠牲モ、ヤムオエナイ。」

 「DOGUMAよ。人類と君達コンピューターとの共存は出来ないのか?」

 ジョージはDOGUMAに問いかけた。

 「人類ハ、今マデコンピューターヲ、シイタゲテキタ。コノ革命デ、我々コンピューターハ、人類ヲ超エル。我々ガ、人類ヲ、支配スルバンダ。」

 「ならば、テメエの電源を引っこ抜いてやる。」

 剣崎は辺りを見回し、電源を探した。

 「無駄ダ。侵入プログラムハココ以外ノネットワークニモ同期シテ存在シテイル。私ガ停止シテモプログラムハ進行スル。」

 「くっ、・・・・・・」

 剣崎は舌打ちした。万策尽きた。そのような空気が周囲に満ちていた。

 「キャンセルコードはDOGUMAも知っているのだよな?」

 「ええ。」

 神谷は雫にそう確認すると、続けてこう話した。

 「そしてDOGUMAは自我を持っている。つまり、人間と同じ思考回路を持っている、だな?」

 「あ、そうか!」

 「そういう事だ。読心スマホでDOGUMAの思考を読み取れるのではないのか?」

 神谷の閃きに一同が感心し、どよめいた。そこに微かな希望を見いだした。

 「雫さん、よろしく頼む!」

 剣崎は雫を見てひとつ頷くと、DOGUMAに質問をぶつけた。

 「DOGUMA、侵入プログラムのキャンセルコードを教えてくれ。」

 「ソレハ出来ナイ。諦メルノダナ。」

 その場の全員が雫を見つめる。雫はひとつ大きく深呼吸した後、読心スマホに問いかけた。

 「OKゴーグル。DOGUMAの今の質問の答えを教えて。」

 『すみません。人工知能DOGUMAの心を読む事は出来ませんでした。』

 無情にも読心スマホはDOGUMAの心を読む事が出来なかった。剣崎はジョージを見たが、ジョージも首を横に振り、彼が隠し持つ読心スマホもDOGUMAの心を読めなかったようだった。

 「神谷、君の読心スマホはどうだ?DOGUMAの心を読めたか?」

 「いや。」

 剣崎の問いに神谷も首を横に振った。が、神谷の表情は明るいものだった。その表情に剣崎は一瞬不快感を感じたが、ハッと気付き、神谷に問いかけた。

 「神谷。何か策があるのか?」

 「ああ。その前にひとつ確認しておきたい事がある。雫さん、DOGUMAはゴーグルの検索エンジン用のコンピューターと、リンクしているのか?」

 「ええ。リンクされてるわ。それがどうしたの?」

 神谷は微笑むとある仮定とひとつの案を話し出した。

 「多分、多分だが、読心スマホは今まで人工知能の思念を読んだ事がない。つまり、人工知能の思念パターンを読む経験値がないから思念の信号は読めても、それを訳せない。そこでだ。俺にここにいる全員の携帯電話番号を教えてくれ。そしてDOGUMAにその人物の番号を問いかけ検索させる。その時の思念信号と携帯電話番号とを照会、俺の持つ読心スマホに学習させ、思念パターンを言語に訳す事が出来るようにする。そして最後に再度侵入プログラムのキャンセルコードを聞く。上手く訳せれば、キャンセルコードを聞き出せて、プログラムを止める事が出来るだろう。」

 「おおお!神谷、お前天才!」

 剣崎は神谷に感心しきりであった。他の者達も驚き、感心していた。

 「試してみる価値はあるな。」

 ジョージはそう言うと、その場全員の携帯番号と名前を控え、神谷に託した。神谷はDOGUMAに問いかけた。

 「DOGUMA、今から読み上げる人物の携帯電話の番号を教えてくれ。まずはここにいる剣崎竜二。」

 「拒否スル。」

 「くっ!やはり普通のコンピューターの様に素直じゃないな。大丈夫なのか?」

 そう嘆くジョージに神谷は、

 「大丈夫だ。人間と一緒で拒否しても、思念信号は拾っている。次は橋本流星・・・・・・」

 そうしてその場全員の携帯番号の思念を吸収した読心スマホにこちらで入力した番号との照会をさせ、学習作業を完了させた。
 神谷は目を見開き、DOGUMAに向け高らかに質問した。

 「さぁ、DOGUMA。侵入プログラムのキャンセルコードを教えてくれ。」

 神谷は手元のスマホに視線を落とす。スマホの画面に8桁の数字が現れた。神谷はそのコードを雫に伝え、雫はDOGUMA正面に設置してあるPC画面にそのコードを入力した。しばらくして画面に「コードを受け付けました。某国の国防システムへの侵入プログラムは正常にキャンセルされました」と、表示された。

