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旅立ち
囚われの姫君
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部屋の扉前に控えていた守衛にロックを解除してもらい、中に入る。
「失礼します」
おお、何かめっちゃすげえ。豪華。思わず語彙を失ってしまった。
何畳だとか考えることが馬鹿馬鹿しくなる広さの部屋だ。
奥はガラス張りになっていて、マダラシティが一望できる。
全体的に白を基調とした内装に、木目の調度品がアクセントになっていた。
ローテーブルの前に置かれた椅子に、俺に背を向けてスノウが座っている。
「ラスナ=アレスター、お迎えにあがりました。スノウ様、本日もよろしくお願いいたします」
直立し、後ろで手を組んでそう言うと、俺はぺこりと腰を折って頭を下げた。
しかし反応はない。頭を上げてスノウの方を見る。
「……」
あれ?お~い。聞こえてる……よな?もう一度言うのも何か失礼だしな……。
やっほ~。
「……」
無言のままこちらを振り向き、じろりと睨みつけてくる。しかし、顔がカワイイのであまり迫力がない。ちゅき。
「……」
「……」
しばらく無言のまま見つめ合う二人。これはそう、運命……。
「……ふん」
そう言って、また部屋の奥の方を向いてしまった。
…………。
「何怒ってんだよ、ユキ」
肩がぴくっと動いた。それからこちらを振り向く。
「二人のときはそうやって話してって、いつも言ってるでしょ」
「仕方ないだろ。部屋の中とはいえ、誰が扉の前で聞き耳立ててるかわかんないんだし……」
「別に聞かれたっていいじゃない、今更よ」
「それもそうか」
会話をしながら部屋の中ほどに進むと、俺はスノウ……ことユキの近くにある椅子に腰かけた。
ユキと俺は幼馴染だ。
俺がまだ小さい頃、王宮に使える兵士だった父さんに付いていったある日。
侍女に付き添われて庭で遊んでいたユキの近くを通った際、挨拶をしておきなさいと父さんから言われ、自己紹介をしたのが始まりだ。
それからは王宮で会うたびに遊んで、仲良くなった。
ユキ、という呼び方をしているのは、スノウを第一公用語の日本語ではそう言った意味になると聞いた俺が、呼びやすいしそっちの方が良くね?と言うと、ユキも気に入ってくれたからだ。もちろん、ユキと呼んでいるのは、俺しかいない。
「RINEだって返してくれないし……」
RINEってのは、チャットもできる無料通話アプリのことだ。
「ああ、ごめん。俺、スマホ全然見ないからな……」
ポケットからスマホを取り出し、RINEを起動する。あ、本当だ。昨日の夜から発言があるのに気づいてなかった。
「明日はよろしくね!」「おはよう」「もう家出た?」「死ね」と来ている。
死ねって……。
確認を終えると、スマホをポケットにしまい、ユキの方を向いた。
「それで、今日はどうだ?いいライブができそうか?」
「うん、今でもまだ、たくさんの人の前で歌うのは緊張するけど……。私にしかできない、大切なお仕事だから……」
そう言いながら少し俯く。表情には陰りが見え始めた。何気なく振った話題だったが、失敗したな……くそっ。
ユキは王女でありながら、ほとんどアイドルと言っていい活動をしている。
なぜそんなことをしているのか?ここでまたちょっと、歴史のお勉強。
ここヴァレンティア王国は、神々から自由に開発を許可された唯一の領域を持っていて、かつ『天界の門』がある地球との玄関口になる都市という都合上、栄える速さは、他の国と比べて段違いだった。
人間というのは本当に愚かな生き物で、強くなると野望を抱いてしまいがちだ。
先々代、つまりユキの曽祖父にあたる王が、世界征服を企み、他国に侵略戦争を仕掛け始めてしまった。
