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忠珍鱈

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「俺……結局、自分のことばかりで。周りが見えてなかった、ってやつで」

酒の力なのか隣で聞いてくれる人がいるからなのか、一度話し出してしまえば、胸につかえていたものがどんどんと溢れ出してくる。

「モヤモヤした気持ちを仕事にぶつけて、頑張っているつもりになっていたんでしょうね」
挙句、自分で語りながら段々と辛くなってくる。
「そりゃ、あいつらからしたら、ひたすら煙たかったでしょうね……」
駈はカクテルを一気に喉奥に流し込むと、「マスター、何でもいいから強いのください」と口の端を拭った。

しかしその後、タクヤとマスターの判断によるのか一向に強い酒は出てくる様子はなかった。

「ああ、俺に彼氏がいなかったら身体で慰めてあげるのになぁ」
「あれ、タクヤくんいつの間に!」
身を乗り出すマスターに、タクヤは嬉しそうにスマホの画面をタップする。
「ほい、こいつ!」
「どれどれ……あれ、結構大人しい感じ?」
「いいよマスター、気を遣わなくて。地味って言いたいんでしょ?」
「いや、まぁ……タクヤくんの相手にしては、だけど」
「あはは! でも、こう見えて中々ソッチは旺盛でさぁ~ムッツリなのよ、こいつ」

盛り上がり始めた二人を横目に、駈はぼうっとする頭で酒をなめていた。
「カケルからも何かないワケ?」
タクヤに小突かれ、「ああ……それはおめでとうございます」とあからさまにケンのある声で告げると、「それはどうも!」と再び髪をかき混ぜられる。

でも、こんなやり取りはどこか懐かしくて、まるで――

「……っ!」

唐突に腹部に訪れたそれは、刃物で突かれるような鋭い痛みだった。


呻き声とともにカウンターに突っ伏した駈に、
「ちょっとカケル、どうしたんだよ!?」
タクヤが背中に手を回してくる。

「あ、いいや、ちょっと……ぎっくり腰、ですかね」
「ぎっくり腰? それホント?」
うんうんと頷いてみせながら、マスターに白湯をお願いする。
「痛み止め飲めばすぐ治るんで……」

ポケットから鎮痛剤を取り出そうとして、ふと、スマホが振動しているのに気が付く。
画面を見ると、090から始まる11の数字が並んでいた。
「出なくていいの?」
「ああ、はい……きっと間違い電話でしょ」

薬を飲んでしばらくすると、少し体が楽になった気がした。

「カケル、今日は帰りな」
さっきから背中を撫でてくれていたタクヤにそう促される。
どっと出た脂汗も大分引いてきた。
「そうですね、じゃあ、そろそろお会計……」
と、席を立とうとした、そのときだった。

「ぅ……っ!!」
先ほどとは比較にならないほどの痛みに、一瞬息が止まる。

カウンターに手を付くことでしゃがみ込んでしまうことは免れたが、やはりタクヤは目ざとくそれに気付くと、「タクシー呼ぶか? それとも、救急車の方がいい?」と駈を再び椅子に腰かけさせる。
マスターもカウンターから飛び出してきて、ブランケットを腰に巻き付けてくる。
「いいえ、あの本当に、大丈夫ですから」
激痛を堪えながら、無理やり笑顔を作る。
「いや、でも……」
不安がるマスターに首を振り、財布からお札を数枚カウンターへと置き、再びスツールから足を外す。

と、再びブー、ブー、とバイブの音。
ポケットからスマホを取り出すと、やはりさっき掛かってきた番号だった。
登録名の出ないそれは、でもどこか見覚えのある配列で――

気が付くと、通話のボタンに指が触れていた。

「……もしもし、駈?」

電話の向こう、低くて……どこか、甘い声。

間違いない。この声は――

「……英」


そこからの記憶は、あまりはっきりしていない。
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