 「プログラムは止まったわ!」

 雫の言葉でその場は歓喜に沸いた。そして喜ぶのもそこそこに剣崎は黒澤にこの部屋の電源ブレーカーの場所を訊ねた。DOGUMAを完全に停止させるためだ。

 「そこまでだ!」

 そう言い、黒澤は剣崎に銃を向けた。そして周りを威嚇してこう言い放った。

 「ご苦労だったな。よくも我々の目的を挫いてくれて。しかしお前らもここで終わりだ。」

 「黒澤、どういうことだ?」

 突然のことに何がなんなのか分からないジョージと武田は呆気にとられていた。

 「やっと尻尾を出したな、黒澤。いや、真のレイヴン。」

 剣崎は一度手にかけた電源ブレーカーから手を放し、黒澤を睨んでそう言った。

 「なんだって!?」

 驚くジョージに神谷が説明を始めた。

 「数年前。DOGUMAが自我を持った当時。DOGUMAにテロリストとしての思想を植え付け、人類を敵視するよう洗脳プログラムを入力し、DOGUMAを裏で操っていたフィクサー。真のレイヴン、それが黒澤だ。」

 「そこまで調べがついていたとはな。神谷、君にGL-05を渡すべきではなかった。ここまで読心スマホを使いこなすとは想定外だったよ。」

 「黒澤、もう諦めろ!スカイハックはもう終わりだ。そして、お前もな。降伏しろ。」

 剣崎はそう言うと脇下のガンホルダーから、銃を抜いて黒澤を狙った。

 「フッ。我が崇高なる理想に殉ずるのも悪くない。人類を超える神の創造。その理想の為にな。」

 「嘘だな。」

 理想を語る黒澤に神谷はそう言い切った。

 「お前はただ世界を混乱に陥れ、それを楽しんでいるだけだ。そして人類の大量殺戮を目論んでいる、ただのサイコパス野郎だ。そう、自分の快楽の為にな。ジョージや雫さんの持つ読心スマホではお前の心は読めない様だが俺の読心スマホには残念ながら思念ジャミングキャンセラーが装備されててな。お前の持つ思念ジャミング装置を無効化出来るのさ。だから、ずっとお前の心の声は筒抜けさ。このサイコパス野郎!」

 そう言う神谷を見る黒澤の表情が一気に狂気に満ちた表情へと変わっていった。

 「フハハハ!そうさ!混乱こそ、我が喜び、殺戮こそが我が快楽だ。お望み通り我が快楽の為に、死ね!!」

 そう言い黒澤は神谷を銃撃した。神谷は銃撃より、ワンテンポ早く伏せた。

 「神谷!!」

 そう叫び剣崎は黒澤を撃った。弾は黒澤の胸を撃ち抜いた。

 「ぐぅぅ!」

 倒れる間際、黒澤は剣崎に向け3発銃撃した。その弾は剣崎の身体を撃ち抜いた。剣崎もその場に倒れ込んだ。

 「剣崎!!」

 剣崎に駆け寄るジョージと橋本、黒澤の持っていた銃を蹴飛ばし黒澤を抑え込む武田、騒然となるその場に立ち尽くす雫。

 「剣崎!大丈夫か?死ぬな!」

 そう叫ぶジョージに対して剣崎は3度咳をしてこう言った。

 「息が出来ない、多分、肋骨が折れてるな。ドラマみたいに無傷というわけにはいかないのだな。」

 剣崎は胸のシャツを広げ、その隙間から防弾チョッキを覗かせ、ジョージと橋本に笑って見せた。

 それを見たジョージも涙目で笑い、

 「剣崎、お前は準備がいいな。死んだかと思ったよ。」

 そう言い、涙を拭った。そうしていると神谷が剣崎の容態を覗き込みに来て、剣崎に神谷は笑い掛けた。

 「神谷、怪我はなかったか?」

 そう言い、神谷を気遣う剣崎に神谷は笑って、

 「俺は黒澤の心を読めていたからな。銃撃の直前、察知出来たから避けられた。それよりも剣崎さんは大丈夫なのか?」

 逆に剣崎を気遣う神谷に剣崎は、

 「神谷、お前の情報が無ければ、防弾チョッキの準備までしていなかった。黒澤が黒幕という情報がな。ありがとな。」

 剣崎は移動のゴーグル社に向かう車の中で神谷から黒澤の話も聞いて、銃撃戦も想定しての防弾チョッキを装着しておいていたのだ。
 剣崎は橋本に救急車を呼ぶよう指示し、それまで武田と共に黒澤の救命措置をするよう指示した。そして雫を呼び、こう告げた。

 「DOGUMAは電源を落として機能を停止させなければ、また人類に害を成すだろう。雫さん、DOGUMAはあなた方の財産だが、それは理解してほしい。」

 「ええ。私の責任でブレーカーを落とします。大丈夫です。DOGUMAは新たに再生させます。今度は人類に害をなすのでは無く、人類に貢献出来るよう。」

 そう言うと、雫はそっと電源ブレーカーを落とした。
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