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社長はしばらく駈の顔を見つめていた。
だが、とうとう大きく息を吐きだすと、そのままソファの背にどさりと身体を預けた。
「いやぁ、この話を君にするのがもう、気が重くて重くて……。でも、納得してもらえてよかった」
「いえ……当然のことですので」
「待遇面とか、できる限り配慮はさせてもらうから」
「すみません」
そんなやり取りを続けていると。
「でも、時田さんには悪いことしたな」
突然飛び出した名前に、駈はぴくりと身体を反応させる。
彼がこのことをどう思うかと考えると、そちらの方がよほど心を重くさせた。
「そういえば、部長はこの件は……」
すると、社長は一瞬、その表情を固まらせる。
「……あれ、彼から何も聞いてない?」
「あ、はい……?」
どうかしたんですか、と続けた駈に、彼は「いや……」と言葉を濁す。
社長は少しの間黙した後、「これ、オフレコね」と声を潜めた。
「彼、入院しているんだよ」
「……え」
駈は絶句する。
それは自分の処遇などよりよほど衝撃的なことだった。
「……ご病気、ですか」
「ああ」
「入院は、いつから……」
「うーん、確か去年の夏ぐらいからだから……もう一年近くにはなるね」
「……」
脳裏に蘇ったのは、彼と最後に飲みに行ったときのことだった。
今の部署に異動になって三か月程経った頃だっただろうか。
疲れ切っている駈を励まそうとする彼の好意に甘え、彼の行きつけの居酒屋で楽しく飲んだのだが……そのときはそんな話は一つも出てこなかったし、彼の様子も普段と変わりがなかった。
しかし、さっきの社長の話からすると、それからほんの一、二か月後には既に入院していた、ということだ。
(そんな、まさか……)
だが、駈はそうやってショックを受ける自分をすぐに否定した。
そもそも、彼がいつも通りだったかなんて、本当に言えるのだろうか。
いつも自分は自分のことだけで精一杯で、そうして気にかけてくれていた彼のことを、そこまで見ていなかったんじゃないか――
俯いたまま口を閉ざしてしまった駈に、社長は努めて明るい声で話しかけた。
「まぁ、ずっと入院しているって訳でもないんだよ。途中途中で自宅療養もしているからね。大事を取って、ってところもあるんだ」
「……そう、なんですか」
駈が顔を上げると、社長はうんうん、と笑みを作った。
「ああでも、今彼がいなくて良かったよ。もしいたら、君の件で説教を食らっていただろうからね」
そう言って首を竦めてみせる彼に、駈は何と言ったらいいか分からず、とりあえず恐縮して頭を下げた。
そんな駈に、彼はその身体ごと向き直る。
そして、さっきまで濃い疲労を滲ませていた顔を引き締めて駈を見つめた。
「本当に、君には苦労ばかり掛けることになって申し訳ないと思っている。でもどうか、彼がいつかまた安心してここに戻ってこられるよう……一緒に頑張ってほしい」
その目は、この場所で部長と共に向き合ったかつての日と同じ力強さを感じさせた。
駈は胸につかえる諸々を飲み込むように、首を縦に振ったのだった。
だが、とうとう大きく息を吐きだすと、そのままソファの背にどさりと身体を預けた。
「いやぁ、この話を君にするのがもう、気が重くて重くて……。でも、納得してもらえてよかった」
「いえ……当然のことですので」
「待遇面とか、できる限り配慮はさせてもらうから」
「すみません」
そんなやり取りを続けていると。
「でも、時田さんには悪いことしたな」
突然飛び出した名前に、駈はぴくりと身体を反応させる。
彼がこのことをどう思うかと考えると、そちらの方がよほど心を重くさせた。
「そういえば、部長はこの件は……」
すると、社長は一瞬、その表情を固まらせる。
「……あれ、彼から何も聞いてない?」
「あ、はい……?」
どうかしたんですか、と続けた駈に、彼は「いや……」と言葉を濁す。
社長は少しの間黙した後、「これ、オフレコね」と声を潜めた。
「彼、入院しているんだよ」
「……え」
駈は絶句する。
それは自分の処遇などよりよほど衝撃的なことだった。
「……ご病気、ですか」
「ああ」
「入院は、いつから……」
「うーん、確か去年の夏ぐらいからだから……もう一年近くにはなるね」
「……」
脳裏に蘇ったのは、彼と最後に飲みに行ったときのことだった。
今の部署に異動になって三か月程経った頃だっただろうか。
疲れ切っている駈を励まそうとする彼の好意に甘え、彼の行きつけの居酒屋で楽しく飲んだのだが……そのときはそんな話は一つも出てこなかったし、彼の様子も普段と変わりがなかった。
しかし、さっきの社長の話からすると、それからほんの一、二か月後には既に入院していた、ということだ。
(そんな、まさか……)
だが、駈はそうやってショックを受ける自分をすぐに否定した。
そもそも、彼がいつも通りだったかなんて、本当に言えるのだろうか。
いつも自分は自分のことだけで精一杯で、そうして気にかけてくれていた彼のことを、そこまで見ていなかったんじゃないか――
俯いたまま口を閉ざしてしまった駈に、社長は努めて明るい声で話しかけた。
「まぁ、ずっと入院しているって訳でもないんだよ。途中途中で自宅療養もしているからね。大事を取って、ってところもあるんだ」
「……そう、なんですか」
駈が顔を上げると、社長はうんうん、と笑みを作った。
「ああでも、今彼がいなくて良かったよ。もしいたら、君の件で説教を食らっていただろうからね」
そう言って首を竦めてみせる彼に、駈は何と言ったらいいか分からず、とりあえず恐縮して頭を下げた。
そんな駈に、彼はその身体ごと向き直る。
そして、さっきまで濃い疲労を滲ませていた顔を引き締めて駈を見つめた。
「本当に、君には苦労ばかり掛けることになって申し訳ないと思っている。でもどうか、彼がいつかまた安心してここに戻ってこられるよう……一緒に頑張ってほしい」
その目は、この場所で部長と共に向き合ったかつての日と同じ力強さを感じさせた。
駈は胸につかえる諸々を飲み込むように、首を縦に振ったのだった。
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