もちろん戦争そのものには勝っていたが、代わりに神々の怒りを買い、まず自分たちが殺したのと同じ数だけヴァレンティア国民を殺され、次に、国の財産や主権など、国が力をつけるために必要なあれこれを全て没収されてしまう。
それ以降は、王政府は税金を徴収することは許されず、国の運営も、ヴァレンティア王国を除く七つの国の代表によって構成される、『七か国連合評議会』によってされることになった。
そして神々は、最後に人間の間での戦争を禁止。ただし、完全に禁止してしまってはまた何を起こすかわからないので、代わりに国の代表を決め、その代表同士でバトルロワイヤルをさせる『七か国戦争』を許可した。
ヴァレンティア王国はこれの参加すら許されず、しかも、七か国連合評議会によって主催されるこの大会の費用を負担させられている。
今のヴァレンティア王家は、シンボルであり、かつ貧乏だ。
一方で、王宮に閉じ込められるようにして育ったユキは、小さい頃はアイドルに憧れる女の子だった。やんちゃ、というほどではないが、割と活発だったユキは、アイドルコンテストに出たいと言い出してしまう。
一応身分を偽って出場したものの、王女だから落選させられなかったのか、それともその可憐さゆえか、見事そのコンテストで優勝。王家と事務所の間で話し合いが進められ、「ひとまずアイドル活動をやるだけやってみては?」という結論にいたる。もし、ヴァレンティア王家がただのシンボルでなかったら、そんなことはありえなかっただろう。
ユキはアイドルとしてすぐに成功し、収入はバカにできないほどになった。
しかし、中学高校と歳を重ねるにつれて、ユキはどんどんアイドルをやることに抵抗を覚え始める。アイドルに憧れる女の子から、普通の女の子になってしまったのだ。アイドルをやるよりも、その時間で友達と一緒に遊んだり、自分のやりたいことをたくさんしたい。王女だから、それも思う通りにはいかなくても。
ところが、王家の財政状況がユキのアイドル廃業を許してはくれなかった。
もしユキがアイドルをやめれば、王家の収入源はほとんど寄付のみになる。
そうなると、毎年の七か国戦争の費用を出すだけで限界だ。暮らしを一般市民以下のかなり質素なものにしても、やっていけるか怪しい。
だからユキは、強制されているわけでもないのに、本当はもうやりたくないアイドルを続けているのだった。ユキがアイドルをしているのは、そういう理由だ。
ちなみに、口には出さずとも、ユキの父親であるクラウド王もそのことを察していて、心苦しく思った王は、アイドルとしてのイベントがある度に、実質ただの話相手として、俺を護衛役にねじ込んだ。せめて父親として、わずかばかりの権力を無理やり使った形だ。
小さい頃からアイドルで忙しかったユキには、友達が少ない。特に、何でも話せる相手となると俺くらいかもしれない。俺以外にはまずアイドルを本当はやめたいなんて話せないだろう。
本来護衛役としては不足もいいところの俺が、こうしてイベントの度にユキの側にいるのは、そういう事情だ。悪い言い方をすればただのコネだ。だから、兵士連中は俺のことを快く思っちゃいない。
でも、「お前の護衛役をしてるから兵士に敵視されてる」なんて言えるわけもないので、俺も兵士も、仲がいいからじゃれあってる的な感じを装っている。さっきのやり取りはそういうこと。
ユキに元気がないとき、俺はいつも黙り込んでしまう。
頑張ってるやつに下手に励ましの言葉をかけたって、逆に傷つけたり、不安を煽ったりするだけだ。口下手な俺なら、なおさら。
だからこういうときは黙って側にいて、何か言いたくなったら言えるようにスタンバイしておく。それがろくに元気づけてやれない俺の、せめてもの誠意だった。
