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忠珍鱈

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あれは駈が社会人になって何年か経った辺りのことだった。

都会の暮らしにはすっかり慣れ、仕事にもそこそこ余裕が出てきた駈は、ずっと興味はあったが、二の足を踏み続けていたあるものにとうとう手を出すことにした。
基本的なプロフィール、趣味、好みのタイプ等々を入力し、出会いを探す――そう、いわゆるゲイ向けのマッチングアプリだった。

地元にいたとき、駈は一切誰にも、当然家族にさえカムアウトすることはなかった。
だが、都会に出て、そういうコミュニティが実際にあることを目の当たりにして、駈の心にも次第に変化が起こった。そして……いつからか、ある期待をするようになってしまった。

『あの日』から、どこか寂しくて仕方がなかった自分の片側。それを温めてくれる誰かに、もしかしたら巡り会えるのではないか――そんな期待を。

そして、そのアプリを始めて数週間後……意外なほどにあっさりと、駈の求める誰かは見つかった。

初めて直接会った男は、プロフィール通り背が高くややがっしりとしていて、しかも、ぼやけた写真から想像していた以上の美丈夫だった。

何度か交わしたやり取り通り、その男は紳士的で、明らかに慣れている風でない駈を上手にリードした。
これが人生で初めてのデートである駈からしたら、もう浮かれるなという方が無理な話で、駈はその少し年上の男にあっという間に心を許してしまった。
昼食の後、彼の趣味だという美術館巡りをし、その合間にカフェで一服したりして、そうして穏やかに一日は過ぎていった。

その日の最後は、男の選んだバーだった。
彼は日中と変わらず、その低く甘い声で駈が喜ぶようなことをさりげなく囁き、その度に駈は分かりやすく顔を火照らせた。

薄い唇に、高い鼻梁。二重の優しげな目元――抑えられた照明の中で見る男のその横顔に、駈の胸はどうしようもなく疼いた。そして、男に勧められるまま、どんどんと杯を重ね……身体を支えられないと歩けないほど泥酔してしまったのだった。

「ホテル、行こうか?」

唯一、はっきりと耳に残っているのがその台詞だった。
だが、それはもちろん、「後悔」という意味で……だ。

あのとき、その言葉に軽率に頷いたりしなければ――考えても仕方のないことに、その後駈はしばらく悩まされることになってしまったのだから。


バーの裏手はホテル街になっていて、駈は男に手を引かれるまま、軒を連ねるそのうちの一つへと足を踏み入れた。
そして……そこにきて初めて、駈は自分がいよいよ「そういうこと」をしてしまうのだ、という実感が湧いてきた。

雰囲気と勢いに流されていたときにはなかった凄まじい緊張感に、心臓は破裂しそうなほど高鳴り、汗がどっと噴き出てくる。繋いだ指先までかたかたと震えてきて、駈はたまらず男を見上げた。
すると、男はそんな駈へと微笑むと、高い背を屈め、その唇へとそっとキスを落とした。

あの日以来となる数年ぶりの口づけは、駈にとって初めての、優しく甘い口づけだった。
男の温かい唇が離れていく。彼とは違う漆黒の目が、駈をまっすぐに見つめていた。

その時点で、駈はもう完全に男の手の内へと落ちてしまったのだった。


部屋のドアを閉めた途端、男の態度は一変した。

男は駈を壁に押し付けると、さっきとは真逆の捻じ伏せるようなキスを仕掛けてきた。
その打って変わった強引さに、駈は彼が自分を激しく求めてくれている気がして、かっとその身体中を熱くさせた。

……だが、その手が喉に掛かった瞬間、その上せていた血が一気に下降する。

ぐぐ、とめり込んでくる指の力。駈は必死にその目だけを男へと向けた。
男は、光のない目を興奮で濁らせながら、瞬きもせずに駈を見下ろしていた。

喉輪を外された途端、駈はずるずるとその場にしゃがみ込んだ。だが、男は酷くむせている駈の手首を掴むと、無理やり立たせ、そのままベッドへと引きずっていった。
そのまま突き飛ばされ、駈は弾むスプリングの上で呆然とする。
目の前で仁王立ちする男に、さっきまでの紳士的な姿はどこにもなかった。

男はそのまま駈へと覆い被さってきた。その体躯の大きさをまざまざと思い知らされ、指先がみるみる冷たくなっていく。
しかし、まずい、逃げなければと思うのに、なぜか身体がまともに動かない。それなのに、皮膚の上だけはぞわぞわとしていて、産毛の一本一本に神経が通ったかのように鋭敏になっていた。

男は駈のチノパンに手を掛けると、下着ごとそれを乱暴にはぎ取る。次いで、自身の前をくつろげ、その体格に見合ったそれを取り出すと、数度扱いただけで反り返ったそこへ手早くゴムを被せた。
そして、恐怖に後ずさりする駈の腰を掴むと、力任せにうつ伏せにした。

また男の手が首に掛かり、駈の意識がふっと遠くなる。男は猛り切ったそれを駈の後ろへと宛がうと、そのままその固く閉ざされた場所へとめりめりと突き刺していった。

その後のことはもう……思い出したくなかったし、実際、朧気になっている部分が多かった。

ただ、それでも鮮明に記憶に残ってしまったものもあった。
その一つが、あまりの痛さと苦しさに涙を流す駈の後ろから、男の咆哮にも似た息遣いが延々と聞こえていたこと。そして、それから数日間は、普通の生活を送るのも辛くなるほど、心身ともに痛めつけられた、ということだった。
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