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忠珍鱈

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朝が弱すぎて、いつもわざと少しだけ開けているカーテンから陽の光が差し込んでいる。
いつもならそれで頭が徐々に覚醒してくるのだが、今日はなんだか霞がかかったようにふわふわとしたままだった。

「ん、ん……」

上げた声が風邪をひいたときのように掠れていて、駈は喉に手をやる。頭だけでなく、身体まで重だるい。布団の中でしばらくごろごろとしていると、下半身につきり、と痛みが駆け抜けた。
「ッ……」
何とか身体を丸めてそれをやり過ごす。だが、今度は股の間のさらに奥が、ぼんやりと熱を孕んでいるのに気が付く。さらに、まだ何かがそこに埋まっているような――

その瞬間、脳内によみがえる夜――というか、外が明るくなってきていた気がするので、きっと明け方までだろう――の記憶に、駈はカッと身体中を熱くした。

あの後……何とかその指を受け入れることができ、駈はあまりにホッとして危うく泣きそうになった。
だが、そんな安堵もつかの間、器用に動くそれに随分と丹念にそこを解され、弄られ……思い出すのも憚られるほど、身も世もなく喘ぎまくった気がする。

だが……いざ挿入となると話は別だった。
手で確かめた通りの重量感のあるそれに押し入られたときは、流石に息が詰まるほど苦しくて、涙をひとつも抑えることができなかった。
英は自分も辛い癖に、何度も「やめようか?」と駈の顔を覗き込んできた。でも、駈は決して首を縦には振らなかった。せっかくここまで来たのだからやめたくない、と英の腕に縋り、ほぼ泣き落としに近い形で英を説得したのだ。
そして、そのまま――

「あ、起きた?」

その声に、駈はバッと声の方へと振り向く。
すでにきっちり上下を身に着けていた英が、部屋の端のデスクチェアから駈の方へと近寄ってくるところだった。

「身体は大丈夫?」
「あ、ああ……」
「顔が赤いけど……もしかして熱ある?」
英はそう言うなり、起き上がろうとする駈の額へと手を翳すと、そこを覆う癖のある前髪をかき上げた。

彼の冷たい手が心地よい。
「いや、だから平気だって……」
駈がそう言い終わるのと同時に、彼の顔がアップになる。
思わずぎゅっと目を瞑ると、さっきまで手を当てていたそこに柔らかい感触。
「それなら良かった」
さらりと髪を揺らしながら、むせそうなほど甘い雰囲気をまとったその顔が離れていく。
駈は口をはくはくとさせながら、すっかりと赤く染まり切った頬を枕に埋めて英を睨んだ。

「……お前、今まで寝てきた奴にもそういうことしてきたのかよ」
多少の嫌味も込めたそれに彼はうーん、と少し考えると、
「そういえば、したことなかったなぁ……駈が初めてだな」
と、何でもないことのように答えた。
「……」
墓穴を掘ってしまった。
駈は特大のため息をつくと、シーツを引き上げてまたそこに潜ろうとした。

……と、彼の向こうの机に見えた、黄色い影。
慌てて上半身を起こすと、その瞬間、腰にさっき以上の鋭い痛みが走る。
「うっ……!」
上体を伏せて顔を顰めていると、英がすぐさま駆け寄ってくる。
「駈、どうしたの!?」
お前のせいだ、と罵ってやりたい気持ちを抑え込んで、駈はその本へと目を向けた。

「それ、勝手に触るなよ」

すると彼はその目線の先を辿ると、「ごめん」と呟く。
それでも結局、例の理論書を手に取ると、駈のベッドへと戻ってきた。

ギ、とベッドをきしませながら、英が隣に腰掛ける。

「ひとつ、聞いてもいいかな」
英の透き通る飴色の瞳が、駈をじっと見ている。
駈の返事を待たず、彼は続けた。

「これ、さ……やっぱり新品なんだろ」
「……」
駈は黙ったまま、英の手の中にあるそれを改めて見た。
どう見ても、あの当時の使い込まれたそれとは似ても似つかない。

(もう、この辺が限界か)

駈は一つ息を吐く。そして、
「そうだよ」
と、できるだけ淡々と答えた。

まぁ、別に新品だからといってどうということはない。ボロボロになってしまったから買い換えた、ただそう言えばいい――

「じゃあ、これってもしかして……俺にくれようとしていたやつ?」
「……!」
駈は平静を装うのも忘れ、弾かれたように英を見る。
英はそう尋ねておきながらも、その目はどこか確信めいていた。

……ここまで来てしまったらもう、誤魔化すことはできない。
駈は降参のため息を吐いた。

「ああ……そうだよ」

その答えは英の予想が当たっていたと認めるものだった。それなのに、英は得意げな顔をすることもなく、「そっか」と呟くとその目を伏せてしまった。

「でも、何でそのこと、お前が……」

その声に、英は手元に落としていた視線を上げる。
英は言うか言うまいかと目線を彷徨わせていたが、駈同様、ここで下手に隠しても仕方がないと思ったらしい。
大事に持っていた本を二人の間へと置くと、駈の方へと身体の向きを変える。
そして、
「ゲー研部長の山潟のこと、覚えてる?」
と切り出した。

十何年振りかに聞くその名前に、駈はぽかんとしてしまう。
「あ、まぁ、覚えてはいる、けど……」
けど、彼が何だというのだろう。
いまだ戸惑ったままの駈に、英は「実はさ」と種明かしを始めた。

「俺の転校が決まった後、駈と、その……色々あって離れていた時期があっただろ?」
「あ……ああ」
こんなに時間が経っても、それはあまり思い出したくない記憶だった。
顔を曇らせる駈に、英はまた少し逡巡したものの、そのまま話を続けることにした。
「その時さ、たまたま廊下であいつに会って。それで、言われたんだよ……『あと少ししかないんだから、仲直りしたらどうだ』って」
「あっ……!」

山潟のその台詞に、駈は思わず声を上げる。
(あいつ、英にも同じこと言ってたのか……!)
お節介な奴め……と一瞬思ったものの、そこまで気を遣われるぐらい二人の関係がバレバレだったことのほうが問題だ。

今更ながら恥ずかしく、「どうかした?」と問う英に、駈は「何でもない」と頭を振ってその熱を散らした。
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