ちらっと目だけで壁の時計を確認する。スマホでそうすると急かしてる感が出て気まずいからな。
そろそろ時間か……。
「ユキ、そろそろ移動するか」
「うん、ごめんね」
「謝るなよ」
そう言ってから俺は立ち上がった。
「ねえ、ラスナ君」
「ん?」
ユキは俯いていた顔を上げて、俺の方を見る。
「今日のライブ……観ててくれる?」
「もちろん。その……俺はいつだって、ユキのこと応援してるから」
ちょっと恥ずかしかったけど、俺は頑張ってそう言った。
「ありがとう……じゃあ、頑張るね」
◇ ◇ ◇
それから俺たちはスーパーアリーナの控室へと移動し、ユキの準備もあるため、他の兵士やイベントスタッフと合流して雑用をした。本当の意味での護衛は俺以外のやつらで充分だからな。
ユキのライブ直前にはまた控室に行って話相手をし、ライブが始まってからは、関係者席からライブを観た。すると、後ろから話しかけられた。
「やあ、いつもすまないね、ラスナ君」
振り向くと、少し細身の長身に縦長の顔。鼻の下に、左右に跳ね上がる貴族的な髭をたくわえた男がこちらに歩いて来る。ユキの父親で、ヴァレンティア王国現国王のクラウドだ。
クラウドは、俺の隣に並んだ。
「滅相もありません。スノウ様の護衛という任を賜り、身に余る光栄です」
「いつも通りで構わんよ。ここは人も少ないし、わかっているものしかいない」
俺は周りを確認した。たしかに……ていうか親子そろって同じこと言うな。
…………。
「あの、親父さん」
「何かね?」
「何かね?じゃなくて……ここ、撮影禁止なんですけど」
何かめっちゃデジカメで動画撮ってる。
クラウドはこちらを振り向き、目を瞑って若干苦しそうな表情になった。
「見逃してはくれんかね?」
「いや、そんな私が死んだら家族が路頭に迷いますみたいな表情されても……」
「動画の中からいい感じのスナップショットを君にやろう」
「え?いやいや、そ、そんなの、い、いらないですよ……ウホホッ……」
正直ちょっと欲しい。変な声が出てしまった。でもそんなのだめだ!
「ラスナ君……実際、娘のことをどう思っておるのかね?ん?一枚とは言わずいくらでもやろう……どうかね?」
何でこのおっさんこんなに必死なんだ?
「どうって……そりゃあその、かわいいなあとは……思い……」
若干照れながら、俺がそのセリフを言い終わるより早く、クラウドは周りを見渡しながら、口に手を添えて叫びだした。
「みなさぁ~~~ん!ラスナ君がねぇ~!スノウちゃんのことをねぇ~!」
「わかりました!わかりましたからちょっともう!!!!」
小学生か!やめろ!
俺がしぶしぶ見なかったことにすると、クラウドは満足げにカメラに向き直り、気を取り直したように聞いてきた。
「どうかね?スノウの様子は」
色んな意味の含まれた問いだ。身体的にも、精神的にも、そしてアイドル業に対する気持ちも……と言ったところだろう。
「変わらず、って感じですね」
「そうか……父として不甲斐ないばかりだ」
「そんなこと……誰も悪くありませんよ」
そう。誰も悪くない。戦争をしかけた先々代の王はとっくに他界している。
だからこそ……誰かがどうにかしてやらないと、ユキはずっとこのままだ。
ユキのライブは、いつしか最後の曲に差し掛かり、彼女の衣装は豪華な白いドレスになっていた。
まるでその名前の通りに、儚い雪を思わせる純白のドレス姿は、とても美しい。
曲はゆったりとしたテンポのバラード。全てのパートが派手に動くこともなく、弦楽器隊とキーボードはオーソドックスなコード弾きで、それをサビまで二コーラス分繰り返す。
ドラムはAメロ、Bメロはハイハットを十六分で刻み、サビはライドシンバルを八分で刻む。
やがて間奏に差し掛かると、リズムがハーフになり、壮大さを一層増してゆく。
壮大で美しいバラードにふさわしい、可憐な歌姫の姿がどこか悲し気に見えたのは、もしかしたら俺だけだったのかもしれない。
力になりたい……。
俺は、そんな気持ちで胸を一杯にしていた。
「失礼します」
おお、何かめっちゃすげえ。豪華。思わず語彙を失ってしまった。
何畳だとか考えることが馬鹿馬鹿しくなる広さの部屋だ。
奥はガラス張りになっていて、マダラシティが一望できる。
全体的に白を基調とした内装に、木目の調度品がアクセントになっていた。
ローテーブルの前に置かれた椅子に、俺に背を向けてスノウが座っている。
「ラスナ=アレスター、お迎えにあがりました。スノウ様、本日もよろしくお願いいたします」
直立し、後ろで手を組んでそう言うと、俺はぺこりと腰を折って頭を下げた。
しかし反応はない。頭を上げてスノウの方を見る。
「……」
あれ?お~い。聞こえてる……よな?もう一度言うのも何か失礼だしな……。
やっほ~。
「……」
無言のままこちらを振り向き、じろりと睨みつけてくる。しかし、顔がカワイイのであまり迫力がない。ちゅき。
「……」
「……」
しばらく無言のまま見つめ合う二人。これはそう、運命……。
「……ふん」
そう言って、また部屋の奥の方を向いてしまった。
…………。
「何怒ってんだよ、ユキ」
肩がぴくっと動いた。それからこちらを振り向く。
「二人のときはそうやって話してって、いつも言ってるでしょ」
「仕方ないだろ。部屋の中とはいえ、誰が扉の前で聞き耳立ててるかわかんないんだし……」
「別に聞かれたっていいじゃない、今更よ」
「それもそうか」
会話をしながら部屋の中ほどに進むと、俺はスノウ……ことユキの近くにある椅子に腰かけた。
ユキと俺は幼馴染だ。
俺がまだ小さい頃、王宮に使える兵士だった父さんに付いていったある日。
侍女に付き添われて庭で遊んでいたユキの近くを通った際、挨拶をしておきなさいと父さんから言われ、自己紹介をしたのが始まりだ。
それからは王宮で会うたびに遊んで、仲良くなった。
ユキ、という呼び方をしているのは、スノウを第一公用語の日本語ではそう言った意味になると聞いた俺が、呼びやすいしそっちの方が良くね?と言うと、ユキも気に入ってくれたからだ。もちろん、ユキと呼んでいるのは、俺しかいない。
「RINEだって返してくれないし……」
RINEってのは、チャットもできる無料通話アプリのことだ。
「ああ、ごめん。俺、スマホ全然見ないからな……」
ポケットからスマホを取り出し、RINEを起動する。あ、本当だ。昨日の夜から発言があるのに気づいてなかった。
「明日はよろしくね!」「おはよう」「もう家出た?」「死ね」と来ている。
死ねって……。
確認を終えると、スマホをポケットにしまい、ユキの方を向いた。
「それで、今日はどうだ?いいライブができそうか?」
「うん、今でもまだ、たくさんの人の前で歌うのは緊張するけど……。私にしかできない、大切なお仕事だから……」
そう言いながら少し俯く。表情には陰りが見え始めた。何気なく振った話題だったが、失敗したな……くそっ。
ユキは王女でありながら、ほとんどアイドルと言っていい活動をしている。
なぜそんなことをしているのか?ここでまたちょっと、歴史のお勉強。
ここヴァレンティア王国は、神々から自由に開発を許可された唯一の領域を持っていて、かつ『天界の門』がある地球との玄関口になる都市という都合上、栄える速さは、他の国と比べて段違いだった。
人間というのは本当に愚かな生き物で、強くなると野望を抱いてしまいがちだ。
先々代、つまりユキの曽祖父にあたる王が、世界征服を企み、他国に侵略戦争を仕掛け始めてしまった。
もちろん戦争そのものには勝っていたが、代わりに神々の怒りを買い、まず自分たちが殺したのと同じ数だけヴァレンティア国民を殺され、次に、国の財産や主権など、国が力をつけるために必要なあれこれを全て没収されてしまう。
