91 / 98
91
しおりを挟む
ぱちりと目を開けると、広い寝室はまだ夜の闇に包まれていた。
「ん……」
ほんの小さな声さえ引っ掛かるようで、駈は喉に手をやりながら、ベッドの上で身体を丸める。
正直、している最中よりも、終わった後の方が駈にとっては辛い、というか……頭が冷えている分、勝手に蘇ってくる自らの痴態のどうしようもなさに死んでしまいそうになるのだった。
あの後――すっかり夜も更けかかった頃合いにマンションへと到着した二人は、玄関のドアが閉まるなり、あの車内の続きとばかりに激しく互いの唇を貪り合った。
だが、そのままそこで事に及ぼうとする英に、駈は慌てて待ったをかけた。まさか今日会えるとは思っておらず、準備を何もしていなかったからだ。
それすら自分がすると言って聞かない英を何とか説き伏せ、駈はバスルームに逃げ込んだのだが――気が逸っていたのは、駈も同じだった。
最後、ローションでいつものように中を解していた駈は、ただの事務的なその作業にも関わらず、おかしなほど昂ってくる身体と声とを抑えられなくなってしまい――それを聞きつけた英に乱入され、その場で致してしまったのだ。
しかも、中で出されたそれを謝りながら掻きだされている最中にまたお互い催してしまい、そこでもう一回。
更にベッドに運ばれて……と、何だかんだで普段以上に盛り上がってしまった。
「……」
駈は自分自身を抱きしめるように一層身体を縮こまらせる。
この年になるまで、というか……英と付き合うまで、駈は自分は割と淡白な質だと思っていた。それが今では、こんなに明け透けに英を求めてしまっている。
英は駈のそういう快感への堪え性のなさを揶揄う言葉をわざと耳に吹き込んでは、駈に否定され続けているのだが――
(こんなんじゃ説得力のかけらもないじゃないか……っ)
はぁ、と吐き出した息が既に熱い。
駈はいったい自分はどうしてしまったのだろうと顔を赤くしたり青くしたりした。
(うっ、ダメだ、シャワー……)
身体は英によって綺麗に拭われていたが、このわだかまる熱を散らすには物理的に冷やすしかない気がして、駈はベッドから上体を起こそうとした。
……と、こっそりと布団を剥いだ駈に、低く掠れた声が掛かる。
「ん、かける、起きたの……?」
背を向けていた英が、ごろりと寝返りをうつ。
「あ、ああ……」
駈はぎくりと身体を強張らせると、そそくさと布団の中に身体を戻す。
彼の薄い色の髪がさらりとその目元に掛かる。深く沈む琥珀の瞳にぼんやりと覗き込まれ、その気怠い色気に駈はごくりと唾を飲み込んだ。
英は寝ぼけているくせに、駈のそういう変化にはいつも目ざとく、フッと口元に笑みを浮かべる。
「あれ、もしかして……足りなかった?」
「いや、べつに、そういうわけじゃ……」
乾かさないままの湿った髪に指を差し込まれ、言葉とは裏腹にさあっと肌が甘く粟立つ。
そのままいたずらな指に耳の裏を愛撫され、駈は飛び出しそうになった声を咄嗟に噛み締め、ぎゅっと目を瞑った。
……だが、いつまでたっても待ち望む感触は訪れず、駈はこわごわと目を開ける。
英は駈の頭に手を乗せたまま、すうすうと穏やかな寝息を立てていた。
「…………っ」
じわじわと襲ってきた恥ずかしさにひとり身悶えていた駈だったが……どうにかその熱をやりすごすと、目の前の男をじっと見つめる。
その目元にはうっすらと隈ができていて、駈は何だかいたたまれないような気持ちになった。
「……お疲れ様」
吐息だけでそう囁く。
そして、こんな体勢じゃ寝づらいだろうと、自分の頭に置かれた手をどかそうとしたのだが……駈は伸ばした指先に感じた硬い感触にハッと目を見開いた。
慎重に掴んで下ろしたその薬指に輝いていたのは、駈とお揃いの指輪だった。
「いつ付けたんだよ、これ……」
そう呟きながら口元が自然と綻ぶ。
駈が寝た後、この指輪をわざわざ取り出して指に嵌めた彼を想像すると、胸がくすぐったくなるような心地がした。
雑に閉められたカーテンの隙間から、未だ降り続いている雪が見える。
白く煙る街の灯りが乱反射して、英の指輪を淡く煌めかせた。
「――」
素面ではとても言えないようなそんな愛の誓いでさえ、今日は不思議と溢れ出てしまう。
駈は数時間前、英が駈にそうしたように彼の手を優しく持ち上げると、薬指にそっと唇を寄せたのだった。
