No.8-ナンバーエイト-

偽モスコ先生

文字の大きさ
4 / 28
旅立ち

悩め青年

しおりを挟む
 ライブが終わった後は一旦控室に言ってユキを労い、それから着替えやら何やらが終わるまで、会場のスタッフさんの撤収作業やらを手伝う。ユキは、最後の曲が終わった直後のドレス姿でとても綺麗だったので、話すのに少しだけ緊張した。
 それから、バスの時間ぎりぎりまでユキに頼まれて打ち上げに付き添う。俺と一緒に離脱したユキをホテルの部屋まで送って、俺の今日の仕事は終わり。警備と肉体労働ばかりのビットに比べりゃ楽なもんだ。あいつには撤収作業を手伝った際に会ったけど、明日は筋肉痛だとぼやいていたからな。

 気づけば夜の十二時を回っていた。
 バスに乗る前にコンビニに寄る。打ち上げってのはろくに飯が食えないから腹が減ってしまう。

「ゴシンキイチメイサマゴライテンデェス!」「ッシャッセェェェ!」

 居酒屋の店員モードか……。
 全自動店員ロボには、モード切替というぶっちゃけ必要のない、遊び心に溢れた機能が搭載されている。
 まあ、これは理解できないこともない。どこに行っても、いかにもロボという外見をした店員が、毎日同じセリフばかり言ってたら息が詰まるからな。

「何だ、この時間に帰りとは、雑用にしては随分と早いではないか」
「憎まれ口しか叩けないのかよ……」

 ソドムのおっさんだ。さすがに街中ではやり合えないので、会うとこういうことばかり言ってくる。逆に俺のこと好きなんじゃないかと思ってしまう。

「おっさんこそ打ち上げ会場の護衛があるだろ。こんなとこに居ていいのかよ」
「部下に任せて小休憩中だ」

 そう言うと棚からガバガバと商品を手に取っていくおっさん。

「おいおっさん」
「何だ。気安く話しかけるな」

 最初に話しかけてきたのはおめーだろうが……。

「カゴ使えよ」
「お前と違って暇ではないのでな。スピード重視の買い物だ」
「はあ」

 カゴを使わない=スピード重視ではないと思うんですけど。
 おっさんはそのままレジへと向かった。
 いるよな、コンビニでカゴを使わずに、商品をジェンガみたいにしてレジに持っていくやつ。レジうつのが全自動店員ロボなら関係ないかもしれないけど。
 あっ、ロボがアームで商品取ろうとしたら崩れた。おっさんキレてる。ただのクレーマーじゃねーか。ああはなりたくないもんだな……。

「イチメイサマオカエリデェス!」「ッシタアアアァァァ!!!!」

 うん、元気なのはいいことだ。
 外で買ったものを食べると、ちょうどバスが来る時間になった。
 流れていくマダラシティの夜景をバスの窓から眺めながら、帰路に就く。
 もう深夜になるというのに、ぽつぽつと明かりがついている様子には、現代的なコンクリートのビルにも、中世ヨーロッパ風の家屋にも変わりはなかった。
 太陽からの恵みが途絶え、月明かりだけになった街中で、いびつながらもそうやって何だかんだで共存する建物たちを見るのは、決して悪い気分じゃない。
 乗り換えのために『天界の門ヘヴンズゲート』前で降りると、天界の門総合管理ビルが、俺たちを見守るようにそびえ立っていた。

 ◇ ◇ ◇

 家に帰ると、時計は午前二時半頃をさしていた。
 荷物を降ろし、スマホを取り出して色々と確認する作業。ユキに「スマホ、ちゃんと見てね」って言われちゃったしな。
 まずRINE。おっ、ユキから何か来てる。どれどれ……

「ユキ:今日はありがとう。打ち上げまで付き添ってもらってごめんね。気をつけて帰ってね」

 マメだなあ。ホテルでばいばいをしてから割とすぐの時間だ。
 女の子からのメールとかチャットって自然と心が弾んでしまう。
 ライブが良かったことを伝えたいんだけど、ただ「ライブ良かったよ」と言うのはあまり好きじゃない。上っ面で適当な感想という感じがするからだ。少し上から目線だなと思う人もいるだろうし。
 でもなあ、拙者、口下手ですから……。

「自分:俺がやりたくてやってることだし、気にするなよ。それと、今日のライブはすごく感動した。歌も上手かったし、最後の曲の間奏の盛り上がりも、何だかグッときた。衣装も似合ってたよ」

 長いうえにグダグダだな……。しかも衣装が似合ってたとか言ってしまった。恥ずかしい!直接だと絶対に言えない!フッフゥ↑!
 返事は、少し間を空けてから返ってきた。

「ユキ:ありがとう。そう言ってもらえて、嬉しい。それじゃあ今日は眠いからもう寝るね。おやすみ」

 うむ。ま、こんなもんか……。「おやすみ」、っと……。
 もう一つチャットが来てんな。

「クラウド:スノウちゃんからIDを聞きました。今日の分の口止め料、送っておくのでよろしくぅ!」

 いらないんだけどな……。ま、まあユキの画像なら?し、仕方なく、仕方なく!もらってやらんこともないけど?
 添付された画像を開くと、クラウドの自撮りが画面に表示された。
 …………。
 削除っと……。

 次はTyoritter(チョリッター)のチェックだ。
 Tyoritterは、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)と呼ばれる、インターネット上でユーザー同士がコミュニケーションを取るためのサービスの一つだ。
 もっともTyoritterは正確にはSNSではないとされているが、その辺の詳しい話は今は置いておく。
 Tyoritterはマイクロブログという、スマホの一画面に収まる程度の文字数と画像を投稿できるタイプのSNSだ。一般人はもちろん、著名人でも、自分の仕事の宣伝のために利用している人は多い。他のSNSと比べると、音楽や漫画、絵など、何か一つの趣味に特化した人たちが、情報収集のツールとして利用することが多いのも特徴の一つだ。
 
 ユキも、事務所の言いつけにより、アカウントを作っている。
 仕事のために必要なときもあるので、俺もアカウントは持っている。もちろんユキのアカウントもフォローしてある。
 スマホ用のアプリ版を起動すると、お馴染みの「いよっ」と挨拶をしている感じの右手のマークが浮かび上がり、フォローしている人たちの投稿がずらっと並ぶ、タイムラインが現れる。
 どれどれ、ユキの投稿は、と……。

「スノウ=ヴァレンティア:おはようございます。本日はスーパーアリーナでのライブです。お越しいただくみなさま、会場まで事故などに遭わないよう、気をつけていらしてくださいね」

 真面目だな。らしいと言えばらしい。

「スノウ=ヴァレンティア:スーパーアリーナ、ありがとうございました!衣装が豪華でびっくりしたけど、とても楽しかったです。お帰りの際も、怪我などしないように気をつけてくださいね」

 その投稿には最後の曲のときに着ていた、ドレス姿での自撮り画像が載せられている。こっ、これは……。保存しました。
 俺きもいな……。ユキにはばれないようにしないと……。
 他にも知人の投稿をチェックしてみる。

「ビット:今日はスノウ様のライブ会場で警備や雑用の仕事します!報酬はしょっぱいけど、スノウ様が間近で見れるし楽しみ!」
「ビット:やっと終わったぁ……。めっちゃ疲れたけど、スノウ様、超かわいかった!帰って寝まーす」

 お疲れ。「お疲れ」ってコメントしといた。リプライとも言う。

「クラウド:スノウちゃんなーーーーーーーーーーーーう!!!!」

 何やってんだこのおっさん……。自分のデジカメで撮った画像載せてやがる。撮影禁止なのに自分で撮影したのばればれじゃねえか!やめろ!
 まあ、この程度なら撮影係から画像を貰ったってことで何とかごまかせるか。

「フィーナ=ヴァレンティア:好きな人と一緒にランチ。幸せ」

 出た。いるんだよ……。思わせぶりな投稿をして楽しむやつ。何が狙いかは人それぞれみたいだけど。
 ちなみにこのフィーナ=ヴァレンティアってのはユキの妹だ。つまりヴァレンティア王家の第二王女ってことになる。アイドルはやってないけど、第二王女だし見てくれもいいので、ユキには及ばずとも結構な人気がある。
 この「好きな人」ってのは多分だけど高校の女友達とかだからな。俺は別に男とかでも構わないんだけど、これ見てファンのおたくとかが興奮するからみてて鬱陶しいことこの上ない。
 ほら見ろ、コメント欄にどこぞのおたくが「彼氏いるの?」とか書き込んでんじゃねーか。いてもお前にゃ関係ないだろ。

 一通りチェックが終わると、シャワーも浴びずにごろんとベッドに横になる。
 天井を見つめながら、ユキのアイドル業を何とかしてやれないかと、俺なりに考えてみることにする。
 
 ユキがアイドルをやめるには、それに見合う収入が必要だ。
 当然、俺の収入ではそれをカバーすることはできない。
 冒険者の仕事でも多額の報酬を得ることは可能だが、俺は魔法が使えないので、あまりでかい仕事はこなせない。当然俺宛の依頼なんてものも来ない。
 そんなに強くない危険動物を駆除したり捕獲したりする仕事はできるが、あまり報酬は高くない。報酬が高い仕事と言えば、大型の危険動物の討伐、捕獲になるんだけど、魔法が使えないと厳しいことが多い。ソロでは無理だし、集団でやるにしても魔法を使っての連携が必須だ。当然俺はお呼びじゃない。
 要人の護衛や暗殺者の捕縛なんてのも報酬は高いが、もうわかってると思う。俺にはそんな仕事はやらせてもらえない。まず依頼主が嫌がる。

 商社で働くか……?無理だなあ。雇ってもらえたとして、ユキの収入をカバーできるほどの収入は得られないだろう。俺の性にも合ってない。
 自分で商売を始める。もっと無理だ。そのための資金がないし、経営のための知識だって、俺には足りない。

 どうしようもねえな……。
 ちらっと、壁に立てかけてある愛用の剣を見つめる。
 せめて魔法さえ使えれば。
 誰にだって勝てるし、何だってできる自信があるのに。
 神様ってのは、肝心なところで役にたたないよな。
 今まで魔法が使えなかったことを、そこまで気にしたことはなかった。
 バカにされて悔しかったけど、バカにしてきたやつらはほとんど倒せたし、悔しさがなければ剣の腕を磨くこともなかっただろう。
 魔法が使えなかったから、今の俺がある。
 でも……。今の俺じゃ、ユキの力にはなれない。それが歯がゆい。
 そんなことを考えていると、俺の意識はいつの間にか闇に沈んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...