それ以降は、王政府は税金を徴収することは許されず、国の運営も、ヴァレンティア王国を除く七つの国の代表によって構成される、『七か国連合評議会』によってされることになった。
そして神々は、最後に人間の間での戦争を禁止。ただし、完全に禁止してしまってはまた何を起こすかわからないので、代わりに国の代表を決め、その代表同士でバトルロワイヤルをさせる『七か国戦争』を許可した。
ヴァレンティア王国はこれの参加すら許されず、しかも、七か国連合評議会によって主催されるこの大会の費用を負担させられている。
今のヴァレンティア王家は、シンボルであり、かつ貧乏だ。
一方で、王宮に閉じ込められるようにして育ったユキは、小さい頃はアイドルに憧れる女の子だった。やんちゃ、というほどではないが、割と活発だったユキは、アイドルコンテストに出たいと言い出してしまう。
一応身分を偽って出場したものの、王女だから落選させられなかったのか、それともその可憐さゆえか、見事そのコンテストで優勝。王家と事務所の間で話し合いが進められ、「ひとまずアイドル活動をやるだけやってみては?」という結論にいたる。もし、ヴァレンティア王家がただのシンボルでなかったら、そんなことはありえなかっただろう。
ユキはアイドルとしてすぐに成功し、収入はバカにできないほどになった。
しかし、中学高校と歳を重ねるにつれて、ユキはどんどんアイドルをやることに抵抗を覚え始める。アイドルに憧れる女の子から、普通の女の子になってしまったのだ。アイドルをやるよりも、その時間で友達と一緒に遊んだり、自分のやりたいことをたくさんしたい。王女だから、それも思う通りにはいかなくても。
ところが、王家の財政状況がユキのアイドル廃業を許してはくれなかった。
もしユキがアイドルをやめれば、王家の収入源はほとんど寄付のみになる。
そうなると、毎年の七か国戦争の費用を出すだけで限界だ。暮らしを一般市民以下のかなり質素なものにしても、やっていけるか怪しい。
だからユキは、強制されているわけでもないのに、本当はもうやりたくないアイドルを続けているのだった。ユキがアイドルをしているのは、そういう理由だ。
ちなみに、口には出さずとも、ユキの父親であるクラウド王もそのことを察していて、心苦しく思った王は、アイドルとしてのイベントがある度に、実質ただの話相手として、俺を護衛役にねじ込んだ。せめて父親として、わずかばかりの権力を無理やり使った形だ。
小さい頃からアイドルで忙しかったユキには、友達が少ない。特に、何でも話せる相手となると俺くらいかもしれない。俺以外にはまずアイドルを本当はやめたいなんて話せないだろう。
本来護衛役としては不足もいいところの俺が、こうしてイベントの度にユキの側にいるのは、そういう事情だ。悪い言い方をすればただのコネだ。だから、兵士連中は俺のことを快く思っちゃいない。
でも、「お前の護衛役をしてるから兵士に敵視されてる」なんて言えるわけもないので、俺も兵士も、仲がいいからじゃれあってる的な感じを装っている。さっきのやり取りはそういうこと。
ユキに元気がないとき、俺はいつも黙り込んでしまう。
頑張ってるやつに下手に励ましの言葉をかけたって、逆に傷つけたり、不安を煽ったりするだけだ。口下手な俺なら、なおさら。
だからこういうときは黙って側にいて、何か言いたくなったら言えるようにスタンバイしておく。それがろくに元気づけてやれない俺の、せめてもの誠意だった。
ちらっと目だけで壁の時計を確認する。スマホでそうすると急かしてる感が出て気まずいからな。
そろそろ時間か……。
「ユキ、そろそろ移動するか」
「うん、ごめんね」
「謝るなよ」
そう言ってから俺は立ち上がった。
「ねえ、ラスナ君」
「ん?」
ユキは俯いていた顔を上げて、俺の方を見る。
「今日のライブ……観ててくれる?」
「もちろん。その……俺はいつだって、ユキのこと応援してるから」
ちょっと恥ずかしかったけど、俺は頑張ってそう言った。
「ありがとう……じゃあ、頑張るね」
◇ ◇ ◇
それから俺たちはスーパーアリーナの控室へと移動し、ユキの準備もあるため、他の兵士やイベントスタッフと合流して雑用をした。本当の意味での護衛は俺以外のやつらで充分だからな。
ユキのライブ直前にはまた控室に行って話相手をし、ライブが始まってからは、関係者席からライブを観た。すると、後ろから話しかけられた。
「やあ、いつもすまないね、ラスナ君」
振り向くと、少し細身の長身に縦長の顔。鼻の下に、左右に跳ね上がる貴族的な髭をたくわえた男がこちらに歩いて来る。ユキの父親で、ヴァレンティア王国現国王のクラウドだ。
クラウドは、俺の隣に並んだ。
「滅相もありません。スノウ様の護衛という任を賜り、身に余る光栄です」
「いつも通りで構わんよ。ここは人も少ないし、わかっているものしかいない」
俺は周りを確認した。たしかに……ていうか親子そろって同じこと言うな。
…………。
「あの、親父さん」
「何かね?」
「何かね?じゃなくて……ここ、撮影禁止なんですけど」
何かめっちゃデジカメで動画撮ってる。
クラウドはこちらを振り向き、目を瞑って若干苦しそうな表情になった。
「見逃してはくれんかね?」
「いや、そんな私が死んだら家族が路頭に迷いますみたいな表情されても……」
「動画の中からいい感じのスナップショットを君にやろう」
「え?いやいや、そ、そんなの、い、いらないですよ……ウホホッ……」
正直ちょっと欲しい。変な声が出てしまった。でもそんなのだめだ!
「ラスナ君……実際、娘のことをどう思っておるのかね?ん?一枚とは言わずいくらでもやろう……どうかね?」
何でこのおっさんこんなに必死なんだ?
「どうって……そりゃあその、かわいいなあとは……思い……」
若干照れながら、俺がそのセリフを言い終わるより早く、クラウドは周りを見渡しながら、口に手を添えて叫びだした。
「みなさぁ~~~ん!ラスナ君がねぇ~!スノウちゃんのことをねぇ~!」
「わかりました!わかりましたからちょっともう!!!!」
小学生か!やめろ!
俺がしぶしぶ見なかったことにすると、クラウドは満足げにカメラに向き直り、気を取り直したように聞いてきた。
「どうかね?スノウの様子は」
色んな意味の含まれた問いだ。身体的にも、精神的にも、そしてアイドル業に対する気持ちも……と言ったところだろう。
「変わらず、って感じですね」
「そうか……父として不甲斐ないばかりだ」
「そんなこと……誰も悪くありませんよ」
そう。誰も悪くない。戦争をしかけた先々代の王はとっくに他界している。
だからこそ……誰かがどうにかしてやらないと、ユキはずっとこのままだ。
ユキのライブは、いつしか最後の曲に差し掛かり、彼女の衣装は豪華な白いドレスになっていた。
まるでその名前の通りに、儚い雪を思わせる純白のドレス姿は、とても美しい。
曲はゆったりとしたテンポのバラード。全てのパートが派手に動くこともなく、弦楽器隊とキーボードはオーソドックスなコード弾きで、それをサビまで二コーラス分繰り返す。
ドラムはAメロ、Bメロはハイハットを十六分で刻み、サビはライドシンバルを八分で刻む。
やがて間奏に差し掛かると、リズムがハーフになり、壮大さを一層増してゆく。
壮大で美しいバラードにふさわしい、可憐な歌姫の姿がどこか悲し気に見えたのは、もしかしたら俺だけだったのかもしれない。
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