「ん……」
ほんの小さな声さえ引っ掛かるようで、駈は喉に手をやりながら、ベッドの上で身体を丸める。
正直、している最中よりも、終わった後の方が駈にとっては辛い、というか……頭が冷えている分、勝手に蘇ってくる自らの痴態のどうしようもなさに死んでしまいそうになるのだった。
あの後――すっかり夜も更けかかった頃合いにマンションへと到着した二人は、玄関のドアが閉まるなり、あの車内の続きとばかりに激しく互いの唇を貪り合った。
だが、そのままそこで事に及ぼうとする英に、駈は慌てて待ったをかけた。まさか今日会えるとは思っておらず、準備を何もしていなかったからだ。
それすら自分がすると言って聞かない英を何とか説き伏せ、駈はバスルームに逃げ込んだのだが――気が逸っていたのは、駈も同じだった。
最後、ローションでいつものように中を解していた駈は、ただの事務的なその作業にも関わらず、おかしなほど昂ってくる身体と声とを抑えられなくなってしまい――それを聞きつけた英に乱入され、その場で致してしまったのだ。
しかも、中で出されたそれを謝りながら掻きだされている最中にまたお互い催してしまい、そこでもう一回。
更にベッドに運ばれて……と、何だかんだで普段以上に盛り上がってしまった。
「……」
駈は自分自身を抱きしめるように一層身体を縮こまらせる。
この年になるまで、というか……英と付き合うまで、駈は自分は割と淡白な質だと思っていた。それが今では、こんなに明け透けに英を求めてしまっている。
英は駈のそういう快感への堪え性のなさを揶揄う言葉をわざと耳に吹き込んでは、駈に否定され続けているのだが――
(こんなんじゃ説得力のかけらもないじゃないか……っ)
はぁ、と吐き出した息が既に熱い。
駈はいったい自分はどうしてしまったのだろうと顔を赤くしたり青くしたりした。
(うっ、ダメだ、シャワー……)
身体は英によって綺麗に拭われていたが、このわだかまる熱を散らすには物理的に冷やすしかない気がして、駈はベッドから上体を起こそうとした。
……と、こっそりと布団を剥いだ駈に、低く掠れた声が掛かる。
「ん、かける、起きたの……?」
背を向けていた英が、ごろりと寝返りをうつ。
「あ、ああ……」
駈はぎくりと身体を強張らせると、そそくさと布団の中に身体を戻す。
彼の薄い色の髪がさらりとその目元に掛かる。深く沈む琥珀の瞳にぼんやりと覗き込まれ、その気怠い色気に駈はごくりと唾を飲み込んだ。
英は寝ぼけているくせに、駈のそういう変化にはいつも目ざとく、フッと口元に笑みを浮かべる。
「あれ、もしかして……足りなかった?」
「いや、べつに、そういうわけじゃ……」
乾かさないままの湿った髪に指を差し込まれ、言葉とは裏腹にさあっと肌が甘く粟立つ。
そのままいたずらな指に耳の裏を愛撫され、駈は飛び出しそうになった声を咄嗟に噛み締め、ぎゅっと目を瞑った。
……だが、いつまでたっても待ち望む感触は訪れず、駈はこわごわと目を開ける。
英は駈の頭に手を乗せたまま、すうすうと穏やかな寝息を立てていた。
「…………っ」
じわじわと襲ってきた恥ずかしさにひとり身悶えていた駈だったが……どうにかその熱をやりすごすと、目の前の男をじっと見つめる。
その目元にはうっすらと隈ができていて、駈は何だかいたたまれないような気持ちになった。
「……お疲れ様」
吐息だけでそう囁く。
そして、こんな体勢じゃ寝づらいだろうと、自分の頭に置かれた手をどかそうとしたのだが……駈は伸ばした指先に感じた硬い感触にハッと目を見開いた。
慎重に掴んで下ろしたその薬指に輝いていたのは、駈とお揃いの指輪だった。
「いつ付けたんだよ、これ……」
そう呟きながら口元が自然と綻ぶ。
駈が寝た後、この指輪をわざわざ取り出して指に嵌めた彼を想像すると、胸がくすぐったくなるような心地がした。
雑に閉められたカーテンの隙間から、未だ降り続いている雪が見える。
白く煙る街の灯りが乱反射して、英の指輪を淡く煌めかせた。
「――」
素面ではとても言えないようなそんな愛の誓いでさえ、今日は不思議と溢れ出てしまう。
駈は数時間前、英が駈にそうしたように彼の手を優しく持ち上げると、薬指にそっと唇を寄せたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる