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忠珍鱈

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そんな英にしばらくの間抱き締められているうち、駈はあることに気付いてしまう。

「なぁ、もういいだろ……」

それを悟られないよう努めて冷静にそう伝えたのに、彼は浮かれているのか聞く耳を持っていないようだった。

これはまずい……そう焦るほどに、身体はますます熱を帯びていく。

背中に回された固い腕。後頭部を包み、肩口へと押し付けてくる大きな手。
触れられたところから肌が粟立ち、それが全身に広がっていく。

最近はそういうこととはすっかりご無沙汰で、しかも色々と思い悩むことが多すぎて自分で慰めることすらしていなかった。
きっとそのせいだ……と心の中で言い訳して彼の胸を押しのけようとする。
それなのに、英の腕はびくともしない。

このままでは本当に、せっかくの彼の決意を無駄にする結果になってしまう……なんとか踏みとどまらなければと思うのに、その意思を裏切るように身体はどんどんその気になっていく。

「あれ、どうかした?」

ようやく駈の抵抗に気付いたのか、英は呆けた顔でそんなことを聞いてくる。

「……」

彼の体温とその匂いに、頭に霧がかかっていく。

「えっ……駈?」

どうしたの、と耳元で囁かれ、とうとう身体の奥が甘くわなないた。

「……お前だって、人のこと言えないだろ」

駈はより強くその胸を押しやる。
虚を突かれたような英の頬を両手で挟み込むと、駈は思いきりそれを引き寄せた。


床の上で座ったまま、それぞれの身体を支えにするよう背中に腕を回す。
柔らかい唇を食み合いながら、舌を緩やかに絡ませていく。
その口付けは一見とても穏やかそうで、しかし二人の呼気は徐々に熱く激しくなっていった。

「ん……っ、ん、ぁ……っ」
小さく鼻にかかった駈の声。耐え切れずに溢れ出たそれに、英もまた下半身が熱く張り詰めてくる。

以前もそうしたように、英は薄く目を開けて駈の表情を確かめる。
あの日覗き見たときも、彼は少し苦しそうにしながらも気持ちよさそうに顔を火照らせていた。

だが……今日の駈はそれ以上だった。
すっかり眉を下げて頬を染め上げ、与えられる快感をただ従順に受け止めている。
初めて見るその表情に英はさらにぞくぞくと身体を昂らせながら、うなじから首筋を撫で下ろすようにくすぐった。

「……んっ」
その瞬間、小さな呻きともに、駈の舌の動きがぴたりと止まる。

英はそっとその舌をほどくと、ゆっくりと顔を離す。

「どうかした?」
「……」

駈は肩をわずかに震わせながら、浅く息をしている。
濡れて光る唇が煽情的で、英は引き寄せられるようにそこに指を滑らせた。

「……ッ、何でもない」

そのいたずらな手から逃れるように顔を逸らした駈は、乱れた前髪を整えながら涙で潤んだ目を伏せている。
その姿に英はぐっと唾を飲み込むと、もう一度その顔を覗き込んだ。

「本当に?」
「だから……大丈夫だって言ってんだろ」

とうとう睨まれ、英は顔を離す。まったく迫力を欠いたそれに英は思わず口元が緩んだが、何かを耐えるようだったその表情が少し和らいでいることにとりあえずホッとする。

「そう? ならいいけどさ」

英はそう言って、さっき駈が整えたばかりの前髪をかき上げる。
そのせいで自然と顎が上がって、近付いてくる英の顔に駈はぎゅっと目を瞑った。
だが、英が唇を落としたのは。

「……っ」
額を押さえながら再び目を吊り上げる駈に、英が堪えきれずに吹き出す。
「ごめんごめん、悪気はないんだ」
「悪気しかないだろうが……!」
恥ずかしさと怒りを抑えようと息を吐くと、英がまだ笑いを漏らしながらも「俺さ、昔から駈のおでこ、好きだったんだよね」と呟いた。
「今更機嫌取ってくるなよ」
駈が口を尖らせると、英は「いやいや、本当だって!」と喚く。
「だから、ずっとこうしてみたいって思ってた」
「……」
駈はそっぽを向いていたが、その耳は真っ赤に色づいていた。

「……でも、今はこっちかな」

英は駈の顔の方へと回り込む。
そして、その赤く腫れた唇に自分のそれを押し当てると、再び舌を差し入れながらその身体を強く抱き締め直した。

そして、背中に回していた手を徐々に下へと降ろしていく。

Tシャツを捲り上げるようにしてその身体に手のひらを這わせる。
初めて触れた駈の肌はなめらかで、しかしさっきまで撫でさすっていた首筋以上に熱く湿っていた。

「んっ、ん!」
その背筋に指を沿わせると、駈は面白いぐらい身体を震わせ、合わさった唇の間からくぐもった声を上げた。

「駈……可愛いね」
耳元で囁き、その目に問いかける。
駈は熱に浮かされた中にも悔しさを滲ませて英を睨んでいた。
……それは意味がないどころか、余計に英を焚きつけるだけだということを駈はきっと知らない。

さっき良いようにされてしまった仕返しとばかりに、英は殊更ねっとりとその身体を検めていく。

腰回りはきゅっと引き締まり、手に吸い付くようだった。ここを掴んで突き上げたらどんなに……と想像してしまうほど、そこはあつらえた様に英の手にぴったりと収まった。

そのまま腹の方に手を滑らせていく。

「ん、あっ、やっ……ッ!」
駈の声は一層切羽詰まり、どんどんと高く切なくなっている。

細いながらも腹筋の筋が縦横にうっすらと入るそこをじっくりと苛めながら、英は一方で冷静にその身体を見ていた。

すべてにおいて、きちんと手の掛けられた身体だと思った。
昔から几帳面なところのある駈の性格をそのまま表しているようなそれが、こんなシチュエーションに似合わずほほえましくもあり、そして、少し――面白くなかった。
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